【特集 ヒューマン・アニマル・ボンド】#04 子どもと犬の優しい世界──読書犬プログラム|千葉陽子


千葉陽子(公益社団法人 日本動物病院協会理事)

シンリンラボ 第39号(2026年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.39 (2026, Jun.) 

皆さんは「読書犬」をご存じだろうか?

初めて聞く方は「読書犬」という言葉でどのような犬を想像するだろうか?

本をめくり読書を楽しむ犬? 我々に本を読んで聞かせてくれる犬?? 

誰もが想像しただけで顔がほころんでしまう,そう,実際の「読書犬」の活動も誰もが笑顔になり,温かな気持ちで満たされる犬の力を借りたプログラムなのである。

1999年にアメリカで始まった「子どもが犬に本を読んであげる(R.E.A.D.®プログラム)」というユニークなプログラムは瞬く間に世界に広がり,多くの子どもや大人を魅了し続けている。

この章では,公益社団法人 日本動物病院協会(以下,JAHA)が行う社会貢献事業「Companion Animal Partnership Program(CAPP)」で実施している「読書サポート犬(読書犬)プログラム」について紹介する。

1.「R.E.A.D.®」プログラムのはじまり

1999年にアメリカ・ユタ州・ソルトレークシティーにあるセラピー犬団体Intermountain Therapy Animalsが「子どもが犬を相手に本を読み聞かせする」という独創的なアプローチで,子どもの識字能力を高め,読書意欲の向上を目的とする「Reading Education Assistance Dogs®(R.E.A.D.®)」を考案し,地元の図書館や小学校の協力を得て実践したのが始まりである。

このプログラムに参加する犬は健康で安全性や能力,気質についての訓練とテストを受けた登録済みのセラピー犬であり飼い主とチームを組んで活躍している。

犬が読書の聞き役ならば,読み間違っても笑ったり,指摘したりしないで,黙って寄り添い聞いてくれる。読書が苦手な子どもでもプレッシャーを感じずに心理的な安心感から本の世界に入ることができる。効果的で楽しく子どもたちにとって計り知れないメリットがあるプログラムである。

2.JAHAにおける「読書犬(セラピー犬)プログラム」の取り組み

JAHAでは1986年より獣医学を通じて社会に貢献するボランティア活動を重要な事業の一つに掲げ,全国の会員動物病院とボランティア(飼い主)が協力し,人と動物とのふれあい活動「CAPP活動」を行っている。健康で適性があり,家庭で幸せに暮らす主に犬や猫とその飼い主がペアとなって,動物病院を中心としたチームを作り,高齢者施設,医療施設,障害者施設,児童関連施設など様々な公共性の高い施設に訪問し,施設利用者に対して動物のぬくもりや優しさを届けている。多くのボランティアと動物たち,動物病院スタッフに支えられて今日までに活動回数は2万5千回に迫る活動が行われ,今年で40周年を迎える(2026年度現在)。

当協会が「読書犬」プログラムに取り組んだのは2007年,東京都渋谷区立臨川小学校の特別支援学級の児童を対象に隣接する渋谷区立図書館内(臨川みんなの図書館)で実施したのが始まりである。この小学校では以前より犬とのふれあい教室を実施しており,担当の教諭とCAPPボランティアが話し合いを重ね実現した。児童が授業で親しみを持った犬への読み聞かせは,穏やかにそして着実に成長を感じる時間であったことを記憶している。

3.JAHAによる公共図書館での取り組み

当協会が本格的に公共図書館での読み聞かせを始めたのは2016年8月,フォトジャーナリストでノンフィクション/絵本作家の大塚敦子氏が図書館協議会委員を務める三鷹市立三鷹図書館への働きかけにより,読み聞かせプログラム実施について当協会にご相談いただいたことがきっかけである。大塚氏と当時の三鷹市立三鷹図書館館長田中博文氏(現・三鷹市総務部調整担当部長),そして当協会からはCAPPの創設者の柴内裕子獣医師(現・赤坂動物病院名誉院長)が中心となって綿密な打ち合わせを行い,並行して既存ボランティアの中で適性のある犬とボランティアの研修を遂行して実現に至った。三鷹市立三鷹図書館では子どもたちに犬とふれあいながら素敵な読書体験をしてほしいとの願いから「わん!だふる読書体験」と名付け,読書の楽しさを伝える取り組みと位置づけて実施している。

多くの方々のご協力で様々な課題を乗り越え,現在では,流山市立おおたかの森こども図書館,品川区立大崎図書館分館と広がり,関東だけでなく神戸や熊本へと着実に広がっている。

4.JAHA独自のプログラム

日本では犬や猫と暮らした経験がなく,さわったことも関わったこともないといった理由から犬に不慣れな子どもが多い現状がある。小学校や児童館など子どもを対象としたCAPP活動を実施する中でも経験が少ない子どもは,経験豊富な落ち着いた犬が相手であっても初めての犬に心を開き交流するまでには少しの時間が必要であることを経験している。このような日本の事情に合わせJAHAでは「ふれあい教室」と「読み聞かせ体験」を組み合わせた取り組みで「読書犬」プログラムを実施している。

三鷹市立三鷹図書館で行っている「わん!だふる読書体験」の取り組みを紹介する。

1)「犬とのふれあい教室」

子どもと一緒に保護者も参加して,犬と仲良くなるために知ってほしいことを動画や実演をまじえて紹介。

・犬への3つの約束:犬のそばで「大きな声を出さない」「急に走らない」「突然さわらない」

・初めて会う犬に出会ったときのあいさつの仕方:

「さわってもいいですか?」と飼い主に聞き,許可がおりたら優しいグーの手をつくり,犬の鼻先にそっと近づける。犬がにおいをかいだら,手を開いて首のあたりを優しくなでる。お礼を言って別れる。

・犬の気持ちを考えてみよう:こんな時はさわらないで

「ご飯を食べている犬」「お店の前につながれている犬」「働いている犬」など

犬をさわってほしくない状況を犬の気持ちを想像し説明している

・もし,放たれた犬に出会ったらどうする?:

もう逃げられないくらい近くにいたら「木になりましょう」

犬との事故防止とともに,普段,出会う犬は読書犬のように友好的な犬ばかりではなく,家族以外の人との交流を望まない犬がいることも伝えている。

2)「犬とボランティアさんの紹介と組み合わせ発表」

参加する犬とボランティアさんの紹介後,読み聞かせする犬を発表するが,犬と子どものマッチングについてはふれあい教室での子どもの様子を見たうえで組み合わせを決めている。子どもが読み聞かせする犬とボランティアさんに「犬とのあいさつ」を実践。少し緊張している子どものあいさつに対し,優しく友好的に応える犬とふれあうことで,表情が和み,席に戻ると照れくさそうに保護者や私たちに報告してくれる。私がほっとする瞬間でもある。

3)書架へ移動し,「読み聞かせ体験」の開始

書架に敷いた大きいマットに読書犬とハンドラーが座り,子どもの到着を待つ。担当する読書犬のいる書架に図書館スタッフが子どもを案内し,子どものタイミングで読み聞かせがスタートする。図書館での読み聞かせ体験は1人20分,1頭の犬に向けて子どもが音読する。読む本は子ども自身が読みたい本を準備してくるが,犬が興味を持ちわかりやすそうな「動物が登場する本」や「食べ物の本」を選んでくれたり,「自分の好きな物語を犬にも聞いてほしい」という理由であったり,犬との関わりを持つために選んでいることがうかがえる。また,絵本を選んだ子どもは,犬のほうに向けて犬に向かって読んでくれることが実に多い。これらは誰かに言われたわけではなく,子どもが犬を思い,犬に読むことを楽しもうとしているのである。犬の様子を見ながら抑揚をつけて読んでくれる子どもや,犬に優しくふれながら音読する子どもなど,様々な方法で犬に思いを伝え犬と共に本の世界にひたっている。

読書犬は子どもの膝にあごを乗せていたり,寝そべったり,背中を向けて子どもに撫でてもらいながら聞いていたりと様々である。共通することは,子どもも犬もリラックスしていること。少し離れているにせよ一般利用者もいる図書館という環境で声に出して本を読むことを可能にしているのは,少々のことでは動じない落ち着いた読書犬が寄り添っているからに他ならない。

ボランティアは子どもが安心して読み聞かせできる環境づくりと,読書犬がリラックスできるように,何気ないサポートをそばで行っている。

保護者は子どもが本と犬の世界に集中するまでの間は控室で待機し,開始5分程ののちそっと見学していただくようにお願いしている。

子どもにとって自分だけの特別な1頭,特別な時間を体験する。時間いっぱい読み終わって帰ってくる子どもの顔には満足感と達成感に満ちあふれた誇らしい笑顔が感じられる。

5.ふれあい,質問の時間

読書体験が終わった後は,参加する他の読書犬とのふれあいや子どもの質問に答える時間を設けている。はじめとは比べ物にならないほど,子どもは読書犬やボランティアに対し積極的に優しく交流する。ここでも「ふれあい教室」の成果を実感できている。ボランティアから参加した読書犬たちのシールを受け取り,図書館が作成した台紙に張って記念に持ち帰る。あいさつをして魔法のような時間は終了する。

6.今後の展望

「読書犬」の存在と活動を広く社会に周知し,ボランティア希望者が増えることが願いの一つである。実際に読書犬の活動に参加するまでには,健康管理,衛生管理はもちろん,犬と飼い主さんの適性チェックやトレーニング,様々な施設での経験などが必要であり,時間がかかることをご理解いただいた上でご協力をお願いしたい。

また,医療,福祉,教育などの異業種と連携し,日本での読書犬プログラムの調査を行っていきたいと考えている。

7.最後に

今回紹介した公共図書館での読書犬プログラムは開館時間内に実施しており,プログラム関係者だけでなく,一般利用者も読書犬の活動を受け入れてくださっている。図書館と地域との信頼が基盤となり,図書館全体で子どもの新たなチャレンジを見守り支援してくださることに,あらためて感謝申し上げたい。

動物の持つぬくもりや優しさにふれる読書犬との体験が子どもにとって「命の大切さ」や「思いやりの心」をさらに大きく育てる一因になると確信している。

文  献

+ 記事

千葉陽子(ちば・ようこ)
赤坂動物病院 獣医師
公益社団法人 日本動物病院協会 理事
趣味は我が家の猫「オリーブ」の行動観察。愛らしい表情から一変し,虫を見つけると有能なハンターに豹変する。その変貌ぶりに癒されています。

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