金子周平(九州大学)
シンリンラボ 第41号(2026年8月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.41 (2026, Aug.)
ヒューマニスティックアプローチ(もしくはPerson-centered Approach,人間性心理学)は最初から心理学の範疇を超えていた。それを前提にすると,このアプローチの魅力がもっと見えてくる。
この理論的立場のうち,最も有名なものはRogers, C. R.の共感的理解や積極的傾聴などだろう。残念ながら,こうしたよく知られた一部の概念だけを取り上げて,心理療法やカウンセリングの基礎中の基礎と位置づけたり,カウンセリングの原点というイメージを付与したりすることがあるのが実情である。実際,臨床心理学のテキストの中では,セラピストの基本的態度を担う理論的立場としてヒューマニスティックアプローチが登場することが少なくない。
しかしヒューマニスティックアプローチは臨床心理学どころか,心理学の枠組みにとらわれない背景を持った総合的な立場として,過去も現在もそのアイデンティティを維持している。特に自然科学的な接近を試みる心理学や,精神的不調や問題の改善を目指す心理療法にこだわることなく,人間の幸福や愛とは何か,人間が人間らしくいるとはどういうことか,真の人間関係とは何かを問い続け,その中で人間の成長をつぶさに見つめるあり方を続けてきたのである。つまりヒューマニスティック心理学は「人間学的な心理学」というよりも,実存哲学,人類学,スピリチュアリティにも接近した「心理学的な人間学」であると考えた方が,その立場をよりよく表している。心理学より出て人間学を目指すことが,この立場の実践家や理論家が常に意図してきたことである。そのような意味で,ヒューマニスティックアプローチは心理学を越境しているのである。
臨床心理学が特定の症状や機能に焦点を絞って,効果的な介入方法を発展させていく中で,ヒューマニスティックアプローチは「人間の成長」や「意味の探求」,「自分らしさ」などの多様な方向性に向かっても,その関心と活動領域を展開し続けている。そして学術的には心理学世界の辺縁ともいえる領域で,現代生活を送る人々と共に,人間としての活動を続けている。
各執筆者によるテーマはバラバラに見えるかもしれないが,その布置をつなぐとヒューマニスティックアプローチのあまり知られていない輪郭をみることができる。本特集は,そのような理解が促進されることを期待して企画されたものである。
金子 周平(かねこ・しゅうへい)
所属:九州大学大学院人間環境学研究院
資格:公認心理師・臨床心理士・日本ゲシュタルト療法研究所SV50セッションDiploma
主な著書:コラム代表的な心理療法② 人間学派/Person-Centered Approach.In:一般社団法人日本公認心理師養成機関連盟(編):心理演習.遠見書房,2025









