宋 大光(宋こどものこころ醫院)
シンリンラボ 第33号(2025年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.33 (2025, Dec.)
ジョン・フィッチ,マックス・フレンゼル『TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』(クロスメディア・パブリッシング,2023)
小学生のころ,親父からよく言われた。
「人が遊んでるときに頑張るから勝てるんや」
ある程度の年数を生きるとそうとは限らないことに気付きながらも,一度染み込んだ考えは簡単には消えなかった。
去年の夏ごろだったと思う。仕事に疲れ切って沖縄にひとり旅に出た。その飛行機の中でこの本のページを開いたら,プロローグにこんな言葉が書いてあった。
「僕たちは休むことを,仕事とは真逆のことだと思いがちだ」
その通りだった。我慢して仕事してるんだから,休むことは自分へのご褒美。そうやって,何度も自分に言い聞かせて働いてきた。それだけじゃない。僕はクリニックを自営しているので休めばその分だけ収入は減る。年末年始や学会のためであろうと,診療日を休診にすることに罪悪感があった。本当に休んで良いのか。そんな生活を何年も続けていると,いつの間にか休まないことがカッコいいとさえ思うようになる。「オレ,がんばってる」。自己陶酔である。それが自分を支えてきたけど,どうしたって心は尖ってくる。そうやって,仕事と休むことはどんどん離れて行った。
僕は本を選ぶとき,その書き出しで読むかどうかを決めてしまう。さっきのプロローグの言葉は僕をこの本に引きずり込んでくれた。時代,分野,年齢に関係なく偉人たちの言葉を通して,休むことが結果につながる,そう教えてくれた。ここで僕が特に印象に残ったところを引用する。
- 偉人たちはタイム・オフをしたのに成功したではなく,タイム・オフをしたから成功したのだ。
- 効率を上げるためには集中力を要する活動は制限するべきだ。
- 誰かにとっての仕事が,他の誰かにとっては休息だということもある。
- 世界王者のトレーニングで大切なのはやりすぎないこと。回復が重要なんだ。
- ひとりきりでいる時間がアイデアを発展させるために不可欠だ。
- なにがいちばん非生産的かというと,仕事と仕事ではないことをぱっくり分けて考えることだ。仕事は面倒なオマケじゃない。人間が叶える夢は,人生でひとつじゃなくていい。
- 重要なのはアウトプットだけであり,それに費やした時間ではない。
- やりがいのある仕事と,満足感のある私生活,両方をどちらも手に入れていい。
- 僕たちは費やしている時間に対して成果が上がっていないことを見落としがちだ。
仕事が楽しい。仕事が趣味だ。テレビに出るような社長さんや職人さんはよく言う。どうもその人たちは虚勢を張っているわけではないらしい。きっと心からそう思っている。そんな気がしてきた。
「質の高い休息を取ることがいい仕事につながる」
タイム・オフという本が一番言いたいのはこれだと僕は理解している。ただがむしゃらに働くことはむしろパフォーマンスや創造力を低下させ,逆に休むことはそれらを向上させる。仕事をうまく進めるために悩むのは大切だが,それ以上に自分はどうすれば質の高い休息を得られるかを悩んだほうがいいのかもしれない。臨床を生業とする人にとってより良いパフォーマンスを発揮し,臨床力そのものを高めるためには,休息こそが最も重要な要素と言える。
どれだけ感動した本でも,時間が経つと内容のほとんどを忘れてしまう。でもそれを読んだ場所,見えていた景色,その当時の感覚は長く残る。思い出そうと思えばいつでも思い出すことができる。タイム・オフは僕にとってそんな本のひとつだ。この本を読んで,僕は週休を2.5日から3日にした。
・宋大光(そう・だいこう)
・宋こどものこころ醫院
・医学博士,精神保健指定医,日本精神神経学会専門医・指導医,日本小児科学会専門医,日本児童青年精神医学会認定医,子どものこころ専門医・指導医
・主な著書:『もっと臨床がうまくなりたい──ふつうの精神科医がシステムズアプローチと解決志向ブリーフセラピーを学ぶ』(共著,遠見書房,2021年)





