【書評特集 My Best 2025】|吉川 悟

吉川 悟(龍谷大学)
シンリンラボ 第33号(2025年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.33 (2025, Dec.) 

まずは,言い訳からはじめてみたいと思います。

今回は,図書館にしかない書籍だと思いますので,「関心があればどうぞ」ということで……。

村上陽一郎『近代科学と聖俗革命』(新曜社,1982/2002)

どんな領域の研究者であれ実践家であれ,小学生のころから習っている「理科」の前提が「科学」であるのは当然です。そして,勉強を重ねるにつれて,「科学」の前提に則った「科学的思考」や「科学的表現」,それらを駆使した「実証主義」を前提として,データに基づいた研究や社会実践を行っているはずです。

しかし,その「科学」は,いつから「科学」になったのでしょう。本書では仮定的に「中世」をその始まりとして位置づけています。そして,当時の「キリスト教の教義に則っていること」という世界観に準じた場合,その当時の「科学」による物事の捉え方は,現在の「科学」とは似つかない,考えられない特殊なものだといえます。それを事細かに説明している本書の内容を読むと,自分の世界観がいかに固定的観念に囚われているか,幼い頃から学んできた「科学」の前提には,こんな黒歴史が隠されていたのだと知ることで,いろいろな社会の現在を再点検してみたくなること請け合いです。

本書に毒されすぎれば,「現代の科学も,本当に正しいのか?」という危ない世界に飛び出してしまいかねない,その疑いの扉が本書を開けた途端に始まると思います。

村上陽一郎『近代科学と聖俗革命

加藤正明,藤縄昭,小此木啓吾(編)『講座 家族精神医学1,2,3,4』(弘文堂,1982)

最近の若い臨床家は,対人支援の前提が,権威的な「正しい前提」に基づく働きかけではなく,対話的で協働的な働きかけに変化していることを,疑問に思うことはないのでしょうか。特に,家族療法やシステムズアプローチという特殊なことに関心を向ける人たちが最近増えてきています。これらは,心理臨床や精神医学の中でも,あえて言えば「異端」として位置づけられる存在だったはずです。しかし,現在そこで行われている実践は,社会構成主義に則ったナラティヴ・プラクティスを経て,クライエントの思いや意図を重視し,希望や期待に添った支援のあり方が前提となる協働的対応やSDM(shared decision-making=共有意思決定)モデルなどへの傾倒が強く見られます。いわば,フーコーが危惧した精神医学における階層性の問題を含む「狂気の歴史」の存在そのものさえ,見えづらくなっているのではないかと思ってしまうほどです。つまり,もしかすると,クライエントの存在そのものをそのまま扱うにはどのようにすべきなのか,その疑問の最先端の実践を行っていることになってしまっているのですから……。

現在の心理療法や精神療法,その基礎となっている精神医学は,どこから来てどのような変遷の後に,現在に至っているのか。20世紀当初に精神分析学という対人支援の方法論が生み出され,そこから120年の紆余曲折の半ば,1980年代にこの著書は生まれています。そして,多くの実践における反省の上に,改善された根拠というデータに基づき,この時点までの発展を示していながらも,一方で現在の最新の認識論と比較すると,まだまだ欠落したものが多くあることを強く再認識できるものになる良書だと考えます。

特に,家族療法やシステムズアプローチという本来「邪道」な対人援助の方法論に関心を向けておられるなら,お暇なときにご一読いただくと,今の認識論との差があまりにも多く目について,目からうろこが何枚も落ちることを保証できそうです。

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吉川悟(よしかわ・さとる)
龍谷大学心理学部
資格:公認心理師,臨床心理士,家族心理士,医療心理士
主なご著書:『システムズアプローチのものの見方,「人間関係」を変える心理療法』(単著,遠見書房,2024年),『セラピーをスリムにする─ブリーフセラピー入門』(単著,金剛出版,2004年),『システムズアプローチで考える「発達障がい」─関係性から丸ごと支援する』(編著,金子書房,2024年)
趣味:現在,ゴルフ病に感染中。オマケで釣り,スキー,山登りなど

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