吉田尚子(公益社団法人 日本動物病院協会)
シンリンラボ 第39号(2026年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.39 (2026, Jun.)
1.ヒューマン・アニマル・ボンドと司法臨床
人と動物の絆(以下HAB)は,情緒的つながりを超え,対人援助における臨床資源として注目されている。トラウマ支援などにおいて,犬の介在はストレス反応や心理的安定に関与しうることが報告されている(Beetz et al., 2012)。司法手続きにおいても,こうした特性が対象者の援助関係の形成を促す基盤となりうる。
2.付添犬の効果と科学的根拠
付添犬は,虐待などを受けた子どもが,その出来事について司法関係者や医療従事者などに安心して伝えられるように手助けするために派遣される。
なぜ犬の存在が心理支援に有用なのか
スプルインSpruinら(2020)は,裁判に立ち会う犬の存在が被害者の安心感やラポール形成を補助し,被害者の尊重に寄与しうることを示した。特にトラウマにより,子どもが恐怖で圧倒され解離状態に陥った際,傍らに寝そべる犬を撫でる五感への刺激は,子どもを現実世界へと繋ぎ止める。また,犬との能動的な関わりは,虐待環境下で損なわれがちな自信を回復させる一助となる。
3.日本における付添犬実践の形成
1)草の根活動から司法支援モデルへ
日本での付添犬実践は,2014年に発足した「コートハウスドッグ準備委員会(現・付添犬認証委員会)」を起点に,医師,獣医師,研究者らによる勉強会と実践の蓄積を通じて米国 Courthouse Dogs🄬 Foundation(以下CDF)と連携しながら,導入条件が整えられてきた。当初は法律関係者を欠き,草の根的活動にとどまっていたが,弁護士の参画を契機に司法支援としての制度化が進展した。2019年には,CAC(Children’s Advocacy Center)を参考に,医療,心理,福祉,司法をつなぐ支援拠点としてNPO法人子ども支援センターつなっぐ(以下つなっぐ)が設立された。子どもが複数機関で繰り返し被害体験を語ることで生じる二次被害の軽減と,一貫した支援が目的である。この設立に伴い,準備委員会は法人内に位置づけられ,付添犬実践は組織的基盤を得た。
2)認証制度と日本モデルの構築
2020年3月には公益社団法人日本動物病院協会(以下JAHA)認定犬のフランが国内初の付添犬として認証され,同年7月,「付添犬」の呼称と運用枠組みが正式化された。同年,社会福祉法人日本介助犬協会(以下JSDA)との連携により,ハッシュによる日本初の法廷同伴も実現した。現在,付添犬はJAHAおよびJSDAの2団体から,つなっぐを通じた派遣体制のもとで運用されており,現時点で同様の活動は認められていない。
以後,2026年3月時点で付添犬の登録数は11頭,派遣実績は累計230件に達している。この実践は,米国CDF基準に基づく認証制度,犬の適性評価,ハンドラー研修,多職種連携によって支えられている。
3)対象となる活動,派遣プロセスとコーディネーション
付添犬の活動は,司法面接,医療機関での身体診察,証人テスト,公判廷での待機など多岐に及ぶ。単なる癒やしでない,子どもが困難なプロセスを完遂できるための支援実践である。
派遣は,依頼受理,事前評価,犬の選定,認証委員会への申請,現場同行,終了後のデブリーフィングまでを含む厳格なプロセスに基づいて行われる。とくに,コーディネーターによる事前コンサルテーションは,子どもの心理的ニーズ,法的要件,犬の福祉を調整する重要な役割を担う。
4)付添犬の適性
付添犬には,健康で,特殊環境でも安定した高度な行動学的適性と包容力が求められる。HABの相互作用には,単に静かに横たわるだけ得られない,犬のagency(自ら関わろうとする主体性)が重要である(Špinka, 2019)。筆者は,付添犬が入室直後,その場で最も疲弊した子どもの傍へ自ら近づく場面を繰り返し見てきた。こうした自発性と穏やかな行動の両立は,付添犬の特徴である。
5)関係性を活かした支援デザイン
実践場面では,犬の自然なふるまいが緊張緩和の契機となることがある。たとえば,司法面接で犬のいびきに子どもが笑い,張りつめた空気が和らいだ例は,動物の非言語的調整機能を示唆する一場面といえる。
また,活動の前後で配布する犬の写真カードは,犬が不在時でも関係性を想起させ,安心への手がかりとなりうる。こうした働きは,支援場面終了後にもHABが心理的資源として機能する可能性を示唆している。
4.多職種連携と質保証が支える信頼性
付添犬実践は,犬の適性だけでなく,ハンドラー研修,認証制度,導入手続き,説明責任を含む質保証の枠組みによって支えられている。これにより,付添犬は善意に基づく補助活動ではなく,一定の専門性と管理体制を備えた支援実践として位置づけられる。
また,この実践は弁護士,心理,医療,福祉職といった多職種協働を前提として成立している。日本における付添犬実践の特徴は,HABを支援資源として活かしつつ,それを制度的信頼と専門職連携によって支えている点にある
5.【図1】つなっぐの支援ネットワークモデル

つなっぐホームページより https://tsunagg.org/child-advocacy-center/
6.支援実践を支える倫理とワンウェルフェア
1)One Welfare
支援の質の担保には,人と動物双方のウェルフェアの関連を理解する視点が重要である(Pinillos et al., 2016)。とりわけ司法面接や法廷は,犬にとっても緊張を伴う非日常環境であり,その負担を過小評価すべきではない。このため,活動前後の身体的チェック,休息,稼働頻度への配慮,正の強化に基づくハンドリングを通じ,犬の福祉維持に配慮している。
2)ハンドラーの専門性
ハンドラーには,犬への理解に加え,守秘義務,司法手続き,心理的配慮,子どもの権利擁護に関する専門性が求められる。とくに,子どもの心理状態や証言内容への影響に配慮しつつ,犬のストレス徴候を察知し安定を維持する技術は,継続的な研修と経験によって培われる。
3)導入判断とリスク管理
付添犬は万能ではなく,その導入は個別アセスメントに基づくべき支援である。メイヤーMeyerら(2022)は,法廷活用に支持的知見を示す一方,手続的公平性,アレルギー,犬恐怖症などの課題を指摘し,導入判断は慎重な検討が必要としている。もっとも,こうした懸念の一部は,事前同意,接触ルール,配置の工夫など,環境調整とリスク管理によって軽減しうる。我々は付添犬認証委員会において,多職種協働のもと実施ガイドラインを整備し,報告内容を継続的に見直している。
7.展望:社会インフラとしての付添犬実践に向けて
付添犬活動を社会に定着させるには,なお課題が残る。子どもが平等に支援へアクセスできるための持続可能な制度・財政基盤の整備が必要である。あわせて,犬やハンドラーに加え,司法・心理・福祉を調整するコーディネーターの育成,司法関係者への教育,導入判断を支える実務的ガイドライン整備も重要である(Meyer et al., 2022)。
また,付添犬を専門的証言支援として位置づけつつ,量的評価や導入条件に関する研究蓄積も求められる。スプルインら(2019)が示すように,犬の活用についての実証的証拠はなお限定的であり,さらなる研究が必要である。各国の法制度や文化的背景を踏まえ,実績評価を重ねながら適応可能性を検討し,段階的かつ評価可能な導入を進める必要がある。
文 献
- Beetz, A., Julius, H., Turner, D. C. et al.(2011)The effect of a real dog, toy dog and friendly person on insecurely attached children during a stressful task: An exploratory study. Anthrozoös, 24 (4); 349–368.
- Beetz, A., Uvnäs-Moberg, K., Julius, H. et al.(2012)Psychosocial and psychophysiological effects of human-animal interactions: The possible role of oxytocin. Frontiers in Psychology, 3; 234.
- Krause-Parello, C. A., Thames, M., Ray, C. M. & Kolassa, J.(2018)Examining the effects of a service-trained facility dog on stress in children undergoing forensic interview for allegations of child sexual abuse. Journal of Child Sexual Abuse, 27 (3); 305–320.
- Meyer, A. R., McDermott, C. M., Miller, M. K. & Marsh, S.(2022)Judges’ perceptions of facility dogs in the courtroom. Juvenile and Family Court Journal, 73 (1); 41–55.
- Nagasawa, M., Mitsui, S., En, S. et al.(2015)Oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bonds. Science, 348 (6232); 333–336.
- Pinillos, R. G., Appleby, M. C., Manteca, X., Scott-Park, F., Smith, C. & Velarde, A.(2016)One Welfare – a platform for improving human and animal welfare. Veterinary Record, 179 (16); 412–413.
- Špinka, M.(2019)Animal agency, animal awareness and animal welfare. Animal Welfare, 28 (1); 11–20.
- Spruin, E., Mozova, K., Franz, A. et al.(2019)The use of therapy dogs to support court users in the waiting room. International Criminal Justice Review, 29 (3); 284–303.
- Spruin, E., Mozova, K., Dempster, T. & Freeman, R.(2020)The use of facility dogs to bridge the justice gap for survivors of sexual offending. Social Sciences, 9 (6); 96.
- Rock, S. & Gately, N.(2024)Kids, courts and canines: Evaluating the Justice Facility Dog Program through a therapeutic lens in the Perth Children’s Court. Journal of Criminology, 57 (4).
- 涌井学(2022)いっしょにいるよ—子どもと裁判に出た犬 フランとハッシュの物語.小学館.
協力団体・関連リンク - 社会福祉法人 日本介助犬協会 (JSDA): https://s-dog.jp/
- 公益社団法人 日本動物病院協会 (JAHA): https://www.jaha.or.jp/
- 認定NPO法人 子ども支援センターつなっぐ: https://tsunagg.org/
吉田尚子(よしだ・なおこ)
所属:家庭動物診療施設 獣徳会
公益社団法人 日本動物病院協会
非営利活動法人 子ども支援センターつなっぐ
資格:獣医師
関連書籍(原案提供):涌井学(2022)いっしょにいるよ―子どもと裁判に出た犬 フランとハッシュの物語
趣味:ゆるめのテニス、旅行(とくに海の生き物、野生動物に出会うため)
ライフワーク:小動物臨床、動物介在教育、主に小児病棟や児童福祉施設での犬介在療法(ドッグセラピー)の実践と研究。人のためだけでなく、人と動物双方のwell-beingを適える動物介在活動と、動物に優しい社会を目指し、現在イギリスの大学院・獣医学校で国際動物福祉学、倫理学・法学を修学中。









