臨床心理検査の現在(24)トラウマに関わる心理検査③面接法(CAPS-5,CAPS-CA-5,PTSD-RI-5)とその使用|齋藤 梓・飛鳥井 望

齋藤 梓(上智大学)・飛鳥井 望(青木病院)
シンリンラボ 第28号(2025年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.28 (2025, Jul.)

1.はじめに

トラウマに関わる心理検査の第3回は,心的外傷後ストレス症(Posttraumatic stress disorder: PTSD)の診断および症状評価のための構造化面接尺度として,以下にあげる成人を対象としたCAPS-5,子どもを対象としたCAPS-CA-5,子どもを対象に自記式としても面接法としても使用可能なPTSD-RI-5について解説する。これらの尺度はいずれもDSM-5の診断基準に準拠したものである。合わせてICD-11のPTSDおよび複雑性PTSDの診断基準に準拠した構造化面接尺度で,日本語版の標準化が現在進行中であるITIについても紹介する。

  • PTSD臨床診断面接尺度(Clinician-Administered PTSD Scale for DSM-5:CAPS-5)(Weathers et al., 2013;飛鳥井ら,2018)
  • PTSD臨床診断面接尺度児童青年期版(Clinician-Administered PTSD Scale for DSM-5-Child/Adolescent Version:CAPS-CA-5)(Pynoos et al., 2015;Tanaka et al., 2024)
  • UCLA心的外傷後ストレス障害インデックスDSM-5版(PTSD Reaction Index for DSM-5:PTSD-RI-5)(Kaplow et al., 2020;Takada et al., 2018)
  • 国際トラウマ面接(International Trauma Interview:ITI)(Roberts et al., 2022;丹羽,2025)

2.どのようなときに構造化面接尺度を使用するのか

自記式質問紙は短時間で簡便に実施できるため日々の心理支援の中では使用しやすいが,クライエント自身が自らの状態を判断して回答するため,クライエントの主観による部分が大きくなり,症状の過少評価や過大評価などのバイアスが生じる可能性を免れない。一方,構造化面接尺度は,面接者が定められた手順で症状について質問し回答を評価するものであり,実施に少なくとも1時間前後はかかることからクライエントにとっての負担は大きくなる。しかしながら,クライエントの主観による部分が小さくなり,より客観的に症状を評価することが可能となる。ただし,検査を実施する面接者はトラウマ症状を適切に理解した上で,面接尺度の使用手技に習熟している必要がある。

筆者らが構造化面接尺度を使用する機会として多いのは,例えば意見書作成や研究目的などでPTSDの診断的評価が求められる場合や,トラウマに焦点を当てた心理療法を進める際に症状の詳細を把握する必要がある場合などである。

3.PTSDに関する構造化面接尺度の実施について

PTSDに関する構造化面接尺度では,診断的評価の信頼性と妥当性を担保するために,規定の実施手順を遵守することが求められる。原則として,教示された質問文を順番に読み上げ,面接者が質問文の表現を恣意的に変更することは許されない。例えばCAPS-5においては,質問の言葉や順番を変更することができるのは,「被面接者が標的となる出来事や症状の表現に用いた言葉をそのまま使用する場合」「基準となる補足質問をそれ以前の回答から得られた言葉に言い換える場合」「すべての補足質問が終わった段階でも情報が不十分なため,アドリブの質問をする場合」「必要に応じて,特定の例示について訊ねたり,被面接者が詳細に語るように促す場合」と細かく指示されている。被面接者にとって,補足質問の理解さえも困難である場合に短い例示をすることはあるものの,滅多にすべきではないと注意されている。

面接者が確実に規定の手法に基づいて実施するために,事前のトレーニングが必要となる。また,面接者は症状について質問しながら,クライエントの語る内容がその症状に合致しているか,重症度はどの程度かを評価するため,PTSDの診断基準やそれぞれの症状の現れ方,語られ方に習熟している必要がある。

4.PTSD臨床診断面接尺度(Clinician-Administered PTSD Scale for DSM-5: CAPS-5)(Weathers et al., 2013;飛鳥井ら,2018)

CAPSは,DSMの診断基準に拠るPTSDの診断と重症度を評価するために,米国の国立PTSDセンターの研究グループが1990年に開発した構造化面接尺度である。以来CAPSはPTSD診断のゴールドスタンダートとして世界各国の研究や臨床および治験などで広く使用されてきた。現在使用されているCAPS-5はDSM-5のPTSD診断基準に対応しており,PTSD症状に関する20項目(侵入症状,持続的回避,認知と気分の陰性変化,覚醒度と反応性の著しい変化)と解離症状を伴うサブタイプ2項目(離人感と現実感消失)に加えて,症状の発症時期,持続期間,機能障害3項目(主観的苦痛,社会的・職業的機能,他の重要な領域における機能),全般的妥当性,全般的重症度,前回実施時からの症状改善度の8項目,合計30項目で構成されている。対象は成人,青年,7歳以上の子どもである。DSM-5のトラウマ的出来事の基準に該当し,侵入症状5項目中1つ以上,持続的回避2項目中1つ以上,認知と気分の陰性変化6項目中2つ以上,覚醒度と反応性の著しい変化6項目中2つ以上で症状ありとされ,かつ症状は1ヵ月以上持続し,機能障害ありと判定された場合にPTSDと診断される。

CAPS-5について,Weathers et al.(2018)が退役軍人を対象に行った調査では,診断において高い評価者間信頼性(k=.78~1.00)と再検査信頼性(k=.83)が示され,重症度合計得点においても,高い内的一貫性(α=.88),評価者間信頼性(ICC = .91),良好な再検査信頼性(ICC = .78)が示された。また,CAPS-IVの重症度合計得点(r = .83)およびDSM-5のPTSDチェックリスト(PCL-5)得点(r = .66)との収束的妥当性も良好であった。CAPS-IV日本語版の信頼性と妥当性は検証されているが(飛鳥井ら,2003),CAPS-5日本語版においても,高い内的一貫性(α=.93)が示され,日本語版のCAPS-Ⅳ(r=.98),PCL-5(r=.85)との収束的妥当性は良好であり,CAPS-Ⅳとの間に高い診断一致率(90%)が認められている(須賀ら,未発表データ)。

CAPS-5実施の際には,あらかじめ,ライフイベンツ・チェックリスト(LEC-5)(飛鳥井ら,2018)を用いて,過去のさまざまな種類のトラウマ体験の有無について尋ねる。具体的には,自然災害や身体的暴行,監禁,命にかかわる病気やけがなど17項目について,その体験は自分に起きたことか,目撃したことか,近親者や近しい友達に起きたと知らされたことか,仕事上で体験したことか,あるいは体験していないか,該当する箇所にチェックしてもらう。その上で,回答内容から「標的となる出来事」(インデックス・トラウマ)を特定する。多くの場合,クライエントは人生の中でいくつかのトラウマを体験しているが,「標的となる出来事」は,その中でもクライエントにとって最悪だと捉えられている出来事であり,単回の事件・事故のことも,複数回の関連した事件(例:継続的虐待)のこともある。

「標的となる出来事」が定まったならば,その出来事に関する20項目のPTSD症状について,順番に教示されている通りに一つ一つ尋ねる。旧版のCAPS-IVでは,それぞれの症状の頻度(過去1か月の出現回数や時間の中に占める割合)と強度(「わずか」「明らかにある」「かなり」「甚だしい」の4件法)のスコアを別々に付けていたが,CAPS-5では各症状の頻度と強度について尋ねた後,単一の重症度スコアを付けて評価する。重症度は「0全くなし」「1軽度/閾値以下」「2中等度/閾値レベル」「3重度/閾値を顕著に上回る」「4極度/能力を損なう」の5段階である。従って,重症度合計得点の範囲は0〜80点となる。

症状ありと判定するのは「中等度」以上であり,「軽度」は症状なしとされるため,「中等度」以上か否かの判定は診断結果にも影響する。またCAPS-5の検査用紙には症状項目ごとに,「中等度」と「重度」のアンカーポイントとなる判定の目安が記されているが,あくまでも目安のため,実際には判定に迷う場合も出てくる。迷った場合はより低い重症度,たとえば「中等度」か「重度」かで迷ったら「中等度」とするように教示されている。

CAPS-5の実施にかかる時間はクライエントの状態によっても異なるが,概ね60分程度,長くても90分以内である。なお,検査実施後はあまり時間を置かずに,各項目の判定結果を振り返って見直し,適切な修正を加えた上で,最終判定結果をサマリーシートに記載する。そのためには検査用紙に具体的な回答内容をメモ書きしておくことが望ましい。また,ICD-11のPTSD診断基準の再体験・回避・脅威の感覚の6項目はすべてCAPS-5に包含されているので,DSM-5とICD-11の双方でのPTSD診断が可能である。

CAPSは旧版以来,心理測定尺度として診療報酬を認可されている。CAPS-5の実施にあたっては,トレーニングを受講する必要がある。現在国内では,トラウマティック・ストレス学会および兵庫県こころのケアセンターなどで定期的な講習会が開催されている。また米国国立PTSDセンターからはオンライン受講可能なトレーニングカリキュラム(英語)が提供されている。なお,現在,CAPS-5の改訂版(CAPS-5-R)が作成され(Jackson et al., 2024),面接者による重症度評価のぶれを少なくするために修正した教示文と重症度評価のガイドが示されるなどの変更が試みられている。改訂版は内的一貫性とCAPS-5との診断一致率が良好であったことから,今後の展開が期待される。

5.PTSD臨床診断面接尺度児童青年期版(Clinician-Administered PTSD Scale for DSM-5-Child/Adolescent Version: CAPS-CA-5)(Pynoos et al., 2015;Tanaka et al., 2024)

DSM-5のPTSD診断基準は6歳以下と7歳以上で項目構成の一部が異なっている。したがって児童青年期版のPTSD症状評価尺度であるCAPS-CA-5も,7歳以上の児童青年期を対象としており,項目はCAPS-5と同じくPTSD症状評価の20項目に加えて,解離性サブタイプの2項目,発症時期と持続期間,機能障害などを尋ねる10項目があり,計30項目から構成されている。評価方法もCAPS-5と同じであり,症状の頻度と強度に基づいて重症度得点がつけられる。CAPS-5と異なる点として,年齢に応じた項目や絵によるオプションが設定されるなど,子どもにも答えやすいように工夫されている。

CAPS-CA-5の日本語版は,Tanaka et al.(2024)が7歳から18歳の子どもを対象として信頼性と妥当性を検証した。尺度全体の内的一貫性はα=.90,下位因子はα=.71~.77と良好な範囲であり,評価者間信頼性もk=.88と高かった。後述のUCLAのPTSD-RI-5との相関は中程度から強い相関であり,収束的妥当性も良好であった。ただし,CAPS-CA-5とPTSD-RI-5でのPTSD診断一致率は中程度(k=.44)であった。この結果について,Tanaka et al.(2024)は,PTSD-RI-5を自記式で実施したため,回答者が主観的に判断した状態と,CAPS-CA-5で面接者が評価した状態とに乖離が生じたことが原因であろうと述べている。

CAPS-CA-5の実施に関しても,トレーニングを受ける必要がある。兵庫県こころのケアセンターでは,「子どものPTSDのアセスメント」としてCAPS-CA-5のトレーニングが実施されている。

6.UCLA心的外傷後ストレス障害インデックスDSM-5版(PTSD Reaction Index for DSM-5: PTSD-RI-5)(Kaplow et al., 2020;Takada et al., 2018)

UCLAによるPTSD-RI-5は,学齢期の児童青年を対象としたDSM-5に準拠した自記式のPTSD症状評価尺度である。ただし臨床で使用する場合は,面接者が口頭で質問し子どもに回答を求める面接方式が推奨されている(亀岡,2022)。

PTSD-RI-5は,子どもが体験したトラウマとなる出来事や喪失体験23項目,PTSD症状31項目(うち解離症状4項目)から構成されている。症状の重症度評価は症状の頻度によって行われ,子どもに分かりやすいように,概ね1か月に何回程度起きることを指すのかを示した回数表が添えられている(例えば,1か月に2回チェックがついた表や,1か月の半分程度にチェックがついた表などがあり,その症状が自分に何回くらい起きているかを回数表で示すことで回答しやすくなっている)。

PTSD-RI-5の実施においても,子どもに,最初にトラウマとなる出来事や喪失体験23項目について,どれが起きていたか,それは自分が体験したことか,他人が体験したことを目撃したことか,何歳のときに体験したことかなどを確認し,一番つらい体験を特定してからPTSD症状の評価に進む。PTSD-RI-5は,7歳以上の子ども向け版の他にも,親や保護者への面接版,6歳以下の子供向け版が作成されている。

PTSD-RI-5日本語版の標準化に関するTakada et al.(2018)の研究では,全体の内的一貫性がα=.85と良好で,下位因子についても概ね良好な結果が得られた。回避症状項目の信頼性係数は.42〜.85とばらつきがあったが,これは,回避症状は2項目のため,そもそも信頼性係数が低く出やすかった可能性が考えられた。また,子ども用トラウマ症状チェックリストとの相関は有意であり,収束的妥当性も良好であった。さらに確証的因子分析においてDSM-5-TRの診断基準に対応した4因子構造が支持され,PTSD-RI-5日本語版はPTSD症状評価に適した尺度であると考えられた。

PTSD-RI-5の質問紙は千葉テストセンター等で購入可能である。ただし子どもが心理検査を受ける中で,トラウマ症状に関して自分の状態を適切に把握し,それを言葉に出して回答することには大人以上のハードルがあり,面接者としてのより細やかな配慮が必要である。検査にあたっては,専門書籍(亀岡,2022)の参照や,日本トラウマティック・ストレス学会や兵庫県こころのケアセンターで実施されている「子どものPTSDのアセスメント研修」を受講しておくことが望ましい。

7.国際トラウマ面接(International Trauma Interview: ITI)(Roberts et al., 2022;丹羽,2025)

ITIは,ICD-11のPTSDおよび複雑性PTSD(Complex posttraumatic stress disorder)の診断評価のために開発された構造化面接尺度である。ITIは第1部がPTSD診断の症状評価項目(トラウマ体験への曝露,再体験2項目,持続的回避2項目,脅威の感覚2項目,機能障害2項目,症状持続期間)から構成され,第2部が自己組織化の障害(Disturbances in Self-Organization: DSO)の症状評価項目(感情調節の困難2項目,否定的な自己概念2項目,対人関係の障害2項目,機能障害2項目)から構成されている(丹羽,2025)。PTSDとDSOの双方の症状評価項目を満たした場合には複雑性PTSDと診断される。

ITIにおいて面接の冒頭で確認するトラウマ的出来事に関しては,ICD-11に準拠して「極度に脅威的(threatening)なまたはぞっとする(horrific)性質の出来事」(丹羽,2025)と記述されており,出来事の例として,自然災害,人為災害,戦闘,重大事故,性暴力,テロ,暴行,心臓発作など生命的脅威となる急性の病気,他者に起こったことの目撃,愛する人の突然の予期せぬ死ないし暴力的な死などが挙げられ,逃げることが困難または不可能な持続的または反復的な出来事の例として,子ども期の性的虐待や身体的虐待,ドメスティック・バイオレンス,拷問,マイノリティに対する暴力などが挙げられている。標的となる出来事が定まった後に,それぞれの症状項目の評価を行うが,評価方式はCAPS-5を踏襲しており,各症状について,頻度と強度から重症度を評定する。PTSDに関する再体験(悪夢,フラッシュバック),持続的回避(内的想起刺激となる思考・感情,外的想起刺激となる事物),脅威の感覚(過度の警戒心,過剰な驚愕反応)の6項目に関する教示質問内容はCAPS-5に一部修正が加えられたものである。自己組織化の障害(DSO)は感情調節の困難(過剰な感情的反応,麻痺や解離への傾向),否定的な自己概念(失敗した人間,価値がない),対人関係の障害(他者から切り離された感じ,親しくなれない)の6項目である。PTSDの3症状すべてでいずれか1項目以上が当てはまればPTSDに該当し,その上にDSOの3症状すべてでいずれか1項目以上が当てはまれば複雑性PTSDに該当する。重症度得点のレンジはPTSDが0点から24点,DSOが0点から24点であり,複雑性PTSDは両者を合計した0点から48点のあいだで示される。

いくつかのテスト版を経て作成されたITIの英語ドラフト版(2018)は,スウェーデン語,リトアニア語,ドイツ語,韓国語,デンマーク語に翻訳され心理尺度特性を検証された。それらの結果や英国での検証結果から,リリース版1.0が確定されている(Roberts et al., 2022, 2025)。英国の報告(Roberts et al., 2025)では,確証的因子分析の結果,PTSDおよびDSOの2因子2次モデルが支持された。PTSDに関する3症状6項目(ω = .85)とDSOに関する3症状6項目(ω = .91)の内的一貫性は良好であった。また,国際トラウマ質問票(ITQ)とITIの相関分析において,PTSD症状(r=.71),DSO(r=.72)ともに強い正の相関を示した。ITIはさらに多くの言語への翻訳が進んでいる。日本語版ITIの信頼性と妥当性の検証も現在進行中であり,トレーニングプログラムについても準備が進められている(丹羽,2025)。ITIはICD-11の複雑性PTSDの診断と症状評価も行える国際的な構造化面接尺度であり,今後の実証研究や臨床場面で使える有望な診断ツールのひとつとして期待がもたれる。

8.各尺度の実際の活用における留意点

1)何のために実施するのかを最初に丁寧に説明する

いずれの症状評価尺度も,トラウマ的出来事の内容と,それに関連した症状についてクライエントに尋ねるものである。また,時間も60分前後と長くかかり,自記式尺度と比較して被面接者の精神的負担は大きい。そのため,どのような心理検査でも同様であるが,セラピストは検査を実施する前に,何のためにどのような検査を実施するのかを分かりやすくクライエントに説明しなければならない。

例えば,筆者らは「トラウマ焦点化認知行動療法が必要かどうか判断するためにも,あなたの今の状態を詳しく聞かせていただければと思います」「身体の病気の治療をするときに必要な検査をするように,心理療法を行うときにも心の状態を把握しておくことが必要になります」といったような説明をしている。

トラウマ的出来事の体験後には,しばしば他者不信や疑心暗鬼の念が強まり,また無力感や自己不信感に囚われやすくなっていることに面接者は十分に留意し,クライエントの理解を確かめながら説明する必要がある。

2)検査の実施中は検査に焦点を合わせ続ける

クライエントのPTSD症状を入念に尋ねることは,クライエントに過大な負担をかけるのではとセラピストは不安に思うかもしれない。実際のところ,CAPS-5の実施中にクライエントが涙を流すこともある。あるいはPTSD-RI-5の項目について尋ねているときに,子どもが落ち着かない様子を見せることもある。ことに標的となる出来事を絞り込むために,過去のトラウマ歴を尋ねるときなどは,大人も子どもも辛そうな様子となることはまれではない。

一方で,クライエントにとって面接形式の症状評価は,「初めて自分の状態について,丁寧に尋ねてもらえた」という経験となることも多い。これまで自分の症状をうまく語ることができなかったクライエントが,面接で尋ねられることで自分の状態を系統的に語ることができるようになる。そしてその場には,クライエントが語る苦痛な症状に真摯に耳を傾けるセラピストがいる。それはクライエントにとって新鮮かつ大切な体験となる。

ただし症状評価面接はカウンセリングではなく,あくまでも検査目的であることから脱線してはならない。例えば検査実施中に,尋ねられている症状内容とは関連しないことをクライエントが話しだすことがある。もしその内容が,むしろ他の症状項目に該当すると判断されたならば,それを検査用紙にメモしておき,該当する症状項目の番になったときに「先ほどこのように話されていましたが」と確認するようにする。もしクライエントが症状とはまったく無関係なことを話しだした場合には,セラピストは,冷淡な印象とならないようにやんわりと話を質問していることに戻し,症状評価面接の進行に焦点を合わせ続けなければならない。

3)PTSD症状がどのように語られるかに習熟する

面接者は,クライエントが語っている内容が,はたしてトラウマ関連症状であるかそうでないかを見極めなければならない。たとえば,「事件のことを思い出してしまうので避けているような物事や人や場所などはありますか」といった面接者の質問に対して,クライエントが「家の中にいると怖くなります」と答えたとする。その場合,面接者はそれが回避症状なのかどうか追加質問をしなければならない。「自宅で被害を受けたので,家にいることがフラッシュバックの引き金となってつらいので,出来るだけ家にいないようにしてます」ということならば症状としての持続的回避である。一方,出来事が起きる前の「子どもの頃からそう感じることがよくありました」ということならば,当該の事件と関連した回避症状には当てはまらないが,もしかすると幼少期の何らかのトラウマ体験が影響しているのかもしれない。他にも,クライエントは自分の様々な状態について様々な表現で語る。したがって面接者は,文献や各種の学習の機会ならびにクライエントとの面接経験を通して,折に触れPTSD症状の語りについてよく学び習熟することが望まれる。

9.おわりに

トラウマに関する心理検査として,日本語版の信頼性と妥当性を検証されたPTSD症状評価尺度を中心に,ここまで3回にわたって解説してきた。最後に,筆者らがPTSDの苦悩を抱えたクライエントの心理検査を実施する際に常日頃感じていることを二つあげたい。一つ目は,トラウマについて語ることの難しさであり,二つ目は,検査実施後の心理教育の大切さである。

多くのクライエントは,トラウマ的出来事を語ることや関連するPTSD症状を語ることに難しさを覚える。それは語ることが怖かったり,語る言葉を持っていなかったり,感情麻痺や解離のために自分の身に起きた実感が曖昧だったり,自分自身の状態をまだよく把握できていないなどの理由からである。それにも拘わらず,クライエントがセラピストのもとを訪れるのは,どうにかして自分のいまの状態から回復したいという思いからである。クライエントがトラウマに関する心理検査に回答することはけしてたやすいことではなく,苦痛を感じながらも勇気をもって回答していることをセラピストは重々承知しておかねばならない。そうであればこそ,検査の実施前には心理検査の目的と内容についてわかりやすく説明し,終了後は,「お疲れさまでした。いまのお気持ちはいかがですか。」とフォローし,検査で生じた不安感を和らげるような短いやりとりをかならず行う。

検査を受けたことで,クライエント自身も自分の状態を把握することがある程度できたならば,それに続いて心理教育を行うことで,自分の状態はトラウマ的出来事を経験した人に共通して見られるよくある心の変化なのだという理解が進み,いまの状態から回復できるかもしれないという希望がクライエントの中に芽生えることにつながる。繰り返しになるが,セラピストは,心理検査をただ単に実施するだけでなく,PTSD症状に関する心理教育というフィードバックまでを含めて症状評価面接を行うことが大切なのである。

文  献
  • 飛鳥井望・廣幡小百合・加藤寛ほか(2003)CAPS(PTSD臨床診断面接尺度)日本語版の尺度特性.トラウマティック・ストレス1; 47-53.
  • 飛鳥井望・筒井卓実(2018)CAPS-5 PTSD臨床診断面接尺度日本語版.
  • 飛鳥井望・筒井卓実(2018)LEC-5 出来事チェックリスト日本語版.
  • Jackson, B. N., Weathers, F. W., Jeffirs, S. M. et al.(2025)The Revised Clinician-Administered PTSD Scale for DSM-5 (CAPS-5-R): Initial Psychometric Evaluation in a Trauma-exposed Community Sample. Journal of Traumatic Stress, 38 (1); 40–52.
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  • 丹羽まどか(2025)ICD-11のPTSDと複雑性PTSDの診断評価のための国際トラウマ面接(International Trauma Interview; ITI).臨床精神医学,54 (2); 153-157.
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「臨床心理検査の現在」の連載は全24回をもって終了となります。ご愛読いただきありがとうございました。本連載は新章を加え,遠見書房にて書籍化される予定です。(シンリンラボ編集部)
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名前:齋藤 梓(さいとう・あずさ)
所属:上智大学総合人間科学部心理学科准教授
資格:臨床心理士,公認心理師,博士(心理学)
主な著書:『性暴力についてかんがえるために』(一藝社,2024年),『性暴力被害の心理支援』(共編著,金剛出版,2022年),『性暴力被害の実際─被害はどのように起き,どう回復するのか』(共編著,金剛出版,2020年)ほか
趣味:美味しいものを食べること,美味しいお酒を飲むこと,バレーボール観戦,散歩,旅行,読書

飛鳥井望(あすかい・のぞむ)
青山会青木病院院長・公益社団法人被害者支援都民センター理事長・公益財団法人東京都医学総合研究所特別客員研究員(元副所長)
資格:精神科専門医・指導医・医学博士
主な著書:『PTSD治療ガイドライン第3版』(監訳,金剛出版,2022),『複雑性PTSDとは何か』(共著,金剛出版,2022),『複雑性PTSDの臨床実践ガイド―トラウマ焦点化治療の活用と工夫』(編著,日本評論社,2021),『子どものトラウマとPTSDの治療』(共編著,誠信書房,2021)など
趣味:七十路にしてシェークスピアと筋トレに覚醒

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