浅見祐香(目白大学)・神村栄一(新潟大学)
シンリンラボ 第32号(2025年11月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.32 (2025, Nov.)
はじめに
日々の生活の中で,慎重に,行動アディクションの引き金を避けて,対処しているにもかかわらず,再発(再犯)が生じてしまうことがあります。高い頻度で繰り返される中で,行動アディクションに至る一連の行動連鎖が強固になり,自身でも気がつかないうちに,その行動連鎖に巻き込まれてしまうことがあるためです。このような場合には,行動の直前の引き金だけではなく,その引き金を引き起こした「引き金」はなにか,というように引き金の連鎖についてさかのぼって分析していくことが必要になります。
このように,行動連鎖を引き起こす引き金のなかには,アディクションをしたいという強い衝動である渇望や,アディクションの動機を高めたりハードルを下げたりする思考があり,このような渇望や思考が生じてしまうと行動連鎖から抜け出すことが非常に困難になります。今回は,行動アディクションに至る一連の行動連鎖を分析するとともに,渇望や思考などの影響が強い場合の対処方法についても解説します。痴漢行為を繰り返してしまっていたDさん,パチスロをやめられなかったEさんの発言も紹介しながら進めていきます(いずれも50代男性※複数の実在するモデルから創作した架空事例)。
1.行動の連鎖を自覚するには
行動アディクションについて,何年もの間,毎日のように繰り返していたという方は少なくありません。このように高い頻度で繰り返されることによって,日常生活のルーティンに組み込まれてしまい,「よし,やろう!」などと意識せずとも,いつもの時間,いつもの場所で,いつも通りに行動が起こってしまいます。まるで自動操縦かのように,行動アディクションが引き起こされてしまい,行動を終えた後にようやく我に返る,といった状態になることもあります。
このような場合には,行動アディクションに至る一連の行動連鎖について,どのような出来事があったのか,どのような気持ちや考えがわいたのか,どのような身体感覚があり,どのような行動が生じたのかといった点を,丁寧に振り返っていくことが大切です。行動が起きた時点から,少しずつ前の時点へとさかのぼりながら,引き金を引き起こした「引き金」を一つずつ明らかにしていくのです。
Dさんは,仕事終わりにお酒を飲み,帰りの電車で痴漢行為を繰り返していました。逮捕をきっかけに,自身の行動の引き金になっている飲酒をやめて,専門クリニックに通い始めました。ある日,上司の𠮟責にイライラしていたときに,飲み友達から久しぶりに連絡が来ました。「顔だけ出して帰ろう」と店に向かいましたが,みんなに勧められて,「一杯だけ」とお酒を口にすると,そのまま閉店時間まで飲み続けてしまいました。一人になり,物寂しさを感じながら自宅に向かう途中,混雑する駅のホームでロングスカートの大人しそうな女性の姿を前にして,「触りたい」という強い衝動に抗えませんでした(図1:痴漢行為に至る行動連鎖(Dさんの場合))。

図1 痴漢行為に至る行動連鎖(Dさんの場合)
とくに,早い段階から,引き金を引き起こした「引き金」への対処方法を取り入れることによって,行動の連鎖は生じにくくなります。1つ1つの引き金への対処については,第3回を読んでいただけるとイメージしやすいかと思います。そして,行動連鎖に巻き込まれにくくするための工夫として,自分自身を実況中継したり,あらかじめスケジュールを立てて生活をしたりすることもできるでしょう。
Dさんは,上司の叱責の場面が引き金を引き起こす「引き金」になるため,そのような場面で自分自身を実況中継するようにしてみました。「上司の嫌みが始まったな。また俺のせいにして,と思ってイライラする自分がいる。どんどんイライラが強くなってきたぞ。こうなると,飲まないとやってられないという考えで頭がいっぱいになってしまうんだよな。いつまで続くんだろう。顔を見るだけでムカつくから何か他のものに目線を移そう。お,雨が降りそうな雲だな。………」
「頭の中や外で起きているものごとをすべて言葉にしてみると,少し自分を俯瞰して見られるような気がします。いつもの自分に『待った』をかけられる自分がいるような感覚です」。Dさんは,行動の連鎖に巻き込まれにくくなることを目指して,日々の生活のなかでも実況中継を取り入れているそうです。
2.「渇望」に抗う力をつける
行動アディクションに至る行動連鎖のなかには,もはや自分では「行為をしない」という選択が取れないほど強い引き金もありえます。行動アディクションをしたいという強い衝動である渇望もその1つです。しかし,たいていは,耐え難いような強い衝動は数分間しか続かないため,一瞬でもよいので,気持ちや考えを切り替えられる対処方法を身につけることが効果的です。
その際には,スイッチが入ってしまったにもかかわらず,行動アディクションをしないで済んだという「例外」エピソードからヒントを探してみることがおすすめです。Dさんは,妻からの電話が鳴ったとき,仕事仲間に声をかけられたとき,会社の名前が入った紙袋を持っていたときなどに,お酒に酔って駅のホームで女性を目にしたにもかかわらず,触るという行動を起こさずに済んだ経験がありました。
そこで,スマートフォンの待ち受け画面を家族の写真にして,妻との通話をオンにしたまま電車に乗り,社員証を首からぶら下げたままにすることを実践しています。これに加えて,「スマートフォンに子どもからもらったストラップをつけているのですが,なんだかお守りのような感じで……。電車ではいつもそれを握りしめています」と語ってくれました。
そのほかにも,渇望に巻き込まれたときにストッパーとなりえる対処方法として,フラッシュカードや輪ゴムなどを用いることができます(Raylu & Oei, 2010/原田監訳,2015)。フラッシュカードとは,自分にとって行動アディクションをすべきでない理由をあらかじめ書き込んだカードで,危ないと気づいたときに,そのカードを取り出して,書かれている言葉を読み上げていきます。ポケットや定期入れなど,すぐに取り出せる場所に入れておくとよいでしょう。渇望に巻き込まれそうなときは,冷静な判断ができなくなってしまうため,あらかじめ準備しておくことが大切です。
また,手首に巻いておいた輪ゴムをはじき,「ダメ」「ストップ」などと頭の中で叫んでみる,あるいは,頭の中にスイッチを思い浮かべ,そのスイッチをオンからオフに切り替える様子をイメージするなどといったやり方もあります。そして,一瞬でもよいので気持ちや考えを切り替えられたら,大音量で音楽を聴いたり,家族に電話をしたり,水を飲んだり深呼吸をしたりして,時間かせぎができれば,渇望は去っていくことでしょう。
3.引き金となる「思考」に気づく
行動アディクションに至る行動連鎖において,思考が強い引き金となる場合があります。冷静なときには行動アディクションによって得られるメリットよりも,その後に生じるデメリットの方がはるかに大きいと分かっていても,さまざまな引き金にさらされて行動の連鎖に巻き込まれている状態では,メリットばかりが頭に浮かび,その後に生じるデメリットはわきに追いやられがちです。
Eさんは,パチスロにはまり,会社のお金の使い込みが発覚して,仕事も妻子も失いました。ギャンブルをやめることを条件に,300万円の借金を親が肩代わりしてくれ,依存症回復支援施設に入所して支援を受けることになりました。
少しずつ施設での暮らしに慣れた頃,退職金の振り込みがありました。「増やして返せば,返済も早まる。それに,なんとなく手元のお金がなくなってしまうことが惜しかったように思います」。親に振り込めないまま1週間が経ち,スタッフから尋ねられて,ようやく,自分の口座に残ったままであることを打ち明けることができました。「借金があるということは結局賭けに負けたからです。だけど,自由に使えるお金があると思うと,増やしたいという考えが頭の中を占めてしまい……。スタッフに声をかけられ,ドキッとして冷や汗が出たけれど,どこか,ほっとする自分もいました」。
行動アディクションを引き起こす思考には,いくつか共通するパターンがあるとされています。たとえば,ポジティブ・イリュージョンと呼ばれる,実際に存在する事物について,自分に都合よく解釈したり想像したりする認知バイアスは,ギャンブルのアディクションとの関連があると考えられています。「今日は赤信号で停車せずに職場まで行けたからついている」,「自分には人と違ったスキルがあるから勝てる」と考えてギャンブルをしてしまう,などが挙げられます。
また,性的問題行動のアディクションについても,「拒絶しなかったのは合意していたからだ」などと,自分が行った行為や記憶を否定する「否認」,「たいしたことはしていない」などと被害に遭われた方への影響を小さく見積もる「最小化」などの思考が影響している場合がしばしば見受けられます。
4.「思考」を置き換える方法
このような強い引き金となる思考への対処方法としては,別の思考への置き換えを試みる認知再構成法が活用されています。その際には,正しいかどうか,社会的に望ましいかどうかにはこだわらず,自分にとってしっくりくるかどうか,行動アディクションを引き起こしにくくするかどうかといった点を重視しましょう。セラピストは,質問や提案などを通して,本人が自ら考え,気づき,見つけていくことができるようにガイド役を担います。
代表的な手続きとして「コラム法」があります。まず,問題が生じる場面を振り返り(状況),そのときにどのような気持であったか(感情),ふっと浮かんでくる考えがあったか(自動思考)を整理していきます。次に,浮かんでくる考えについて,その考えが正しいと考える根拠(自動思考の証拠)と誤っていると考える根拠(自動思考の反証)を挙げて,別の考え方(適応的反応)ができないかと探していきます。さらに,別の考え方を試した際に,自分の気持ちや考えが自分にとって望ましい方向に変化していくかを見ていきます(結果)。
Eさんは,セラピストと,同じくギャンブルの問題を抱える仲間と思考の置き換えを試みました(図2:コラム法(Eさんの場合))。借金や月々の生活費の支払いなどに追われる日々の中で,まとまったお金が振り込まれると,「増やして返そう」という考えがわき,勝つことへの期待を胸に,ワクワクしながらお金をおろしてパチスロに行っていたといいます。このような思考が適切であると考える理由としては,実際に勝ってお金が増えた経験があることや,負けないやり方があるという情報があることなどがあり,適切ではないと考える理由としては,負けた経験があることや,台が調整されて勝ちにくくされているという情報があることなどが挙げられました。

図2 コラム法(Eさんの場合)
そして,「実は,妻にギャンブルをとがめられるようになったときに,ギャンブル収支を管理するアプリを使ったことがあります。プラスになっている証拠を見せてやろうと思って意気込んでいましたが,実際に収支を見ると大幅なマイナスで……。1か月たたずにやめてしまったことを思い出しました」と打ち明けてくれました。別の思考については,仲間と力を合わせてもなかなか見つからず,自分の家族や友人はどう考えるだろう,などと想像しながら少しずつ案を出していきました。
さまざまな案のなかには「負ける可能性がある」が含まれていましたが,Eさんにとっては納得感がないため,「勝てないように調整されているかも」という思考への置き換えを試みることにしました。自分の意思に関係なく自動的に思い浮かんでくる考えが,浮かばなくなるまでには相応の時間がかかります。そのため,いつもの考えがふっと浮かんできたときに,「あ,これはみんなで見つけたいつもの思考だな」と気づき,事前に検討していた新たな考えを付け加えていくイメージで進めてもらえるとよいでしょう。
おわりに
行動アディクションをしない生活を再建していくためには,日々の生活の中で現れる「アディクションをする」という選択肢を選ばずに,ほかの選択肢を選び続ける必要があります。無自覚のまま行動の連鎖に飲み込まれてしまわないように,一つ一つの引き金に自覚的になり,その都度,頭をフル回転して,行動アディクションから距離をとれる選択肢を考えて選び続ける必要があります。
「やってはいけない行為をやめるだけで,きっとほかの人にとっては『当たり前』のこと。だけど,自分にとっては,下りのエスカレーターを一生懸命上っているみたいで……。必死に走って,それでなんとか同じ場所に居続けられています」(Dさん)。「借金まみれになった自分が言うのはおかしいとわかっていますが,理性的な自分だったらトータルではプラスになるって思ってしまう自分がなかなか消えません」(Eさん)。
支援に携わっていると,行動アディクション以外の選択肢を選び続けることは,並大抵のことではなく,称賛に値する行為であると痛感させられます。この努力を理解して支えてくれる存在は,困難に立ち向かうための力にもなるでしょう。医療機関や依存症回復支援施設,自助グループなど,さまざまな支援の場がありますので,ぜひご自身にとって安心できる居場所を見つけていただけるとよいな,と思います。
文 献
- Raylu, N., & Oei, T. P. (2010)A cognitive behavioural therapy programme for problem gambling: Therapist manual. Routledge/ Taylor & Francis Group. (原田隆之監訳(2015)ギャンブル依存のための認知行動療法ワークブック.金剛出版.)
付記
本連載は,神村栄一先生のご発案によって始まり,毎回協議をしながら「分担ではなく真に共著」として進めさせていただいておりました。広く行動アディクションを対象として,支援の最前線におられる専門家の方々はもちろん,専門的な支援を学びたいという意欲をお持ちの当事者やそのご家族・パートナーの方々にも,私たちが普段実践している支援をできるだけありのままに紹介することを目的としております。連載を通して先生とやりとりをさせていただく過程は,スーパービジョンを受けているようで,私自身の支援を省みるとともに多くの学びをいただいておりました。
神村先生は残念ながら10月にご逝去されましたが,先生の温かなご助言や,支援に対する深いまなざしは本連載の根幹に息づいております。ここに心より哀悼の意を表し,今後も連名の形で執筆を続け,先生の志を継承していきたいと考えております。(浅見祐香)
浅見祐香(あさみ・ゆか)
目白大学心理学部 専任講師
資格:公認心理師,臨床心理士
神村栄一(かみむら・えいいち)
新潟大学人文社会科学系教授
資格:公認心理師,臨床心理士,専門行動療法士,博士(心理学)
主な著書:『教師と支援者のための令和型不登校クイックマニュアル』(単著,ぎょうせい,2024),『不登校・ひきこもりのための行動活性化』(単著,金剛出版,2019),『学校でフル活用する認知行動療法』(単著,遠見書房,2014),『認知行動療法[改訂版](放送大学教材)』(共著,NHK出版),『レベルアップしたい実践家のための事例で学ぶ認知行動療法テクニックガイド』(共著,北大路書房,2013)など。
学生時代から40年におよぶ心理支援の実践はすべて,行動療法がベース。「心は細部に宿る」と「エビデンスを尊び頼まず」が座右の銘。「循環論に陥らない行動の科学を基礎とし,サピエンスに関する雑ネタやライフハックなどによる解消改善を要支援の方との協働で探し出す」技術の向上をめざしている。





