【特集 カップル・セラピー】#04 離婚の危機にあるカップルへのアプローチ:ディサーンメント・カウンセリング(DC)の新しさと可能性|小笠原知子


小笠原知子(金沢大学)

シンリンラボ 第42号(2026年9月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.42 (2026, Sep.) 

夫婦が離婚の危機を迎えたとき,二人が同じ方向を向いているとは限らない。離婚の危機にあるカップルでは,二人が同じ場に座っていても,目指している方向が大きく異なることがある。一方は関係を修復したいと願い,もう一方は離婚に傾いている,または思い悩み決心できない—―こういった夫婦に,関係改善を前提とする従来のカップル・セラピーをそのまま適用することには限界がある。ディサーンメント・カウンセリング(Discernment Counseling:DC)は,こうした「異なるアジェンダを持つカップル」を対象に,関係修復か離婚かを性急に決めるのではなく,自分自身とパートナーとの関係を振り返り,より深い理解に基づく明確さと確信をもって次の方向を選択することを支援する短期アプローチである。本稿では,DCの新しさと構造,有効性を概観したうえで,日本の離婚制度や心理臨床への適用可能性を検討し,さらに危機に至る以前から「親密な関係」を学ぶ心理教育の必要性について考えてみたいと思う。

1.カップル・セラピーとDC

1)米国のカップル・セラピー

カップル・セラピーの先進国でもある米国では,夫婦・カップル関係の問題を専門家に相談することは比較的広く受け入れられており,職業的夫婦家族療法士(Marriage and Family Therapist)のみならず,サイコセラピーを提供する臨床家たちの多くによってカップル・セラピーが提供されている。その背景には,1970年代以降の離婚率の上昇,再婚家族の増加,家族形態の変化やセクシュアリティの多様化などがあり,親密な関係に生じる問題の解決を専門的支援の対象として扱う需要が高まってきたことがある。

実のところ,カップル・セラピーとは原則として,両者が自分たちの関係を改善したい,という共通の目標を設定してセラピーに取り組むことが前提となっている。しかしながら,実際の臨床では,一方は関係修復を望み,他方はすでに離婚を考えている,あるいは修復も終結も決められない,というカップルが少なくない。このような場合,面接が開始されたとたん,関係修復を望む側は積極的にセラピーを進めようとし,終結に傾いている側は不信感を持ち,または,決められないまま説得されていると感じるかもしれない。このような面接は往々にして治療的効果も芳しくなく,セラピスト自身も「関係修復を支援するのか,離婚を受け入れるよう支援するのか」という葛藤に陥りやすい。特に米国のようにカップル関係への心理社会的支援が日本より成熟している社会では,結婚,離婚,再婚など,状況と目的によって専門的役割分担が進んでいるため,セラピーがうまく機能しないのはセラピストの技量や経験不足によるものと捉えられたり,そもそもクライアント自身が「セラピーには向かないカップル」なのだ,とみなされる傾向さえあるという。

Dohertyはこのような従来のカップル・セラピーでは扱いが難しいとされてきたカップルを「異なるアジェンダを持つカップル(mixed-agenda couples)」と名付けて可視化し,このタイプのカップルは,関係を維持・修復したい側:Leaning-In(LI)と,関係を終結・離脱する方向に傾く側:Leaning-Out(LO)によって構成されると定義した。つまり,DCとは「異なるアジェンダのカップル」が持つ傾向と特徴に焦点化した新しいアプローチであるといえよう。

2)DCの新しさと有効性

Dohertyによって開発されたDCは,従来のカップル・セラピーと比較して際立った特徴を持っている。まず,DCはセラピーではなく,直ちにカップル関係の改善を目的としていない。通常のカップル・セラピーでは「関係を改善する」方向に二者が同意することが治療契約の前提となるが,DCでは,その治療契約を結ぶかどうか自体を検討対象とする。DCの目的は,互いの親密な関係性について「より深い理解に基づいた明確さ(clarity)と確信(confidence)」を得ることであり,葛藤を抱えたカップルがともに対話を通じて方向性を選択する,その道程を支援することにある(Doherty, et al., 2016)。

DCの成立には,米国の離婚制度との関係も大きい。Dohertyは2008年頃から,家庭裁判所判事や離婚実務に携わる弁護士らと協働し,離婚申立てに至った当事者の中にも迷いを残す人々が少なくないことに注目した。すでに法的手続きが始まっていても,心理的な意思決定が完了していない夫婦の割合が全体の3分の1にも上ることが調査で明らかになったことを受け,Dohertyらはこのような当事者に,通常のカップル・セラピーとも離婚カウンセリングとも異なる第三の場を提供するためにもDCを開発し,臨床へ展開していったのである(Doherty et al., 2011)。

DCではカップルが選択する最終的な方向性を三つのパスとして提示する。パス1は当面現状を維持する,パス2は別居・離婚へ進む,パス3は離婚をいったん選択肢から外し,6か月間,関係修復を目的とするカップル・セラピーに取り組む,というものである。二者択一の「離婚か,結婚継続か」ではなく,3つの方向を明示することにより,LIにもLOにも,それぞれの立場が尊重されているという感覚を与えやすい。

さらにDCがパス選択よりも重要視しているのは,自分自身がパートナーとの親密な関係にどのように関わってきたか,というcontribution(貢献)について具体的に理解することである。Dohertyは,離婚を選択する場合であっても,夫婦関係で何が起き,自分がその過程にどのように関与してきたのかを振り返り,理解することは特に重要だとする(Doherty & Harris, 2017)。新たな人生へ進むためにも,自身が経験した親密な関係,結婚関係に対する気づきや自己理解がDCを通して得られたかどうか,これがDCの成功を規定する本質であるとしている。

このような「セラピー以前の意思決定」を独立した支援段階として可視化したDCは,他のカップル療法の導入にも示唆を与える結果となっている。例えば,Edwards(2023)は,Emotionally Focused Therapy(EFT)において,DCを治療前のアセスメントに組み込む試みを提案しており,このことからも,DCは,カップル・セラピーの新たな「治療学派」というより,それらの有効性を補完するモデルとも位置づけられるのである。

3)DCの構造

DCは最大5回の短期集中型モデルであり,初回は約120分,2回目以降は約90分で構成される。開始前には通常,両者それぞれへの短い電話面談を行い,どちらがLI,LOに相当するか,離婚に対する現在の姿勢,主な問題,これまでの修復努力などを確認する。同時に,DV,虐待,深刻な依存症などの安全上の問題を評価し,合同面接が適切かを判断する。

初回面接では,まず40分程度の合同面接を行う。DCに何を求めているのか,問題がどのように展開してきたのか,これまでどのような修復努力をしてきたのか,良好だった時期にはどのような関係だったのかなどを確認する。子どもがいる場合には,夫婦関係や今後の選択が子どもにどのような影響を与えるかについても対話する。

その後,各パートナーと約30分ずつ個別に話す。LOには,現在の結婚への悲観的な見方を十分に受け止めながらも,「この人と一生暮らすか」を決めるのではなく,「関係改善の可能性を検討するために6か月間取り組む価値があるか」という,より限定された問いを提示する。同時に,関係悪化に対する自分自身の貢献を探索するよう促す。LIには,相手を説得し続けたり,相手を変えるための努力ではなく,自分自身の変化と精神的安定に焦点を当てるよう働きかける。最後に再び短時間の合同面接を行い,それぞれが「自分は何を学んだか,何に気づいたか」を共有する。そして,方向性の選択について話し,DCを継続するかを決める。

このように,DCでは,合同面接と個別面接はそれぞれ補完的に組み合わされ,共通の目的に向かって展開されていく。合同面接は相手の立場を聴き,気づきや理解を共有する場であり,より深い探索と働きかけは個別面接で行われる。DCは,それぞれの心理的情緒的立ち位置に応じた異なる課題を設定しながら,両者が将来の関係性に対して明確さと納得感を獲得できるよう支援するモデルとなっている。

4)DCの“有効性”

Dohertyら(2016)は100組の夫婦に対するDC臨床の結果を次のように報告している:平均セッション数は3.61回で,パス1(現状維持)選択が12%,パス2(離婚・別居)選択が41%,パス3(関係修復・6か月のカップル・セラピー)選択が47%であった。2年後の追跡調査では,パス3全体の49%が離婚へ進み,13%が離婚手続き中であり,38%が婚姻を継続していた。この研究には対照群がなく,上記の結果から,DCが離婚を防止する効果を持つと結論づけることはできない。むしろ注目すべきなのは,離婚が目前にあり,通常のカップル・セラピーには消極的であった集団において,ほぼ半数が改めて6か月の関係修復を試みる選択をした点であろう。

また,最終的に離婚を選択した人々への質的研究(Emmerson, et al., 2022)では,DCのセッションが元配偶者との葛藤軽減につながり,共同養育へのコミュニケーションが容易になったという報告が成されている。

このように,DCの“有効性”を論じる場合,婚姻継続の有無だけではなく,意思決定への納得感や自己理解の深まり,離婚後の家族関係の再編という,より広い観点や具体的な指標を検討する必要があるだろう。

2.日本の離婚の危機にある夫婦へのDC適用

日本では離婚の多くが協議離婚によって成立し,法制度の中で心理・福祉・法的専門家の関与なしには成立しない米国の離婚制度とは大きく異なっている。このことは当事者が自律的に決定できる利点を持つ一方,離婚後の子どもの養育や養育費,親子の交流などについて十分な対話がなされないまま離婚が成立する状況が発生しやすい点は否めない。2026年4月1日より離婚後の親権について父母双方を親権者とする選択が可能となったが,これは,夫婦としての関係が終結しても,子どもがいる限り家族関係そのものが消滅するわけではなく,関係の再編という課題に,両者がどう向き合うかを問われることを意味する。

この点でDCは,これまでの日本の離婚支援に対し,新しいモデルを提供できるのではないだろうか。DCは離婚を思いとどまらせるための介入ではなく,関係修復を望む側にも,離婚に傾く側にも同じように敬意を払い,性急な結論へ誘導せず,子どもを含む家族に今後どのような影響が生じるのかを検討したうえで方向を定めるよう支援する。その意味でDCは,離婚という重大な家族形態の移行に対する意思決定を支援するモデルであるといえよう。

3.日本の心理職へのDCの適用

日本の心理臨床では個人面接が中心であり,夫婦・家族が同席した面接が中心である夫婦家族療法等の訓練機会は限られているのが現状である。一方,DCは一対一の個別面接が大きな比重を占めるため,個人療法の訓練を受けてきた日本の心理職にとっても比較的入りやすい側面が期待できるのではないだろうか。重要なのは,個別面接で得た理解を「個人の問題」に閉じず,二人の関係の歴史や日々の相互作用の中で捉え,合同面接の中で互いの気づきや相互の理解へと深化,展開していくシステミックな視点とスキルが要求される点にある。また,双方に真摯な共感を示しながらも,LIとLOのいずれかに過度に同一化することなく,関係修復にも離婚にも誘導しないバランスと臨床的判断力が必要となるだろう。

さらにパス3を選択したカップルに対しては,DCセラピストが関係修復のカップルセラピストとなることが規定路線となっており(もちろん,状況に応じてカップル・セラピーへの紹介は行われるが)この点からも,DCは,日本の心理職にとって個人療法から関係性臨床へ橋を架けるトレーニングモデルを提供することが可能である。離婚危機という葛藤度の高い場面において二人の異なる現実を同時に保持し,それぞれの自己理解と対話を促す臨床経験は,個人療法からカップル臨床への興味と技量習得への動機づけともなり,日本におけるカップル・セラピー全体の力量を高めることにもつながるのではないかと推測している。

4.「親密な関係」についての心理教育

DCに限らず,カップル関係の専門職であれば,離婚の危機にある夫婦の支援において,臨床家自身が「親密な関係」についてどのような価値観や倫理観を持っているのかを問われるような場面を,どこかで経験しているのではないだろうか。

事実,日本の結婚・夫婦関係は,戦後,個人の尊重や男女の平等性,夫婦間の愛情を基盤とする関係へと大きく転換した。現代において結婚は,制度や役割によって自動的に維持されるものというより,二者の相互理解,信頼,情緒的つながりを中心として形成されていく人格的関係であると見なされ,そうであるように期待されている。一方で,私たちが他者と出会い,親密さを深め,長期的な関係を形成していく,その心理的・情緒的・行動的過程について学ぶ機会はきわめて少ない。愛情があれば関係は自然に続くはずだという期待と,長期的な関係を維持するための知識や有効な対処法を実際に知ることの間には,依然として大きな隔たりがあるといえよう。

このような「親密な関係」を学ぶ心理教育のモデルとして,Gottman & Gottman (2015)の「Sound Relationship House Theory(“健康的関係という家”理論)」を最後に取り上げてみたいと思う。

Gottman & Gottman (2015)は,課題を抱えたカップルだけでなく,長い期間うまくいっているカップルを詳細に調査し,親密で幸せな関係性というものを“家”を建てることになぞらえ,理論化している。“家”の土台には,まず相手を知ること(Love Maps)が位置し,その上に「好意と尊敬を表現すること」(これを二人の銀行口座への預金に例えているのは興味深い),「困難な時にこそ互いに向き合う」「葛藤の建設的対処法」などの階層が建てられおり,最上階には,「互いの人生の夢を実現し,共に人生の意味を形成する」屋根が“家”を完成している。“家”を支えるのは,「信頼」と「コミットメント」という2本の柱である。重要なのは,これらは単なるコミュニケーション技法の習得ではなく,情緒的であると同時に認知行動的であり,さらには実存的でスピリチュアルな学びをも含んでいる点である。

相互に関係を構築していく大切さや有効な対処法などを,個人の経験やマスメディアによる情報だけに委ねるのではなく,青年期からの教育や婚前カウンセリング,ひいては地域におけるカップル支援などを通して心理教育的に提供していくことは,危機に至るカップル関係への予防的対策としても,今後の重要なテーマであると考えている。

5.最後に

DCは,離婚の瀬戸際で異なる方向を向く二人に対し,どちらかを説得するのではなく,それぞれが自分自身とパートナーとの関係の歴史を見つめ,より明確で納得できる次の一歩を選ぶことを支援するモデルである。

日本の社会では,離婚後に共同親権を選択できる新たな法制度が施行され,夫婦関係が終結したとしても,親としての関係を再構築し,共に子どもを育む責任と調整力はこれから益々求められることになる。それぞれの意思決定のプロセスを支援するDCのようなアプローチは,今後一層重要になると筆者は考えている。

同時に,危機に至った夫婦への支援のみがフォーカスされるのではなく,危機に至る前から「親密な関係」をどのように構築し,人生を通して育て,維持していくのかを学べる社会的基盤を整えていくことも,これからのカップル・家族支援に課せられた重要なテーマである。今後,DCセラピストが日本で必要とされるのと同じくらい,広く注目されるべき心理社会的支援の一つであると考えている。

<付記>

現在,Doherty Relationship Institute(https://discernmentcounseling.com/)主催のDC研修コースを修了した筆者および数名の研究協力者による日本でのDC導入研究が,本年度より助成金を受け,実施計画が進行している(JSPS科研費研究26K06647)。日本におけるDCの紹介やDC臨床研究,また研究への参加希望(対象夫婦)について,さらに詳しい情報に興味のある方はこちら(discernmentcounseling.jp@gmail.com)へご連絡下さい。なお,筆者グループによるDC提供は臨床研究の枠組みにおいて進められており,他の商業的DCサービスとは異なるものであることを申し添えます。

おことわり:上記DC研究への参加に関する問い合わせ先としてメールアドレスを掲載していましたが,手違いによりメールが届かない状態になっていました。9月15日現在,不具合は解消しておりますので,今後はdiscernmentcounseling.jp@gmail.comへご連絡いただければ,順次ご返信いたします。すでにご連絡をしてくださった方に謹んでお詫び申し上げます。(2026.9.15追記)
文  献
  • Doherty, W. J., & Harris, S. M.(2017)Helping couples on the brink of divorce: Discernment counseling for troubled relationships (1st ed.). American Psychological Association.
  • Doherty, W. J., Harris, S. M., & Wilde, J. L.(2016)Discernment counseling for “mixed-agenda” couples. Journal of Marital and Family Therapy, 42 (2); 246–255. https://doi.org/10.1111/jmft.12132
  • Doherty, W. J., Willoughby, B. J., & Peterson, B.(2011)Interest in reconciliation among divorcing parents. Family Court Review, 49 (2), 313–321. https://doi.org/10.1111/j.1744-1617.2011.01373.x
  • Edwards, C.(2023)The integration of discernment counseling and emotionally focused therapy: Attachment-based therapy with mixed agenda couples. Contemporary Family Therapy: An International Journal, 45 (2); 186–194. https://doi.org/10.1007/s10591-021-09610-9
  • Emerson, A. J., Harris, S. M., & Ahmed, F. A.(2021)The impact of discernment counseling on individuals who decide to divorce: Experiences of post-divorce communication and coparenting. Journal of Marital and Family Therapy, 47 (1); 36–51. https://doi.org/10.1111/jmft.12463
  • Gottman, J. M., & Gottman, J. S. (2015). Gottman couple therapy. In: A. S. Gurman, J. L. Lebow, & D. K. Snyder (Eds.), Clinical handbook of couple therapy (5th ed., pp. 129–157). Guilford Press
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小笠原知子(おがさわら・ともこ)
金沢大学
米国ロチェスター大学,ミネソタ大学において家族療法の臨床・研究に従事。ミネソタ大学では,後にディサーンメント・カウンセリング(DC)を開発したWilliam J. Doherty博士のもとでカップルセラピーを学ぶ。近年はDCの日本への導入と研究,「人としてのセラピスト養成モデル(POTT)」の実践に取り組んでいる。
資格:米国夫婦家族療法士(MFT),公認心理師
主な訳書:『人としてのセラピスト養成モデル―「私自身」をセラピーに生かすためのトレーニング』(共訳,星和書店,2024),『パンデミック,災害,そして人生におけるあいまいな喪失』(共訳,誠信書房,2024),『あいまいな喪失とトラウマからの回復—家族とコミュニティーのレジリアンス』(共訳,誠信書房,2017),『メディカルファミリーセラピー―患者・家族・医療チームをつなぐ統合的ケア』(共訳,金剛出版,2016)

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