【特集 心理開業とオンラインカウンセリング】#06 グループを対象としたオンラインカウンセリング|信田さよ子

信田さよ子(原宿カウンセリングセンター)
シンリンラボ 第28号(2025年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.28 (2025, Jul.)

1.はじめに

本稿を書くにあたって,二つの視点が必要となる。①オンラインカウンセリングそのものについて,もうひとつは②グループカウンセリングについてである。前者に関しては,2020年のコロナ禍以降の原宿カウンセリングセンター(以下センターと略す)の取り組みを述べなければならないだろう。

オンラインカウンセリングの有効性や限界を論じる前に,センターとしては経済的基盤であるカウンセリング料金を確保するために,電話カウンセリング・オンラインカウンセリングという方法を取り入れざるを得ないという切迫感があった。個人開業であれば自分だけ我慢すればいいのかもしれないが,センターの規模からみてそれは不可能であった。

公認心理師・臨床心理士資格保有スタッフ12名(常勤者7名,非常勤者5名),受付担当者5名,年間平均新規来談者数500名以上という規模の開業心理相談機関を1995年から30年間運営してきた。有限会社であり,補助金や企業助成金などはなく,唯一の収入源は来談者(クライエント)からの相談料金であるという組織は,相談件数が減れば収入は減るし,緊急事態宣言発出後に来談者が激減すれば倒産の危機もあった。スタッフの雇用および会社組織存続のためにも,最低限のカウンセリング料金確保は死活問題であった。そのような最優先課題の次がカウンセリングの質の担保であり,クライエントとの相談関係における契約のシステム構築を考えるという順番だったことをまず述べたい。開業においては,経営的経済的基盤こそ最優先なのである。

2.オンライン導入のきっかけとなったコロナ禍

センターのオフィスの移転とコロナ禍の到来がほぼ同時期だったことは混乱と困難さに輪をかけた。1995年12月に開設されたオフィスは,筆者を取り巻く諸事情からわずか3カ月ですべてを立ち上げなければならず,大車輪で準備し,いくつかの物件の中から筆者が選んだ。原宿と渋谷の中間にあるこじんまりとしたビルの3階に位置し,窓の外を山手線が走り,南側には小さな公園があり桜の季節には窓から満開の花を見ることができた。ワンフロアに面接室が3つ,ミーティングルームと応接室,スタッフルームをつくった。

リーマンショックなどを経て,原宿周辺では古いビルを買い取り新築ビルにして転売するという現象が頻出していたが,センターのビルも例外ではなかった。2019年6月にビルの建て替えを理由に新しいオーナーから突然の転出を迫られたのである。拒否して粘ることもできたが,保証金と今後の事業展開を天秤にかけて移転を決断し,12月には現在地(渋谷区北参道)に新たなオフィスが完成した。広さも増し,賃料も大幅にアップすることで結果的には事業を拡大することになった。大きな不安と緊張のなかで内覧会を開いたのだが,直後に前代未聞のパンデミックが日本を襲ったのである。

3.オンラインカウンセリング導入と業務のDX化

小池都知事の三密回避の会見をきっかけに,2人が密室で会話することが基本となるカウンセリングが今後どうなるのかという不安が筆者を襲った。常勤スタッフ間の携帯電話やSkypeによる頻回の相談を繰り返し,スタッフ間で担当班をつくった。感染対策衛生班,オンラインカウンセリング契約書作成班,在宅・出勤者の業務分担班,ウェビナー班,グループカウンセリング担当班などである。全スタッフがいずれかに入り,外国の資料などを検索し前例のない試みに取り組んだ。開業心理相談機関では前代未聞の事態だったし,何より緊急が要請された。

全員の機動力に感服させられたのは,ゴールデンウィークに入る前にはすべての試みが文書化されていたことだった。そのときつくづくセンターのスタッフは優秀だと自賛したものだ。今後どれほどパンデミックの状態が深刻化しようと,センターでは途絶えることなくカウンセリングもグループカウンセリングもオンラインによってすべて実施できるという安心感を得たのである。

ところがオンライン化は,世代によって習熟度に差が出る。その残酷な現実はどうしようもないことだった。70代の筆者は必死に,時には泣きそうになりながら新たにノートPCを買い換えてオンラインの現実に付いていったが,60歳以上のスタッフの多くが退職するきっかけとなった。世代交代が進み,60代だった事務長が退職し40代の現事務長に交代したことをきっかけに,センターの業務全体のDX化も進めることにした。現在ではあらゆるスタッフ間の連絡はslackで行い,カウンセリングの予約もデスクネッツのアプリを使用して行っている。日本全国のビジネス界のDX化をコロナ禍が後押しをしたのと同様なことがセンターでも起きたのである。

今では開業心理相談機関では当たり前のことになったが,2020年5月からは当センターの中野葉子が中心となり,信田さよ子公開セミナー,専門家向けのセミナー,来談者も参加可能な教育プログラムをそれぞれオンラインで開始した。それらは2025年の現在まで続いており,参加費はセンターを支える大きな収益となっている。

4.開業心理相談におけるグループカウンセリング

開業心理相談機関でグループカウンセリングを実施している例は少ないのではないか。従来の臨床心理士養成課程においてグループカウンセリング(集団精神療法)を学ぶ機会は少なく,あらゆる流派において個人心理療法が基本となっていることは周知の事実だ。そのことが公認心理師や臨床心理士の実践においてグループへの距離を生んでいるのではないかと思われる。もうひとつの理由はコストの問題だろう。グループには空間(スペース)が必要となる。3人以上,時には10人を超えるクライエントが一同に会するには,個人カウンセリングをはるかに超える広い空間が必要となる。大きな精神病院や公的相談機関ならまだしも,開業の精神科クリニックでさえグループ実施は採算が合わない。デイケアの一環として,時にはリワークとして保険点数がカウントされて初めて実施できるのだ。

センターではグループカウンセリングは必須だと考えてきた。そのルーツは,筆者自身が大学院時代から心理劇を始めとする集団活動によって臨床経験をスタートした点にある。さらに精神病院でもアルコール依存症者の集団療法を実施し,保健所や福祉施設でのグループも経験した。アルコール依存症の治療においてグループが欠かせないことは,AA(アルコホーリクスアノニマス)などの自助グループなくして依存症の回復はありえないこととパラレルだからだ。

1985年から10年間,ソーシャルワーカー主体のアディクション専門相談機関に勤務していた。そこではいくつものグループカウンセリングが実施されていた。アルコール依存症者(男性だけ,女性だけの),その配偶者,摂食障害者,その母親,アダルト・チルドレン,などなど多種多様なグループのファシリテーターやコ・ファシリテーターを経験することができた。したがって1995年原宿カウンセリングセンターを設立する際に,当然のようにグループカウンセリングを実施するミーティングルームを擁した物件を探したのである。

当時心理職で依存症にかかわる人は稀だったが,そのひとりが関西で開業することになった。「グループは実施するの?」と尋ねたら,「信田さん,採算が合わないからグループはやらないよ」と言われたことがある。そう言われてあらためて計算したら,2時間のグループ(参加費一回3,300円)は,6人以下なら1時間の個人カウンセリングを2ケース実施するより収入が少ないことがわかった。おまけにミーティングルームという広い部屋が必要になるのだから,彼の言うことはもっともだったのである。

5.オンラインのグループカウンセリング

それでもなおグループを実施しているのには理由がある。①心理教育的アプローチ。②介入的アプローチ。③自助グループ的アプローチ。④認知行動療法的アプローチの4種類の方法を駆使することで,センターの心理援助の方向性を明確にし,広い意味での「場」(トポス)として機能させることができるからだ。

個人カウンセリングの集積ではなく,数多い来談者をひとつの理念のもとで包括的に支援・援助することの象徴がグループカウンセリングなのだ。

センターは家族を対象としている。問題を起こしている傍らで苦しむ家族を援助するには,家族療法的なアプローチとして心理教育的で介入的な支援が必要になる。開設当初から共依存グループ(KG)として実施しているが,近い将来これについての著書を上梓する予定である。

もうひとつ,センターにおける重要な柱として暴力等の被害者支援と加害者教育がある。前者はAC(アダルト・チルドレン)のグループであり,現在3種類実施中だ。親からの被害を自覚したひとたちにとって,心理教育的な意味合いを持ちながら自助グループ的雰囲気やつながりを重視したグループは必須である。これも開設当初から実施しており,中でも女性たちのACグループは筆者のいくつかの著書を執筆するための示唆を与えてくれた。

前者のもうひとつがDV被害者のグループである。女性を対象としているが,開始当初より非身体的DVの被害者が過半数を占めていた。2001年にDV防止法が制定されて以来,日本では身体的DVの被害者のみがクローズアップされてきた。センターは公的支援から漏れ落ちた非身体的DV被害者にとっての受け皿として機能してきた。20年以上経ってやっと心理的DVが脚光を浴びるようになったが,センターでのDV被害者グループは常に先導的先端的被害者が集まる場であったと思う。

それ以外にも,「お父さんグループ」と名づける虐待加害の父親グループを不定期に実施している。また筆者が代表理事を務めるNPO法人主催のDV加害者プログラムや,DV被害母子の同時並行プログラムなども,センターのミーティングルームを使用して実施している。これらは,いずれもグループカウンセリングとして実施している。

6.オンライングループカウンセリングの意味

2020年から4種類のグループをオンラインで実施してきた経験からその特徴をいくつか述べる。

1)コスト削減と参加者の拡大

クライエントが来談するために要する時間・交通費・体力というコストが削減される。それは同時に,もうすぐ80歳を迎える筆者にとっても同じである。そのことで,遠方からの参加者との差がなくなり,地方からの参加者は増えている。

2)見えない部分への想像力の高まり

今ここに存在しない身体性によって,グループのファシリテーターである筆者の想像力が高まる。着ている服や靴はわからないが,画面で見える姿からクライエントの状況を想像しなければならないからだ。

3)言葉=言語中心になる

しぐさや言葉の調子などが省略されることで,発言内容の持つ比重が相対的に高まる。もともと筆者のグループカウンセリングは,来ている服や顔色,表情による解釈をほとんど重視しなかったので,オンライン化への抵抗がほとんどなかったのだ。

4)開始前,終了後の参加者の交流がなくなる

リアルで実施していた時は,ミーティングルームに先に入ったクライエントどうしがおしゃべりしたり,終了後は連れ立って駅まで歩いたり,カフェでお茶をするという交流が当たり前に生まれていた。自助グループではそれを「フェローシップ」と呼んでおり,グループ後の交流のほうを楽しみにする人もいるという。

センターのグループでも,いわゆるフェローシップのおしゃべりで傷ついたり,噂が広がったりという事態が起きたこともあったが,センターの責任の範疇外とするしかなかった。しかしオンライン化によってその可能性が極めて少なくなったことは事実だ。もちろん交流の方法はLINEのグループをつくったり,チャットによるつながりとして生まれてはいるが。

5)自分だけの空間が要請される

夜間のグループの場合は特に,子どもや夫に聞かれない空間確保が必要となる。自家用車の中やカラオケボックスからの参加は珍しくない。勤務先で2時間休暇を取り,時間貸しのワークスペースから参加する人もいる。今では,グループはすべてオンラインという告知がホームページにアップされているので,多くのクライエントは自分なりに空間確保してから申し込むことになっている。

6)感情の切り替えや処理の能力アップ

オンラインは時間ぴったりに始まり,ホストであるファシリテーターが画面オフにして終わる。予兆・前駆なし,フォロー無しの終了がオンラインの宿命である。センターのウェビナーの場合は,しばらくバックミュージックとして音楽を流す試みもしているが,グループカウンセリングはそれをする余裕がない。クライエントはそれぞれがグループ参加の高揚感をクールダウンする工夫をしているようだが,それに関していつかクライエントに尋ねてみたいと考えている。

7.おわりに

2020年のコロナ禍の始まりがなければ,グループカウンセリングをどうしていただろうと思う。2022年から顧問となり,センターに出勤するのは週一回だけである。もう一日は個人カウンセリングに加えて二つのグループカウンセリングをオンラインで実施しており,グループが終了するのは夜の11時過ぎだ。そんな勤務形態が可能になったのも,オンラインカウンセリングによってである。

高齢化した筆者にとって,オンラインのグループは現役でいる期間を長くしてくれたことは間違いない。そして,飛行機や新幹線を利用しないとカウンセリングを利用できなかった人たちにもグループが開かれたことは,何よりすばらしいことである。もともと大きかったグループカウンセリングの意味に,これらが加わったのである。

新しいものには必ず意味があるというのが筆者の信念だ。2020年のあの苦労は忘れられないが,私にとってオンライン化はメリットしか感じられない。ただひとつ,広いミーティングルームの活用だけが今後の課題である。セミナーなどに貸すことも可能であるが,読者の皆さまのアイデアがあったらぜひお寄せいただきたい。

+ 記事

信田さよ子(のぶた・さよこ)
原宿カウンセリングセンター
資格:公認心理師,臨床心理士
著書:『家族と厄災』(生きのびるブックス,2023),『共依存—苦しいけれど、離れられない 新装版 』(朝日文庫,2023),『タフラブー絆を手放す生き方』( dZERO,2022),『家族と国家は共謀する』(角川新書,2021),『暴力とアディクション』(青土社,2024),『心理臨床と政治 こころの科学増刊』(日本評論社,2024)など多数

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