伊藤弥生(久留米大学)
シンリンラボ 第41号(2026年8月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.41 (2026, Aug.)
〈前編より続く〉
3.対話的支援の解説
まず傾聴──さりげなくソリューションとナラティヴで
<今日はどんなお話ができたらいいですか?>
さりげなく解決の流れに誘う表現でカウンセリングへの期待をたずねる。今回のClは,不妊の話を聞いてもらいたい,そしてまだメンタル不調が気になっているという思考の枠組み(認識)であることが見えた。
外在化っぽい言い回しこそないが,不調になったことを「Clが問題」とすることなく,それだけ大変なことがあったからと「問題が問題」としてとらえ,外在化のスタンスでお会いしていく。
力の軌跡が見えてくる対話といっても,まず傾聴だ。そして傾聴する中で,問題についての語りに潜在する解決(Clが最も望む状態)につながる可能性やヒントに留意することができる。
Clがさらっと語ったことをなぜ?
Cl自身はさらっと語った治療経過について,〈治療を始める時からひとつひとつ〜,大変なことも多かった中今度こそ〜〉とフォーカスした。Coから感情や問題に深入りするようなソリューションらしくない(?)進め方をなぜ?
それはClのニーズがあるからだ。Clは開口一番「話をきいてもらいたくて。普段は……不妊の話は難しくて」と話した。そしてその話を不妊治療施設のCoにすることにした。
ということは不妊治療に関するClの体験の意味や価値を重んじる聴き手であることが求められている。
また不妊に悩む女性がつらさを正味で表現しにくい状況にあることを踏まえるからでもある。
彼女たちは「自然に授かる人もいるのになぜ?」という気持ちを持つが,同時に「もっと大変な人がいる」とも思っている。自分より大変そうな人がいることをネットや待合室で知っていて,自分のつらさを語りにくい状況にある。
Clの反応で確かめる
もちろんこれは仮説だが,やはりClから堰を切ったようにこれまでの困難について語られた。
今回のような進め方がいつも正解というわけではなく,Clから語られるのを待つ方がスタンダードだ。
一方もろもろ勘案しつつ基本とは違う手を選ぶ時がある。大切なのはその後。基本とは違う手の是非をClの反応で確かめることだ。
面接の流れを作っていく
また今回この手は悪くなかったとしても,これまでの困難についてClから思いが溢れ出ることなった。
Clの心が困難感で占められた状態のままにせず,いかに解決(Clが最も望む状態)にむけて対話を方向づけていくかがCoに問われる。Clが語ったことを活かして面接の流れを作っていく。
力を発揮した事実の「発見」を助ける質問
コーピング・クエスチョンを使って,このたまらない状況をどうやってと問うことで流れが変わった。
続けて「どうやって?」(成功の責任追及),「他には?」などソリューションらしい質問を重ねることで,その流れが増幅する。
力を発揮した事実を探すサーチライトとなる質問が並ぶが,よくたずねられるのは,どうやったらその点について問う発想になれるのかということだ。ライトの当てどころはどうやったらわかるのか。
サーチライトの当てどころは「解決の耳」で
ベースの考えの言わんとすることをつかみ,そのことを確かに信じられていると,潜在する解決(Clが最も望む状態)につながる可能性やヒント,つまりライトの当てどころが見えてくる。
第3回 表2(再掲)3つの発想の前提
| 前提1 解決 | 解決について知る方が,問題や原因を把握するよりも有用である。 |
| 前提2 リソース 専門家 | 人は自身の解決のためのリソース(資源・資質)を 持っており,自身の解決(人生)の専門家である。 |
| 前提3 変化 | 変化は絶えず起こり必然である。 小さな変化は大きな変化を生み出す。 |
※森・黒沢(2002)を一部改変して作成
Believing is Seeing. ──信じていると見えてくる
本事例でも面接冒頭の傾聴においてすでに見えた。Clは子どもを授かるという大切な望みを叶えるのがいかに困難であったかを語った。大変だったからこそ力を発揮することなしにCLはここまでやってこれなかった。つまりここにライトを当てるべき大例外と豊かなリソースがある。
なおこうした話の聴き方は,ソリューションでは「解決の耳」で聴く,ナラティヴ・セラピーでは「ダブルリスニング」と表現される。
例外・リソースについて質問を重ねる
Clはサーチライトとなる質問に助けられて,この大例外に子どもがほしいという気持ちが大きな支えであったことに気づく。
そしてまた問われる。これだけ困難な経過でその気持ちをキープできたのはどうやってと。こうして例外・リソースが見えてくる。
このような対話においてソリューションは「他には?」という質問を活かす。
他には?──意識が締めだしたものを利用するために
【利用(Utilization)】
エリクソンは,患者は自分の困りごとを解決するための十分なリソースをすでに持っているのだから,治療を行うにあたり,患者を教育したり適応的な行動を教えたりするのではなく,患者の持つものを利用することになると考えた。
Clはすでに十分なリソースを持っているが,それはわかりやすい状態で見えているわけではない。
困難状況では視野狭窄に陥る。
だからいつもは見ないところにまで目を向けることを促す「他には?」の質問が役に立つ。意識が締めだしたものを引き出し,利用できるようにする。
エリクソンは,無意識は本人がまだ十分に活用していない経験・能力・創造性・学習・回復力などの資源を蓄えており,適切な働きかけによって利用できると考えた。彼は催眠にも達意であった。
「他には?」は一見なんてことはない質問だが,ここにエリクソンの影響を受けたソリューションの独自性が光っている。
具体・影響・意味について,さらに質問
見えてきた「力を発揮した事実(例外)」「そこにある努力や工夫(リソース)」について,さらに質問する。Clが普通とするものも,当たり前とせずに。
それはどうやってできたのか?
それをどんな風にしているのか?
そうするとどんな違いが起こってくるのか?
そのことはClにどんな意味があるのか?
魅力と期待感がやさしく後押し
このような問いに導かれて語ることで,例外やリソースの具体がいきいきと見えてくる。どんな影響が広がるのか,そういったことはClにどんな意味/価値があるのかも。
こうした語りによって例外やリソースは魅力を放ち,期待感も高まってくる。そうすると自ずとその努力や工夫をまたという気にもなる。やさしくClは後押しされる。
力の軌跡を「自分の手で」知る威力
何より,自分が望む未来に役立つことをやってきてそれが効果をあげているという力の軌跡がClを励ます。この軌跡は自分の手で知った確かなものだ。笑顔・リラックス・表情がよくなるといったことは当然起こる。
力の軌跡を自分の手で知る威力だ。
予想外の話がこのタイミングで。さてどうする?
面接中盤にさしかかり,ようやくニーズの確認をと思ったらClから新たな話が切り出される。
さてどうする?
Clはうつの夫を支えるのが大変であったことを語る。妊活も思うようにいかないほどであったという。Coは腰を落ちつけて聴くことを選ぶ。
さらに力の軌跡が見えてくるように
〈……それをどうやってここまで?〉というコーピング・クエスチョンの答えから,妊活の苦労の様子とメンタル不調のClにとっての意味もさらに見えてきた。
そして「夫とよく頑張ってきたよねと話したけど,本当にそう思う」というこれ以上ないセルフコンプリメントが語られるにいたった。
ここまで来てアウトカム・クエスチョン!?
Clは満足そうであり,残された時間もわずかだか,ここでニーズの確認を行う。面接の方向に問題がない手応えはあるが推測ではあり,Clに改めて教えてもらってできる限りのことをという判断である。
アウトカム・クエスチョンをするとやはり不妊の話を聴いてもらうことが主要なニーズであったが,メンタル不調の改善状況について確認できるとよさそうだ。まとめも兼ねてここに取り組む。
スケーリングを使わなくても
ひとつひとつスケーリング・クエスチョンでという時間はないが,面接で語られたことを〈食事も工夫してキープされて〉というようにフィードバック・メッセージとしてのコンプリメントも兼ねる要約を提示しながら、Clが今どこまで来ているかについて確認することができる。
食事・睡眠というメンタル不調のチェックポイントをおさえた上で突然の涙の状況についてもたずね,問題がないことを確認した。
締めはClに語ってもらう
「予約した時よりはいい」という治療前変化注4)を活かし,かつまだ気分の波がといったClの認識に留意して,〈少しずつ変わってきてる感じですかね?〉とたずねると「今はもうほとんど」「ひどくない」という答えが返された。
〈よく復調されましたね〉とCoが保証して面接を終えても悪くはない展開だが,Cl自らジャッジして言葉にできた方が面接後に残るものになるだろう。
最後に今の流れについて問うと,「はい,大丈夫だと思います」,Clは穏やかな力強い声で答えた。
注4)初回面接の前からClの問題状況にすでに起こり始めている肯定的な変化のこと。ソリューションでは相談を申しこむ行為をはじめとする解決に向けての良い変化を,偶然として見過ごさずリソースとして活用する。
治療前変化を活かすタイミング
本事例では治療前変化が面接冒頭で語られたが,その時点で飛びついていない。「まだ気分の波が」と語るClの思考の枠組み(認識)を尊重し,解決強要にならないようリソースとして棚上げし,Clが今の状態について無理なく肯定的にとらえられるようになった段階で活かすこととした。
「ソリューションなのに過去ばかり扱った?」
未来志向が特長のソリューション。本事例に疑問をお持ちかもしれない。「ソリューションなのに過去ばかり扱ってる……。未来を扱わなくていいんですか?」
そう思いますよね。
ご心配おかけしました。
本事例における支援は,困難な中でうまくやれた/力を発揮できた過去(例外)を,Clが望む未来(解決像)につながるものとしてフォーカスし解決への流れを増幅するものだった。
いかにもではないが,過去を望む未来につながるものとして扱う形の,未来志向の面接となっている。

第4回 図4(再掲)ソリューションの基本の面接展開で扱う時間の流れ
※①~⑨は「第4回表1 ソリューションの基本の面接展開」と対応
(臨床がうまくなる! 浅くて深いブリーフセラピー(6)第4章:解決志向ブリーフセラピーをこう活かす③面接段階Ⅲ:「例外」|黒沢幸子 を参考に作成)
図4(再掲)で言えば①②,特に②について扱ったように見えるが,(Coから解決像をたずねなくても)子どもを授かるという解決像が自ら語られ,Clはこの解決像につながるものとして例外やリソースを語っており,Clの実感としては④を主に扱った面接となっているだろう。
4.大人女子×力の軌跡が見えてくる対話
メンタル不調の「意味」によるダメージ
不調はメンタルなものに限らず,自分事となれば戸惑うものだ。ただメンタルの場合は身体不調とは異なる意味があるように思う。
メンタル不調は本人の弱さという意味を帯びやすい。「誰でもなりうるもの」といった啓発は重要だが,啓発し続けなければならないほど,ネガティブな意味が今もってあるということだ。
大人女子がメンタル不調でこれほど戸惑うのも,本人の弱さという意味によるセルフイメージ/アイデンティティへのダメージがあるからだろう。
外在化的なスタンス,そして自分の力の軌跡を自分で明らかにすることは,このダメージから回復する助けとなる。
彼女たちは,人知れず頑張っている
まどかさんが大変な日々を過ごしていたことは,話を聞かなければわからなかった。待合室の女性たちを見ても思う。彼女たちは人知れず頑張っている。
そして大人女子の多くもそうだろう。状況は違っても,時に不調になるほどに。
思慮が心のうちにあることを言いづらくする。空気を悪くすることをよしとせず,もっと大変な人がいると思うような人たちだ。
求められる理解は?
「でも,わかってくれる人に聴いてほしい」
この理解へのニーズは悲鳴だけではなく頑張りについてもそうだろう。
頑張ったけど不調になってだめだった,という理解ではさらに力が奪われる。不調になるほどの困難にも関わらずここまでやってきた。大変な力を発揮してきたという理解が求められるものだろう。
力の軌跡が承認され,力を取り戻すことへのニーズを彼女たちから教えられる日々だ。
承認という言葉を使ったが,この言葉は「承認欲求が強い」といった否定的な文脈で使われることが多く使いにくさがある。彼女たちが求める理解はacknowledgement(相手や事実の存在・価値を認めること)という言葉が近いように思う。
承認(acknowledgement)──間接的コンプリメント
ここで第4回後編でお示しした,ソリューションのコンプリメントについて振り返りたい。
・コンプリメント
ソリューションにおけるコンプリメントの狙いは,Clが自分の肯定的側面に気づくことである。コンプリメントは3種に分類される。
直接的コンプリメント:頷きや感嘆する表情といった非言語や,「頑張りましたね」といった言語で直接的に肯定的にフィードバックすること。
間接的コンプリメント:Clの肯定的側面を質問によって暗示すること(成功の責任追及)。「どうやって?」といったHowの質問がよく使われる。complimentというよりacknowledgementに近い。
セルフコンプリメント:肯定的に自分のことを語ること。
お気づきの通り,今回の事例における対話的支援は主に間接的コンプリメントであった。
大変な困難があったこと,それにも関わらずまどかさんがここまでやってきたこと,その存在・価値を認めることを質問を活用する対話によってやり続けた面接と言える。
自分自身による承認(acknowledgement)へ
こうした間接的コンプリメントとなる対話を続けた先に,彼女はしみじみ「夫とよく頑張ってきたよねと話したけど,本当にそう思う」と語った。自分(自分たち)の頑張りの事実と価値を認めるものだ。
Coの承認(acknowledge)を問いかけの形で伝えることは,Cl自身による承認(acknowledge)を育むものでもある。
大人女子にとっての承認(acknowledgement)の意味
大切なものを軽んじられ,自分なんてと思わされる現実。心やさしい大人女子がさらされやすいものだ。
そんな彼女たちにとっての承認(acknowledge)の意味を思う。そして支援者にとっても,Clに確かに届く承認(acknowledge)の方法として,力の軌跡が見えてくる対話は一助となろう。
なおacknowledgeについて国重(2021)は,(前記したような「承認」という訳を当てることへの懸念から)「認証」という言葉を当て,ナラティヴ・セラピーの基盤にあることとして取り組んでいる。acknowledge(承認)の大人女子にとっての意味については改めてナラティヴ・セラピーの実践編でとりあげたい。
次回予告
次回は「他人のインスタを見てモヤモヤする……」という声をとりあげる。あるあると頷く大人女子の姿が見えそうだ。
ソリューション独自の強みである「解決像を描く」「スケーリング・クエスチョンを使ったウェルフォームド・ゴールについての話しあい」を活用する事例をお示しし,特に解決像について十分対話を展開することに焦点を当て,大人女子への意味を考えていく。
文 献
- De Jong, P. & Berg, I. K.(2012)Interviewing for solutions (4th ed.). Brooks/Cole Publishing.(桐田弘江・住谷祐子・玉真慎子訳(2016)解決のための面接技法[第4版].金剛出版.)
- 伊藤拓(2021)ソリューション・フォーカスト・ブリーフセラピーの効果的な実践に関する研究—誤った実践に陥らずに解決構築するためのポイント. ナカニシヤ出版.
- 伊藤弥生(2007)不妊治療における心理臨床にみる女性たち.In:園田雅代・平木典子・下山晴彦編:女性の発達臨床心理学.金剛出版,pp.155-166.
- 国重浩一(2021)もう一度カウンセング入門―心理臨床の「あたりまえ」を再考する.日本評論社.
- 厚生労働省(2025)不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック.
- 黒沢幸子(2024‐2025)臨床がうまくなる!浅くて深いブリーフセラピー|-シンリンラボ
- 黒沢幸子(2026)臨床がうまくなる! 浅くて深いブリーフセラピー―解決志向で治療的対話を磨く.遠見書房.
- 森俊夫・黒沢幸子(2002)〈森・黒沢のワークショップで学ぶ〉解決志向ブリーフセラピー.ほんの森出版.
- ミルトン・H・エリクソン,森俊夫・瀬戸屋雄太郎訳(2002)催眠療法における一方法としての時間の偽定位.現代思想,30 (4); 130-154.
- 日本ブリーフサイコセラピー学会(2020)ブリーフセラピー入門―柔軟で効果的なアプローチに向けて.遠見書房.
- O’Hanlon, W. H.(1987)Taproots: Underlying Principles of Milton Erickson’s Therapy and Hypnosis. W. W. Norton & Company, Inc.(森俊夫・菊池安希子(1995)ミルトン・エリクソン入門.金剛出版.)
- 小関哲郎(1998)「既にある解決」と「未来の解決」―ソリューション・フォーカスト・アプローチをもっとシンプルに理解する.ブリーフサイコセラピー研究,7; 75-86.
- Payne, M.(2006)Narrative Therapy (2nd ed.): An Introduction for Counsellors. SAGE Publications.(横山克貴・バーナード紫・国重浩一(2023)ナラティヴ・セラピー入門.北大路書房.)
- White, M. & Epston, D.(1990)Narrative Means to Therapeutic Ends. W. W. Norton & Company.(小森康永訳(2017)物語としての家族 新訳版.金剛出版.)
- Zeig, J. K. & Munion, W. M.(1999)Milton H. Erickson. Sage Publicatkons.(中野善行・虫明修(2003)ミルトン・エリクソン その生涯と治療技法.金剛出版.)
伊藤弥生(いとう・やよい)
所属:久留米大学文学部心理学科
資格:公認心理師・臨床心理士
主な著書:伊藤弥生(2022)未来のポジションから考える思春期へのブリーフ的支援.In:黒沢幸子・赤津玲子・木場律志編:思春期のブリーフセラピー こころとからだの心理臨床.日本評論社.
伊藤弥生(2007)不妊治療における心理臨床にみる女性たち.In:園田雅代・平木典子・下山晴彦編:女性の発達臨床心理学.金剛出版.
趣味:ゆるめの「NO FASHION,NO LIFE」です。メガネにわりと凝ってます。










