【特集 アディクション臨床の最先端】#03 アディクション臨床における心理職の役割──個別支援と社会的支援をつなぐ|河西有奈


河西有奈(医療法人秀山会 白峰クリニック,SORA職場のアルコール相談センター)

シンリンラボ 第40号(2026年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.40 (2026, Jul.) 

1.はじめに

「心理職の仕事」と聞くと,多くの人は,面接室で行われる1対1のカウンセリングを思い浮かべるのではないだろうか。実際,心理療法は「個人の内面」に焦点を当て,その人の感情や認知,対人関係のパターン,生育歴などを丁寧に理解していく営みである。筆者自身も,心理臨床に携わり始めた当初は,「面接室の中で,まず目の前の人を深く理解し,支えること」が心理職として中心的な役割なのだと考えていた。

しかし,アディクション臨床の現場で長年多くの当事者と出会う中で,次第に強く感じるようになったことがある。それは,回復には「面接室の中で起こる回復」と「面接室の外で起こる回復」の両方があるということである。

もちろん,個別面接は重要である。安心して話せる場所,自分の苦しみを言葉にできる関係性,自分でも気づいていなかった感情や傷つきに触れていくプロセスには大きな治療的意味がある。また,支援において「信頼できる人との出会い」の入口となる可能性があるのも個別面接である。

一方で,アディクションを抱える人々の現実は,面接室の外側に広がっている。孤立,生活困窮,家族葛藤,失業や休職,借金,法的問題,偏見,生きづらさ──そうした現実の中で,人はアディクションを必要とし,やがて助けを求めることさえ難しくなり,社会から孤立していくことも少なくない。

だからこそ,アディクション支援では,「個人を理解すること」と同時に,「その人を社会の中で支えること」が求められる。そこでは,医師,看護師,精神保健福祉士,作業療法士,行政,司法,企業,自助グループ,地域支援者など,多くの人々との連携が欠かせない。また,支援の場も,診察室やカウンセリングルームだけではなく,デイケア,家族支援,就労支援,地域活動,さらには企業支援へと広がっていく。

興味深いのは,そのような多職種・多領域による支援の中にいると,逆に1対1の心理療法的関わりの価値がより鮮明に見えてくることである。揺れ動く本人の思いを支えること,再飲酒や再発のあとにも関係性を切らずに関わり続けること,本人がまだ言葉にできない苦しみを受け止めること等々,社会的支援が広がるほど,その土台として「個別の信頼関係」の重要性が浮かび上がってくるのである。

本稿では,アディクション支援における個別支援について述べるとともに,ケースマネジメント,多職種・多機関連携,地域とのつながりについて,架空事例を交えながら論じていきたい。そして,心理職が「人の内面を理解する専門家」であると同時に,「人と社会をつなぐ存在」として,どのような役割を果たしうるのかについて考えてみたい。

2.面接室の中で起こる回復・面接室の外で起こる回復

1)事例紹介
*個人情報に配慮して複数の事例を組み合わせて改変した架空事例である。

Aさん,30代女性。8歳の娘Bちゃんと二人暮らしのひとり親家庭である。成育歴としては,両親のケンカが絶えない家庭環境で育ち,学校でも孤立しがちであった。20代から飲酒量が増加し,酩酊時は自傷行為や市販薬乱用を繰り返していた。

未婚で出産した後も,飲酒問題は改善せず,依存症専門病院を受診したが治療プログラムには参加できなかった。その後,飲酒問題が悪化した際に入院となり,Bちゃんは児童相談所に一時保護となった。退院後はデイケアを併設するクリニックに通院することとなった。

Aさんは「早く娘を引き取りたい」と訴えていたが,診察では多くを語らなかったため,主治医より心理士Cに心理カウンセリングのオーダーが出され,継続面接が開始された。

2)面接室の中で起こった回復

心理士Cは,まず継続して通院できていること自体を支持しながら,信頼関係を築くことを大切にした。Aさんは警戒心が強く,自身のことを積極的に語ることは少なかった。そのため,飲酒や自傷行為についても責めたり指導したりするのではなく,「どのようなことでも,ご自身のペースで話してくださいね」と伝えながら,丁寧な傾聴を心がけた。

また,Aさんにとって最も切実な願いは,「Bちゃんを早く引き取りたい」ということであった。面接では,その思いを繰り返し受け止めながら,子どものひきとりに向けたプロセスについても共有した。本人が今どういう状況にいて,ひきとりのためには何に取り組む必要があるのかを一緒に整理することで,見通しを持てるよう支援した。

飲酒についても,「なぜ飲んだのか」ではなく,「飲酒がどのような役割を果たしていたのか」という視点を重視した。Aさんは長年,一人で子育てを担い,孤立感や不安を抱えながら生活してきた。飲酒はその苦しさを一時的に和らげる手段として機能していたと考えられた。Khantzian & Albanese(2008)は,アディクションを「心理的苦痛に対する自己治療」とする「自己治療仮説」を提唱しているが,その視点からみれば,アルコールは単なる問題行動ではなく,本人なりの生きるための対処でもあったと言える。

面接を重ねる中で,Aさんは少しずつ自身の苦しさを語るようになった。その背景には,幼少期からの孤立感や自己否定感,「誰にも頼れない」という感覚が存在していた。心理士は,それらを安易に解釈したり励ましたりするのではなく,まずは言葉として表現されたこと自体を大切に受け止めた。

Tatarsky(2012)は,「継続面接に基づくよい治療関係は,変化をもたらす上で基盤となるよい支えと安全感を作り出す」と述べているが,Aさんとの面接においても,まずは安心して話せる関係づくりを重視した。その土台ができてきたことで,飲酒場面を振り返りながら,飲酒につながる考え方や行動パターンを整理し,別の対処方法を一緒に考えるなど,認知行動療法的なアプローチにも少しずつ取り組めるようになっていった。

さらに,心理検査ではASD傾向が認められた。結果を本人にわかりやすく説明すると,「自分に当てはまると思う」と話された。これまでの対人関係の困難さや生きづらさを理解する手がかりとして本人の自己理解につながったようであった。

このように面接室の中では,飲酒行動そのものへの介入だけではなく,自身の苦しさを言葉にし,理解される体験が積み重ねられていった。

3)面接室の外で起こった回復

一方で,Aさんの回復は個別面接だけで進んだわけではなかった。

デイケアへの参加を通じて他職種のスタッフと話すことを経験し,同じような経験をもつ仲間と出会いもAさんの孤立感を緩めることにつながった。その後,児童相談所や保健センターとの関わりも少しずつ増えていった。心理士Cは,関係機関に対してASD傾向による特性を共有し,Aさんが新しい人間関係に慣れるまで時間が必要なことへの理解を求めた。当初はCが同席しなければ支援者との面談も難しかったが,次第に一人で保健師との面談に行けるようになった。地域の支援者とのつながりが増えるにつれ,子どもの引き取りに向けた見通しも立ち始めた。

4)個別支援と社会的支援をつなぐ

この事例では,面接室の中で起こる回復と,面接室の外で起こる回復の両輪があってこそ,回復が現実の生活へとつながっていった。

個別面接は,自己理解を深め,安心して気持ちを語れる場となった。一方で,実際の生活を支えたのは,デイケア,児童相談所,保健センターなどとのつながりであった。

アディクション支援では,個別支援か社会的支援かの二者択一ではなく,その両者を丁寧に行い,かつそれらをつなぐことが重要となる。そして,その橋渡し役を担いうることも,心理職の大切な役割の一つではないだろうか。

3.回復を支えるのは「関係性」と「つながり」

1)アディクションは「やめればよい」問題ではない

アディクション支援に携わっていると,「こんなにも健康や家族,信頼,お金などを失っていくのに,なぜやめられないのか」という問いを,本人や家族はもとより,支援者自身も抱くことがある。しかし,アディクションの問題は単なる意思の弱さや自己管理能力の問題として説明できるものではない。

アルコールや薬物,嗜癖行動の背景には,孤立感,対人関係の困難,仕事や家庭のストレス,経済的不安,過去の傷つき体験など,さまざまな要因が複雑に絡み合っている。本人にとってアディクションは,「問題」であると同時に,苦痛をやわらげるための対処手段として機能している場合も少なくない。

そのため,症状だけに焦点を当てた支援には限界がある。アディクション支援では,「何をやめるか」だけではなく,「何に苦しみ,何を支えに生きてきたのか」という,その人の人生や生活の文脈を理解しようとする視点が求められる。

2)回復を支えるのは「関係性」と「居場所」

アディクションからの回復において重要なのは,「孤立からの回復」である。

多くの当事者は,「誰にも相談できなかった」「本音を話せなかった」と語る。問題が進行するほど周囲との関係は損なわれ,本人はさらに孤立していく。

そのような中で,先に述べたように,まずは個別支援において「自分を理解してくれる人」と出会うことには大きな意味がある。続いて,自助グループやデイケア,地域活動などで同じ経験を持つ仲間との出会いがもてることは,「自分だけではなかった」という安心感や,「自分も回復できるかもしれない」という希望につながる。

回復とは単に飲酒や使用が止まることではなく,人とのつながりや社会との接点を取り戻していく過程でもある。その意味で,デイケアや地域活動,就労支援などは,社会との再接続を支える重要な場となる。

3)多職種・多機関連携が必要となる理由

アディクション支援では,心理以外の専門職が対応する方が適切な問題が多々あり,医師,看護師,精神保健福祉士,作業療法士,時には回復者スタッフなど,多様な支援者との協働が必要となる。また,医療だけでは解決できない課題が少なくない。家族関係,経済問題,就労,住居,司法的課題など,生活上の問題は多岐にわたる。重要なのは,「この人を地域の中でどう支えていくか」という視点であり,特定の支援者一人が抱え込むのではなく,それぞれの専門性を活かしながら支えていくことが求められるのである。

4.個別支援と社会的支援をつなぐ心理職の役割

1)ケースマネジメントという視点

アディクション臨床におけるケースマネジメントは,単なるサービス調整ではない。本人の生活全体を見立てながら,必要な支援につなぎ,その人が地域の中で生活していくことを支える支援である。

アディクション支援では,支援につながっても離脱し,再び戻ってくることも少なくない。そのため,支援内容だけでなく,「関係を持ち続けること」自体が重要な支援となる。

2)心理職がケースマネジメントで活かせる専門性

心理職の強みは,継続的な個別支援を通して本人の変化や葛藤を理解していること,そして本人との信頼関係が構築されていることである。アディクション支援では,「やめたい気持ち」と「やめたくない気持ち」が共存することも多い。心理職は,その揺れや背景にある苦しさを理解しながら関わるが,回復の過程では,本人がこれまでの生き方や対処行動を見直し,新たな一歩を踏み出すことが求められる場面もある。その時,安心して本音を語れる関係性は,変化を支える重要な基盤となる。

また,成育歴,対人関係の特徴,発達特性,トラウマ反応などをアセスメントし,問題行動の背景にある心理的・社会的要因を理解しようとする視点も心理職の重要な専門性である。

3)ケースマネジメントにおいて心理職が意識したいこと

心理職は,その専門性ゆえに,本人の内面理解や心理的背景の把握に意識が向きやすい。もちろんそれは重要な役割である。しかしアディクション支援では,理解することだけでなく,「今,この人に必要な支援は何か」「誰とつながることが回復につながるのか」という視点も欠かせない。心理職がケースマネジメントに関与する際には,心理的理解と生活支援の両方を視野に入れながら支援を組み立てていくことが求められる。

筆者自身は支援方針を考える際,「これは,面接室の中で対応できることなのか」「院内の多職種協働が必要なのではないか」「地域や関係機関との連携が必要ではないか」を常に自問自答するようにしている。

そのためには,自職種のできること・できないことを理解し,必要な支援を提供できる職種や機関を把握しておくことが重要である。心理職に求められるのは,すべてを自分で抱え込むことではなく,本人のニーズを見立て,適切な支援につなげていくことである。

4)心理検査の「つながる機能」と「架け橋機能」

心理検査には,検査そのものの活用だけでなく,「つなげる機能」や「架け橋機能」がある(河西,2025)。あまり話さない,警戒心が強いといった事例Aさんのような「つながりにくい」クライエントと,心理検査という枠内でかえって関係性が築けることがあり,検査結果を通じて治療者が理解をすすめ,本人との関係が深まることがある。また,検査者が支援者として耳を傾けることで,「語りたい気持ち」が出てきて,医師の診察においても話せるようになる場合もある。事例Aさんにおいて,ASD傾向に関する理解は,対人関係の困難さや孤立感を振り返る契機となり,その理解を支援者間で共有したことは,他機関における支援の再構築にもつながった。

このように心理検査には,本人と支援者を「つなぐ機能」と,多職種・多機関の支援を「つなぐ架け橋機能」があり,支援の一部として重要な意味を持つと考えられる。

5.医療の外に目を向けることで見えてきたこと

1)職場支援との出会い

筆者は長年,アルコール依存症の専門医療の中で重症例の支援に携わってきた。近年は,休職者支援や企業研修などを通じて,企業からアルコール問題に関する相談を受ける機会も増えている。

そこで改めて感じたのは,医療につながる時点では,すでに問題が深刻化しているケースが少なくないということである。一方で企業側からは,「もっと早い段階で相談できていれば」という声も聞かれる。その経験を通して,重症化してからの治療だけではなく,重症化を防ぐ支援の重要性を強く意識するようになった。

2)一次予防・二次予防・三次予防はつながっている

アルコール依存症の専門医療にいると,「もっと早く関われていたら」と感じる場面は少なくない。

実際には,飲酒量の増加や生活上の問題が生じていても,「まだ依存症ではない」「相談するほどではない」といった否認がおこり,支援につながらないまま重症化していくことも多い。

中〜重度の人への支援に携わる一方で,企業ではリスク群や予備群の段階にある人々にも出会う。そこで改めて見えてくるのが,啓発や早期発見・早期介入の重要性である。一次予防,二次予防,三次予防は別々のものではなく,一連の連続した支援として捉える必要があると感じている。

3)医療の外に出ることで見えてくるもの

企業,地域,行政,司法,教育など,医療以外の領域とかかわることで,それまで見えていなかった視点に気づかされることがある。

例えば企業では,「アルコールの相談などしたら差別されるのではないか」「処分されるのではないか」といったスティグマが相談を妨げていることがある。行政や地域支援の現場では,生活課題や家族問題が大きく前面に出ていて支援につながれないことも少なくない。また,教育の現場では,不登校やいじめ,親子関係などが大きなテーマとして背景にあったりする。このように,背景にある課題は,立場や領域によってさまざまに異なって見えてくる。

多領域の支援者と協働することは,自分たちが当然だと思っていた医療的な価値観を見直す機会にもなる。他領域の視点を知ることは,支援対象者への理解を深めるだけでなく,心理職自身の視野を広げることにもつながる。アディクション支援が多様な領域にまたがる問題であるからこそ,心理職もまた,多様な領域から学び続ける姿勢が求められるのではないだろうか。

6.おわりに

心理職は,「人の内面を理解する専門家」であると同時に,「人と社会をつなぐ専門職」にもなりうるのではないだろうか。面接室の中だけで完結するのではなく,多領域と協働しながら,その人が地域の中で再び生きていくことを支えていく視点が,これからますます求められていくように思われる。

筆者はこれまで,アディクション支援において「つながる・つなげる・つながり続ける」ことの重要性を繰り返し発信してきた。アディクションの問題を抱える人々の多くは,人とのつながりを失い,酒や薬物だけが頼れる存在になっていることも少なくない。だからこそ支援においては,人とつながること,人につなげること,そして支援者が関係性を切らずにつながり続けることが重要となる。

回復とは,単に飲酒や使用が止まることだけではない。酒や薬物としかつながれなかった人が,再び人や社会とつながっていくこと,そのプロセスそのものが回復なのではないだろうか。そして,その歩みを支えることこそが,アディクション臨床における心理職の重要な役割の一つであると筆者は考えている。

文  献

  • 河西有奈(2021)保健医療分野におけるアディクション.In:横田正夫監修:心理学からみたアディクション.朝倉書店.
  • 河西有奈(2025)アディクション臨床とケースマネジメント.臨床心理学 地域精神保健福祉の歩き方,25 (3); 356-361.
  • Khantzian, E. J., Albanese, M. J.(2008)Understanding addiction as self-medication: Finding hope behind the pain. Rowman & Littlefield Publishers.(松本俊彦訳(2013)人はなぜ依存症になるのかー自己治療としてのアディクション.星和書店.)
  • Tatarsky, A.(2007)Harm Reduction Psychotherapy. Jason Aronson, Inc.
+ 記事

河西 有奈(かさい・ありな)
医療法人秀山会 白峰クリニック
SORA職場のアルコール相談センター
資格:公認心理師,臨床心理士
主な著書:
『実践アディクションアプローチ』(分担執筆,金剛出版,2019),『心理学からみたアディクション』(分担執筆,朝倉書店,2021),『どうする!? 職場のアルコール問題』(分担執筆,金子書房,2025),ほか

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