内田利広(龍谷大学)
シンリンラボ 第35号(2026年2月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.35 (2026, Feb.)
1.スクールカウンセラーに求められる支援
1)活動当初の状況
1995年に文部省(当時)により始まったスクールカウンセラー活用調査研究委託事業において,示されたスクールカウンセラーの活動内容は,以下の4つである。
① 児童・生徒へのカウンセリング
② カウンセリングなどに関する教職員及び保護者に対する助言・援助
③ 児童・生徒のカウンセリングなどに関する情報提供
④ その他,カウンセリングに関して,適切と思われるもの (平石,2018)
このように,スクールカウンセラーの活動としては,まずは「児童・生徒へのカウンセリング」ということが重視されていたのだが,実際に活動を始めるにあたっては,多くの課題があった。学校でカウンセリングといっても,まず場所や設備がないところがほとんどだった。そこで,学校内で使える部屋を探して,そこに机やソファー,本棚やロッカーなどを配置するところから始まった。面接を始めるにあたり,子どもとの面接の予約,予定はどのように取ったらいいのか,面接したらその記録はどのように保管していくのか,さらに小中学生であれば,対話による面接よりも遊具を使った遊びや折り紙など作業をしながら面接を行う場合もあり,部屋にボードゲームやお絵描きセットなど遊具を配備しておく必要もあった。このように,スクールカウンセラーの配置当初は,カウンセリングを行う前の段階として,面接室の環境を整える必要があった。
2)面接における柔軟な対応
その後,スクールカウンセラーの配置が,10年,20年と経過する中で,面接の環境としては中学,高校では整ってきたが,配置が最も遅かった小学校においては,まだその環境整備も十分でないところがあるのも現実である。
また,学校におけるカウンセリングにおいては,通常の相談室では基本的な枠組みである面接の場所,面接時間や頻度,守秘義務などについても,子どもにとって日常生活の場である学校の中で行われるカウセリングということで,現実場面に合わせて面接の枠組みを柔軟に変更し,対応していかなければならない。むしろこのような「治療構造の緩やかさこそがスクールカウンセリングの利点の一つでもある」(池田,2008)と言える。
2.子どもへの支援
1)非言語的なアプローチ
子どもへの支援としてカウンセリングの実施が期待されるが,すでに述べたように,まずは面接を行う環境を整えるところからがスタートであった。徐々に面接室が整備されていく中で,子どもとのカウンセリングにおいては,非言語的なアプローチが模索された時期もあった。箱庭を用いた面接(池田,2008)や,描画による支援なども行われてきた。また,小学生や中学生でも,対面での会話となると緊張することもあるため,遊びを介した関わりも行われてきた。面接室に,ぬいぐるみやトランプ,オセロ,折り紙などを置いておき,子どもが関心を示したときにはそれらの遊具で一緒に遊びながら話をするということもあった。
2)多様な面接形態
このように,子どもへの支援においては,1対1での対面によるカウンセリングへの不安や緊張もあってか,多くの子どもたちが相談にやってくるということはなかった。むしろ,心配した保護者が,子どもを伴ってやってくるという場合もあった。その場合は,親子同席での面接を行ったり,先生が同伴して相談室にやってくるという場合もあった。他方で,スクールカウンセラーの配置が,高校にも広がっていく中で,高校生はある程度言語化ができるので,対面による会話という枠の中で,継続した面接も多く行われてきた。ただし,高校生の場合は,不安や無気力で相談に来ている中で,欠席が続くと,単位が取れず,留年や退学が現実化してくる。つまり面接が継続できていても退学に至ると面接自体を続けることが出来なくなるので,不安的な状況での支援ということになる。これはスクールカウンセラーの限界でもあるが,児童生徒がその学校から転校や退学により離れてしまうと,基本的にはスクールカウンセラーによる面接を継続できないという現実がある。
3)相談内容の多様化
学校現場へのスクールカウセラーの派遣は,中学校を中心として始まったので,当初は中学生が対象だった。中学校では,不登校をはじめ,いじめや暴力事象,リストカットなどの自傷行為や対人関係の悩みなど,多岐にわたる相談内容に対応していくことになった。その意味では,学校内で起こるすべての問題行動や悩みに対応することになるので,スクールカウンセラーには高いアセスメント能力が求められることになる。特に最近は,発達障害の問題が大きく取り上げられるようになり,文部科学省においても特別支援教育の充実が推進されており,学校でも配慮が必要な子どもには,丁寧に対話を図りながらその子のニーズに沿った支援を行ことが求められる。しかし,発達障害という診断がつかずグレーゾーンと言われる子どもたちが多く,子どもの問題行動の背後に何があるのかを丁寧に見ていく必要がある。子どもの落ち着きのなさや暴力は,単に発達的な問題だけではなく,愛着障害など家庭での問題などが関連している場合もあり,子どもの心の課題を見極めるのはなかなか難しい作業であり,それは現在でも大きな課題であると言える。
3.保護者への支援
1)保護者面接の必要性
1.で述べたように,スクールカウンセラーの活動内容において,子どもたちへの支援とともに,保護者への支援ということも重要な活動として位置付けられてきた。これは,スクールカウンセラーが配置された1995年当初から,不登校やいじめなどの問題が増加していく中で,それに対応する子どもの保護者自身も不安や苦悩を抱え,支援を必要としていたということもあった。したがって,スクールカウンセラーは,当初から子どもへの支援とともに,保護者への支援も積極的に行ってきた。当初は,子育てに悩み,相談に来るという形で保護者との面接が行われていたが,保護者はさまざまな状況の中で子育てを行っているので,家族内での夫との関係や義父母との関係などに悩み,気を遣いながら子育てを行っているという状況も見えてきた。さらに,母親自身が十分に親に関わってもらったことがないという愛着の問題を抱えており,なかなか子どもと良好な関係を築けずに,コミュニケーションのずれが起こっているという場合も考えられた。つまり,子どもを抱える親の相談として,保護者面接は行われてきたが,その中で親自身の抱える対人関係の課題や家族内での葛藤,親自身のコミュニケーションの課題を抱えて相談に来るということが分かり,スクールカウンセラーも保護者との面接をどこまで深めていくかが大きな課題となった。つまり,保護者の子育ての背景には,親自身の抱える不安や対人関係の課題があり,その問題はそれなりに時間のかかるテーマであり,面接としても親自身の深いところまで踏み込まざるを得ない場合も出てきたのある。
2)家族システムへの働きかけ
また相談に来られるのも,母親だけではなく,父親が相談に来る,あるいは両親がそろって相談に来られるという場合もあった。また,孫の学校での様子を心配した祖父母が母親と一緒に相談にやってくる,あるいは母親のきょうだい(子どもからすると叔父,叔母)が相談に一緒にやってきて,話をするというように,面接形態もかなり複雑になり,多様なニーズにこたえていかなければならないという場合もあった。このような相談者が複数で来られる場合は,カウンセラーとしてもかなり気を遣うところがあり,それぞれのニーズを汲み取りながら,そのズレやお互いの関係性などを読み取っていく家族療法的,システム論的な視点も求められるようになってきたのである。
3)子どもへの支援としての親支援
特に,最近は小学校へのスクールカウンセラーの配置が進んでいる中で,学校での落ち着きのない態度や友人関係をうまく築けずに学校に行き渋る子どもに対して,どのように理解し,対応していけばいいのかに悩む保護者からの相談のニーズは高まっている。そして,子どもへの支援とともに,むしろ保護者自身への支援というものが求められており,またその方が子どもの問題行動を解決していくのに有効な場合が多いようである。つまり,子どもの生活する家庭の雰囲気や関係性が少し変わることで,子どもはずいぶんと生活しやすくなり,自らの力でも問題に対処していけるようになると考えられる。
4.教員への支援
1)教員へのコンサルテーション
1.にあげたように,スクールカウンセラーの活動は,子どもへの支援がまずは入り口であったが,それと同じくらい保護者への支援,そして教員への支援も求められてきたところがある。スクールカウンセラーが配置された1995年当時は,不登校の数が年々増加し,またいじめによる重大事態(自死など)が発生し,全国的に取り上げられていた。そのような中で,教員にも不登校やいじめへの丁寧で細やかな支援が求められていた。また,教員は生徒指導の一環である“教育相談”を通して,子どもに寄り添い,話に耳を傾けていくことが求められていた。しかし,日々多くの業務に追われている教員にとって,教育相談を行う時間的なゆとりもなく,また悩んでいる子どもの話をどのように聞いていけばよいのか分からないと感じる教員が多くいた。そのような状況で,スクールカウンセラーが配置されたことで,学校としては当然スクールカウンセラーに,子どもの理解に関する専門的な知識とともに,どのように関わればいいかの技能についても,学びたいというところもあった。
そのような教員のニーズに対して,スクールカウンセラーが,心の専門家として助言を行うことを「コンサルテーション」という。
コンサルテーションとは,異なる専門家同士で行われる助言などの支援のことであり,心の専門家であるスクールカウンセラーが,教育の専門家である教員に対して,その職務上の困難,つまり学校に来にくい子どもへの関わりや発達的な課題を抱えた子どもの行動の理解などに対し,カウンセラーとしての専門的な知識や実践を通して助言を行うというものである。具体的には,相談にやってきた子どもや保護者との面接を通して,カウンセラーが理解したこと(見立て)や今後の関わりの方向性などを提案するというものである。また,面接だけではなく,担任から日々の授業で気になっている子どもの話を聞いて,助言を行ったり,場合によっては授業を参観に行き,実際に子どもの様子を見て,スクールカウンセラーなりの理解を伝えるということもある。
2)チーム学校としての支援
このように,スクールカウンセラーは子どもや保護者に関わるとともに,その後には必ず担任や教育相談担当教員とコンサルテーションの時間を取り,教員への支援も同時に行ってきたのである。これは,最近の学校教育における「チーム学校」という考え方によるものであり,子どもたちの問題は,担任だけ,あるいは養護教諭,教育相談の先生,またスクールカウンセラーだけといった特定の教職員だけで,対応できるものではなくなっている。つまり,関係する教職員がチームとなり取り組んでいく必要があるという発想のもとに進められている取り組みであり,その中でスクールカウンセラーも重要なチームの一員として,コンサルテーション等を通して支援を行っていくことになっている。
3)教員との連携
もっとも,このコンサルテーションも,当初からうまくいったわけではなく,いくつかの課題もあった。配置当初は,教員もスクールカウンセラーという存在を十分に理解していなかったり,やや懐疑的である教員もいた。つまり,教員としては,これまで生徒指導をはじめ,教育の専門家として子どもへの支援に取り組んできた自負があるので,心の専門家と言われるカウンセラーの助言は不要と考えたり,それはどこまで信用できるのか,などさまざまな思いがあった。その結果,コンサルテーションの時間がなかなか取れなかったり,その必要性はないと考える教員もいた。それでも,スクールカウンセラーは地道に教員との関係をつくり,カウンセラーとしての見立てや方針を伝え,少しでも子どもたちの支援に役に立てばという思いで,続けてきたのである。
最近は,スクールカウンセラーとのコンサルテーションによる連携は,かなり当然のことになり,教員側からも積極的にカウンセラーを活用し,その見立てや今後の方向性について教えてほしいという姿勢が示されるようになり,連携・協働という点ではスムーズになってきている。
5.今後のスクールカウンセラーの方向性と課題
スクールカウンセラーは,この30年ぐらいの間に,ほぼすべての学校(小学・中学・高校)に配置されるようになっているが,実際の活動や勤務体系においては,課題が残されている。
1)守秘をめぐって
まず,一つの課題としては,守秘義務の問題がある。カウンセラーは,基本的に面接場面で話されたことは,部外者の人には漏らさないという守秘義務を負っている。これは,カウセリングにおいては,とても重要なことであり,面接の場で話したことはここだけの話であり,他の誰にも伝わらない,というのは,話す方にしてはとても安心できる場であり,重要なことであった。しかし,コンサルテーションとして教員と連携する際にはある程度その相談で話された内容を話す必要性もあり,どこまで守秘という枠の中で話された内容を伝えていいものか,悩むところがある。そして,さまざまな試行錯誤が行われる中で,教員は部外者ではなく,子どもの支援という点では同じチームの内部の人間であるという視点から,情報を共有できるという「集団守秘」という理解が進んできたのである。しかし,それでもどこまで話すかは,今でもスクールカウンセラーにとっては,難しい問題として残されている。
2)限られた時間の中で
二つ目としては,教員への支援に関しては,現実的な問題として,勤務時間の問題がある。スクールカウンセラーは,子どもへの支援や保護者の支援が基本ではあるが,それと同じくらいの時間をかけて,教員へもコンサルテーションとして支援を行ってきた。しかし限られた勤務時間のなかで,なかなかその時間が取れないというのが,多くのスクールカウンセラーに共通する課題である。また,授業や授業準備で忙しい教員と少しでも話ができる時間を取ろうと思うと,スクールカウンセラーとしては,勤務時間を超えて夕方勤務時間外に対応せざるをえないことがよくあった。そこで,スクールカウンセラーは工夫して,守秘に関わる大事な内容でなければ,メモ書きで先生への情報共有を行ったり,教育相談担当教員に面接での概要を伝えて,担任に伝えてもらうようにしたりして,なかなか時間の取れない担任との連携を何とか繋いでいこうという努力をしてきたのである。しかし,これは窮余の策であり,本来は担任ときちんと対面して,子どものことや保護者との面接を踏まえて,話せる時間が取れるのが理想的である。
3)スクールカウンセラーのこれから
このように見てくると,スクールカウンセラーの活動は,この30年で飛躍的に拡大し,深まってきているが,学校での勤務時間としては週に1回,原則8時間(小学校では,実際はもっと少ない時間数である)というのは30年以上変わっていないところである。週に1回,8時間という枠の中で,何とか子どもとの面接を継続し,時には親自身の抱える悩みにも応えつつ,さらには担任とのコンサルテーションの時間も大切にしたいという思いで,活動を続けてきているが,これだけの内容を,限られた短時間の中でこなしているのはかなり難しくなってきており,この勤務時間自体も,今後拡大,発展していく必要があるのではないかと考えられる。
文 献
- 平石賢二(2018)日本における学校心理臨床の発展過程.In:窪田由紀・平石賢二編:学校心理臨床実践.ナカニシヤ出版.
- 池田なをみ(2008)第3章 子どもとのかかわり.In:馬場謙一・松本京介編著:スクールカウンセリングの基礎と経験.日本評論社.
内田利広(うちだ・としひろ)
龍谷大学心理学部教授
公認心理師,臨床心理士,博士(心理学),京都教育大学名誉教授
専攻は,教育臨床心理学,家族心理学,人間性心理学,フォーカシング指向心理療法
趣味は,ガーデニング,山歩き
主な著書 「期待とあきらめの心理−親と子の関係をめぐる教育臨床」(単著,創元社,2014年),「母と娘の心理臨床−家族の世代間伝達を超えて−」(単著,金子書房,2018年),「フォーカシング指向心理療法の基礎:カウンセリングの場におけるフェルトセンスの活用」(単著,創元社,2022年3月),「スクールカウンセラーという仕事」(共著,青弓社,2022年),「スクールカウンセラーの第一歩【改訂新装版】」(共著,創元社,2025年)






