【特集 ヒューマン・アニマル・ボンド】#09  精神科医療の現場で動物介在介入を導入・検討した経緯|浅原久子


浅原久子(医療法人 碧水会 長谷川病院)

シンリンラボ 第39号(2026年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.39 (2026, Jun.) 

1.導入を検討した背景

精神科病棟では,薬物療法や精神療法だけでは,治療者は拒否的だったり,対人交流が極端に困難だったり,言語化が難しい感情やトラウマがあったり,長期入院による情動の平板化・無気力感があるが,動物がこれらの隙間を埋める可能性があると考えられた。導入検討時に重視したのは,①不安・緊張の低下,抑うつ気分の一時的軽減,興奮・易刺激性の緩和,②「動物を介した第三項関係」により,直接対人より負荷が低く医療者との距離が縮まる,③リハビリテーション的効果である。

精神科だからこそ,慎重な適応判断が必要である。強い潔癖傾向や妄想内容に動物が組み込まれている場合や衝動性・攻撃性が高い急性期の患者などは,適応に注意が必要だ。それ以外の精神疾患の患者様は,動物と過ごすことにより,何も考えず心地良い気持ちで無心になり,結果,怒りなどが軽減し,不安や緊張が和らぐ。

導入時に行った具体的プロセスは,医師・看護師・作業療法士で検討し,感染対策・事故時対応マニュアル化し,専門団体の認定を受けた動物・ハンドラーにより,動物のストレス評価と休止基準設定を行った。

医療者として感じた意義は,「治療に乗らない患者さん」が治療空間に戻ってきて,人間性を取り戻したことである。

動物介在介入は,「薬でも言葉でも届きにくい部分に橋をかける医療補助技術」

として,適切な枠組みと倫理のもとであれば,精神科医療に確かな価値をもたらすと感じている。

導入検討時に必ず議題になった論点

① 医療安全・感染管理

• 動物の健康管理(定期健診・ワクチン・寄生虫対策)

• 接触前後の手指衛生

• 動物アレルギー患者のゾーニング

これらは,日本動物病院協会と病院関係者とで協議した。

病院での実施形態

最も導入しやすい作業療法の一環として月1回に看護師・OTが場の安全管理を行った。ご家族様には,ご本人の希望を伺ったうえで,リハビリステーションスタッフが中心となり運営し,患者様の安全には配慮し,なるべくご本人の希望に沿いながら取り組むことを伝え,動物アレルギーなど参加不可の配慮が必要か,アニマルセラピー参加の同意書送付と返送へのご協力のお願いをした。「参加同意書」には,

1)公益社団法人日本動物病院協会のアニマルセラピー(以下CAPP)を導入し,動物と触れ合うことによる情緒的な安定,レクリエーション・QOLの向上などを主な目的とした作業療法を行います。

2)CAPPに参加する動物は,犬・猫など人間と暮らしてきたコンパニオンアニマル(伴侶動物)と呼ばれる動物です。動物は適正チェックや健康診断を受けており,当日は獣医師による動物の健康チェックを行ってから活動に入ります。

3)作業療法士が患者様を見守り,必要に応じて援助・介入を行います。

4)動物は日本動物病院所属のスタッフが見守り,必要に応じて介入を行います。

5)CAPP参加に際しては当院にて動物アレルギー検査は行いません。動物アレルギー疑いがある患者様の参加はご遠慮ください。

6)CAPP中に生じた怪我やアレルギー反応等に対する治療は原則として当院で行いますが,症状によっては他の病院にて治療を行う場合もあります。

7)上記6の費用は患者様の負担となります。

8)同意書を記入後も体調不良や参加を希望しない際は欠席または同意書の撤回をすることができます。

などの項目を示して,ご理解いただいたうえで参加希望の場合はサインを記入してもらった。

医療者として実感した“治療的価値”

面接導入が極端に困難な患者様や言語化が苦手な無表情だった患者様の表情が笑顔に変わったり,病棟では,全く発語がなかった患者様の発語量が増えたり,動物の様子を他者へ話しかけたり,他者への注意が向くなどが見られた。

例えば,集団でやっている作業療法は,自分のためと思っていないから,自宅でテレビをつけっぱなしにしているのと同じ状態で上の空で参加している。ところが,動物は,自分のためにダイレクトに関わっているから,触るなどの注意を向けやすくなる。

→ これは薬では作りにくい変化である。

生理的・身体的効果として,犬や猫を撫でたり,見ることによりオキシトシンが分泌されて,血流が良くなり自律神経が整えられる。

このオキシトシンホルモンは,愛情ホルモンと言われ幸福感,愛情や信頼関係に肯定的に作用する。患者様は,犬と交流することにより,オキシトシンを分泌し,犬は患者様を見つめることにより,オキシトシンを分泌する。(図1)

図1

「先生と話すのは苦手だけど,○○(動物)なら……」

この「第三項」の存在が,医療者—患者の緊張を緩める(潤滑油)のは確かである。

軽度認知症では,動物介在介入はかなり相性が良い。

一緒に歩くことにより,脳血流を上げたり転倒予防の練習になったり,今まで自分の過去の話しをしなかった人が,動物を飼っていた昔のことを思い出し,会話のきっかけが増加し,コミュニケーションが増え,安心感と自己肯定感が上がり,感情への直接刺激になった。常に騒いでいて15分間じっとしていられない人が,その場に最後まで参加し,表情は穏やかに楽しんでいた。

治療に乗りにくい患者を,治療可能な場所に戻すための介入として使うと,最も医療的価値が高いと感じる。

+ 記事

浅原久子(あさはら・ひさこ)
北里大学薬学部卒業
資格:薬剤師
現在:長谷川病院 薬剤部に勤務の傍ら
日本動物病院協会 CAPPチームリーダー
専攻:精神科薬剤師
趣味:ワンコ(グレートピレニースとサモエド)と一緒にCAPPの活動をしたり、遊びにいったり、JKCのドッグショーに出ることです。
我が家のワンコは、2頭共にチャンピオン登録犬です。

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