【特集 ヒューマン・アニマル・ボンド】#02 ペット飼育の高齢者への効果と留意点|山川伊津子


山川伊津子(ヤマザキ動物看護専門職短期大学)

シンリンラボ 第39号(2026年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.39 (2026, Jun.) 

65歳以上の高齢者が人口の3割近くを占める超高齢社会において,ペットは様々な意味を持っている。加齢とともに身体の機能や認知能力が低下し,社会とのつながりも減少していく高齢期において,ペットと暮らすことにより心と身体の健康を維持し,人とのつながりを作ってくれる。その一方で,加齢とともに心身が衰えていくことにより,ペットの世話ができない状態となり,様々な問題が今高齢者福祉の現場で噴出している。ここではペット飼育が高齢者に与える恩恵(効果)と問題の両面をみていく。

1.ペットと高齢者との関係,その恩恵

1)ペットが人に与える効果

人はペットから様々な恩恵を受けているが,それらは3つに分類できる(図1)。

図1 動物が人に与える効果

・心理的効果:いわゆる癒し効果を中心とするものであるが,他にも責任をもってペットを飼育することにより自信や意欲の向上等が見られる。高齢者の場合は,ペットと暮らすことにより不安や孤独感の解消が期待できる。

・生理的・身体的効果:ペットとふれ合うことにより血圧や心拍数が減少し,いわゆる身体的なリラックス効果が得られるとされる。高齢者はペットと暮らすことにより,ペットの世話,特に犬の散歩などを毎日行うことは,体力や健康の維持につながる。

・社会的効果:ペットと暮らすことは協調性や共感性を促進すると言われているが,高齢者にとっての利益はペットが媒体となって他者とつながることができるのが大きい。ペットが社会的潤滑油として機能することで,ソーシャルネットワークの構築が期待できる。社会とのつながりが途絶えていく高齢者にとって,これは大きな意味をもつ。

主観的幸福感が高い(Goldmeier, 1986),通院回数が少ない(Headey et al., 1999)等,高齢者にとってのペットは,心と身体の健康を支える存在と考えることができる。

2)高齢者施設でのふれ合い活動

動物が持つ3つの効果を社会の中で活かしていく活動をアニマルセラピー注1)といえるが,現在日本では高齢者施設で行われることが多い。

筆者らは八王子市内の高齢者施設で2013年から月1回のふれ合い活動を実施している(コロナの期間除く)。地域の飼い主が自分の愛犬とともに参加し,犬を介在させて高齢者と会話を交わしつつ穏やかな時間を過ごす。筆者が所属する大学注2)の地域貢献活動の一種であり,学生も参加する。多くの参加者に認知症がありコミュニケーションの問題もあるが,犬がいることにより会話が進むことも多い。普段見られないような明るい表情や発話があり,犬の存在が何らかの刺激となっていることが認められる。

図2 介護付有料老人ホームカーロガーデン大塚での犬とのふれ合い活動

生きた犬だけでなく,「メンタルコミットロボット パロ注3)」が活躍することもある。アザラシの形をしたこのロボットは人の声に反応して鳴いたり,前足やしっぽを動かしたりする。認知症が進んだ方が生きていると思ってずっと撫で続けていることもある。

月に一度の短時間の活動であるが,入所の高齢者にとって楽しい時間となるようボランティアの飼い主さんたちの協力を得て実施している。

注1)アニマルセラピー:正式にはAnimal Assisted Intervention(動物介在介入)といい,次の3つに分類できる。Animal Assisted Activity(動物介在活動),Animal Assisted Therapy(動物介在療法),Animal Assisted Education(動物介在教育)。
注2)筆者の所属する大学:ヤマザキ動物看護大学(東京都八王子市)
注3)パロ:セラピーを目的に開発されたアザラシの形をしたロボットで,楽しみや癒しなど精神的な働きかけを目的とする。

2.高齢者のペット飼育問題

ペットは高齢者に様々な恩恵をもたらすが,その一方で加齢とともに問題も発生する。

1)高齢者のペット飼育問題

・加齢に伴う心身の機能低下:ADL(Ability of Daily Living:日常動作能力)や認知機能の低下によりペットの日常の世話が徐々に困難になっていくケースがある。餌やりや排せつの始末,また犬の散歩等が難しくなり,ペットの適正飼養注4)が保てなくなる。この状態が進むとネグレクト(飼育放棄)となり,高齢者が意図せず動物虐待の加害者となってしまう場合もある。

・経済的問題:現役を引退し,年金生活となり経済面でペットに十分な費用をかけられなくなることもある。フードや獣医療を節約し,十分なケアの提供が難しくなるケースもみられる。

・自立生活困難:飼い主である高齢者が病気やケガにより入院する,あるいは自立生活が困難になり施設等へ入所するような場合,ペットが残されるということがある。他の家族や知り合いに引き取ってもらえる場合はいいが,行き場がなくなることもある。

注4)適正飼養:「動物の愛護及び管理に関する法律」に定められたもので,飼い主には動物の種に応じた適正な飼養が求められる。また,最後まで飼い続ける「終生飼養」も飼い主の義務とされる。
2)高齢者の動物飼育問題の対策

現在,高齢者福祉の現場では上記のような問題が多発している。介護の専門職が個人的な努力で問題解決に尽力しているケースも多く,今後増え続ける高齢者を考えると何らかの対策が必要である。その際に2つの支援方法が考えられる。

・飼育支援:ADLや認知機能の低下がみられても飼い主である高齢者が飼育継続を希望する場合は,何らかの飼育支援が必要である。支援内容としては,給餌,排泄処理(猫砂やペットシーツの交換),フード等のグッズ購入,散歩,動物病院への搬送等である。支援提供体制としては,ボランティア組織,NPO団体,筆者が所属するような動物関連教育機関の地域連携等が考えられる。

・譲渡支援:飼い主の入院や入所により飼育継続が困難になった場合は,譲渡するための支援が必要となる。この場合は,愛護センター,愛護団体等へつなぐか,個人的に譲渡活動をすること等が考えられる。いずれの場合も元の飼い主には書類による飼育放棄の確認が,後のトラブル回避のために必須である。また,新しい飼い主が見つかった場合は,飼育のトライアルで様子を見た後,正式な譲渡となり,この場合も書類の取り交わしが必要である。

現時点では飼育支援,譲渡支援ともに,高齢者の動物飼育問題を支援できる体制は整っていないのが現状で,何らかの対策が求められる。また,飼い主自身による緊急時のペット対策の検討も求められる。

3.Veterinary Social Work(動物医療ソーシャルワーク)

人の福祉と動物福祉が交錯する場面での対人援助をVeterinary Social Work(動物医療ソーシャルワーク)という。2002年にアメリカのテネシー大学で立ち上げられたこの実践領域は,①動物介在介入(アニマルセラピー),②ペットロス,③Link(動物虐待と対人暴力の連動性),④意図的なウェルビーング(共感疲労と対立のマネジメント),⑤その他(多頭飼育崩壊,高齢者の動物飼育等)に分類できる。高齢者の動物飼育問題はまさしくこのVSWの一領域であり,人の福祉と動物福祉の双方をどの様に支えていくかが課題である。

文  献
  • Center for Veterinary Social Work. https://vetsocialwork.tennessee.edu/ 2026年4月25日閲覧
  • Fisher, C. B., & Fracasso, M. P.(1987)The Goldmeier Effect in Adults and Children: Environmental, Retinal, and Phenomenal Influences on Judgments of Visual Symmetry. Perception, 16 (1); 29-39.
  • Freedman, E., Katcher, A. H., et al.(1983)Social Interaction and Blood Pressure: Influence of Animal Companions. The Journal of Nervous and Mental Disease, 171 (8); p.461-465.
  • Headey, B.(1999)Health Benefits and Health Cost Savings Due to Pets: Preliminary Estimates from an Australian National Survey. Social Indicators Research, 47 (2); 233-243.
  • 環境省(1973)動物の愛護及び管理に関する法律:第三章 動物の適正な取扱い.https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/laws/nt_r010619_39_5.pdf
  • 川添敏弘監著(2021)知りたい!考えてみたい!どうぶつとの暮らし.駿河台出版.
  • NDソフトウェア株式会社 メンタルコミットロボット「PARO-パロ-」https://www.ndsoft.jp/product/medical/paro 2026年4月25日閲覧
  • 谷口優(2025)伴侶動物との共生による健康効果.日本獣医師会雑誌,78 (7); 254-257.
  • 山川伊津子(2020)動物医療ソーシャルワークと動物看護師.Veterinary Nursing, 25 (2); 9-14.
+ 記事

山川伊津子(やまかわ・いつこ)
ヤマザキ動物看護専門職短期大学 動物トータルケア学科教授。
社会福祉士,精神保健福祉士。
専門は人と動物の関係学。特にVeterinary Social Workの視点から教育・研究し,小学校や高齢者施設で活動を実施している。

目  次

コメントを書く

あなたのコメントを入力してください。
ここにあなたの名前を入力してください

過去記事

イベント案内

新着記事