こころをつなぐ災害支援(3)災害における心理社会支援を振り返る|若島孔文

若島孔文(東北大学)
シンリンラボ 第24号(2025年3月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.24 (2025, Mar.)

                                                    

東北大地震(3.11)の発生

2011年3月11日に発生した東北大地震(東日本大震災)。東京大崎の立正大学心理学部から2008年4月に仙台の東北大学大学院教育学研究科に職場を移り,数年のことでした。当時,私は宮城県臨床心理士会の事務局長でもありました。大学の研究室は出入り不可能な状態であり,生活においても,水,ガスなどライフラインが途絶えていました。ガスは数カ月使用不能。

研究室の様子

宮城県臨床心理士会の事務局長として,ケアチームへの心理師の派遣作業,また,その穴を埋めるように支援へと入っていくこととなりました。3月25日,石巻・蛇田5カ所からはじまり4月8日,渡波5カ所。4月8日,石巻1カ所。住吉1カ所。湊2カ所。蛇田3カ所。河北1カ所。4月8日,牡鹿6カ所。4月9日,4カ所。4月14日,河南4カ所。4月18日,気仙沼5カ所。 4月29日,渡波4カ所。5月2日,気仙沼2カ所。5月3日,若林3カ所。などというようにケアチームへの派遣が続いて行きました。その他,2011年4月6日から16日,国境なき医師団への参加(南三陸町),6月18・19・25・26日 日本赤十字社宮城支部・宮城県臨床心理士会ケアチーム先発隊への参加などが行われました。

つながりから支援の要請

先にも述べたように2008年4月に東北大学大学院教育学研究科に来たわけですが,地震発生までの数年間で様々な人や組織と交流しており,そうした人や組織を通じて,様々な支援活動が行われることになって行きます。2011年4月21日,第二管区海上保安本部職員へのカウンセリング等の実施依頼。6月13日,石巻市職員のストレス・ケアの実施依頼。6月16日,仙台市消防局職員研修「惨事ストレス・ケアについて」実施依頼など。

電話相談,気仙沼の避難所からはじまり,石巻市役所,海上保安庁第二管区,仙台市消防局などへの支援が続いて始まっていきます。

海上保安庁第二管区職員の支援

そもそもは当時,海上保安庁第三管区(東京海上保安部・特殊救難基地担当)の惨事ストレスネットワーク委員会委員でした。少し前に生じたニュージーランド地震の救難活動に特殊救難隊も派遣されており,日本に戻ってきて1回目のストレスチェックを終えて,2回目のストレスチェックまでの間に,東北大地震は発生しました。私が東北大学にいることもあり,第三管区本部長から第二管区の支援を依頼されました(2011年4月21日から)。第二管区は青森から福島という範囲であり,各海上保安部は当然海の近くにあり,職場の被災が多くみられました。しかしながら,海のプロフェッショナルであり,職員での死者数は1名(休暇中の職員)にとどまりました。私が特殊救難隊に行っているのと同じ,2回のストレスチェックを実施し,その後,問題がある場合,面接を行うという方針を第二管区でも踏襲しました。人数はしぼられましたが,青森から福島という範囲ですから,とてもたいへんな作業となりました。

石巻市役所職員の支援

2011年6月13日から上記と同様なストレスチェック方式により,面談が必要とされる職員への面接が開始されて行きます。上記の支援と同時並行で動いており,支援者が足りず,宮城県臨床心理士会の協力を得ながら進めていきます。宮城県臨床心理士会の心理師も被災しているうえに,各職場での仕事があり,ケアチームへの心理師の派遣も難しい状況でした。このとき助けになったのは,東北大学OG/OBの心理師の先生方でした。また,私が東京の大学に勤めていた際に作ったNPOの心理師の皆様のご協力があり,実施することができました。石巻市役所はその後,常勤の心理師を1名雇用することとなり,私たち外部からの支援が内部からの支援という形になっていきました。この1名の心理師は現在,香川大学医学部准教授の野口修司先生です。

災害心理社会支援のための理念の共有

そのような中で,私は当時,東北大学教育学部におられた長谷川啓三教授(現在は東北大学名誉教授)と相談しながら,支援にあたる心理師たちが安心して支援に出て行けるようにと考え,以下のような研修会を東北大学大学院教育学研究科(ちなみに私たちの活動は「東日本大震災PTG心理・社会支援対策室」という名称で行われるようになりました)にて開催していきました。

International Medical Corps(IMC)による心理社会支援に関するワークショップが最初でした(2011年5月21・22日,91名参加)。宮城県だけではなく,東北地方の心理師が多数集まりました。IASCガイドラインとサイコロジカル・ファースト・エイドについて学びました。これらは具体的な手法としてよりも,支援にあたる心構え,災害における心理社会支援の考え方としてたいへん重要なものとなりました。

長谷川啓三教授と私の研究室は,家族支援を研究する研究室でした。家族支援はシステム理論を背景としています。また,2010年秋に日本心理臨床学会を東北大学で開催していました。その際,エドワード・デシ先生を招聘したという経緯もありました。

以上のことから,IASCガイドライン,サイコロジカル・ファースト・エイドを踏まえつつ,(1)自律性,有能感,関係性を尊重した支援,(2)個人や組織の自己組織性を活かした支援,という理念をまとめました。それを共有し,支援にあたっていきました。この理念はおそらく支援活動の中で最も役に立つものでした。それは支援活動に関する被災者との話し合いや,様々な団体との交渉など,その場で様々な決定をしていくうえで,それぞれの支援場所を任されているリーダーたちにとっての活動方針の決定に役に立ちました。

具体的な心理支援の手法としては,三楽病院精神科の佐藤克彦先生を講師とした「PTSDの理解と対応」ワークショップを開催しました(2011年7月31日)。心理支援についてはPTSDに関わる研修が中心である中で,不安やロストなどより広く,より多くの人々に対応できるアプローチ(言葉によるやりとりから身体への介入まで)として学ばせていただきました。

仮設住宅の支援

続けて,日本赤十字から宮城支部への引継ぎを行いました。赤十字に関わる心理師の研修会を東北大学大学院教育学研究科で開催しました。講師として立正大学心理学部の小澤康司先生をお呼びしました。

また,仙台市で一番大きな仮設住宅を含む3カ所の心理支援,石巻の在宅避難者の心理社会支援(ここではこの支援についてふれませんが,たいへん重要な支援活動でした。この支援班のリーダーは現在,愛知大学准教授の森川夏乃先生でした),仙台市内の消防団などの支援がさらに始まっていきます。限られた心理師で,膨大な支援活動が行われて行きました。仮設住宅の支援活動には,大学院生も継続的にかかわり続けました。大学院生は仮設住宅の集会所で住民の方々に卒業式を開いてもらうなど,支援される関係にもなっていきました。

訪問の様子

相談室(おしゃべり部屋)の様子

仮設住宅では,運営を関わる住民や様々な住民の方の意見を聴きながら,相談室が設置されて行きました。その結果,ある仮設住宅では,2カ所相談室が設けられました。よりプライバシーを重視した相談室と,おしゃべり部屋と呼ばれる炬燵のある相談室です。

ニュースレターの作成と訪問

各仮設住宅では,ニュースレターを発行しました。このニュースレターは,仮設住宅の住民の企画したイベントや取り組み,住民のペットを紹介する欄,問題解決事例(ソリューション・バンク)などが毎回掲載されており,言わば,仮設住宅の住民の方とともに作られたものでした。小さくても良いこと,できること,楽しいことが紹介され,それがまたその他住民のソリューションを導き活性化していくという介入です。騒音が気になったけど,こうしたら気にならなくなりましたという事例や,人とかかわるのが苦手な高齢の住民がペットのカメをニュースレターで紹介したら,子どもたちが夏休みの自由研究にしたいと関り,人気者になるなど,また,カメが卵を産んだことなどが再度,ニュースレターに取り上げられたりした(見出しは「カメ吉はメスだった!」)。

また,コミュニティへの参加が少ない方の住宅に手渡しで配布して生活の困難や健康状態を把握していきました。仮設住宅全体の把握ができました。この仮設班のリーダーは,今は岐阜大学で准教授をつとめている板倉憲政先生です。

理念が活かされること

ここまで電話相談についてふれてきませんでしたが,5年間継続することを決めた電話相談とその電話相談についてのカードを名刺代わりに,避難所での活動が開始された。これは電気の復旧が早急であったことと,電話の使用が確認されていたからです(なお,電話相談班のリーダーは現在,名古屋大学教授の狐塚貴博先生でした)。電話相談カードを媒介にして,被災者とのコミュニケーションを広げていきました。媒介物を用いたコミュニケーションに関する私たちの研究がこの方法の基礎になっています。

この電話相談は後に電話相談マッピングとして,いのちの電話から物資の相談まで支援者側で体系化されていました。すなわち,どこの電話に相談しても,必要なところにつなげられるように,マッピングされていたのです。こうした様々な機関との連携が可能になるために,先に述べた理念は大変役に立ち,それがあったからこそこうした支援体制が実現したと思います。また,先に述べた相談室の設置の仕方,ニュースレターの作成の仕方も同様です。(1)自律性,有能感,関係性を尊重した支援,(2)個人や組織の自己組織性を活かした支援,という理念がそこに示されています。仮設住宅の集会所で,折り紙作りのイベントが企画されたことを思い起こすことができます。折り紙づくりの専門家が被災者として仮設住宅に住んでいました。住民の方の専門性を活かしたイベントの企画も,理念に基づくものです。この理念のもとでは,先に述べた大学院生の卒業式を住民の方に開いていただけたことは,感無量の出来事でした。被災した住民は,支援の対象であるだけでなく,支援者でもあるのです。

家族療法について

長谷川啓三教授と私の研究室は,家族臨床の研究室でした。IASCガイドラインやサイコロジカル・ファースト・エイドで学んだことは,家族療法に通じるものでした。つまり,私たちの日常の臨床と研究に密接に結びついていました。個人の力,個人問題解決力,組織の力,組織の問題解決力,それらをリソースとして支援活動が展開されて行きました。

支援を終わらせること

私は震災など支援活動における一番重要で困難な仕事は,支援を終わらせることであると考えています。殿をつとめる,城の明け渡しが重要な作業であるのと同様に。支援活動を終わらせることについて,シアトル・パシフィック大学のジョン・ソバーン教授を東北大学に招いて学ぶことにしました。

避難所はなくなり,仮設住宅がなくなり,復興住宅へというタイミングでした。私たちが関わった住民を一般的な地域の医療や福祉につないで行きました(現在,宮城学院女子大学准教授の兪キョン蘭 先生が最後の一人までつなぎきりました)。震災における特殊な支援状況から一般的な医療や福祉,行政とつなぎ私たちの支援活動は終了しました。

支援活動を振り返る

私たちの活動を振り返り,反省するとともに,インタビュー調査などによる効果測定が行われて行きました。いらなかったことは何か,これからも応用できることは何かを明確にする作業でした。振り返ると膨大な活動が行われていたことに驚きました。これらの記録は以下の書籍で読むことができます。

  • 長谷川啓三・若島孔文編(2011)子どもの心と学校臨床(第6号)特集:大震災・子どもたちへの中長期的支援―皆の知恵を集めるソリューション・バンク.遠見書房.
  • 東北大学長谷川研究室・若島研究室川柳グループ編(2011)震災川柳.東北大学大学院教育学研究科長谷川研究室.(後に,南三陸「震災川柳」を出版する会(2013)震災川柳.JDC出版.)
  • 若島孔文(2012)研究を止め石巻・気仙沼・仙台・・・被災地を巡った心のケアは,研究にも大きな革新を.In:河合塾編,ポスト3.11 変わる学問―気鋭大学人からの警鐘.朝日新聞出版,pp.150-155.
  • 長谷川啓三・若島孔文編(2013)震災心理社会支援ガイドブック―東日本大震災における現地基幹大学を中心にした実践から学ぶ.金子書房.
  • 長谷川啓三・若島孔文編(2015)大震災からのこころの回復―リサーチ・シックスとPTG.新曜社.
  • 村上正治・若島孔文編(2015)子どもの心と学校臨床(第13号)特集:学校コミュニティと学校トラウマへの支援.遠見書房.

東南海地震を想定した『災害心理社会支援に関する大学間ネットワーク』の構築

東北大学大学院教育学研究科・心理支援センターにおいて,2021年度より,主に東南海地方における地震災害時の心理社会的支援を念頭として,その構築を目的とした協議を開始しました。2023年度は,昨年度に計画した災害心理社会的支援の研修会を開催し,修了証を発行し,緊急時支援連絡先リストへの登録を行いはじめました。これは東北大地震の反省でもある人的資源の乏しさへの対応です。

2024年1月1日能登半島地震の発生

私は仙台から東京に住む兄(次男)の家(母親も同居)に行き,正月を祝っていました。そこで,能登半島地震の発生をTVで知ることとなりました。朝市通り,本町が火事となっている光景を呆然と眺めました。私は輪島で生まれ,輪島で育ちました。私はちょうど半年前,夏のお盆の時期に,子どもの頃同様に輪島の鴨ヶ浦で泳いで,その後,父の墓参りをしたことを思い出しました。輪島の家をついだ兄(長男)の無事,義理の姉家族の無事,親戚や友人知人の無事などが確認されました。無事というのは,命はある,という意味です。同級生の弟からは「人生ではじめてヘリに吊られた」とメールをくれました。

能登半島地震へのオンラインカウンセリングの開設

2024年1月1日には石川県能登半島を中心として最大震度7を観測する地震が発生したことを受け,『災害心理社会的支援に関する大学間ネットワーク』では,被災者に対するオンラインカウンセリングの窓口を開設しました。また,さらに緊急に,災害心理社会的支援の研修会をオンデマンド動画にて公開し,希望者に対して修了証の認定および緊急時連絡先リストへの登録について案内を行なうなど対応しました。⇐ 今ここ。柴田学園大学及び東北大学大学院教育学研究科講師である萩臺美紀先生が中心的にこの仕事をして下さっています。引き続き能登半島地震への対応を考えて,実行していきたいと考えています。

+ 記事

若島孔文(わかしま・こうぶん)
東北大学大学院教育学研究科教授
ご資格:家族心理士,ブリーフセラピスト(シニア),臨床心理士,公認心理師。
主な著書:『短期療法実戦のためのヒント47—心理療法のプラグマティズム』(単著,遠見書房,2019),『臨床心理学概論』(共著,サイエンス社,2023),『テキスト家族心理学』(共編著,金剛出版,2021)ほか
趣味:犬の散歩

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