【特集 ヒューマン・アニマル・ボンド】#03 発達障がい児と動物介在介入|川添敏弘


川添敏弘(酪農学園大学)

シンリンラボ 第39号(2026年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.39 (2026, Jun.) 

1.発達障がい児と動物介在介入

発達障がいは,生まれつきの脳機能の発達の偏りにより,日常生活や社会生活に困難が生じてしまう。主な分類を表1に示した。これらの特性は複数が重なり合うこともあり,個々の特性に応じた適切な配慮と支援が必要とされている。しかし,成長過程において,どうしても自尊心の低下や自発行動の消失などの二次的な課題が生じてくる。ところが,動物を活用することで様々な良い効果があることが報告されている。

表1 発達障がいの特性

自閉スペクトラム症(ASD)相手の気持ちを読み取ることや対人関係の構築が苦手で,特定の物事への強いこだわりを認める
注意欠如・多動症(ADHD)集中力が続かない(不注意),じっとしていられない(多動性),思いつくとすぐ行動する(衝動性)が特徴である
限局性学習症(SLD)/学習障害(LD)注1)知的発達に遅れはないものの,「読む」「書く」「計算する」など特定の学習が極端に困難なことを認める
注1)限局性学習症(SLD)は,米国精神医学会(DSM-5)などで定義された診断名である。知能は概ね正常だが「読む」「書く」「計算」の特定分野に限定して困難があることを示す診断的な呼称である。一方,学習障害(LD)はSLDを含む広義の総称で,日本の教育現場ではLDを用いることが多く,「聞く」「話す」「推論する」の困難さも含めている。

2.発達障がい児と動物との絆

発達障がい児にとって,動物はペット以上の存在になることがよく知られている。それらは,主に3つの効果によるものとされている。

1)情緒安定の効果

動物と触れ合うことで,ストレスや不安が軽減され情緒が安定することが知られている。自尊心が下がっている子どもにとって,自分を無条件に受け入れ評価や審判を下さない動物の存在は,「心の安全基地」として機能してくれる。その結果,動物が存在するだけで精神的に安定すると考えられている。

2)社会的交流の促進

動物が存在することで,周囲の人との関わりがスムーズになる効果を期待できる。これは「社会的潤滑油」と呼ばれ,動物の存在により社会との接点が増えることを示している。この効果により,発達障がい児の成長に繋がっていくことが推測される。

3)自己肯定感と責任感の育成

年齢を重ねることで集団行動の規範が求められる場面が多くなり,それができないことにより自尊心の低下を招くことになる。ところが,動物の食餌の世話や散歩などの役割は,子どもの責任感や自律心を育む機会になってくれる。さらに,動物の気持ちを推測することで共感性が育ち,他者との関係を理解するのに役立ってくれる。

3.発達障がい児と動物

1)自閉スペクトラム症(ASD)

最も研究が行われているのは,自閉スペクトラム症(ASD)児を対象とした研究であり,主に,ストレスの減少や情緒の安定,社会性の向上が期待できるとされている。

たとえばヴィヨーViauらの研究では,介助犬を導入した期間の朝のコルチゾール(ストレスホルモン)値が大幅に低下したが,存在しなくなると再び上昇したことが確認されている。また,マリーンMarineらは,ペット(特に犬や猫)を飼っている家庭のASD児は,飼っていない子に比べて「他人に分け与える」「人を慰める」といった向社会的行動を多く認めると報告している。マルグリットMargueriteらの研究では,小学校の教室にモルモットがいる時の方が社会的交流(話しかける,目を合わせるなど)が有意に増加し,一方で孤独感や不安を示す行動が減少したことが示されている。

2)注意欠如・多動症(ADHD)

注意欠如・多動症(ADHD)の研究では,過活動の減少と集中力の向上,自尊心の向上が期待できると考えられる。

ユリーチゴワJuríčkováらは,2人の児童に対して犬を用いた動物介在教育(AAE)を1年間実施し,ADHD症状の重症度の軽減,集中力,教師とのコミュニケーション,教室での仲間との協力関係が改善したことを報告している。また,シュックSchuckは,動物介在介入(AAI)によりADHD児童の行動,社会性,学力の領域における自己認識スコアが有意に上昇したことを示し,AAIが自尊心の評価を向上させるための有効な戦略になると報告している。

3)限局性学習症(SLD)/学習障害(LD)

限局性学習症(SLD)/学習障害(LD)の研究は多くは認めないものの,近年は読書犬による効果が注目されている。否定することのない犬への読み聞かせなどを通じ,自信や学習意欲が高まることが認められている。詳細は他章で報告されているので,ここでは他の研究を紹介する。

アリソンAlisonの犬を介入させたSLD児を対象とした研究では,模造犬と比較して適切な反応や自己への働きかけが増加し指導者を無視するレベルが減少している。さらに,教育課題中の協力行動は,犬の関与によって促進され,その関与レベルが活動間の差異の要因になると考察している。また,シモンSimonの研究では,手書きスキルの向上に関連する目標を持つ子どもを対象に,作業療法の一環として犬を用いた介入を行なっている。本研究でSLD /LDには言及していないが,作業療法として書字関連の目標に向けた技術向上ができると報告している。そして,犬の存在は子どもたちの手書きに対する満足度と楽しみを大きく高め,こうした活動に積極的に取り組む時間を増やすことができると述べている。

4.発達障がい児への介入課題 

対象児の行動を評価することなく寄り添ってくれる動物の存在は,素晴らしい効果を提供してくれることがある。その多くが犬を介入させたものとなっているが,犬を飼育しさえすれば良いというものではない。適切な飼育がなければ犬の存在はマイナスにもなってしまう。思いやりや優しさの行動を引き出せる動物の代表は,家族のことが大好きで寄り添うことができる優良な家庭犬である。適切なドッグトレーニングと適正飼育がなければ動物介在介入として利用すべきではないという意見も存在する。

過去にイルカセラピーが流行したことがあったが,現在では野生動物を介入させる動物福祉の問題や危険性が指摘されほとんど行われていない。また,フェレットやデグーなどのペットとしての歴史が浅い動物たちの感染症について不明な点も多々あり,飼育には課題があることを知っておく必要がある。発達障がい児の健康のためにも,感染症が明らかになっているペットとしての歴史がある動物を用いなければならない。

猫は犬と比較すると刺激性が低く,大きな効果は期待しにくいが,犬を飼育するハードルが高い場合の選択肢とすることができる。また,鳥類や魚類は観察することで落ち着くケースも多く,お世話の役割を担うことでの成長を期待できる。動物の特徴や習性を理解し,子どもの特性や発達に合わせた介入により効果を期待できる。

5.まとめ

発達障がい児への動物介在介入の効果を証明した論文は多くあるが,動物をシンプルに触らせれば良いというものではない。子どもの個性に適合した介入が必要であり,動物の種類や大きさ,性格などにも配慮しなければならない。そこには適切な動物の飼育があり,その延長線上に障がい児との交流があると考えなければならない。結果として,発達障がい児と動物との絆やセラピー効果を発揮できるのである。子どもたちの笑顔のために,動物と心の通った豊かな交流を意識してほしい。

文  献
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  • 川添敏弘(2018)重度知的障害を伴う発達障害者の「問題行動」改善を目的とした動物介在介入の試み—行動分析を視点として.横浜国立大学大学院環境情報学府(博士論文).技術マネジメント研究,17; 46-50. 
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  • Viau, R., Arsenault-Lapierre, G., Fecteau, S., Champagne, N., Walker, C. D. & Lupien, S.(2010)Effect of service dogs on salivary cortisol secretion in autistic children. Psychoneuroendocrinology, 35 (8); 1187-1193.
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川添敏弘(かわぞえ・としひろ)
酪農学園大学獣医学群
資格:公認心理師・獣医師
著書:アニマル・セラピー(駿河台出版社)、知りたい!やってみたい!アニマルセラピー(駿河台出版書)、知りたい!考えてみたい!動物との暮らし(駿河台出版社)、ほか
趣味:エスコンフィールドでの動物イベントつくり

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