大人女子のココロ(5)実践編1「まさか自分がメンタルを」×力の軌跡が見えてくる対話〈前編〉|伊藤弥生

伊藤弥生(久留米大学)
シンリンラボ 第41号(2026年8月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.41 (2026, Aug.)

「気持ちの波が大きくて」
「人前で泣いてさすがに来てるなと」

実践編初回はココロの不調についてとりあげたい。

ストレスを抱えるみんなの困りごと。人にやさしく,心を砕くことも多い大人女子はなおさらだ。
支援者にとっては慣れたものかもしれないが,本人にとってはどうだろう。騒ぐでも流すでもなく,どんな支援ができたらいいのか考えてみたい。

大人女子が広く抱える困りごとについて,実践編前半は主にソリューション・フォーカスト・ブリーフセラピー(以下ソリューション)を活用する支援をとりあげる。
カウンセリングの架空事例を各回1セッション分具体的に提示してポイントを解説し,大人女子への意味について考えていく。

1.はじめに

「まさか自分がメンタルを……」

今までにない感情の波,突然流れる涙。
彼女たちは戸惑う。
いろいろありながらもやれてきて,こんな状態になるなど思いもしなかったのだ。

私も必要な時は医療へつなぐが,多くの場合薬を使わなくても復調が期待できるレベルだ。でも本人にとって軽いこととは限らない。

今どきココロの不調を知らない人はいないが,知っていることと経験することは違う。
友人・同僚・家族など周りが不調になった経験があっても,不調になった姿へのショックや十分支えられなかったことへの罪悪感を抱えていることもある。

まして自分がそうなったら。

あなたが問題ではなくて

不調を,弱さといった「本人に問題がある」こととするか,不調にさせるストレスがある,つまり「問題が問題である」とするか,まずこの違いが支援のあり方を変える。クライアント(以下Cl)に与える影響が変わる。

内在化・外在化,どちらでとらえるかという違いだ。

連載第2回〈前編後編〉参照

……人も人間関係も問題ではない。むしろ問題が問題となる。つまり,問題に対する人の関係が問題となる。(White&Epston, 1990/2017)
ノーマライズから先の面接の進め方

さて外在化というナラティヴ・セラピーの用語を使ったが,「この状況であればそうなるのは当然」ととらえることはノーマライズ注1)という用語をあてはめることもできる。

ノーマライズはソリューションでも行うが,異常な状況における正常な状態と知ることは有用で,災害支援などでもよく活用される。

カウンセリングでは「この状況であればそうなるのは当然」と位置づけた上で復調に向けてさらに面接を進めるが,「Clが自身の人生の専門家」であることを中心におく,ソリューションとナラティヴ・セラピーという2つのアプローチを学んだ後はやり方がガラリと変わった。

注1)Clの感情や反応を,異常なものではなく状況や経験に照らせば自然で理解可能なものとして位置づけること。ノーマライズの場合は問題とみなす状況が一般的に異常とみなされやすいものに限られやすい一方,ナラティヴ・セラピーの外在化の場合は状況を限定せず,問題と人を切り離すことに留まらず,問題との関係について精査する対話に重点があるという違いがある。
すでに,あなたらしい力を発揮してきた

2つのアプローチを学ぶ前は「これから不調を抜け出すにあたって,あなたも使える方法」について話をしていた。

学んだ後は「すでに不調の中でも,あなたらしい力を発揮してやってきてそれはこれからも助けになって」という話をするようになった。

教科書的な知恵を活かすムズカシサ

どちらも復調にむけての支援で,前者も間違いでははない。むしろ教科書的だ。「ストレスを減らした生活を」「睡眠・食事・運動に気をつけて」。
私も以前はこうしたことをClにあうように工夫しつつ助言していた。でも限界を感じていた。それができたら苦労しない。あるいはそんなこと知っている。

実際「できるところからできるだけで」「釈迦に説法」などと断りながら話していた。Clもそういうものだよなという反応をしてくれてはいたが,我ながらいまいちだと思っていた。
私も片頭痛やヘルペスなどで受診する。その際いただくのが教科書的助言で,その度に「できたら苦労しないんだけど,それは知ってて……」と思った。

でも他に言いようがないんだろうし,正しいことだし,ウ〜ン。ここを突破させてくれたのがソリューションとナラティヴ・セラピーだ。

ソリューションとナラティヴ・セラピーで突破

この2つのアプローチは,問題(たとえば不調)があるにも関わらずClがうまくできたこと(例外・ユニークな結果),そこにあるリソースを探して活かせるように支援をする。すでに使ったことがあり役立ったものなので,やりやすく実行可能性が高い。

何より「あれ? けっこう私やれてる!」と気づくことが強力なエンパワメントになる。私もClの変化に驚いた。安堵だけではない,柔らかさと力強さが同居する顔になる。

こうした良い流れになるとCl自ら教科書的な知恵を採りいれることも少なくない。また例外探しをやってみると,意外に教科書的な知恵を活かしていたことがあったことに気づき,「またやってみようか」となることもある。

本人に力があることを伝えること

うまくできたところを見つけて,本人に力があることを伝えること自体は特に新しいことではないだろう。開発的教育相談注2)などですでに実践されている方も多いと思う。

「〜(事実)をよくできましたね」
こうしたことを伝える。でもやってみるとわかるのは,本人になかなか届かないことだ。自分の頑張りを見てほしいClほどそうだ。

注2)問題が起きてから対応するのではなく,すべての児童生徒の成長・発達を促進することを目的とした教育相談のこと。文部科学省では,教育相談を「開発的」「予防的」「治療的(問題解決的)」という3つの側面からとらえる。
「自分で発見」する威力──質問という助け

ポイントは力を発揮した事実そのものではなく,その事実がClの中で生きるようにすることだ。
ソリューションもナラティヴ・セラピーも,Clが自分で発見することに重点を置く。自分で発見することが違いを生む。

カウンセラー(以下Co)は質問を使って,力を発揮した事実をClが見つけやすくなる文脈を作る。質問がサーチライトになる。

力の軌跡が見えてくる対話

ソリューションとナラティヴ・セラピーは質問を活用して,問題があるにも関わらず力を発揮できた事実をClが発見することを助ける。そして発見された力を「素晴らしいですね」で済まさず,さらに問いかけ,いわばClの力の軌跡が見えてくるような対話を展開する。

それはどうやってできたのか?
それをどんな風にしているのか?
そうするとどんな違いが起こってくるのか?
そのことはClにどんな意味があるのか? など

ソリューションでは例外(解決のカケラ・成功の実例),ナラティヴ・セラピーではユニークな結果と呼ぶものについての対話だ。今号ではその実際を見て,大人女子への支援について考えよう。

守破離で。やりやすいところからでも!

さて前号では,実践編の準備としてソリューションの基本の面接展開をお示しした。

連載第4回参照

表1はソリューションの基本の面接展開を見出しだけ抜き出したものである。

表1 ソリューションの基本の面接展開(見出しのみ)

1)傾聴しクライアントの思考の枠組み(認識)を学ぶ
2) クライアントが望む解決像を描く
3)例外を見出し,リソースを知る
4)ウェルフォームド・ゴールについての話しあい
  (スケーリング・クエスチョンを用いる進め方)
5)フィードバック・メッセージ
6)2回目以降の面接

第4回 表4を元に作成

守破離でとお示ししたものだが,「普通はこの展開を1)から全部やるんだろうな」「全部できるようになるには時間がかかりそう……」と思われたかもしれない。

いえいえ,実際守破離です。
もちろんやりやすいところからでも!
ということをお伝えしたく,今回の事例は主に「1)傾聴しクライアントの思考の枠組み(認識)を学ぶ」と「3)例外を見出し,リソースを知る」が展開するものとした。

ナラティヴとの類似点,ソリューション独自の強み

こうすることでソリューションとナラティヴ・セラピーの類似する面接展開である「まずは傾聴,その上で例外/ユニークな結果について拡げる」ことがわかりやすくもなるかと思う。
またこの類似点におけるソリューション独自の強みもお伝えできればと思う。

2.事例 まどかさん(仮名)30代半ば

初めてのメンタル不調に戸惑う女性の事例をお示しする。今回は私の大人女子支援の現場である不妊治療クリニックにおける実践例としたが,事例に示す心模様は不妊という文脈にとどまらず大人女子に広く関わるものである。

事例は筆者の複数の経験から着想した架空のものであり,以下〈 〉はCoの発言,「 」はClの発言を示す。

……昔から子どもがほしかったが生理不順だったので,結婚直後の30代前半に不妊治療を開始。人工授精注3)で妊娠したこともあったが初期流産。夫の転勤を機に転院し体外受精注3)へステップアップし,仕事をやめ治療に専念。

3回目の体外受精で妊娠しなかった直後から精神的に不安定となり,その様子を心配したナースからカウンセリングをすすめられた。なおカウンセリングは以前から院内の掲示をみて気になっていた。……
注3)人工授精は採取した精子を子宮内へ注入する方法。体外受精は,卵子を体外に取り出して精子と受精させ,できた受精卵(胚)を子宮内へ戻す方法。後者は採卵などが必要で,身体的・経済的負担がより大きい。
「運転中に勝手に涙が」

〈今日はどんなお話ができたらいいですか?〉

「話を聞いてもらいたくて。普段は母とか友達に相談するんですけど,不妊の話は難しくて……。カウンセリングは気になってたんですけどなかなか。でも運転中に勝手に涙が出てきて驚いて。予約した時よりはいいんですけどまだ気分の波が」と言い自ら治療経過をコンパクトに教えてくれる。

〈さらっとお話しくださいましたけど,治療を始める時から,どの病院にしようか,この治療は何だろうとひとつひとつやってこられて……。流産など大変なことも多かった中,心機一転でステップアップで頑張って,今度こそだったんじゃないですか?〉

たまらない状況をどうやって? 

まどかさんは堰を切ったようにこれまでの困難について語る。
丁寧に傾聴の上,このたまらない状況をどうやってきたのかたずねると彼女はこたえた。

「子どもがほしくて。とにかく続けようって。治療しないとできないから」

それをどうやって? どんな風に? 

〈ええ,それだけのお気持ちが。これだけのことがありながらお気持ちをキープし続けるのはどんなに大変だったか……。どうやってこられたんですか?〉
「(少し考えて)食事? 普通ですけど……」

〈食事って,毎日のことで続けるのは難しいかと……〉
「あ〜,最初はいいこと全部しようとして続かなかったんですけど無理せず」

〈無理せずどんな風に?〉
「毎日は大変なので,一度に」

〈一度にどんな?〉
「あの〜ポトフというか,適当に野菜を味つけしないで大量に煮て味変で(笑)」

他にも?

〈お〜,他にもありそうですね〉
「もっと手抜きは冷凍餃子でワンタンスープ。風ですけど(笑)」

〈技がいろいろ!今もこんな感じで?〉
「はい,いろいろあっても食べるようにしてて」

そうすることでどんな違いが?

〈こうやって食事がとれてるとどんなことが違います?〉
「体調いいですし妊活にいいことしてるって思えるのもよくって」
笑顔が出てくる。

他にも? それをどうやって始められた?

〈他にもどうですか?〉
「そうですね〜鍼に時々。冷え改善で」

〈いいですね〜。鍼を始められたのは?〉
「妊活セミナーでも言われてていいのかなって」

〈いいって知っても行動に移せるかはまた別だったりしますけど〉
「はい,もう最初は〜! 注射も苦手で今も鍼見れないですけど,妊活にいいならって」

そうするとどんな違いが?

〈なるほど〜妊活にいいならって。でどうですか? 鍼されるようになって〉
「よかったです。睡眠にもいい感じで。最近はちょっとあれでしたけど,鍼に行くと整うというか。外に出るきっかけにもなってて。
体外受精になって仕事やめたんですけど,家にいるとついスマホ見て心配なことばかり考えるので」
かなりリラックスしてきた様子。

他にもちょっとでも,ひょっとしたらこれもとか?

〈どうでしょうね,他にもちょっとでも,ひょっとしたらこれも,とか〉
「ん〜あ〜,あっ散歩!?いや散策?」

〈?〉
「ちょっと歩くんですけど,家の近所に海があって浜辺を歩くのが」

どんなとこがいい?

〈ええ,どんなとこがいい?〉
「癒されますね〜。海見るだけでも。ぼ〜っとするのもいいし,浜辺で,子どもみたいですけどきれいな貝殻とか可愛い小石とか見つけるのも楽しくて」

そう過ごすとどう違ってくる?

〈そんな風に海で過ごすとどう違ってきます?〉
「空気が入れかわるっていうか,気になってること忘れて気持ちいなあって……」
イメージに浸っているようでぐっと表情がよくなる。

「実は」

話が一段落しClの心もほぐれたようだ。
すでに面接中盤にさしかかっており,ニーズの確認をと思ったらまどかさんが「実は」と新たな話を切り出す。
数年前に夫が仕事のストレスでうつになり,不妊治療も思うように進められなかったという。

そんなことまであったのをどうやって?

〈この間そんなことまであったんですね……。それをどうやってここまで?〉落ち着いて耳を傾ける。

……見たこともない夫の弱々しい姿がショックだったがとにかく支えようと。今回の自分の不調は夫みたいになったのかと不安だった。
夫をケアする日々は大変だったが,自分が不妊治療できつい時に,仕事人間だった夫が労わってくれるようになって……

「夫とよく頑張ってきたよねと話したけど,本当にそう思う」
しみじみと語られた。

ニーズの確認──ここまで来て改めて

すでに面接の残り時間が少ない。まどかさんは満足そうだが,少しでもニーズに応えるためにアウトカム・クエスチョンをする。

〈ここまで来て改めてですけど,今日カウンセリングに来られて,どうなったら,何がちょっとでも得られたらよかったでしょうか?〉
「あ〜話せてよかったです! 不妊の話を聞いてもらえて。うん,ほんと来てよかったです」

「大丈夫,ですよね?」

念のためという表情で「あの〜自分大丈夫かなって思ってたんですけど,大丈夫,ですよね?」

〈これだけのことがありながらこれ以上ないくらいのことをやってこられて〉
メンタル不調のチェックポイントの食事と睡眠について,ここまでClが語ったことを〈食事も工夫してキープされて〉というように,フィードバック・メッセージとしてのコンプリメントも兼ねる要約を提示しながら,問題ないことを確認した。

〈よかったです。どうでしょう,突然の涙の方も少しずつ変わってきてる感じですかね?〉
「予約した時はあったんですけど,今はもうほとんど。すいません,ひどくないのに来ちゃって」

今の流れは?

〈いえいえ,たくさん工夫もされて予約された時から随分変わられて。どうでしょうね,流れとしては悪くなってる? 平行線? それともいい方向?〉
「はい,大丈夫だと思います」
穏やかな力強い声だった。

後編に続く〉

+ 記事

伊藤弥生(いとう・やよい)
所属:久留米大学文学部心理学科
資格:公認心理師・臨床心理士
主な著書:伊藤弥生(2022)未来のポジションから考える思春期へのブリーフ的支援.In:黒沢幸子・赤津玲子・木場律志編:思春期のブリーフセラピー こころとからだの心理臨床.日本評論社.
伊藤弥生(2007)不妊治療における心理臨床にみる女性たち.In:園田雅代・平木典子・下山晴彦編:女性の発達臨床心理学.金剛出版.
趣味:ゆるめの「NO FASHION,NO LIFE」です。メガネにわりと凝ってます。

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