村木敢海(臨床心理士・公認心理師)
シンリンラボ 第41号(2026年8月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.41 (2026, Aug.)
1.はじめに
私は臨床心理士・公認心理師として児童発達支援および放課後等デイサービスの現場で療育実践を行ってきた。
そこでは日々,発達に特性をもつ子供たちの行動上の問題に直面する。
癇癪が多い,指示が通りにくい,他児と喧嘩する,活動参加が難しい,こだわりが強い…
しかし,「心を育てる」や「気持ちに寄り添う」といった情緒支援に大きく大きく偏った日本的な療育手法ではなかなか効果が現れず,行き詰まりを感じていた。
そんな中,行動改善に効果があると科学的に立証された療育手法である「応用行動分析学(ABA: Applied Behavior Analysis)に出会った。
特に役立ったのは「この子はなぜこの行動をしているのか」を支援者の経験や直感ではなく,観察可能な事実に基づいて分析できるようになったことである。
行動を「性格」や「障害特性」のせいにするのではなく,環境との相互作用から理解することで支援の方向性は明確になった。
本稿では,私が療育実践の中で活用してきた考え方である「四項随伴性」と「行動の機能」に焦点を当て,その基本的な考え方と臨床での活用方法について解説する。
ABAの定義は,「行動原理から導き出される戦術を,社会的に重要な行動を改善するために組織的に応用して,実験を通じて行動の改善に影響した変数を同定する科学である」というものだ(Cooper et al., 2007)。
つまりABAとは,科学的に実証された行動の原理を個人に応用して行動を改善する学問ということになる。
障害児支援領域ではABA理論に基づく介入が最も豊富な科学的検証を受けており,その有効性は多くのメタ分析やシステマティックレビューによって支持されてもいる。
例えばウォンWongら(2015)による自閉スペクトラム症児に対する介入についての大規模レビューでは,エビデンスに基づく実践(EBP : Evidence-Based Practices)として抽出された27種類の介入のほとんどがABA理論を基盤としていることが示されている。
その後2020年に行われたレビューではEBPは28種類へと整理されたが,同様にほとんどの科学的根拠のある介入はABA理論に基づいていることがわかった(Steinbrenner et al., 2020)。
私の働いていた「放課後等デイサービス」は児童福祉法に基づくサービスであるため,「子どもの最善の利益を優先して考慮する」ことが定められていることから,子どもの最善の利益に最も寄与する可能性の高いABAを実践に取り入れてきた。
そしてABAに基づく実践の中で重要な職務のひとつが「アセスメント」である。
そこで今回は,ABA理論を用いたアセスメントの基礎中の基礎となる「行動の機能」と「四項随伴性」という二つの概念を解説し,事例の中でどのように活用したかをご紹介する。
2.行動の機能
行動の機能(Function of behavior)は,わかりやすくいえば「その行動が何を得る,あるいは何を避けるために生起し,維持されているのかを示す概念」のことを指す。
行動の機能は以下の五つに整理されている(Cooper et al., 2007)。
① 正の社会的強化(雑談や遊びなど他者を通して快刺激を得ることで行動が増えること)
② 有形の強化(食べ物やおもちゃなどのものを得ることで行動が増えること)
③ 正の自動強化(指しゃぶりや鼻歌など,行動そのものが快刺激を生み行動が増えること)
④ 負の社会的強化(嫌いな人から離れる,活動の免除など他者を介して不快刺激が排除されることで行動が増えること)
⑤ 負の自動強化(痒い所を掻くなど行動そのものが不快刺激を排除することで行動が増えること)
※注:強化とは,ある行動の結果として刺激が提示または除去され,その結果として将来その行動の生起頻度が増加する現象。
これらの行動の機能は,臨床現場においてはわかりやすさのために「獲得・回避・注目・自己刺激」という四つに分類されて用いられることが多く,ABA理論を背景とするアセスメントツールとして広く使われているMAS(Motivation Assessment Scale)もこの四分類を採用している。
そのため本稿ではこちらの四分類におけるアセスメントを解説する。
① 獲得
おやつやゲーム,遊びといった本人にとって望ましい刺激を得るための行動。
② 回避
痛みや不快感,嫌いなものや課題などの嫌悪刺激から逃れるための行動。
③ 注目
褒め言葉や賞賛,時には叱責や驚いた顔など他者の反応を得るための行動。
④ 自己刺激
指しゃぶりやハンドフラッピング,エコラリア,その場でくるくる回る,机をたたく,物を口に入れるなど,何かしらの刺激を得るための行動。
※注:ハンドフラッピングとは,手をひらひらと動かす行動。興奮したとき,嬉しいとき,不安なとき,感覚刺激を得たいときなど,さまざまな場面で生じる。
エコラリアとは,他人が言った言葉やフレーズをそのまま繰り返す言語模倣行動。
なぜこれら「行動の機能」のアセスメントが必要になるかというと,一つは「全く同じ行動でも,行動の機能によって適切な支援方法は変わるため」である。
例えば「大声を出す」という問題行動が生起していた場合を考えてみよう。
もし,「特定の職員からの注目が得たい」という機能で行動が生起していた場合,「おっきな声を出したらみんなびっくりしちゃうよ」と声掛けをするのは適切だろうか?
注目を与えるという結果がその行動を維持・強化する可能性があるため,不適切な可能性が高い。
このような場合は,適切な注目の得方(職員の肩を叩くなど)を教える,注目を得たい!という気持ちが少なくなるように定期的に注目をしてあげるなどが適切な介入である。
しかし逆に,大声を出すと泣き止ませるために大人がアメを持ってきてくれることを学習している,「獲得の機能」の行動の場合,そのような支援は適切だろうか?
どれだけ注目をしようと,「アメが欲しい」という機能は満たされないわけだから結果的に問題行動が生起してしまうため,不適切である。
その場合は,「アメちょうだい」などの要求言語を教え,言えた場合にのみアメを渡すといった介入が適切である。
このように,ABAでは行動の物理的形態ではなく,その行動を維持している機能に着目して介入を選択する。
したがって,適切な支援を計画するためには,まず「なぜこの子はこのような行動をしているのか」という行動の機能をアセスメントすることが不可欠なのである。
3.四項随伴性
次に四項随伴性とは,人間の行動がどのような条件で生起,維持されるのかを説明するABAの基礎となる分析の枠組みであり,前述した「行動の機能」をアセスメントする上でも大切になる概念である。
元々,ABAの理論的基盤を築いたスキナーSkinnerは人間の行動プロセスを「弁別刺激→行動→結果」で説明する「三項随伴性」という概念を用いており,これはABAの基礎的な概念になっている(Skinner, 1953)。
しかし実際に臨床場面に応用しようとした際に,同じ弁別刺激が存在していても同じ行動が生起したりしなかったりすることがあることがわかった。
こういったことを説明するため,強化子の価値や行動を変化させる変数として後に「動機づけ操作(MO : Motivating Operation)」という概念が導入され,現在ではABAを用いたアセスメントにおいては「四項随伴性」が広く用いられている。
この概念の導入により,同じ先行刺激下でも異なる行動が生起する理由をより体系的に説明できるようになった。
四項随伴性がアセスメントに重要な理由は,前節で述べた「行動の機能」を推測するための情報を体系的に整理できる点にある。
前節では「行動の機能」のアセスメントが介入法策定のために重要だと述べたが,行動そのものだけでは行動の機能を判断するのが難しい場合もある。
例えば私が経験した中等度知的障害を伴う自閉症の子どもの事例を挙げよう。
その子どもは,他児が歌を歌いだしたときに「もっと聞きたいね!」と叫びながら拍手をし,パニックになることが頻回に見られた。
言葉だけで捉えるとその子は「歌を歌ってほしくてパニックになっている」──つまり獲得の機能のように感じられる。
しかしよく観察してみると実際は,他児の歌が嫌悪刺激であり,そこからの回避の機能で生じる行動であった。
過去に他児が歌い始めた際に「もっと聞きたいね!」という職員の言葉をエコラリアで発声した際に,歌を歌っていた他児が「ありがとう!」とお礼を言いにその子に近づいてくるという状況があったために,「もっと聞きたい」という言葉を発すると他児が歌を中断するという随伴性を学習していたのだった。
そのためABAでは,行動の機能を推定するために行動の前後の要素を継時的に進行するプロセスとして整理し,プロセス全体の流れから行動の機能を分析する。
それが四項随伴性であり,その進行プロセスは「動機付け操作(MO)→先行刺激(A)→行動(B)→結果(C)」の4つの要素で構成される。
① 動機づけ操作(MO : Motivating Operation)
空腹や疲労といった生理的状態,課題の連続提示や「さっき叱られた」といった経験事象,教室が暑いといった環境要因など個人が曝されている諸条件を指す(家族構成や住んでいる土地など広範な要素までを必ずしも含めるわけではない)。
② 先行刺激(Antecedent)
その行動が生起する直前にその人が知覚した刺激のこと。
③ 行動(Behavior)
人が行う反応すべて。客観的に測定可能なものだけではなく,思考などの内的事象も行動に含まれる(Skinner., 1953)。
④ 結果(Consequence)
行動に後続して起こる刺激変化のこと。
この四つの要素は行動を一連の流れで捉え,行動がどのような条件で生起し,その結果としてどのような環境との相互作用が生じているのかを整理するための分析の枠組みである。そして,その情報を基に「行動の機能」の仮説を立てることが,ABAにおけるアセスメントの基本となる。
※注:先行刺激とは行動が起こる前に受け取られた刺激のこと。弁別刺激とは,先行刺激の一種であり,学習の結果,特定の行動を引き起こすことが確立された刺激のこと。
4.事例紹介
ここでは,四項随伴性と行動の機能を用いてアセスメントを行い,介入方法を検討した事例を紹介する。なおプライバシー保護のため,一部の情報を変更した。
本事例は私が放課後等デイサービスに勤めていた際の利用児童であり,知的障害を伴うダウン症の小学3年生男児のAさんであった。
通所を続けていたある時から,「職員の顔に唾を吐きかける」という他害を含む問題行動が見られるようになったため,対応が必要になったことで介入の対象となった。
支援開始時の対応としては,当該行動が見られた際に職員から「汚いからダメだよ」「そんなことをしてはいけないよ」といった言語的な注意を行っていた。
しかし二週間ほど経過しても問題行動は減らず,原因究明と適切な支援方法確立が必要という判断の基,アセスメントを行うこととなった。
そこで,まずは四項随伴性に基づくアセスメントを実施した。
その際の分析結果は以下のような形であった
動機づけ操作(MO):一人で遊んでいる(職員とのかかわりが少ない状態である)。
↓
先行刺激(A):職員が本児の半径1m以内に接近する。
↓
行動(B):職員の顔に唾を吐きかける。
↓
結果(C):職員が悲鳴を上げ,後ずさる。
この四項随伴性を基に考えると,問題行動の直後に生じている「職員の大きな反応」が行動を維持している可能性が高いことが考えられた。
さらにAさんは,職員が驚いたり悲鳴を上げたりする様子を見て笑うことが多く,職員の反応そのものが強化子となっていることが推察された。
すなわち,当該行動は職員の反応の「獲得」の機能を持ち,職員の反応が実際にもたらされることで正の社会的強化によって維持されているという仮説を立てた。
この仮説に基づき,介入方法を以下のように変更した。
① 当該行動が見られた際は驚く,後ずさるなどの反応をせず,職員は無言でその場を離れる。
② 職員を「わっ」とびっくりさせる行動には,唾を吐かれた際と同じ反応を示す。
③ ②の行動を本児が頻繁に行えるような状況設定──例えばわざとその場を離れ,本児が壁に隠れた時に通ることで,本児が「職員を驚かせる」行動を取りやすいようにする──を行うことで,職員の反応が欲しいという欲求が減るようにする。
このような支援を一貫して行った結果,職員への唾吐き行動は徐々に減少し,継続的な支援の中でほとんどみられなくなった。
本事例で重要なのは,「唾を吐く」という行動の形態だけを見て対応を決定しなかった点である。
もし「汚いから」「人に迷惑をかけるから」という行動の表面的な側面だけに着目して注意を繰り返していたならば,結果として職員の反応をさらに提供し,問題行動を維持していた可能性がある。
そのように不適な介入を続けることで最も不利益をこうむるのは,支援者ではなく子どもである。
だからこそ我々は,子どもの最善の利益のために科学的根拠に基づいた支援が求められているのだと,私は考える。
そしてもう一つ重要な点が,このような行動の原理に基づいて客観的に立証可能な方法で仮説検証を行うことで,仮に介入がうまくいかなかった際にも原因を特定できるという点である。
例えば本事例における支援で行動が全く減っていかなかった場合,「職員の反応の獲得」という仮説が間違っていたことになる。
そういった際は別の仮説──実は機能は「唾が口から遠くへ飛んでいくのを見る」という自己刺激であり,職員に向かって吐きかけていたのは単に「ここまで飛ばすぞという目印」という先行刺激に過ぎなかったなど──を立て,それに対する支援を行い,また検証を行う。
これを繰り返すことで,適切な支援にたどり着けるのである。
このように支援者間で行動の原理に基づいた共通の言語で事象を記述し,仮説を立て,介入を検証するための分析枠組みが「行動の機能」と「四項随伴性」である。
文 献
- Cooper, J. O., Heron, T. E., & Heward, W. L.(2007)Applied Behavior Analysis 2nd Edition. Prentice Hall.(中野良顯訳(2013)応用行動分析学[第2版].明石書店.)
- Skinner, B. F.(1953)Science and Human Behavior. Macmillan.
- Steinbrenner, J. R., et al.(2021)Evidence-Based Practices for Children, Youth, and Young Adults with Autism: Third Generation Review. Journal of Autism and Developmental Disorders, 51 (11); 4013–4032.
- Wong, C., et al.(2015)Evidence-Based Practices for Children, Youth, and Young Adults with Autism Spectrum Disorder: A Comprehensive Review. Journal of Autism and Developmental Disorders, 45 (7); 1951–1966.
村木敢海(むらき・いさみ)
資格:臨床心理士,公認心理師
障害児童福祉の分野で心理相談,療育活動に従事し,施設長として支援全体のマネジメントを行う。応用行動分析学(ABA)を専門とし,エビデンスに基づく支援を実践してきた。現在はフリーランスの臨床心理士,公認心理師として心理職をはじめとする支援者や保護者向けに発信,執筆活動を行っている。










