濱野佐代子(日本獣医生命科学大学)
シンリンラボ 第39号(2026年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.39 (2026, Jun.)
1.はじめに
現在日本では,犬が約682万頭,猫が884万7千頭,飼育されている(ペットフード協会,2025)。この数は15歳未満の子どもの1,366万人(総務省統計局,2025)を上回っている。現在社会において,ペットは単なる動物ではなく家族の一員として共に暮らしている。
またペットは日常的な世話を必要とし,一生涯を通じて責任を担うことから,「子どものような存在」として捉えられることも少なくない。しかし,飼い主にとっては,いつまでも無邪気で永遠の子どものような存在でありながら,ペットは人よりも早い速度で年老いていき,やがて飼い主よりも先に死を迎える。
愛情を注いできたペットを喪失した家族の悲しみは計り知れないほど深い。しかし一方で,周囲からは「たかが動物の死」として軽視され,十分に理解を得られない現状もある。ペットロスは決して特殊な問題ではなく,大切な存在を失う「愛着対象の喪失」として理解される必要がある。
今後,多くの飼い主がペットとの死別を経験する時代を迎えると考えられる。こうした状況を踏まえると,ペットロスのグリーフケア注1)は,これからの社会においてますます重要な課題となるだろう。
注1)「グリーフ(悲嘆)」とは,大切な人やペットを喪失したときに経験する深い悲しみや,それに伴う様々な反応のことを指す。悲嘆から回復に向かう過程を促進し,喪失から生じる問題を軽減するために,寄り添い,援助することを「グリーフケア」という。
本稿では,ペットロスの特徴と,心理支援におけるグリーフケアについて考察する。
2.ペットロスの悲嘆の特徴
1)ペットロスとは何か
「ペットロス」とは,愛着対象であるペットを死別や別離で失う対象喪失の一つであり,それに伴う一連の苦痛に満ちた悲哀の心理的過程の総称である(濱野,2013)。その喪失の悲しみは,「悲哀(喪)(mourning)」,「悲嘆(grieving,grief)」と表される。
ケディKeddie(1977)は,ペットロスの悲嘆は,人との死別時にみられる反応と類似し,その後の適応過程も重要な他者と死別した場合と類似していると指摘している。ペットロスによる悲しみや心の痛みは,ペットを深く愛したからこそ生じる自然な反応であり,多くの飼い主が経験するものである。
一方,木村ら(2016)は,ペットを亡くした人を対象に縦断的に精神的健康度を評価した結果,ペット死別直後で59.5%,2か月後で56.7%,4か月後でも40.7%が医師の介入を要するリスク群と判定されたと報告した。このことから,ペットロスは精神的健康にも影響を及ぼす可能性が示唆される。
ペットに愛情を注ぎ,家族の一員として共に生活してきた飼い主にとって,ペットはかけがえのない存在である。そのため,ペットロスは深刻な心理的影響をもたらす場合があり,適切な理解や支援を含めて捉える必要がある。
2)公認されない悲嘆
ペットが亡くなった際,周囲から「動物が死んだくらいで」と軽視されることは少なくない。ペットとの死別は,社会的に認知されにくく,その悲しみが理解されにくい現状がある。そのため,職場や学校などで悲しみを表現しづらく,気持ちを抑え込んでしまう人も多い。さらに,「また同じ種類のペットを飼えばいい」等の言葉をかけられることで,かえって深く傷つく場合もある。
このように,ペットの喪失は,当事者が深い悲嘆を経験しているにもかかわらず,社会的に十分理解されにくい「公認されない悲嘆(disenfranchised grief)」の一つであるとされている(Doka, 2002)。そのため,周囲から適切な支援や共感を得られにくく,悲しみを抱えたまま孤立してしまうことも少なくない。
しかし,「たかが動物の死」と軽視してよいのだろうか。ペットは飼い主にとって,保護責任を伴う子どものような存在であり,その喪失は強い罪悪感や自責感を引き起こすことがある。さらに,社会の理解不足や周囲の非理解が,遺された飼い主をより深く追い詰める可能性も指摘されている(濱野,2020)。
したがって,ペットの喪失については,単なる個人的な悲しみとして捉えるのではなく,悲嘆からの回復を支えるグリーフケアの視点を含めて考えていく必要がある。
3)罪悪感・自責感を伴いやすい悲嘆
飼い主は,ペットに対して保護し世話をする責任を担っている。そのため,ペットを失った際には強い自責感を抱きやすい。「もっと早く病気に気づけばよかった」「別の治療法を選んでいれば助かったのではないか」など,治療や延命,安楽死の選択をめぐる葛藤や後悔を抱えることは少なくない。
とくに安楽死の選択は,飼い主に大きな心理的負担を与える。たとえ苦痛を軽減するための最善の判断であったとしても,ペット自身が自らの意思を言葉で示すことはできない。そのため,「この選択は本当にペットの望んだことだったのか」と,自らの決断に対して答えの出ない問いを繰り返し抱え続ける飼い主もいる。
また,どれほど愛情を注ぎ,懸命に世話をしていたとしても,多くの飼い主は「助けてあげられなかった」「守ってあげられなかった」という罪悪感や自責感を抱く。それは,大切な存在であったからこそ生じる自然な感情であり,責任感の裏返しともいえる。
3.グリーフケア
1)絆の再構築
ペットロスの悲嘆からの回復とは,「ペットのことを思い出すと,悲しみや苦痛に圧倒され,生活に支障がでる」状態を脱する,自分なりに喪失と折り合いをつけられるようになっていくことである。ペットのことを忘れることではない。思い出したときに押し寄せていた強い悲しみや苦しさが少しずつ和らぎ,あたたかな思い出や楽しかった記憶を穏やかに振り返ることができるようになる過程である。
悲しみそのものが完全に消えるわけではない。しかし,そのペットとの愛情,あたたかい思い出,感謝の気持ちが,悲しみを包み込んでいってくれる。さらに,そのペットとの絆は,その先も紡ぎ続けられる。
2)グリーフケアの必要性
ペットロスは,愛着対象を喪失することによる深い悲嘆経験である。しかし,その悲しみは「たかがペット」と軽視されやすく,社会的に理解されにくい「公認されない悲嘆」として孤立を深める場合も少なくない。
多くの人は,自身の力や周囲の支えを得ながら,時間をかけて徐々に回復,適応していく。しかし,悲哀が長期化・複雑化することを防ぐためにも,その悲嘆の心理過程を支えるグリーフケアは重要である。安心して悲しみを表現できる場を整え,家族や友人,獣医療スタッフや周囲の人が悲嘆を否定せず受け止める姿勢が求められる。
3)心理支援
支援者にとって,心のどこかで単なる動物という思いが拭えないこともあるかもしれない。まずは,当事者にとっては「ペットは大切な家族の一員」であると理解するところから始めてほしい。なぜなら,この姿勢が支援に肯定的な影響を及ぼすからだ。
また,ペットを失った悲しみから早く回復させようとするのではなく,その人の語りを丁寧に受け止めることが重要である。ペットとの出会いや日常の思い出,最期の場面,後悔や罪悪感などを安心して語れること自体が,悲嘆の整理や意味づけにつながっていく。
ペットロスの特徴として自責感を抱え続けることも少なくない。そのため,支援者には,正しさを判断したり安易に励ましたりするのではなく,揺れ動く感情に寄り添う姿勢が求められる。
人とペットとの関係は,現代社会においてますます深く密接なものとなっている。今後,ペットロスのグリーフケアの重要性はさらに高まっていくだろう。ペットロスは,単なる「ペットの死」ではなく,大切な愛着対象との関係性を失うことによって生じる深い悲嘆経験として理解し,ペットとの絆を心の中で新たに結び直していく過程に寄り添う支援が必要である。
文 献
- Doka, K. J. (Ed.)(2002)Disenfranchised grief: New directions, challenges, and strategies for practice. Research Press.
- 濱野佐代子(2013)ペットロス.In:日本発達心理学会編:発達心理学事典.丸善出版,pp.494-495.
- 濱野佐代子編著(2020)人とペットの心理学:コンパニオンアニマルとの出会いから別れ.北大路書房.
- 濱野佐代子(2024)「ペットロス」は乗りこえられますか?:心をささえる10のこと.KADOKAWA.
- Keddie, K. M. G.(1977)Pathological mourning after the death of a domestic pet. British Journal of Psychiatry, 131; 21-25.
- 木村祐哉・金井一享・伊藤直之・近澤征史朗・堀泰智・星史雄・川畑秀伸・前沢政次(2016)ペットロスに伴う死別反応から医師の介入を要する精神疾患を生じる飼主の割合.獣医疫学雑誌,20 (1); 59-65.
- ペットフード協会(2025)令和7年(2025年)全国犬猫飼育実態調査 主要指標サマリー.https://petfood.or.jp/pdf/data/2025/3.pdf
- 総務省統計局(2025)統計トピックスNo.145 我が国のこどもの数:「こどもの日」にちなんで(「人口推計」から).https://www.stat.go.jp/data/jinsui/topics/topi1450.html
濱野佐代子(はまの・さよこ)
日本獣医生命科学大学 全学教育センター 人と動物のWell-being心理学分野 教授。
博士(心理学)。放送大学客員教授。
資格:獣医師,公認心理師,臨床心理士。
専門:人と動物の関係学・生涯発達心理学。
主な著書:『「ペットロス」は乗りこえられますか?―心を支える10のこと』(単著,KADOKAWA,2024)
『人とペットの心理学―コンパニオンアニマルとの出会いから別れ』(編著,北大路書房,2020)
『日本の動物観―人と動物の関係史』(共著,東京大学出版会,2013)
『新乳幼児発達心理学第2版―子どもが分かる好きになる』(分担執筆,福村出版,2023)など。
趣味:テニス,観劇。









