小堀彩子(大正大学)
シンリンラボ 第37号(2026年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.37 (2026, Apr.)
1.初回面接でクライエントと共有する内容
私にとって初回面接は,(1)問題の成り立ちの暫定的理解,(2)面接室でどのような協働作業に取り組むかの見通し,(3)取り組みによって現在の苦痛や生活上の支障がどのように変化し得るか,をクライエントと共有する時間である。50分程度の限られた枠のなかでこれらの見立てを提示し,次回以降の継続(保留を含む)を共に決めるところまでを初回面接の到達点と考えている。
2.導入
初回面接の冒頭では,ごく簡単な自己紹介と,費用・時間・守秘といった枠組みを説明する。面接の場が安全で予測可能であることを早めに伝えることは,その後の率直な語りを支える。「今日この場で何が明らかになれば,帰り道の足取りが少し軽くなりそうでしょうか?」と尋ねることもある。必要に応じて主観的苦痛や生活面の支障を把握する簡易尺度を用いるが,数値は重症度の評価そのものの理解だけではなく“変化を一緒に確かめる指標”として扱う。こうした指標は毎回確認し,取り組みの手応えを共に見ていく。
3.困りごとの具体化
限られた時間で要点を共有するためには,テンポ良く面接を進める必要がある。まずは最も困っていることから話してもらう。その際,私は語りを“映像化”しながら聴く。短いフィルムを見るように場面をイメージし,起きている動きや気持ちを追う。映像が浮かばないときは話を止めて質問し,具体的な場面を尋ねる。観念的な語りが続く場合には,「いつ・どこで・誰と・どう起きたのか」を訊ねて実際の文脈を掘り下げる。また本人が抱く原因やきっかけの仮説も丁寧に聴く。曖昧でも,本人が問題をどう理解しているかを共有することは大切である。
4.目標の言語化
困りごとの整理が進んだら,「それ(困りごと)がどのような状態になれば今より扱いやすくなるか」を確認し,現時点の目標を明確にする。例えば不登校の子どもが「お金持ちになりたい」と答えたとしたら,一見ずれているように思えるが,これは価値観の表現である。そこから「進学は必要と思うか」「どんな生活をするとその目標に近づけそうか」など,少しずつ現実的な方向へ寄せていく。将来の見通しを支える中長期目標(例:高校進学時に困らない程度の体力や社交スキルの維持)と,今日から実践できる小さな目標(例:1日1回靴を履く=外出する)の両方が示されると,面接は「次につながる場」としての働きを持つ。
5.情報収集
ここからは残り時間を意識しつつ,生育歴と家族歴を中心に必要な情報を集める。発達上の偏りが疑われる場合は幼少期の様子を丁寧に確認する。職場やキャリアの問題では,高校卒業以降の経歴や現在の家族状況を優先する。不登校や引きこもりなどで行動が不活発になっている場合は起床から就寝までの1日の流れを尋ねる。休職中の場合は,休職期間や復職手順など会社の規則を早期に明確にする。また事例に応じて,睡眠・食事・アルコールなど医療的な支援の必要性や,希死念慮,自傷,依存,DVなど安全に関わる事項について優先的に確認する。
私が初回面接で特に意識しているのは,クライエントとセラピストを二者関係のみで閉じず,クライエント—問題—セラピストという三つの位置関係を保つことである。クライエントの大変さに関心を寄せつつも,問題を一緒に眺める体制を作ることで,クライエントが自分自身を問題と同一視しすぎないようにする。その立ち位置があることで,「自分がだめだから苦しい」という理解から,「こういう条件が重なると,この問題が起きやすい」という見方へと視点を移しやすくなる。問題が二人の間に置かれ,クライエントとセラピストが並んでそれを見ることができると,問題とクライエントの間にいくらか隙間ができてクライエントの語りの緊迫感が和らぐ。
また私は,面接の終盤で,クライエントが来室時と比べてどのような状態で帰ろうとしているかにも注意を向けている。劇的な変化は必要ないが,表情や声の張り,体のこわばりなどは大切な手がかりである。初回面接を終えたとき,来たときよりもほんの少し気持ちが明るく,少し元気になって帰れる状態であれば,その面接は一定の役割を果たしたと考えている。その手応えを面接前後で確認しながら終えることを意識している。
6.悪循環に関する仮説の図示
情報が整うと,現在の問題を維持する悪循環の構造が見え始める。そこでホワイトボードに簡単な図として示し,理解の土台を共有する。図示の利点は,責任追及ではなく構造としての理解をフラットに共有できる点である。原因探しに偏ると,過去への後悔や誰かへの批判に意識が向き,前に進みにくくなる。図示はその沼に沈まず,今の問題を維持している仕組みを見える化する手段である。図の中には人間関係や成功体験,趣味などの資源も書き込み,本人の強みに光を当てる。図示の形式に決まりはないが,認知療法の「思考→感情→行動」や応用行動分析の「きっかけ→行動→結果」といった枠組みは分かりやすく,多くのケースで役に立つ。
7.介入の見通し
最後に,今後の面接の場で行う取り組みを示す。面接内では,対人場面での思考・感情・行動の振り返り,代替行動の検討,小さな行動実験などを扱う。必要に応じて記録,曝露,行動活性化といった宿題を提案し,日常での試行を支えることが多い。そのような具体的な取り組みについて説明をする。
あわせて,介入を続けることでどの程度困りごとが扱いやすくなるか,どの状態を「目標達成」とするかを共有する。大抵の困りごとはクライエントの生活史や特性,体質,行動パターン,環境などに起因して発生しているわけで,問題が100%消え去るということはあまりない。しかし社会生活を阻害しない程度に小さくなったり,自分でいなせるようになったりしたならば,概ね目標達成と言えるだろう。問題を100%消し去るといった姿勢で困りごとに挑むと,アソビがなくなり,自らを追い込む。クライエントが自分に厳しくなりすぎると自分の足りない点ばかりが目について落ち込みやすくなったり,同じ物差しを他人にも適用して対人関係がうまくいかなくなったりすることがある。いずれにせよ心のガソリンを消耗し,柔軟に問題解決に臨むことが難しくなるのでお勧めできない。
8.継続判断
以上を踏まえ,次回以降の継続可否をクライエントと共に決める。継続する場合は面接頻度や当面の焦点,次回までの小さな課題を合意して終える。保留の場合は「何が引っかかっているのか」を丁寧に言語化し,意思決定に必要な情報を整理する。必要があれば他機関紹介や医療連携を提案し,クライエントが孤立しない出口を確保する。
9.終わりに
初回面接は,過去を裁いたり,完璧な答えを導き出したりするための場ではない。今の生活に少しでも風が通り,次の一歩を踏み出せるように,クライエントと協働して地図を描き始める時間である。扱いづらい問題が,少し扱える大きさへと変わっていく。その小さな変化の積み重ねが,クライエントの生活の自由度を徐々に広げていく。
小堀彩子(こほり・あやこ)
大正大学臨床心理学部臨床心理学科
資格:公認心理師,臨床心理士
主な著書:『心理支援における社会正義アプローチー不公正の維持装置とならないために』(分担執筆,誠信書房,2024),『公認心理師のための「心理支援」講義』(編著,北大路書房,2022)
趣味など:料理・育児






