【特集 臨床的メンタライジング・アプローチの可能性】#03 限られた時間の中でインテンシィブに親と子どもへのセラピーを行う──Mentalization-Based Treatment for Children(MBT-C)のアプローチ|渡部京太

渡部京太(群馬病院)
シンリンラボ 第32号(2025年11月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.32 (2025, Nov.)

1.Mentalization-Based Treatment for Children(MBT-C)とは

ミッジリーMidgley, N.らによってMentalization-Based Treatment for Children: A Time-Limited Approach(MBT-C)は開発され,2017年に発表された。わが国では上地,西村の監訳により2021年にメンタライジングによる子どもと親への支援(時間制限式 MBT-Cのガイド)として出版された(Midgley et al., 2017/上地・西村監訳,2021)。

児童青年精神医学の領域では治療効果が証明されているパッケージ化された治療プログラムが注目されている。パッケージ化されたプログラムとは,子どもと養育者を対象に週1回行い,6カ月〜1年6ヶ月の期間に集中的に取り組んで治療の成果をあげようとするものである。代表的なものとしては,①親子相互交流療法(Parent-Child Interaction Therapy:PCIT)②トラウマフォーカスト認知行動療法(Trauma-Focused Cognitive Behavioral Therapy:TF-CBT),③MBT-Cなどがある。こうしたプログラムが注目されてきている背景には,時間を制限することによる医療費の抑制ということがある。また,私は,これらのプログラムが子どもの年齢や病態などによってお互いを補完しあうような関係にあると感じている。

2.MBT-Cの治療構造

1)MBT-Cの治療構造

MBT-Cの治療構造の特有の要素としては,①あらかじめ決められたセッション数による時間制限,②カレンダー,③焦点定式化,④親の一人(または両親)に対する並行治療,が含まれている。

MBT-Cの対象は,特定の問題・診断をこえた,内在化障害,外在化障害をもつ子どもであるが,重度の外在化障害,神経発達症,崩壊家庭の場合には慎重に検討する必要がある。

MBT-Cは,アセスメント・セッションの後,週1回1時間程度のセッションを12回行う。この12回を1ブロックと呼び,最長でも3ブロックまで行う。子どものプレイと並行して親とのセッションを行う。

子どものプレイの設定については,プレイルームとしては身体を使う遊び(キャッチボールなど)ができるくらいの床スペースが推奨されている。プレイルームには砂箱(箱庭),キネティック・サンド(粘土のように扱える色つきの砂)や粘土,フィンガーペイント,様々な大きさ・タイプのボールを用意する。ファンタジーやロールプレイを刺激するために,人形,動物模型,自動車,積木,仮装のための衣類も準備するとよい。

治療者が積極的に時間制限式で作業をする時に用いる手法のひとつがカレンダーの使用である。カレンダーを使用する目的は,①子ども側にセラピーの当事者であるという実感を生じさせ,②省察的姿勢を鼓舞し,③治療作業の時間制限式性質に関する実感を得ることができるように子どもを助けることである。カレンダーは,セッション数と同じだけの数の長方形や枠線で描かれていることを特徴とする1枚の紙がよい。セッションの残り時間が5〜10分になった時に治療者は子どもにカレンダーに何かを描くことを求める。子どもが選んで描こうとするものは「何でもOK」というのがこの時のルールである。子どもと治療者は,カレンダーを使用することで,子ども自身のナラティブ(物語)を創り出し,さらにはセラピーの過程についてのナラティブを協働で想像し可視化することができる。また,子どもと治療者はカレンダーを一緒に見ることができ,別れに備えることができる。セラピーの終了時や追加支援セッションでは,カレンダーを使って振り返ることができる。

2)アセスメント

アセスメントでは3〜4セッションをかけ,焦点定式化注1)を行う。子どもが好奇心をもって取り組める遊びの中でメンタライジングの促進が起きるような目標である必要がある。そして,焦点定式化と目標は,親および子どもと共有することから子どもにもわかる内容でなくてはならず,短い一文だけでもよいし,描画などを用いてもよい。焦点定式化は,子どもの問題をメンタライジングの観点から理解し,それを子どもと親と共有するためにとても重要なことである。親のメンタライジング能力を刺激し,親の注意を子どもの内的世界に向けるという意味があり,親の治療の動機を高めることにつながる。子どもと親が焦点定式化を理解することは,MBT-Cの出発点となり,行き詰まりになった時に立ち止まる起点となる。

3)親との並行面接

MBT-Cでは子どもへのプレイと並行して親への面接が行われる。親面接は子どものプレイの付属物ではなく,MBT-Cの本質的要素である。MBT-Cのトレーニングでは飛行機に搭乗している際の緊急時には,まず親が酸素マスクを装着後に子どものマスクを装着するというたとえで説明されるのだが,親のメンタライジング能力が高まらないと,家庭の非メンタライジング環境に置かれた子どもがメンタライジングを維持することは困難になるのである。

注1)焦点定式化 セラピーで取り組む問題を明確にし,焦点を絞ってケース・フォーミュレーションを行うこと。

3.MBT-Cの治療の進め方

1)MBT-Cにおける治療者の基本的なスタンス

親に対する介入はMBTを含むメンタライジング・アプローチで一般的に行われる介入と変わりはない。子どもに対する治療者の基本的なスタンスとしては,①行動ではなく心理状態に関心を持つこと,②好奇心と「無知の(虚心に問いかける)姿勢」,③「熱意ある応答性」,④誤解を理解することへの関心,が重要になる。子どもへの介入では,①子どもが語る自分や他者の心理状態,②遊びや遊びの中に登場するキャラクター(人や動物など)についてのナラティブを対象とする。よいメンタライジングとは「物語」になっているということになる。治療者は,子ども主導の遊びを見守りながら,遊びの物語を触発する。遊びを実況中継のように客観的に描写して内容を刺激し,精緻化していく。遊びの中で子どもはキャラクターに心理状態を付与しているが子どもがそれを言語化すれば共感的に承認し,治療者が試みにそれを言語化することもある。治療者から子どもにキャラクターの心理状態を聞いて子どもに考えさせることは,明示的メンタライジングが可能な段階になってから行い,1セッション中でたびたび行うことはない。ただし,象徴遊びを深められない子どももいる。メンタライジングの構成要素としては,注意制御(attention control),感情調整(affect regulation),明示的なメンタライジングがある(図1)。注意制御と感情調整は明示的メンタライジングの基盤であり,それらが適切に機能していない時には,それらを稼働させることが必要である。

図1 メンタライジングを支える基盤作り=注意制御・感情調整

注意制御とは,ひとつの事柄に一定の時間集中できるようにすることである。そのためには,①共同注意を作る(リズムをあわせて一緒にいる気持ちを作る),②身体的体験やシグナルに波長を合わせる,③今・ここで起こっていることを名づけ注意を向ける,④行動と外界への影響を結びつけることで志向性を高める,⑤子どもの独自のあり方を受け入れ,合わせ,一致させるといったことが有効である。

感情調整とは,感情を観察・同定するとともに,その強度を弱めたり(下方調整),強めたり(上方調整)することである。子どもは苦痛な感情を治療者に共有してもらうことによって自分でも感情調整がしやすくなる(共同調整)。何らかの苦痛(不安,恐れ,悲しみ,身体的苦痛など)を体験した時に特定の他者との交流から安心と慰めを得る関係は「愛着関係」でもある。感情調整は,①子どもに自分の感情に名前をつけて表現させるようにする(感情について知っている/認識している),②制限の範囲で遊ぶ(どの感情が難しいのか?それらのきっかけになるものは何か?),③調整の範囲で遊ぶ(どうやってウォームアップしたりクールダウンしたりできるか?プレイルームに持ちこまれない感情は何か?),④現実と結びつけることで安心感や見通しを与える(他者から慰めを探したり,受け取ることができるか?),⑤プロセスに責任を持つ(遊びを用いて感情を処理したり調整したりすることができるか),ということになる。

メンタライジング能力がそれほど高くない場合や一時的に途絶している場合には,心理状態への共感的承認を基本とし感情の共同調整に努める。感情の過覚醒(例えば激怒)を鎮める最もよい方法は,その感情を共感的に承認することである。過覚醒状態ではメンタライジングは失われるので,過覚醒状態を軽減することがまず必要である。メンタライジングに達していない心のモードを「非メンタライジング・モード(Non-mentalizing mode)」)と呼び,①目的論的モード(Teleological mode),②心的等価モード(Psychic equivalence mode),③プリテンド・モード(Pretend mode)の3つが区別されている。メンタライジング機能は,強いストレスや感情の過覚醒/過少覚醒という条件下では「非メンタライジング・モード」に切り替わる脆いものなのである。

目的論的モードは,心理状態を省察することなく,(ある目的に向けた)行動的解決だけを求めるモードである。相手の行動だけに注目して相手の意図を解釈したり,何らかの苦痛を自傷や暴力などの行動で軽減しようとしたり,セラピストに行動的解決を要求したりする形で現れる。子どもが「私の欲しいこの服を買ってくれたら,ママは私のこと好きってわかる」と話すような場合である。

心的等価モードは,心の中で思ったこと(心理状態)がそのまま「現実そのもの」だと考えるモードである。ある現実認識について別の見方があるということを考慮できず, 自分の捉え方だけが正しいと思うあり方である。トラウマを受けた子どもがフラッシュバックを体験している時に自分が思ったことが現実だと強く確信し,別の考えを考慮することが難しい場合である。

プリテンド・モードは(苦痛な)現実体験(の表象)を回避して,抽象的・観念的な語り,過度にポジティブまたは楽観的な語り,一般論的な語り,ネガティブな反芻などに陥り,聞く者にはリアルさが感じられないモードである。「部屋の中のゾウ」(elephantin the room:部屋の中にゾウがいるのに人々はそれと関係のない話をしている)とも言われる。セラピストは,①子どもの描いた絵にコメントしたり,②子どもが物事を行う方法に関心を示したり,③これが何を表現しているのか想像したり,④子どもの行為を徐々にセラピストと一緒に行う想像に引き寄せることによって,子どもをプリテンド・モードからプレイルームに引き戻すように試みる。

2)明示的メンタライジングの基盤となる注意制御と感情調整

MBT-Cでは,子どもの注意制御と感情調整を働かせ,明示的なメンタライジングをできるような工夫が必要になるところが特徴といえるかもしれない。小学校高学年の注意欠如・多動症(ADHD)の男児Aを例にあげる。Aは仲間とうまくつきあえず不登校となり,生活は不規則になった。両親はAを叱責することが増えAは家族へ反抗的な態度が目立つようになった。アセスメントでのAは人懐っこく,自分が興味を持っていることには集中して取り組み,いらだったAを制止する両親の様子をユーモアを交えて話し,ADHDの特性を持ちながらAには十分にメンタライズする力があると考えられた。周囲にいる人の誰が権力をいちばん強く持っているのかということに敏感なAにとっては,別なことをするように求められると「面倒くさい」と回避することが見られ,治療者はこのAの「面倒くさい」はプリテンド・モードなのだと考えた。また両親は自閉スペクトラム症の特性を認め,Aの行動にいらだつと両親のメンタライジングはすぐに失われた。両親はAをなんとかしようとする「目的論的モード」に陥るようだった。さらに母親が父親にいらだつAを注意するように頼むと,父親は「心的等価モード」となり,父親がAをやっつけるか,父親がAによってやっつけられるかという状態に陥り,家族は大混乱になっていた。

プレイが始まるとAは治療者とカードゲームをしたいと話した。 Aは強いカードを持っていて,治療者には極端に弱いカードを手渡し,カードをそれぞれで作った。Aは治療者を打ち負かそうと考えており,実際にゲームを始めると治療者を圧倒的に叩きのめした。Aは「僕は“最強”だ」と大喜びをしていた。次第にAはサッカーなどの身体を動かす遊びをするようになった。身体を動かすプレイが激しくなると,治療者は座って穏やかな遊びに導くようにした。Aも座って積み重ねて遊ぶ積み木を転がして遊ぶようになった。治療者が積み木を転がして積み木がバラバラになると,Aは「あなたのこころが乱れている」と話して喜んだ。Aが積み木を転がして積み木がバラバラにならないと,「僕のこころは美しい」と話した。治療者は,「こころが乱れているということはどういうことだろうか?」と介入すると,Aは「面倒くさい」という表情で何も答えなかった。この場面で治療者は身体を動かすプレイから座って遊ぶことを促したことでAの注意を制御して,さらにAは積み木を転がす遊びをするようになり,Aは治療者と調子をあわている。さらに積み木がバラバラになると「こころが乱れている」と遊びを展開し,治療者はAにこころが乱れていることはどういうことかと問いかける明示的メンタライジングを行うことへつながっていった。Aのプリテンド・モードである「面倒くさい」が表れた時に,治療者が止めて,Aの心理状態を共感的に理解しようとし,巻き戻して,どこでそれが生じたかをメンタライジングし直すという介入(Stop and Rewind)ができるかどうかにかかっている。

4.おわりに

私がMBT-Cに取り組んでみてMBT-Cに興味を覚えたのは,プレイセラピーが中心に置かれていること,そして回数が限られた設定の中で子どもと治療者は出会い,ふたりの関係を発展させ,そしてお別れを経験するというプロセスが起こっていたことだった。もうひとつは,治療者が子どもとのプレイの中で起こってくるメンタライジングの途絶を同定し,子どもを長く「非メンタライジング・モード」にとどめないように能動的な介入を行っていたことである。

発達上のつまずきを抱えている子どもが神経発達症と診断されると,子どものこころの動きについては顧みられなくなることが起こるかもしれない。ADHDのケースを例にあげたが,神経発達症の子どもや養育機能が十分でない家庭で育った子どもには,ソーシャルスキルをはじめとする生きていくすべなどを子どもに教えることも必要になる。こうした生きていく術を子どもに教えることや親への心理教育プログラムは,子どもにとっては二次障害を防ぐ「ワクチン」のような働きをすると考えている。心理治療プログラムを優先するあまり子どものこころの動きについて顧みられなくなる可能性が高まるのである。メンタライジング・アプローチは心理治療プログラムを行う際にも子どもや親のこころの動きを理解するうえで役に立つと私は考えている。そして,私は子どものプレイセラピーのfirst lineとして時間制限型MBT-Cが位置づけられることを期待しているのである。

文  献
  • Midgley, N., Ensink, K., Lindgvist, K., Malberg, N., Muller, N.(2017)Mentalization-Based Treatment for Children.Washington. American Psychological Association.(上地雄一郎・西村馨監訳,石谷真一・菊池裕義・渡部京太訳(2021)メンタライジングによる子どもと親への支援―時間制限式MBT-Cのガイド.北大路書房.)
  • 西村 馨編著(2022)実践・子どもと親へのメンタライジング臨床―取り組みの第一歩.岩崎学術出版社.
+ 記事

渡部京太(わたなべ・きょうた)
群馬病院
資格:MBT-C practitioner
主な著書:『ラウンドテーブルトーク 児童精神科医という仕事: 臨床の過去・現在、そして明日を語る』(共著,金剛出版)

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