【特集 ヒューマン・アニマル・ボンド】#07 馬介在サービス|野瀬 出


野瀬 出(日本獣医生命科学大学)

シンリンラボ 第39号(2026年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.39 (2026, Jun.) 

1.馬介在サービスとは

人が馬と関わることで,心身にどのような変化が生じるのだろうか。近年,医療や福祉,教育の現場において,動物との相互作用を活用した支援が注目されている。その中でも,馬を用いた活動が馬介在サービス(Equine-Assisted Services: EAS)である。最近使われることが増えている用語であり,日本においてはまだ「ホースセラピー」や「乗馬療法」と呼ばれることが多い。さまざまな呼称が乱立して混乱が生じているため,用語の整理が進められてきた。北米の馬介在サービス関連団体の合意文書(Wood et al., 2021)によると,馬介在サービスとは「人々に利益をもたらすために,馬を活動に取り入れた専門家による多様なサービスの総称」と定義されている。以下の3つの専門分野が含まれるが,本稿では主に治療分野について取り上げる。

1) 治療(Therapy):理学療法,作業療法,カウンセリング,心理療法など

2) 学習(Learning):個人や組織の成長を目的として実施される教育活動,コーチング,チームビルディングなど

3) 馬術(Horsemanship):適応的(障がい者)乗馬,馬上体操,馬車操縦など

2.馬とはどのような動物か

馬は約5,500年前に家畜化された動物である。約350°という非常に広い視野をもち,可聴域は人よりも高音域に広がっており(33.5〜55kHz),比較的正確な音源定位が可能である。被捕食動物である馬は,常に周囲の環境や他個体の変化を感知し,俊敏に反応しなければならない。また,馬は野生下においては群れを形成し,リーダー個体を中心とした行動の連携をとる社会的な動物でもある。長きにわたって人と生活を共にし,使役動物として移動や輸送,農耕の役割を担ってきた。かつては軍事利用もされていたが,近年では娯楽・文化的利用(競馬,スポーツ)が多くなっている。

心理学で馬と言えば,「賢馬ハンス」が有名である。20世紀初頭のドイツにいた馬で,計算をすることができると話題になった(右前脚を踏みならすことで回答する)。しかし,その後の調査により,ハンスは計算をしているのではなく,質問者の微細な反応(頭がわずかに上がるなど)を感知し,正解に達した時点で足踏みを止めていたことが明らかになった(Pfungst, 1907)。心理学では実験者効果や擬人化が科学的検証を困難にすることを示す例として扱われることが多い。一方で,馬がいかに鋭敏に,人が発する社会的信号を感知しているかを示しているとも言える。馬は長年にわたる人との生活を通して,人に対する社会的認知能力を発達させてきたと考えられている。実際に,馬が人の指差し(社会的信号)に反応できることや,人の感情的な表情や音声を認識していることが示されている(Maros et al., 2008; Trösch et al., 2019)。

3.馬介在サービスはどのような効果をもたらすか

馬介在サービスには,様々な活動が含まれている。ここでは騎乗活動とグラウンドワーク(馬に乗らない地上での活動)に分けて紹介していく。

1)騎乗活動

騎乗活動とは,参加者が馬に騎乗して行う活動である。騎乗できることは,他の介在動物にはない馬の特徴の一つである。参加者が子どもや障がいのある人の場合,一人で騎乗することは難しい。そこで参加者が馬に乗った状態で,スタッフが馬の手綱を引いて歩く「引き馬」が実施されている。引き馬では,複数のスタッフがサポートに入る。インストラクターは少し離れた場所から活動の指示を出し,リーダーは馬をコントロールし,サイドウォーカーは騎乗者の横で介助を行う。馬上で手足を動かしたり,体勢を変えたりといった動作を行う場合もある(馬上体操)。

馬の3次元的でリズミカルな揺れに合わせてバランスを取ることで体幹が鍛えられ,姿勢の制御や運動調整能力が向上する。特に,リハビリテーションにおける効果は,高齢者や脳性麻痺,脳卒中後の患者を対象として検証されており,バランスや粗大運動,歩行の向上が認められている(Batista et al., 2023; Stergiou et al., 2025)。

2)グラウンドワーク

グラウンドワークは馬には乗らず,地上で馬と関わる活動である。馬への餌やり,ブラッシング,厩舎の清掃,放牧などが含まれる。メンタルヘルスの改善や参加者の成長・学習を目的として実施する場合には,騎乗活動とグラウンドワークを組み合わせて実施することが多い。Rider(馬をコントロールする人)だけでなく,Caregiver(馬の世話をする人)としての役割を担うことで,向社会的行動の促進,自己効力感の向上といった効果が期待される。これまでに,自閉症スペクトラム症児における問題行動の減少,社会的コミュニケーション能力の向上(Srinivasan et al., 2018),統合失調症患者やPTSDを抱える退役軍人における陰性症状の軽減(Jormfeldt & Carlsson, 2018; Provan et al., 2024)などの効果が報告されている。

グラウンドワークを単独で実施する場合もある。EAGALA(Equine Assisted Growth and Learning Association)が提唱する心理療法モデルでは,騎乗活動は行わない。馬と地上で交流し(例えば,ロープを使わずに馬を別の場所に誘導する),その体験中に何が起きたか,どのように感じたかをファシリテーターと振り返ることで,自己に関する気づきを得ようとする。馬は単なるツールではなく,非言語的コミュニケーションを通じて共に作業を行うパートナーとして機能する。

4.人と馬の関係を支える視点

馬介在サービスは人と馬の相互作用に基づく活動である。馬は人のわずかな動きから意図や感情を察知する能力を有するが,人も馬の状態について注意を払わなければならない。例えば,馬の耳が後ろに倒れていたり,目が細くなっていたりするとストレスサインである。エクマンEkman ら(2002)が人の表情分析のために開発したFACS(Facial Action Coding System)が,動物にも応用可能である。馬用FACS(EquiFACS)に基づき,馬の感情状態を自動判定する研究も実施されている(Feighelstein et al., 2024)。

現在,馬を含めた動物介在サービス全般において,One Welfareの視点が重視されている。One Welfareとは,人・動物・環境のウェルビーイングを一体的に向上させることを意味する。馬介在サービスに参加する馬は望ましい行動特性を有しており(行動が安定しており,人に親和性がある),適切にトレーニングがなされている必要がある。参加者に対しても条件が付されており,動物に対するアレルギーがなく,恐怖心が強くないことが求められる。また,動物虐待の経験がある場合は参加が制限される。馬と参加者のミスマッチは事故リスクを高め,双方のウェルビーイングを低下させる要因となりうる。

5.おわりに

本稿では馬介在サービスについて概説した。さらに詳しい実施手順について知りたい場合は,専門的なガイドブック(局, 2018; 高橋ら, 2023)を参照していただきたい。馬介在サービス効果についての実証的研究は,心理臨床領域においては十分とは言えない。実践の質を担保するためには“人の専門家”と“動物の専門家”が協働し,研究知見を体系的に蓄積していくことが求められている。

文  献
  • Batista, S. M. L. P., Melo, M. R., Albuquerque, C. M. de S., et al.(2023)Horse-assisted therapy for balance in the elderly: a systematic review of the literature. Studies in Health Sciences, 4 (4); 1084-1108.
  • Ekman, P., Friesen, W. V., & Hager, J. C.(2002)Facial action coding system: The manual. Research Nexus.
  • Feighelstein, M., Riccie-Bonot, C., Hasan, H., et al.(2024)Automated recognition of emotional states of horses from facial expressions. PLoS ONE, 19 (7); e0302893.
  • Jormfeldt, H., & Carlsson, I. M.(2018)Equine-assisted therapeutic interventions among individuals diagnosed with schizophrenia. A systematic review. Issues in Mental Health Nursing, 39 (8); 647–656.
  • Maros, K., Gácsi, M., & Miklósi, Á.(2008)Comprehension of human pointing gestures in horses (Equus caballus). Animal Cognition, 11 (3); 457–466.
  • Pfungst, O.(1907)Das Pferd des Herrn von Osten (Der Kluge Hans): Ein Beitrag zur experimentellen Tier- und Menschen-Psychologie. Johann Ambrosius Barth.(秦和子訳(2007)ウマはなぜ「計算」できたのか:「りこうな馬ハンス効果」の発見.現代人文社.)
  • Provan, M., Ahmed, Z., Stevens, A. R., et al.(2024)Are equine-assisted services beneficial for military veterans with post-traumatic stress disorder? A systematic review and meta-analysis. BMC Psychiatry, 24 (1); 544.
  • Srinivasan, S. M., Cavagnino, D. T., & Bhat, A. N.(2018)Effects of equine therapy on individuals with autism spectrum disorder: A systematic review. Review Journal of Autism and Developmental Disorders, 5 (2); 156–175.
  • Stergiou, A. N., Ploumis, A., Kamtsios, S., et al.(2025)Effects of equine-assisted therapy: A systematic review and meta-analysis. Journal of Clinical Medicine, 14 (11); 3731.
  • 高橋のりこ・高橋智・石井孝弘ほか編(2023)ホースセラピーサポートブック.うまJAM.
  • Trösch, M., Cuzol, F., Parias, C., et al.(2019)Horses categorize human emotions cross-modally based on facial expression and non-verbal vocalizations. Animals, 9 (11); 862.
  • 局博一監修(2018)動物介在教育アシスタントコース:応用編/馬介在教育.動物介在教育・療法学会.
  • Wood, W., Alm, K., Jelinski, J., et al.(2021)Optimal terminology for services in the United States that incorporate horses to benefit people: A consensus document. Journal of Alternative and Complementary Medicine, 27 (1); 88–95.
+ 記事

野瀬 出(のせ・いずる)
日本獣医生命科学大学 比較発達心理学分野 准教授
博士(医学)、公認心理師、動物介在教育・療法学会 副理事
著書:土田あさみ・野瀬出(編著)『動物介在教育 基礎』動物介在教育・療法学会(2023)

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