浅見祐香(目白大学)・神村栄一(新潟大学)
シンリンラボ 第28号(2025年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.28 (2025, Jul.)
はじめに――この連載を活用いただくために
この連載では,ギャンブルや過度な浪費,あるいは迷惑ないし犯罪にあたるような行為について,「良くない」とはわかっているのに「やめられない・止められない」という方のための心理学的な支援を紹介していきます。このような行為の問題を止めることができずに困っているご本人,ご家族やパートナーの方,そして医療機関を含む地域の支援機関で支援や治療にあたる専門家のみなさんに向けたものです。
残念ながらこのような困難には,服用を続ければ治っていくような特効薬はありません。従って,心理社会的な支援が中心になります。そこでは,当事者,身近で支える方,専門家が問題の理解と対応策を共有することが何より大切です。この連載で紹介する内容を,改善に向けた話し合いや取り組みの中で共有し,参考にしていただけたらうれしく思います。
なおこの連載では,世界中で,「ある問題のある行為が止められない」という症状,課題の改善と再発防止に対し,最も期待が持てる心理学的技術と評価されている,認知行動療法(cognitive behavior therapies)がベースとなります。できるだけ,具体的で,心理学などになじみのない方でも理解いただけるよう紹介していきます。
1.行動アディクションとは
「このままではいつか破滅に至ると,わかっているけれどやめられない……」。「いつでも止められる」「一度だけだから」という軽い気持ちで始めた行動を,2回,3回……と繰り返してしまう。気がつくと,自分ではコントロールできなくなっている。これがアディクション(嗜癖)です。一般的には,依存症とよばれるものです。
ある物質(化学的成分)を体内に取り入れることを止められないという場合は,「物質アディクション」です。この場合はたいてい,その物質の中に,人の脳や神経に作用して「摂取を止められなくする成分」が含まれています。行動アディクションは,そのような「薬理成分」の取り込みがないにもかかわらず,ある特定の行動が「止められなくなる」状態を意味します。この連載ではこの行動アディクションについてとりあげます(物質アディクションと重なるところも多いので,それらでお困りの方にも参考にしていただけます)。
この他,人間関係における「離れられない」「過度に関わろうとする」状態を「関係アディクション」とよぶ場合があります。関係アディクションのなかにも,ストーカー行為など,犯罪になりかねない行動上の問題を含む場合があります。「過度にとらわれてしまう」心理的メカニズムがあり,生産的でない行動を繰り返してしまうという点において,共通しています。
行動アディクション,たとえば,問題あるギャンブルをやめられない方においては,他にも,喫煙をやめられない,過食嘔吐が止まらない,家族への暴力暴言を繰り返してしまうといった,複数のアディクションを抱えているという方が少なくありません。この連載で,たとえば先にギャンブルをやめる,減らすことに取り組んでいただくと,その他の「やめられない,止められない」行動についても,改善のヒントと「やれば克服できる」という自信がもたらされることでしょう。
2.行動アディクションのさまざま
多様化した現代社会において,行動アディクションのバリエーションは広がりつつあります。ひとつひとつあげていったら,きりがないほどです。そこでこの連載では,今日,医療機関やカウンセリングサービスなどで多く見られ,かつ,認知行動療法による治療の効果検証が進んでいる困難のタイプのいくつかをとりあげ解説していくことにします。
行動アディクションは一般に,以下のように分類されています。
表 アディクションの分類
| ギャンブル (競馬,競輪,競艇,オートレースなどの公営ギャンブル,パチンコ・スロット(パチスロ),海外のカジノ(ネットカジノ),その他の違法なギャンブル) ※この他,宝くじやスポーツ振興くじなどもギャンブルに含められることがあります |
| ネットの閲覧 (各種のSNS,動画サイト,業務や学業に必要ないブログ等の長時間で支障があるほどのアクセス) |
| ネットゲーム (ゲームへの参加,ゲームにかかわるサイトの過度な閲覧視聴) |
| 性衝動にかかわる触法行為 (盗撮,のぞき(窃視)や痴漢,弱者や動物に対する虐待や搾取,フェティシズム欲求による窃盗や家宅侵入,露出などの迷惑行為) |
| 抑制がきかない買い物,風俗店などでの過剰な消費 |
| 万引き (販売店での窃盗) ※ただし極度の貧困が動機によるものは除く |
| その他 (過剰な運動,仕事や趣味への入れ込み,ダイエット,身体装飾,など) |
この連載では,以下に絞ります。過度で自己破滅的な行為として2分類,①ギャンブル,②買い物(消費),および触法行為として2分類,③性衝動に関わる触法行為(盗撮や痴漢),④販売店での窃盗(万引き),の計4分類です。
行動アディクションは,時代や社会の影響を強く受けます。たとえばギャンブルの問題は,その国で合法化され普及しているもの,そして法的な処罰の厳しさの程度などから決定されます。日本独特のものとしては,パチンコとスロットがあり,法的にはギャンブルではなく風営法に基づく遊戯施設とされています。しかし,事実上は公営ギャンブルのすべてを凌ぐほどの巨大なギャンブル関連産業であり,至る所で営業されているため(全国の書店の店舗数に近い),多くの人が依存的となり困難に陥っていることはあらためて説明するまでもありません。
時代の変化も無視できません。近年で言えば,ネットを介したギャンブルが身近になったことは深刻です。公営ギャンブルも,たとえば競馬では馬券(勝馬投票券)を購入するためにかつては競馬場,場外馬券売り場などまで足を運ぶ必要がありました。現在では,ネットバンクに専用の口座を用意して,すべてスマートフォンでオンライン上での購入,勝ち分をその口座で管理できるようになりました。
また,ネットカジノのように,国内で認められていないギャンブルを海外とネットでつながって参加することもできます(これは違法です)。ギャンブルにアクセスしやすくなるということは,いったん止めることに成功した人でも再発しやすい状況にあることを意味します。
このように,行動アディクションの対象は広い範囲に及びます。分類する上での観点もさまざまです。触法,つまり,軽微ではあっても違法性のあるものもあれば,そうでないものもあります。性的な衝動に基づくものも多く含まれますが,果たしてすべてが異常な性欲によるもの,と見なしてよいのか疑問も残ります。
行動の背後にいかなる動機や衝動があるのか,どのような快の感覚があるのかについては本人でさえも理解は難しいところがあります。窃盗のくり返しも,窃盗した品物がそこまで必要だったのか,必要でなかったとしたらその行為にいかなる意味があったのかなども,明確にすることは困難です。
行動がもたらす被害の程度もさまざまですが,中にはかなり深刻な結果を残しかねないものもあります。地域社会の安全を守るという点からも,専門的な支援や治療をしっかり受けていただくことには意義があります。そのためにも,効果が科学的に実証された,つまり,効き目についてお墨付きを受けた支援技法を選択することが大切です。
3.“原因”はどこにあるのか?
行動アディクションにハマっていくきっかけについては,仲間からの誘いやちょっとした思いつき,などが多くみられます。物質アディクションと同じように,家庭や職場,趣味の集まりなど,身近な人がよくやっていたことがきっかけという場合もよく耳にします。
しかし,そういう人が身近にいたからといって,全員が行動アディクションに陥るわけではありません。ですから,それを「原因」と見なすことはできません。せいぜい,「きっかけになった(可能性がある)」くらいの認識にとどめておくのがよいでしょう。
アディクションについては,特別な出来事,トラウマ体験がその原因になるのだ,という考え方もあります。アディクションに限らず,心の不調は,そのような過去の経験に影響を受けている場合があるのは確かで,そう判断される事例もあります。しかし,すべての行動アディクションで一様にそれが正解であるかとなると,学術的な証拠はありません。
どちらかと言えば,平均よりもむしろ順調で幸福と見なせる人生を送ってきたというのに,やっかいなアディクションの状態から抜け出せず回復も難しい,という事例もたくさんあるのです。
ただここで,読者のみなさんにひとつお願いしたいことがあります。行動アディクションで支援を受ける場合には,当事者の方はどうか遠慮無く,それまでの人生について,ハマってしまったことと関連していそうな苦悩のエピソードを語ってみてください。そして,ご家族やパートナーの方は可能な範囲で,専門家の方にはぜひ,苦悩のエピソードに耳を傾けてみてほしいと思います。ただし,そこで語られたことが行動アディクションとなった決定的な原因であるかどうかは,当面,保留にしておくのがよいようです。
時間を元に戻すことはできないため,これからの将来に向けた回復,再発阻止に向かっていくことになります。過去にあったさまざまな,苦しかったエピソード,それにどう対処できたか,できなかったかというお話を手がかりとしながらすすめていくことに,大きな価値があります。
「(ある行為を)やるとスカッとする」という,ストレス解消や憂さ晴らしの効果があるから止められない,という説明も,しばしば当事者から語られることです。たしかに,もし,充実して楽しめる,アディクション以外の活動で生活が満たされていれば,自由な時間をわざわざ危険なアディクションに費やすことはないかもしれません。
しかし実際には,やりがいがある健全な活動や豊かな人間関係によって充実した生活を送っており,高収入であるにもかかわらず,睡眠時間を削ってまで,過度なギャンブルや盗撮行為をしている場合があります。仕事にやりがいはあるけれど,同時に相当なプレッシャーやストレスを抱えていた,という説明もよくありますが,それだけでは説明はつきません。
原因となっていそうなことについて考える,話題にすることは,回復に向けて有効です。しかし,決定的で明確な「原因」などは見つからなくても仕方がない,くらいに思っていた方が,当事者と支援する側の間の,いらぬ意見のすれ違いに時間をとらずにすむでしょう。
4.行動アディクションが引き起こすトラブル
背景に何があったとしても,いったん行動の習慣として完成してしまうと,機会さえあれば繰り返されてしまい,抜け出せなくなる。それが行動アディクションです。「機会さえあれば」と書きましたが,そのような「機会を増やすための行動」そのものも「やめられない・止められない」となっていくのがアディクションの恐ろしいところです。
たとえば,ギャンブルのためにはある程度のお金を工面する必要があります。依存的な買い物を継続するためには,現金または有効なクレジットカードなどが必要です。ギャンブルの中には,パチンコやスロットなどのように,特定の場所で過ごす時間を確保しなければならないものもあります。そのため,家族に「仕事(大切なつきあい)がある」などと嘘をつく必要があります。嘘がばれないためのアリバイ作りも必要になるかもしれません(このことから,スマートフォンさえあればいつでもどこでも,昼も夜も関係なくできるギャンブルは,とても恐ろしいものであることがわかります)。
クレジットカードを有効にしておくための,さまざまな「資金繰り」も必要になります。盗撮や万引きで捕まった経験があれば,家族から外出を制限されることもありますが,それらをかいくぐるための策を考える必要も出てきます。
アディクションの当事者は,「嘘つき」とよばれることがあります。物質であろうが行動であろうが,アディクションになっている状態であれば,あちこちに,嘘をつき続けていくことになります。そのためには,体力や集中力,そして記憶力が必要です。誰にいつ,どのような嘘をついたのかを常に頭にいれておかないと,周囲にばれてしまいます。
そのような「やめられない行動」は,その人の中で独自の「意味」や「理屈」となり,揺るぎのない信念,真実となります。それらは,人によってさまざまな表現がなされます。よくあるのが,「(自分にとって)唯一のストレス解消」といった表現であり,「生きている実感を得られるもの」などです。「これが私の宿命なので」などと,「なかなか変えようがないもの」として受け止められることもあります。
職場や学校で,あるいは,家族との団らんや楽しいはずのレジャーの最中でも,起床した直後から寝床でまぶたを閉じるまで,しばしば夢の中にまで,いつでもどこでも何をしていても,アディクションとなった行動と,それを繰り返すために必要となる行動計画について,あれこれと頭に浮かべてしまう状態が続きます。
このような心理的負担の増加が,行動アディクションをさらに悪化させ,家庭や職場,友人関係を悪化させ,経済状況も危うくします。それが孤立を深め,抑うつ,そして自死へ向かうこともありますので,注意が必要です。
5.行動アディクションは“異常”なのか?
もちろん,相当に入れ込んでしまっていても,それが現在と将来の生活を破綻させない範囲であれば,なんら問題はありません。もともと人間とは,「何かにハマる」ようにできていると言えそうです。
「遊びをせんとや生まれけむ」(平安時代の和歌集「梁塵秘抄」)という言葉があります。「人というのは遊ぶために生まれてきたのではないだろうか」といった意味だそうです。ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)という言葉もあります。ここでの「遊び」とは,「何かにハマること」と言い換えることができるでしょう。
夢中になることそのものは,悪いことでも劣っている証拠でもありません。ただ夢中になるあまり,必要な栄養や睡眠,休息をきちんととること,家族としての役割や国民としての義務を果たし,法に従うことなどが難しくなれば,遅かれ早かれ,身の破滅をもたらします。
それでも,「何より好きなことなのだから続けたい」という思いからであるならば,救いがあるようにも感じます。しかし,ある程度以上に深刻なアディションともなれば,もはや「楽しい」とか「やりたい」という気持ちもなくなります。ただただ,「やらないでいることが苦しく,その苦痛から逃れるために,またやってしまう……」という表現が適切な状態に,多くの方が陥ります。
今後の連載であらためて解説しますが,アディクションの動機というものは,接近したい,手にしたいから,ではなくむしろ,「(苦しみから)逃れたい」「早く楽になりたい」「一時しのぎであってもほっとしたい」といったものが大きくなっていくものなのです。
先にさまざまな行動アディクションを紹介しましたが,結局のところ,お金(財産),時間,社会的立場や人間関係,自身の健康に深刻な悪影響をもたらすような,過度に繰り返される行動はすべて,行動アディクションとみなせるかもしれません。将来においても,新しいテクノロジーが開発されれば,想像もつかないアディクションが誕生することでしょう。
自宅のリビングでひとり横になったままでも,ギャンブルに興じ,お金を得たり失ったりすることができる時代になりました。高性能カメラが備わっている小型ツールをほぼすべての国民が当たり前のように身につけて生活しています。利便性の劇的な向上をもたらしたシステムはいつの時代でも,新たなアディクションのあり方を生み出しているのかもしれません。
おわりに
「家族も仕事も失った……それにもかかわらず,『(負けを)取り返すにはまた賭けるしかない』と考えてしまう自分がいた」(ギャンブルのアディクション)。「刑務所に入ることになったら子どもがどうなるか不安で眠れない……それなのに,買い物に行くたびに『これくらいなら大丈夫』と万引きを繰り返してしまった」(万引きのアディクション)。
支援の場では当事者の方々の悲痛な声をお聞きします。自分ひとりのがんばり,心がけで,危険な状況から抜け出せた方もいますが,回復までに失われたものや時間,関係性のことを思うと,「早めに専門的な支援を受けていたら……」と感じられる事例が多数含まれます。
この連載は,当事者,身近で支える方,専門家がみんなで学び,行動アディクションから抜け出すためのガイドとなることを目指しています。次回以降は,行動アディクションの認知行動療法について,基礎的なところからじっくり解説を行っていきます。
バナー画像:Silvio ZimmermannによるPixabayからの画像
浅見祐香(あさみ・ゆか)
目白大学心理学部 専任講師
資格:公認心理師,臨床心理士
神村栄一(かみむら・えいいち)
新潟大学人文社会科学系教授
資格:公認心理師,臨床心理士,専門行動療法士,博士(心理学)
主な著書:『教師と支援者のための令和型不登校クイックマニュアル』(単著,ぎょうせい,2024),『不登校・ひきこもりのための行動活性化』(単著,金剛出版,2019),『学校でフル活用する認知行動療法』(単著,遠見書房,2014),『認知行動療法[改訂版](放送大学教材)』(共著,NHK出版),『レベルアップしたい実践家のための事例で学ぶ認知行動療法テクニックガイド』(共著,北大路書房,2013)など。
学生時代から40年におよぶ心理支援の実践はすべて,行動療法がベース。「心は細部に宿る」と「エビデンスを尊び頼まず」が座右の銘。「循環論に陥らない行動の科学を基礎とし,サピエンスに関する雑ネタやライフハックなどによる解消改善を要支援の方との協働で探し出す」技術の向上をめざしている。







