大人女子のココロ(6)実践編2「インスタを見てモヤモヤ」×解決像という助け〈後編〉|伊藤弥生

伊藤弥生(久留米大学)
シンリンラボ 第42号(2026年9月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.42 (2026, Sep.)

〈前編より続く〉

3.対話的支援の解説

今回の事例は,「解決像を描く」というClにとって不慣れなチャレンジを支え,描かれた解決像を活かす対話が注目点となる。

下表で言えば,2)Clが望む解決像を描く,3)例外を見出しリソースを知る,4)ウェルフォームド・ゴール(WFG)についての話しあい(スケーリング・クエスチョン)」が中心となる。

第4回 表4(再掲)ソリューションの基本の面接展開
※表中の①〜⑨は,「第4回 図4 ソリューションの基本の面接展開で扱う時間の流れ」と対応

※黒沢(2024〜2025),田中(2020)を主に参考に作成

第4回 図4(再掲)ソリューションの基本の面接展開で扱う時間の流れ
(臨床がうまくなる! 浅くて深いブリーフセラピー(6)第4章:解決志向ブリーフセラピーをこう活かす③面接段階Ⅲ:「例外」|黒沢幸子 を参考に作成)

以下,1)〜5)および①〜⑨は上記の表と図に対応し,クエスチョンはQと略記する。

1)傾聴しClの思考の枠組み(認識)を学ぶ ①
導入から流れづくりを意識

〈今日はどんなお手伝いができたらいいですか?〉
さりげなく解決に誘う言葉で始めるのは定番だ。いろんな言い方があるが,「お手伝い」という表現を使うと,Clが自身の解決(人生)の専門家であることを暗に示すことができる。

Clの望みの正当性を伝える

Clは自分の望みを「人に相談するようなことじゃない」と卑下していた。まず彼女の望みを正当に扱う姿勢を示すことが求められる。

〈〇〇さんにとって大切なことなんですよね〉だけではCoだから受容すると受けとられかねない。そこで〈お顔がひとりずつ違うのと一緒で〉という言葉を添え,誰もがそう扱われてよいという意が伝わりやすいようにした。

もう解決像をたずねる!?

試したことやコーピングについてまだ尋ねていない段階で,〈それがほんとはどうなったらいいんでしょう?〉と解決像をたずねた。②より先に③が来たことに驚いた方もいるかもしれない。

解決像は無理に引き出すものではないが,今回のClは望む状態に近づきたい気持ちが強い。そしてその望みを正当なものとして位置づけたばかりで,解決像についてあっさりたずねられるタイミングにあった。またこれには,Clは望みに向けてやらない自分にフラストレートしているため,その話をこちらから広げない方がいいだろうという判断もある。

解決像をあっさりたずねたが,言い回しには注意した。

〈どうなったらいいんでしょう?〉は望む状態をたずねる質問だが,Clはそこへ向かう方法を答えることが多い。
日常では〈どうなったら?〉は,反省的な場面で方法を問う質問であることが多いからだ。
また〈どうなったらいいんでしょう?〉という質問は,下手をすれば「望みに向かう方法=そのための行動の実行=やらない自分がダメ」というClの不全感を増幅しかねない。

そこで,こちらの意図が伝わりやすいように〈一番うれしい,最も望んでらっしゃることは?〉と言葉を重ねた。

最も望む状態について質問したおかげで,ユイさんの「素敵に」は「部屋をいい感じに」という認識だとわかり,その具体についても彼女は語りだした。

問題の話に戻っても

しかしすぐに「やらない自分」の話に戻った。問題や状況に新しい認識が感じられる前に解決像をたずねたのだから,想定内である。

〈わざわざ相談に来られるくらい〉手強いものだという理解と,手強いことに労を惜しまないことへの敬意も示しながら,「部屋をいい感じにすることが大切」というClの認識を理解したことを伝え,話をさりげなく戻した。

試してみたこと・役立ったことをたずねる ②

この流れでClを新しい認識に誘う問いかけをする。試したことをたずねるが,いずれも「Yes, but」が返ってきた。Clは思うように実行できていないことに悩んでいるのだからこれも自然なことだ。

ただここで不全感に焦点を当てるとプロブレムトークを広げるおそれがある。一方,無理にポジティブに意味づければ解決強要になりかねない。

そこで,(Clがbutでひっくり返しようがない事実である)どっと疲れが出る中トライしたことを労った上で,役に立ったことについて尋ねた。ソリューションは一歩後ろから問いかけて導く。

なおこの局面では,Clのできていないという不全感が強いので〈できたことは?〉という言い方は避けた方がいい。ちょっとした言い回しが左右する。

Clが新しい認識を持ちはじめる

この場面で〈どれが役に立ちましたか?〉は,Clの認識は否定せずClがまだ見ていない側面を見ることに誘う質問である。なお〈ありますか?〉ではなく〈どれか?〉と前提法注2)で問うのはお約束である。

ダメだと思っていたメモることが悪くなかったことに気づくと,「ああそうか」と認識が変わり始める。

注2)望ましい変化や状態がすでに起こることを前提にして質問・言葉かけを行う技法のこと。エリクソン臨床で重視される。
「他には?」で引き出す

〈他には?〉は意識が締め出したものを引き出す頼りになる問いである。解決強要にならないように,「ちょっと」など控えめにする表現やユーモアを活かしたい。最初の答えで終わらせず,2つ,3つと尋ねることでヒットが出やすいが,今回3つ目のフロアライトが転機となった。

しかしClはすぐに,お洒落なライトどころではない状況だし〜と訴える。「組み立て15分とかでも,私は必死にやっても1時間以上かかるんです」。

解決の耳で聴く

Clの話は解決の耳で聴く。この訴えには「それほど大変な組み立てをやり遂げた」という例外が潜んでいる。

〈面倒で得意でもないのに〉という価値を際立たせる言葉も添えて成功の責任追及をすると,「引っ越しが落ち着いてきた頃に買ったから」という答えが返ってきた。Clは成功分析として日にち薬的な捉え方をよくするが,ここも「そうですか」で流さずClの力が見えてくるように粘る。

そうすると,Clらしい力の軌跡が浮き彫りになった。自分にとって何がよいか,どうやるのが合うかということをClは実にわかっている。

それを伝え返すとセルフコンプリメントが出た。「組み立ては泣きたくなるほど大変だったけど,できた時はうれしくて,自分えらいぞ!って」

ここで,解決に向かう心の流れが一挙に増幅。本格的な解決像の描写へ誘うタイミングとなった。

2)Clが望む解決像を知る ③a
解決像の描きはじめ──流れに乗って細やかに

今回は解決像として「いい感じの部屋」でのベストな帰宅後を描くことを提案した。ユイさんはミラクルで問題の引力圏外へ飛ばさなければ解決像を描けない状態ではなく,むしろミラクルを使うと「自分が望む状態は奇跡が起きないと実現しない」と感じさせることを考えてのチョイスだ。

なおベストの解決像は「ベストな一日」を問うのがスタンダードだ。今回はClの帰宅後を変えたいという思いにそってこうしたが,一日の方が違いが起こる場面をより見つけられる可能性もある。迷った時はClにどちらがよいかたずねてもいい。Clと一緒に進めよう。

解決像はスクリーンに映し出されるような設定で,Clと一緒に眺める形で進めるとよい(森・黒沢,2002)。Coと向きあうポジションだとClはイメージ作業に没入しにくい。

なお今回は,Clの大きな例外である「組み立てたちょっと置き」を導入に活かした。

イメージを拡げる──種が花を咲かせ,その花が次の種に

解決像の描写はイメージ作業である。ゆったりした雰囲気でディテールを描く「ビデオトーク」で進める。Clが実際にそのイメージを体験できるような,解決像を体験する治療的意義も意識したい。

〈はい次,はい次!〉とぶつ切りではなく,共に味わいながら進める。
〈〜〜が〜〜になっていると〜〉など,語られたイメージが次のイメージの「種」となり,花が咲いたらそれがまた種となって次の花がというように,イメージを膨らませていく。

問題状況が浮かんでも,柔らかく粘り強く

イメージ描写中に問題状況が浮かぶことはよくある。〈それがいい感じになっていると?〉などの合いの手で流れを守る。

シンクに溜まった食器のイメージはClを沈ませる威力があったが,それまで語った解決像がリソースになり助けてくれる。〈うんうん,それが〜〉と気持ちをケアしつつ,オレンジの光,すっきり,スピーカーのいい音といったキーワードを使って意識の矛先が切り替わるのを手伝う。

3)例外を見出し,リソースを知る ④

解決像が描かれたら,〈それに近かったことは最近どんな?〉と尋ねる。例外探しと成功の責任追及を行う。

3)の段階で語られる例外は,1)で語られる例外とは意味が異なる。解決像という補助線を使って見出すため,Cl自身にも「解決のカケラ」として見えやすく,実績として感じやすい。

下図で言えば,②と④の違いになる。

第4回 図4(再掲)ソリューションの基本の面接展開で扱う時間の流れ
※①~⑨は「表4(再掲) ソリューションの基本の面接展開」と対応

「2)Clが望む解決像を知る」からすぐ「4)ウェルフォームド・ゴール(以下WFG)についての話しあい」に進むのではなく,「3)例外を見出し,リソースを知る」を挟む意味がここにある。

Clが現在地について「解決までそれほど遠くない」と思えた状態で,「4)WFGについての話しあい」ができるように期待感を高めておく。解決強要にしないための下準備である。

4)ウェルフォームド・ゴールについての話しあい
解決の現在地⑤・進捗の内訳⑥

WFGについての話しあいにおけるスケーリングQのコツについて,⑤〜⑨の展開上の重要な点は第4回後編で詳述した。今回はそれ以外のことを中心に述べる。

スケーリングの設定
上限の工夫

スケーリングではまず,Clに現在の点数を評価した時にその点数でClの心が萎まないように留意したい。困難を抱えるClが,「望む未来がそれほど遠くない」と思える設定にするのがコツである。

現在が5点程度で評価されるよう上限と下限を工夫しよう。描かれた解決像が現在から遠い場合は上限を,〈兆しが見えるのが10点〉〈近づいてきたのが10点〉〈まあこれくらいだといいかなのが10点〉など控えめな表現にする。

下限の工夫

なお設定の工夫が上限だけで,〈(描かれた解決像)の兆しが見えるのが10点だとしたら今何点?〉などたずねると,おそらくかなり低い点が返ってくる。

下限も,〈一番大変だった時のが1点〉〈相談に来る前が1点?〉〈最悪の時が1点〉などClの実績(望む変化)が十分見える化される工夫をしよう。

工夫しても低い点数だったら?

これだけ工夫しても低い点数が出た場合は〈そのような厳しい中でどうやって?〉とコーピング/サバイバルQを使えばよいが,Clは面接の細かなことは忘れても点数は覚えているものなので,できるだけ5点前後の数字が返ってくる工夫をしておきたい。

カウンターバランス

なおこうした工夫はいかさまではない。

私たちの目的はClのエンパワーであり,目的にあった方法で進めるだけだ。また人はそもそも否定的な面に注意が向きやすく,困難状況では視野狭窄に陥る。肯定的な面を見てもらってカウンターバランスをとるという意味もある。

今回の事例では解決像が現在からさほど遠くなかったため,上限は控えめにはせず,下限のみ〈引っ越し直後の状態〉と工夫した。これによりClが一番大変だったと言った時からの変化(達成)を語りやすい文脈となった。

解決の耳で何度でも

おそらく下限の表現が影響して,「部屋をいい感じにしたい」という望みは引っ越し前からあった大切なものであることが語られた。一方,「仕事が大変で思うようにいかない」というプロブレムトークにもなった。

ここまできてと思いそうになる局面だが,解決の耳/ダブルリスニングで聴こう。それくらいClはずっと大変であり,それにも関わらず彼女の望みは消えない大切なものだという意味が潜んでいる。

〈という中で6点まで来てるのはどんなことが?〉と問うと,困難な中でも諦めなかった解決像に向かう力の軌跡が語られた。

意味/価値を浮き彫りにする質問

力の軌跡ではあるがClはその意味を十分には感じてはいないようだ。Clのキーワードを使って〈特にいい感じだなあっていうのは?〉とたずねると,「いい感じ」の照明と音が目尻が下がるほど彼女に価値があることが語られた。

進捗についての成功の責任追及

6点まで来た進捗について「どうやって」と追及するとClはわからないと言う。「記憶を飛ばす日々」にあったのだ。解決のカケラをどう作ったか覚えていないのはもっともだ。

一方ここは粘りどころだ。Clが現在までについて肯定的な眼差しを向けられるかに強く関わるところだ。
ユーモアの力も借りて「わからない」を〈ですよね〜〉と受けとめた上で,〈それがわかったとしたら?〉と粘るとClは笑ってもう一度考えてくれた。

怒涛の奮闘記から満面の笑顔へ

優先順位という工夫が語られた。抽象度が高い答えだが,これで終わらせずその具体も明らかにした方がClがDo moreとして活かしやすいリソースになる。具体的なところを問うと,新居を整えるClらしい奮闘記がいきいきと語られた。

そして満面の笑顔のセルフコンプリメント。「ほんと,我ながらぎょっとするくらいやってましたね」

キープに役立つものを知る ⑦

⑦は次の一歩(WFG)作りに進む前に,Clが現在までの状態に肯定的な眼差しを持つことをさらに助けるステップだが,残り時間が限られる中,上記の通りユイさんは問題ないと思われたため省略した。

ウェルフォームド・ゴール作り ⑧

「1点上がった状態」を尋ねると,「フロアライトが映える部屋!」と,10点と思われる答えが返ってきた。Clには問題を一掃したい思いがあり,望む状態を問うと10点の状態が浮かびやすい。望む状態を分化させて想起するのが難しいためでもある。彼女の場合は怒涛の奮闘記を語り高揚したことも影響しただろう。

しかし10点と思われる状態をそのまま次の一歩のゴールとしてはいけない。次の一歩が失敗すればClの困難感が強まる。Clが成功してなんぼだ。

Clの答えを尊重したい思いはそれが伝わる形で進めればよい。ここはそう言っちゃいますよねという温かな理解を伝える応答をした上で,手堅いゴールとして整うまで話しあう。

ユイさんは7点の状態として無理のない行動を語りだしたが,途中で「皿洗い」をあげ,今度は自分でハードルの高さに気づきしょんぼりとした。そこで彼女のアイデアを活かして,〈皿洗いの方向で7だとやってることは?〉と問うと無理のない行動へシェイプできた。

ゴールへ役立つことを見出す ⑨

「成就の現実感」(黒沢,2022)のあるWFGイメージがあれば⑨はClが自分で見出せることが多いため,残り時間とのバランスを考え省略した。

5)フィードバック・メッセージ

基本通りだが,本事例では,当初Cl自身が正当に扱いがたかった「いい感じの部屋」にしたいという望みを,何より価値あるものとして扱い,提案の根拠として活かしたことをあげておく。Clへの承認(acknowledge:相手や事実の存在と価値を認めること)はこのような形でも伝えることができる。

対話全体について

今回の注目点は,2)Clが望む解決像を描く,3)例外を見出しリソースを知る,4)WFGについての話しあい(スケーリングQ)ではあったが,その流れづくりは,1)傾聴しClの思考の枠組み(認識)を学ぶから始まっている。

下図で視覚的に動きを確認できるが,解決像を描く③以降の動き方,特に4)という1つのステップが⑤〜⑨の細やかな動きからなることに注目いただきたい。

第4回 図4(再掲)ソリューションの基本の面接展開で扱う時間の流れ
※①~⑨は「表4(再掲) ソリューションの基本の面接展開」と対応

今回はほぼフルで基本の面接展開1)〜5)をお示しした。臨床の自然な動きを反映して,一部順番が先になったり省略した面接になっているが,このようなカスタマイズも,基本の面接展開の根底にある「中心哲学」「3つの発想の前提」,そしてエリクソン臨床や家族療法の理解があると安心してできる。

ソリューションの基本の面接展開は一枚の表にもできるようなものだが,Simple is not easy.だ。そしてこれが臨床の面白さでもあるのだろう。

4.大人女子×解決像という助け

不全感を解くカギ①

「あんな風に暮らしたいのにやらない」自分へのモヤモヤ。
SNSにはあの人この人の素敵な暮らしぶりが溢れている。大人女子もよく見ている。

疲れていると他のことをする気力がなくなりスマホを見る頻度があがる。他者の素敵が目に入り不全感が募り,もっと気力が失われるという悪循環。

やれるようになったらいい?

ストレートに考えれば,やらないモヤモヤなのだから,やれるように手伝えばいいように思える。実際実行を助けるアイデアやグッズは溢れている。

でもこれだけでは不全感は晴れないようだ。ユイさんは「我ながらギョッとするくらいやって」いたのに不全感に悩んでいた。やれればいいわけではないようだ。

目移りするのは

「自分が何がほしいかよくわからないで目移りしちゃってたんですかね。自分がどうなりたいかちゃんと知れてよかったです。」

そうなのだ。やれるとその時はうれしいのだが,自分がほんとうは一番何がほしいのか,どうなりたいかという軸がわからないと,あの人この人の素敵がよさそうに見えてモヤモヤする。

信頼に足る「自分の軸」に

解決像がわかるとそれが自分の軸となる。
ここで自分の軸とする「こうなったら」という未来イメージについて注意しておきたい。

未来イメージは,「こうならないと」といったべき論(義務),あるいは「こうなったらいいなあ,でも無理」といった願望の水準になりやすいが,この水準の未来イメージは不全感を引き起こしやすい。
「こうならないと,でもほんとはやりたくない……」
「こうなったらいいまあ,でも無理だから……」

「当然こうなっているよな」と期待感が持てる必然的進行(森・黒沢,2002)の水準で描かれた未来イメージが「自分の軸」として頼りになる。

逆に言えば,解決像が必然的進行の未来として描かれるようにソリューションは留意する。

自分の実績を「解決のカケラ/進捗」として

自分の実績(例外)は解決像という軸ができると,解決のカケラとして位置づけられ,解決の進捗として意識できるようになる。

前回,Coの承認(acknowledge)を問いかけの形で伝えることは,Cl自身による承認を育むものでもあると書いたが,解決のカケラ/進捗を知ることは,さらにこの承認を確かなものにする。不全感を晴らしてくれる。

次の一歩作りの「大前提」として機能

また解決像は次の一歩(WFG)を考える上でも助けになる。次の一歩は注意しないと周りがよいと思うことや単にすぐにできることを設定しやすいが,「Clが望みかつClにとって重要なこと」が大前提である。解決像は次の一歩づくりの大前提として機能する。

第3回 表3(再掲)ウェルフォームド・ゴールの条件

1Clが望みかつClにとって重要なこと
2最終結果ではなく,最初の小さな兆し
3問題の不在ではなく,その代わりの行動
4現実的で達成しやすい一歩

※田中(2020),黒沢(2024)を元に作成

北極星に向かって次の一歩も無理なくいけそうだという認識は,不全感を寄せつけない。

不全感を解くカギ②

不全感を解くカギについて,特に大人女子に関わるもう一つの側面も考えておきたい。

「こうなりたい」という望みに向けられる声

こうなりたいという望みは,「高望み」とする声が向けられやすい。外的対話が内的対話に影響することについては,第1回・第2回で書いた。

高望みとされると自分も高望みだと思ってしまう。当たり前(ディスコース:社会で広く共有される声)を無視するような非常識な人間ではいたくないからだ。

ユイさんの「部屋を素敵にしたい」という望みには,「高望み」とする声以外にも影響する声があった。自分の暮らし/生活を素敵にしたいという望みを価値下げする声があり,ユイさん自身も卑下していた。

しかし事例でご覧いただいた通り,「部屋を素敵にしたい」という望みはユイさんにとって大変な日々を支えるまでに価値のあるものであった。

大人女子にとっての生活/暮らし

大人女子は自分らしさを大切にする。それは,私はこうする,私はこれが好きといった,日常や生活のあり方として柔らかくあらわれている。

大人女子にとって生活/暮らしは自分らしさを生きる場で,人生のカケラだ。

そして大切なものを軽んじられ自分なんてと思う女性たちにとっては,生活/暮らしのどこかで自分の望みに触れている実感が生命線であることがある。
「これないと生きてけない」は案外誇張ではない。

ソリューションの生活/暮らしへの眼差し
彼(エリクソン)は徹底的に生活を重視していた。クライアントが少しでもよりよい人生を送れるよう援助することに,多大な関心が向けられていて……
※( )は筆者が加筆(中野,2003)

ミラクルQの「奇跡が起こると生活の中で何が違うか」という言葉に象徴されるように,ソリューションはClにとっての生活を重要なものと考える。Clのリソースが立ち現れる場という意味でも注意深くある。

それはエリクソンの影響もあるが,困窮状況にある人々の支援を通して何が有用かについて検証を重ねた結果でもある。

解決像にこめられた眼差し

今回は解決像を描きそれを活かす対話的支援について考えてきたが,そもそもClの望みを価値あるものとして扱う解決像という発想,言い換えれば解決像にこめられた眼差しがClの助けになる。

今回の対話はユイさんの「部屋を素敵にしたい」という望みを価値あるものとして正当に扱う姿勢を示したことが,最初の分岐点であった。

カウンセリングで扱うべき話は?

生活/暮らしをこうしたいという話は,カウンセリングにおいてさすがに無視されはしないだろうが,関係づくりのための雑談,あるいは真剣な話の合間の雑談とされることが少なくないように思う。

いろんな立場があって当然だが,よきものは他にもあるというポストモダン注3)の発想で,カウンセリングで扱う話について新しい目で見てみるのもありかもしれない。おそらく多くのCoにとって,ある意味さほど新しいことではないようにも思う。

無条件の肯定的関心と言ったらいいのか,CoはClの話はどんな話もちゃんと聴きたいと思っていて,ましてClに価値があることならば耳を澄ましたいと望むのではないだろうか。

注3)「これが唯一の正しい答え・真理だ」と考えることを疑い多様な見方や意味づけを大切にする考え方。ソリューションやナラティヴ・セラピーにも影響。
tailoring(ユニークさの尊重・個別にあつらえる)
ギリシャ神話の強盗プロクラステスは,人を身長が寝台より長ければ身体を切り,短ければ引き伸ばして,無理やり寝台に合わせた。
エリクソンはこれを引き,理論にClを無理やりあてはめるのではなく,人が一人ひとり違うユニークな存在であることを尊重し,治療はClにあわせて個別にあつらえることを強調した。(Erickson, 1979)

「ユニークさの尊重」はエリクソン臨床の中でソリューションと関わりが深いキーワードである。

ユニークというと他者と違う特別なものという気がするが,エリクソンの意は,個別にあつらえるtailoringのことであった。重要なのは,他者と比べたりずば抜けていることではなく,その人を活かしその人にフィットすることだ。

大人女子が着たい服

Clの症状までも「利用」するエリクソンのようなtailoringではなくても,個別にあつらえる支援はできる。

顔が一人ひとり違うように,Clが最も望むことにはその人らしさが立ち現れる。Clの望みをちゃんと聴き,それを応援する支援はtailoringの1つだ。

大人女子が着たいのは,そんな風にtailoringされた服である。

次号予告

次回は「現実逃避で好きなコトをやりすぎて……」と悩む女性の事例をとりあげ,問題解決ではなく解決構築で進める支援の大人女子にとっての意味を考える。
スケーリングQの応用に加え,いよいよ関係性のQの実践例もお示しする予定です!

文  献
  • De Jong, P. & Berg, I. K.(2012)Interviewing for solutions (4th ed.). Brooks/Cole Publishing.(桐田弘江・住谷祐子・玉真慎子訳(2016)解決のための面接技法[第4版].金剛出版.)
  • Erickson, M. H.(1979)Brochure for the first international Erickson congress. Milton H. Erickson Foundation.
  • 伊藤拓(2021)ソリューション・フォーカスト・ブリーフセラピーの効果的な実践に関する研究—誤った実践に陥らずに解決構築するためのポイント. ナカニシヤ出版.
  • 伊藤弥生(2022)未来のポジションから考える思春期へのブリーフ的支援.In:黒沢幸子・赤津玲子・木場律志編:思春期のブリーフセラピー―こころとからだの心理臨床.日本評論社,pp.184-198.
  • 国重浩一(2021)もう一度カウンセング入門―心理臨床の「あたりまえ」を再考する.日本評論社.
  • 黒沢幸子(2022)未来・解決志向ブリーフセラピーへの招待—タイムマシン心理療法.日本評論社.
  • 黒沢幸子(2024‐2025)臨床がうまくなる!浅くて深いブリーフセラピー|-シンリンラボ
  • 黒沢幸子(2026)臨床がうまくなる! 浅くて深いブリーフセラピー―解決志向で治療的対話を磨く.遠見書房.
  • ミルトン・H・エリクソン,森俊夫・瀬戸屋雄太郎訳(2002)催眠療法における一方法としての時間の偽定位.現代思想,30 (4); 130-154.
  • 森俊夫・黒沢幸子(2002)〈森・黒沢のワークショップで学ぶ〉解決志向ブリーフセラピー.ほんの森出版.
  • 森俊夫・黒沢幸子(2015)森俊夫ブリーフセラピー文庫① 心理療法の本質を語る―ミルトン・エリクソンにはなれないけれど.遠見書房.
  • 日本ブリーフサイコセラピー学会(2020)ブリーフセラピー入門―柔軟で効果的なアプローチに向けて.遠見書房.
  • O’Hanlon, W. H.(1987)Taproots: Underlying Principles of Milton Erickson’s Therapy and Hypnosis. W. W. Norton & Company, Inc.(森俊夫・菊池安希子(1995)ミルトン・エリクソン入門.金剛出版.)
  • Pare, D. A.(2013)The Practice of Collaborative Counseling & Psychotherapy: Developing Skills in Culuturally Mindful Helping. SAGE Pubulications.(能智正博・綾城初穂監訳(2021)協働するカウンセリングと心理療法―文化とナラティヴをめぐる臨床実践テキスト.新曜社.)
  • Payne, M.(2006)Narrative Therapy (2nd ed.): An Introduction for Counsellors. SAGE Publications.(横山克貴・バーナード紫・国重浩一(2023)ナラティヴ・セラピー入門.北大路書房.)
  • 田中ひな子(2020)解決志向アプローチ.In:日本ブリーフサイコセラピー学会編:ブリーフセラピー入門‐柔軟で効果的なアプローチに向けて.遠見書房, pp.54-62.
  • White, M. & Epston, D.(1990)Narrative Means to Therapeutic Ends. W. W. Norton & Company.(小森康永訳(2017)物語としての家族 新訳版.金剛出版.)
  • Zeig, J. K. & Munion, W. M.(1999)Milton H. Erickson. Sage Publicatkons.(中野善行・虫明修(2003)ミルトン・エリクソン その生涯と治療技法.金剛出版.)

訂正情報:2026.10.6.文献を追加

+ 記事

伊藤弥生(いとう・やよい)
所属:久留米大学文学部心理学科
資格:公認心理師・臨床心理士
主な著書:伊藤弥生(2022)未来のポジションから考える思春期へのブリーフ的支援.In:黒沢幸子・赤津玲子・木場律志編:思春期のブリーフセラピー こころとからだの心理臨床.日本評論社.
伊藤弥生(2007)不妊治療における心理臨床にみる女性たち.In:園田雅代・平木典子・下山晴彦編:女性の発達臨床心理学.金剛出版.
趣味:ゆるめの「NO FASHION,NO LIFE」です。メガネにわりと凝ってます。

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