【特集 ポリヴェーガル理論とトラウマ】#00 はじめに|津田真人

津田真人(心身社会研究所)
シンリンラボ 第36号(2026年3月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.36 (2026, Mar.) 

ポリヴェーガル理論の名を聞いたことがあるだろうか? とくにトラウマケアの分野を中心に,その理論的基盤をなす重要な理論の1つとして,今日世界的に注目される新しい自律神経の理論である。今やこの国でも,心理臨床の領域において,また精神医学や心身医学の領域において,のみならず内科・小児科・産婦人科など多科にわたる医療の領域において,あるいは東洋医学や各種身体療法・ボディワーク,さらには教育・福祉・産業・司法・地域活動・スポーツなど多彩な臨床現場において,次第に広がりを見せつつある。

それに伴ない巷では,この理論のバブリーな“紹介”と安直な“臨床応用”,またそれに幻惑されたこの理論への浅薄な“批判”が飛び交う事態も散見される。

本特集では,この理論がトラウマケアに対してもたらしうる意義と可能性について,2つの総論と4つの各論をもって,正確な理解に基づきながら,入門的な紹介を行ないたい。まず総論として,津田がポリヴェーガル理論の特徴とその意義を,神経科学と心理学の接点において概説し,また花澤がポリヴェーガル理論の精神療法全般に対してもたらしうるメリットやヒントについて解説する。

次いで各論として,鎌田が学校(子ども現場の両面性から学校文化まで),上谷が産業(職場の生きづらさ),松本が依存症(発達性トラウマとの関連),熊谷が性被害支援(被害者の身体の力への希望の眼差し)と,いずれも今日喫緊の課題を有する重要な臨床現場に関し,それぞれに豊富な臨床経験を有する執筆者が,この理論の視点を採り入れることで得られる有用性を明らかにする。幸いにして,今日この国で,各領域でのこの理論の意義と可能性とを最も正確かつ明快に論じられる最高度の執筆陣を揃えることができた。この「トラウマの時代」の只中,読者の皆さまの臨床実践や理論研究,ひいては日常生活そのものにおいて,少しでもお役に立てるリソースとなれば幸いである。

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津田真人(つだ・まひと)
心身社会研究所 自然堂(じねんどう)治療室・相談室
資格:公認心理士,精神保健福祉士,鍼灸師,あんま・マッサージ・指圧師(以上国家資格のみ)
主な著書:
『ポリヴェーガル理論を読む』(単著,星和書店,2019)
『ポリヴェーガル理論への誘い』(単著,星和書店,2022)
『わかりたいあなたのための心理学入門』(分担執筆,宝島社,1996年,文庫版2007)
『わが国におけるポリヴェーガル理論の臨床応用』(分担執筆,岩崎学術出版社,2023)
最新著『治療関係がセラピーを有効にする』(共著,星和書店,2025)

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