大人女子のココロ(3)自分の臨床へのギモン&ソリューション・フォーカスト・ブリーフセラピーとは〈前編〉|伊藤弥生

伊藤弥生(久留米大学)
シンリンラボ 第39号(2026年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.39 (2026, Jun.)

それはふつう自信がつく頃だった。
きこえてきた否定する声,
今度は内側からだった。

1.はじめに

本連載は大人女子のココロとその支援について考えるものである。

私は現在,ソリューション・フォーカスト・ブリーフセラピー(以下ソリューション)とナラティヴ・セラピーを軸としており,この2つのアプローチを活用した支援について書いていく。

これに先立ち導入として前回は,背景として私の大人女子支援の始まりとナラティヴ・セラピーとの接点についてお伝えした上で,ナラティヴ・セラピーについてご説明した。

今回は,背景の続きとして折衷型だった私が臨床歴20年でオリエンテーションを変えた経緯をお示した上で,ソリューションについてご説明する。

ソリューションとは何か,何をするのか,どう動くのかの順で述べるが,実践編ではソリューションの対話の進め方や面接の運び方について細かいところまでとりあげるため次回まで使って基礎知識をお伝えする。

ここで役に立ちたい

私の大人女子支援の現場は不妊治療クリニックだ。非常勤シンリシとして主に女性にお会いしている。

彼女たちは不妊治療だけではなく,仕事,人間関係,家事など他にもエネルギーが必要なことは多い。不妊で悩んでいてもお構いなしに,もめごとは続きトラブルも起こる。人生上の大きな出来事が重なることもある。

そんなもろもろオンゴーイングでがんばる姿に,敬意とエールを送りたい気持ちになる。

不妊治療は通院や治療費はじめコストが高い医療だ。自ずと医療者への期待は高くなり,それに応えるべくスタッフも奮闘している。その背中も見てきてここで役立ちたいという気持ちになる。

ふつうは自信がつく頃なのに

最初は泣きながらの喧嘩もしたが,すっかり任せてもらえるようになり,気づけばクリニックで働きだして15年ほど経った。ふつうは自信がつく頃なのに不安が出てきた。

……今のやり方ではダメだ……

不妊治療は仕事との両立の難しさが話題になるが(厚生労働省,2025)その通りで,彼女たちはハードな状態で通院をしている。そこにカウンセリングも加わるとかなりの負担になる。

せめてカウンセリングはできるだけ少なくて済むように,私ががんばれば的なやり方でやっていた。へとへとになるが若さで何とかなった。
しかしこれでは続かないのが見えてきた。体力が落ちてきた。でもこれだけなら加齢対策で済む。

問題になったのは,私は本当に役に立っているのかという自分へのギモン。

……自分ががんばることでクライアント(Cl)のその場の問題は解決したかもしれないが,本当の意味でClが生きやすくなる支援とは違うのではないか? ……

否定する声が内側からきこえてきた。

本当に生きやすくなるには
……もちろん誰でも必要な時は何度でも助けを求めていい。そもそも助けとして使うのがカウンセリングでなくてもいい。
でもカウンセリングを使った結果,「やっぱり自分の知恵や工夫ではダメなんだ。専門家じゃないと」とClが思うのであればそれは違うだろう。
本当に生きやすいと思えるには,自分を頼りにできる安心と自由が欠かせないはずだから……
今度は周りからではなく

クリニックで働きだした頃も否定する声はあった。

「子どもを授かろうと思い詰めるからできない」「不妊治療してまで作ろうとするなんて。心の課題の置きかえなんだから,本来の課題に向きあわせるのが心理の仕事」

周囲のそんな声はあったが,彼女たちの心が問題ではなく,不妊・不妊治療に関するストレスが問題だと思い,迷わなかった。

役に立てばいいんだから。
そう思ってやってきたのに,本当に役に立っているのかと自分を問うことになった。
こたえた。

いつもとちょっと違うことを

前に進めないまま数年過ぎた。

ある夏,ブリーフセラピーの学会が近くで開催されることを知った。いつもとちょっと違うことでもという気が起こった。
ブリーフは敬愛する先生が親しんでいて,少し興味があった。でも全く持ち味が違う方だったので,この学会が自分のオリエンテーションを変えるきっかけになるなど想像もしなかった。

参加してみて,正直に言えばこの学会のかなりポップな雰囲気に戸惑った。ポップなことは好きな方だが,苦しみや悲しみを扱う場ではどうかと思った。

でもどんな肩書きも通用せず,本当に役立つものがえらいというムードはちょっと怖いくらいで,大事な何かがある予感がした(この学会のポップさに真面目な理由があることは後でわかった。楽しい方が学びが進むなど心理的な作用を考えてのことだと思う)。

こんな仕事がしたかった!

以降ブリーフを学びはじめ,ソリューションに出会い,芋づる式にナラティヴ・セラピーにも出会った。
どちらも,自分の大切な望みに最も貢献できるのは自分自身であることを,Clが確かに感じられる形で支援するアプローチだ。

臨床が変わった。
それまでもClに笑顔になっていただいてはいたが,この2つのアプローチに出会ってから見せてもらえるのは内側からの光に照らされる笑顔だ。

こんな仕事がしたかった!

職業人生後半でオリエンテーションを変えるのは楽ではなかったが,場と学びあう仲間に恵まれた。何よりこんな仕事がしたかったと思える仕事ができるようになることに励まされた。
今もまだまだだが,ない知恵絞って力んでいた時に比べればはるかにリラックスしている。リラックスするといい仕事がしやすいという良循環にもある。

ではソリューションの説明に入りたい。

2.ソリューションとは何か

ソリューションは家族療法の流れに属し,稀代の臨床家・精神科医であるミルトン・H・エリクソンMilton H. Ericksonの影響が強いブリーフセラピーだ。インスー・キム・バーグInsoo Kim Bergとスティーブ・ド・シェイザーSteve de Shazerを中心とするチームで米国のBrief Family Therapy Center(以下BFTC)において開発された。

呼称として,ソリューション・フォーカスト・ブリーフセラピー以外にも,解決志向アプローチ・解決構築ブリーフセラピーなどいくつかあるが同じものを指しているとお考えいただければと思う。

1)ソリューションへの誤解

職業人生後半の軸となった今では,ソリューションを学ぶのがここまで遅くなったことが悔やまれるが,これには私の粗忽さだけではなく,ソリューションに対して持たれやすい誤解もあったと思う。

ナラティヴ・セラピーも誤解されるが,ソリューションの場合は毛嫌いにもなる。私もそうだった。
近寄ってみていただけるよう誤解を解くことから始めたい。

直線的?

まず名前が誤解を招く。

ソリューション・フォーカスト,解決志向という言葉が直線的にゴールを目指すイメージになりやすい。寄り添いを大切にする心理臨床と相いれないと思われるのも無理はないが,Solution orientedではなく Focusedであることに注目いただけるだろうか。

解決を目標とするのではなく解決に焦点を当てるという意味だ。例えばいい仕事を目指す時であれば,焦点を当てるのはお客様の声・チームワーク・仕事の仕方などであり,目標=焦点ではない。

解決に焦点を当てるそのやり方は,Clの話に耳を傾け行きつ戻りつ,結果的に解決に焦点が当たるようにするものである。こうしたあり方は心の流れを大事にする心理臨床の姿勢と一致すると言ってもいいだろう。

ちなみにFocused のつもりが前のめりになって,「Forced(強要)にならないようにしましょうね」と注意されるのはソリューションの教育では定番である。伊藤拓(2021)では誤った実践に陥らず解決構築を効果的に行うためのポイントが詳述されている。

また意外かもしれないが,ソリューションは過去を活かす。困難を抱えてここまでやってきた軌跡から,Clの助けとなるものを見出すやりとりを何度も丁寧に行う。直線的ではなく円環的に進めるのが特徴だ。実践編ではこのあたりもご確認いただければと思う。

強引?

ソリューションはブリーフセラピーだが,ブリーフという言葉はたしかに短期決戦の強引な印象になりやすい。ブリーフセラピーが生まれた時代背景を少し知っていただけたらと思う。

当時の心理療法は記憶や感情を探求し,時間やコストをかけて行うものであったため,時間やコストに余裕がないClも利用できる具体的な助けへのニーズがあった。こんな背景があって生まれたのがブリーフセラピーだ。

ペースの早い毎日だと「セラピーまで追い立てるのか……」と思ってしまうが,ソリューションは追い立てられる日々に優しいものだ。

さて時代がどうであれ肝心なのは中身だ。短期であろうとなかろうと強引であれば心理療法としてNGだ。前記の通りソリューションは解決強要にならないようにが定番の指導になっている。もし強引であればそれはソリューションとは言えない。

またソリューションは何をするのかの項で述べるが,ソリューションがしようとすることはよく考えれば当たり前のことだ。当たり前に見えるのは,それが心の道理にかなっているからだ。

心の道理にかなうことを,Clの思考の枠組み注1)にも留意して都度調整しながら進めた結果,結果的に支援が短期で済むことは強引とは違う。

注1)私たちが物事を理解し判断するときに使う考え方の枠組みのこと。専門家の問題や解決についての認識がClの認識より重要とされることが多かったが,ソリューションはClが自身の解決(人生)の専門家であると考え,Clの思考の枠組み(認識)を尊重して取りくむことを重視する。
感情を大事にしない?

解決という言葉は他にも誤解を生む。

「苦しみや悲しみなど感情を大事にしないんですか?」。そんなことが心理臨床であっていいわけがない。

ソリューションも苦しみや悲しみをまっすぐ受けとめる。ただClには,気持ちを受けとめてほしいだけではなく,辛いから問題状況をできるだけ早く変えたいというニーズがある。ソリューションはClの両方のニーズにこたえるだけだ。

受けとめられること・辛い状況から変わること,その両方をClは求めている。

軽い?

ナラティヴ・セラピーと同じくソリューションの主な技法は質問だ。中でも代名詞的に扱われるのがミラクル・クエスチョンだ。こんなセリフのものだ。

……今日の面接が終わった後で,家に帰ってお休みになったと考えてください。あなたが眠っている間に奇跡が起こって,今日ご相談に来られた問題が解決したとします。でも,あなたは眠っていたので解決が起こったことはわからないわけです。

明日の朝になって,夜中に奇跡が起こって相談に来られた問題が解決したことをあなたに教えてくれる,最初の小さな事柄はどんなものになるでしょうか?周囲の人は何から気づくでしょうか?……

ミラクルの語感と風変わりな設定が誤解を生む。ふざけて見え怪しい心理療法のように見える。でも実際は逆だ。ソリューションはエビデンス重視でClに役立つものしか採用しない。

2)研究と臨床への気概
ミラクル・クエスチョンが生まれた経緯

ここでミラクル・クエスチョンが生まれた経緯を紹介しよう。その事実はインスーがClと面接する中で起こった。Clは子どもたちは手に負えず,夫は失業して家族を養えず飲酒がひどくなっていることに困り果てていた。

この女性はすっかり気落ちし,もう1日も耐えられないと語った。インスーは「ここでの時間がお役に立つのは何が起こったらいいでしょうか」と尋ねた。
Clは「わかりません。あまりにも問題が多すぎて,奇跡ぐらいしか救いがないでしょうね。でもそんなことはあてにできないし」と言った。インスーはClのこの言葉と考え方をすぐに取り上げた。「わかりました。奇跡が起こり,あなたの問題が解決したとしましょう。あなたの生活はどう違っているでしょうか」(De Jong & Berg, 2012/2016)

驚いたことに,問題に押しつぶされて行き詰っているように見えたこの女性が,今までとは違う生活を想像して話し始めた。この女性が描いた奇跡の後の生活は,うまく機能している家族の無理のない現実的状況であり,これが彼女にとってやりがいのある目標となった。

この事実に着目し,他のClへの有用性について検証を重ねて作られたのがミラクル・クエスチョンだ。

エビデンスに基づく開発

ミラクルという言葉や設定は,専門的にもアカデミックにも見えず偏見につながるリスクもある。採用しないこともできたはずだが,事実を踏まえてClに役立つものを作ることを選んだ。研究と臨床への気概がここにある。

ミラクル・クエスチョンの誕生にも示される通り,ソリューションは作られ方自体がプラグマティックだ。BFTCにおいて大量のセッション録画を分析し検証を重ねて作られた。

困難ケースの分析を元に

アメリカの心理療法というと裕福なClをイメージしやすいが,BFTCのClはそうではなかった。経済的にも社会的にも厳しい状況にあったり,他機関で匙を投げられるようなケースの支援にあたっていた。

そうした困難ケースを分析し抽出されたエッセンスでできているので,ソリューションはハードな臨床場面でも,むしろそうした場面で強みを発揮する。

希望が見えない状況でこそ

インスーは韓国出身だが,朝鮮戦争の苛烈さを知りPTSDに苦しむベトナム帰還兵にも向きあった人だ。スティーブもソーシャルワークのバックグラウンドを持ち,ソリューションには希望が見えない状況で役立ってこそという思いがある。この思いはナラティヴ・セラピーと通底するものだ。

戦争という言葉を出すと大人女子と遠いことのように映るが,大切なものを軽んじられ自分なんてと思う女性がどれほどいるだろう。踏みにじられたり存在を否定されたり平時とは言い難い状況で,「ほんとは,もうずっとキエタイ」という思いを抱えることも稀ではない。

その笑顔は大丈夫というサインとは限らない。ひとに嫌な思いをさせたくないというぎりぎりのプライドであることがある。
日本が悪い社会とは思わないが「表面的にやさしく穏やか」なのだと私も思う。

ソリューションもナラティヴ・セラピーも,希望を取りもどす仕事を旨とする。

エリクソンの影響

インスーやスティーブの研究と臨床に対する姿勢の話に戻る。彼らの気概にはエリクソンの影響も感じられる。

エリクソンは貧しい農家の11人兄弟の2番目として生まれた。色覚障害・読字障害・失音楽症という困難があり,青年期にはポリオによる全身麻痺となりほぼ回復するのに1年を要した。こうした経験も携えて医学・心理学を学び研究と臨床に打ちこんだ。その後もポリオ後症候群と思われる厳しい身体症状に見舞われ,職を辞す局面に追いこまれたりしながらも晩年は世界中の専門家に信頼される指導者となった。

彼の功績の精髄は,彼の個人的な特質──危機的な状況への対応の仕方から浮かび上がってくるような──と分かちがたく結びついているのである。(Zeig, 1999/2003)

エリクソンは生活の価値を強く知る人でもあった。

彼は徹底的に生活を重視していた。クライアントが少しでもよりよい人生を送れるよう援助することに,多大な関心が向けられていて…(中野,2003)

エリクソンに強い影響を受けたソリューションが,自分らしい生活を大切にする大人女子にフィットするのは自然なことなのだろう。

利用 Utilization

エリクソンは,患者は自分の困りごとを解決するための十分なリソースをすでに持っているのだから,治療を行うにあたり,患者を教育したり適応的な行動を教えたりするのではなく,患者の持つものを利用することになると考えた。

患者が治療場面に持ちこむものや存在するのものは何でも利用した。いわゆる強みはもちろん,経験・関係性・環境・職業・感情といったもの,さらには患者の問題・症状・障害さえも活かした。

この考えは利用 Utilization と呼ばれる,エリクソン臨床の中核概念である。

ソリューションについて説明される時は,暗黙の了解あるいは時間/紙幅の制約から,家族療法やブリーフセラピーについての説明は割愛されることが多い。

しかし実践が行き詰る時は割愛された,本来土台である部分の理解不足がネックになっていることがままある。少なくとも私はそうだった。

理解の急所として,ソリューションの土台にこの利用という概念があることをお伝えしておければと思う。

エリクソン臨床のキーワード

実践編で詳述するが,どんな技法もベースにある考えを形にしたものである。また技法が活きる対話の進め方・面接展開もまた,ベースの考えを活かすことで可能になる。

ソリューションに特に関わりが深いキーワードを示しておきたい。実践編で触れることになる場面があるかと思う。

【エリクソン臨床のキーワード】
※ソリューションに関わりが深いもの

  • 自然的志向
  • 利用
  • ユニークさの尊重
  • 柔軟性
  • 観察
  • 現在および未来志向 

後編に続く〉

+ 記事

伊藤弥生(いとう・やよい)
所属:久留米大学文学部心理学科
資格:公認心理師・臨床心理士
主な著書:伊藤弥生(2022)未来のポジションから考える思春期へのブリーフ的支援.In:黒沢幸子・赤津玲子・木場律志編:思春期のブリーフセラピー こころとからだの心理臨床.日本評論社.
伊藤弥生(2007)不妊治療における心理臨床にみる女性たち.In:園田雅代・平木典子・下山晴彦編:女性の発達臨床心理学.金剛出版.
趣味:ゆるめの「NO FASHION,NO LIFE」です。メガネにわりと凝ってます。

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