【特集 心理開業とオンラインカウンセリング】#04 心理開業を安定経営するための5つの補遺|久持 修

久持 修(やまき心理臨床オフィス代表)
シンリンラボ 第28号(2025年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.28 (2025, Jul.)

1.はじめに

心理開業とオンラインカウンセリングに関する最前線の知見をまとめた本企画。各論考の実践的な洞察は大変参考になった。本稿では,これらの内容を補完し,未触の項目について論じる。項目ごとのまとまりに欠ける点があることをご容赦願いたい。

2.オンラインカウンセリングの料金設定

オンラインカウンセリングの料金設定についてはどのように考えるべきであろうか? そもそも論であるが,開業をするからには閉業に追い込まれることがないようにしたい。閉業の影響はクライエントにとって甚大であり,クライエントのためにも閉業は避けるべきである。そして,心理開業の閉業には少なからず「料金設定の問題」が影響していると感じることが多い。この背景には心理師の多くが,「お金」というテーマにしっかりと向き合えていないことから来ているのではないかと思われる。「困っている人からお金をとるなんて申し訳ない」「私はお金のために働いているのではない」このような意識が,お金と正面から向き合うことを拒ませていないだろうか? 開業に向けて一歩踏み出すからには,まずは現実と将来を見据えて,お金と向き合うことが必要である。

次に,料金設定を行ううえで気をつけなければならないのは「1時間のカウンセリング料=時給ではない」ということである。当然のことながら,開業にはコストがかかる。事務所の家賃や光熱費・通信費,オンラインカウンセリングを行うのであればそのための機材(PCやタブレット等)やツール(Zoom等)の使用料などがかかってくる。「私は自宅でオンラインカウンセリングをやるので家賃がかからず,経費はほぼかかりません」という人もいるかもしれないが,最低でもツールには固定費がかかるし,PC等が故障した場合には速やかに買い替えなければならなくなる。また,料金を安く設定したにも関わらずクライエントの新規申込数が思っていたより少なくなる場合もある。そのような事態に備えられていなければ永く続けていくことは不可能である。

さらに,カウンセリングを行っている時間以外にも,クライエントとの予約調整,記録の整理や入金の確認等の事務作業が必ずかかってくる。この点を見誤ると,カウンセリングの数が増えてきたときに,働けば働くほど赤字(負担)が嵩み,値上げせざるを得なくなってくる。当初の見通しの甘さからくる値上げは避けるべきであろう。

では「オンラインカウンセリング」の料金設定についてはどのように考えるべきであろうか。ここでは「対面カウンセリング」と比した料金設定について考えたい。

筆者の所感としては「コスト面から設定する」考え方と,「セラピストの拘束時間から設定する」考え方に分けられる。

まず,「コスト面から設定する」考え方の例としては次のとおりである。オンラインカウンセリングの場合,事務所を借りる必要性がないため,家賃がかからずに済むのであれば対面カウンセリングと比べて安価に設定される場合があるだろう。ただし,事務所を構えて対面カウンセリングも行っている場合には考え方は少々難しくなる。そもそも事務所を借りているうえ,事務所内でオンラインカウンセリングに対応するのだから,クライエントが事務所を使用しなくても対面カウンセリングと同じ料金設定にすることが必要になるかもしれない。コスト面から設定することを考えれば,オンラインカウンセリングの料金を対面カウンセリングよりも安くしてしまうと,オンラインカウンセリングを行えば行うほど収益性が悪化していくことにつながる。逆に,コロナ禍において元々事務所を借りて対面カウンセリングを行っていたところからオンラインカウンセリングを導入した場合,新たに設備投資にコストがかかったため,オンラインカウンセリング料の方を高く設定するという考え方も耳にしたことがある。

次に,「セラピストの拘束時間から設定する」という考え方を採用する場合もあるだろう。すなわち,「セラピストの専門性を提供する対価としてお金を受け取っている」と考え,セラピストの拘束時間に対して料金を設定するのである。よって,対面であろうがオンラインであろうが時間が同じであれば同じ料金に設定する。また,初回面接と2回目以降の面接,心理療法の種類のいかんを問わず,かかった時間に対して料金が設定される。書類を作成する時や心理検査を行う時も同様で,作成に要する時間の見込みから料金設定をおこなうことになる。

このように,料金設定についてはそこに心理師としてどのような考え方を持って臨むのかが反映される。

3.助成金について

心理開業を行う際に意外と見落とされやすいのが助成金の活用である。助成金については様々な種類のものがあるうえ,年度によって異なってくるので,詳しくは地域の「商工会議所」に相談をすると良い。なお,商工会議所は助成金の情報を教えてくれるだけでなく,起業に関する相談,経営改善や販路拡大に関する相談,法律・労務・税務に関する相談など,心理開業をするうえで必要なこと(かつ,多くの心理師が苦手とすること)に対応してもらえるので,開業する際には必ず関係を作っておきたい。

次に,毎年制度が変わってくることはご理解いただきたいところであるが(数年先にはなくなっていることもあり得る),近年人気があり,心理開業との相性も比較的良い(申請が通りやすい)ものとして「小規模事業者持続化補助金」について簡単に紹介したい。

小規模事業者持続化補助金は,従業員数の少ない小規模な会社や個人事業主が,新しいクライエントに利用してもらうための取り組み(販路開拓)や,業務の効率化(生産性向上)にかかる費用の一部を国が補助してくれる制度である。オフィスが提供する心理支援をより多くの人に知ってもらい,売上アップを目指すための,いわば「挑戦を応援する資金」とされている。

例えば,これまでオンラインカウンセリングを行ったことがないオフィスの場合,新たにオンラインカウンセリングを行うため(販路開拓),そのチラシを作成・配布したり,ホームページを作ったりする場合の費用の一部に補助が得られるのである。

もちろん,この補助金の申請には,一定の労力(申請書類の作成など)がかかってくるうえ,申請しても必ず通るわけではないので,通らなければ労力が無駄になってしまう場合もある。また,補助が得られる条件も細かく定められているので,申請に際しては,要項を熟読する必要がある。

2025年の小規模事業者持続化補助金(通常枠)は,申請が通った場合,最大50万円が補助されるので,まだ軌道に乗っていない個人事業のオフィスであれば数ヶ月分の売上に相当するのではないだろうか。これらの助成金をうまく活用できれば,多くの心理開業オフィスの経営が早期に安定しやすくなり,閉業に追い込まれるオフィスも減るのではないかと思われるので,ぜひ,助成金を有効活用することを考えてみていただきたい。

4.オンラインカウンセリング実施上の留意点

オンラインカウンセリング実施上の留意点について,対面カウンセリングとの違いという観点から以下に論考したい。

まず,オンラインカウンセリングの場合は,空間を共有できないという点に配慮すべきである。例えば,筆者の場合は初回面接の際に,まずはセラピスト側の部屋の状態を(ノートPCをぐるっと回して)クライエントにお見せしている。つまり,クライエントに対してこちらの環境を開示するのである。また,クライエントにはプライバシーの問題もあるので,部屋の中を同じように見せていただく必要はないが,どのような環境にいて,同席している人はいるか,また,カウンセリング中に起きうること(クライエントの子どもが部屋に入ってくるなど)についてあらかじめ確認を取り,それが生じた時の対応についても話し合っておくことにしている。このあたりの確認をとらずに進めてしまうと,面接開始後に実は画面に映っていないところに家族が同席していた,などといったことが起きうるので注意が必要である。

また,室温についても共有することができないので,セラピストはエアコンが効いた快適な部屋に身を置いていても相手は蒸し風呂のような状態に身を置いている可能性もある。

次に,オンラインカウンセリングで使える機能として,画面共有やチャット機能の活用が挙げられる。筆者はこれらの機能を駆使しているとは言い難いのだが,一般的な使い方の例としては,クライエントと資料を共有する際に画面共有は便利である。また,本を紹介したりする場合など画面共有を使ったり,口頭ではうまく伝わらない用語についてチャット機能を使って文字で伝えることも可能になる。また,通信状態が悪くなったり,音声がうまくつながらなかったりする場合はチャット機能でメッセージを送り合うことが役に立つことがある。このように,カウンセリングの補助としてこれらの機能を使うことが可能なのであるが,今後はオンラインツールの機能をむしろセラピューティックに使っていけるような工夫などが考案されていくのではないかと期待している。

5.電子データの保管方法について

オンラインカウンセリングと直接関係はないかもしれないが,記録の媒体が紙から電子に変わっていく流れがきているので,その保管方法,セキュリティー対策について簡単に触れておきたい。

もしかしたら,かなり多くの方が「紙媒体の方が電子媒体よりも安全だ(保管方法として優れている)」と思われているかもしれないが,そうとは限らない。紙媒体には盗難や紛失のリスクがある。もちろん,管理の仕方しだいであり,鍵付きのロッカーに管理するなど徹底した管理を行うことでこれらのリスクをゼロに近づけることができる。それと全く同じようなことが電子媒体の保管についても言える。つまり,管理の仕方しだいだということである。電子媒体の場合の保管方法は政府が推奨している「クラウド・バイ・デフォルト原則」を参考にしたい。電子媒体の保管方法としては,クラウドに保管することを第一選択肢として検討するというものである。読者の中には,「USBメモリは論外として,例えばネットに接続していないPCに保管するのが一番安全なのではないか」と疑問に思う方もいるかもしれないが,ネットに接続していないPCに保管するのはデータの流出のリスクは少ないかもしれないが,PCの故障等によるデータの消失のリスクがある(もちろん,バックアップを取ることでそのリスクは軽減できる)。また,今時ネットに接続しないPCをデータ保存のために1台購入し,設置しておくことはあまり得策とは言えないだろう。一方,クラウドの場合はPCが故障しようがクラウド上のデータには影響がない。もちろん,保管のためにPCを1台購入・設置しておく必要もない。だだし,第三者がクラウドのデータにアクセスできる可能性が最大のリスクとなる。

参考までにご紹介すると,筆者のオフィスでは,Kintone(キントーン)というサービスを利用しており,ここにクライエントの個人情報等,最高レベルに保護すべき電子データを保管している。当然のことながら,クラウド上に保管されたデータはKintoneの会社によってしっかりと守られている。少なくとも心理師のオフィスでネットに繋がったPCにデータを保管するよりはるかに安全であることは間違いない。また,データにアクセスするためにはログインが必要なのだが,ログインできる端末は限定され,登録された端末からしかアクセスできなくなっている。さらに,IDとパスワード(職員1人ずつ違うものを使用)を入力し(パスワードも年に1回変更することがシステム上必須になっている),2段階認証アプリで認証を行って初めてログインできる。ログインに関しては筆者が使っている銀行のインターネットバンキングにログインするよりも強固なセキュリティ対策が施されている。また,IDとパスワードの管理のために,職員にはパスワード管理アプリを入れてもらいその中で管理を徹底している。このように電子媒体の保管に際しては,利用する側の運用とその徹底が重要であり,これは紙媒体の保管と同じことが言える。

6.AIの使用についての留意点

近年,急速に発展してきている(生成)AIについても触れておかねばならないだろう。まず,AIに個人情報を入れないことが原則である。もし,個人情報を入れてしまった場合,それがAIによって学習されてしまい,AIが生成したテキストや画像などに個人情報が現れてしまい個人情報が流出してしまう可能性があるからである。

AIの種類や設定の仕方によっては,AIの学習に使用されないようにできるが,その場合であっても(少なくとも現時点では)個人情報をAIに入力すべきではないだろう。

上記のようなことは,AIを日常的に使っている人なら常識的に知っていることだと思われる。しかし,本当に気をつけなければならないのは,AIをほとんど使ったことがない人などAIに対する知識と経験が不足している人だ。

例えば,近年Zoom等でも自動で文字起こしサービスが開始され,この文字起こしにはAIが用いられている。つまり,この機能を使用した場合,Zoomでの会話内容がAIに読み取られることになる。仮にクライエントとの面接時にこの機能を使用した場合,クライエントとの面接内容をそのままAIに入れていることと同じになるのだ。もちろん,Zoomによれば,この文字起こし機能ではAIの学習には使用されないと明記されているものの,意識せずにこのような機能を使ってしまう危険性を知っておいていただきたい。しかもZoomの場合は,部屋を開いた時に「このミーティングで話されている内容の自動文字起こしを表示するには,このウィンドウ下部の[文字起こしを有効にする]をクリックしてください」。[文字起こしを有効にする]/[後で]などとの表示が出てきてしまうことがあり,これを何も知らずに[文字起こしを有効にする]をクリックしてしまうと上記のような機能が発動するのである。このような機能は,むしろAIに関する知識がない人が自覚なく使ってしまう恐れのあることだと思うので,注意を促したい。AIは急速に普及しており,もはやAIのアプリを入れたりしなくても気づかずに使ってしまうようになってきている。だから,「私はAIを使っていないから大丈夫」とたかを括るのは危険であることを強調したい。

本稿では,心理開業,特にオンラインカウンセリングにおける料金設定,助成金の活用,実施上の留意点,そして電子データ管理とAI使用時の注意点について詳述した。これらが,心理師の皆様の開業の一助となれば幸いである。

文  献

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久持 修(ひさもち・おさむ)

やまき心理臨床オフィス代表
公認心理師・臨床心理士。日本公認心理師協会私設臨床委員会委員長,日本ブリーフサイコセラピー学会理事。著書に『ナースのこころがラクになるすぐやるストレス解消術(学研メディカル秀潤社)』『4つの気質で医療スタッフをラクにする! 人間関係メンテナンス術(日経メディカル)』などがある。趣味はランニング(フルマラソンサブ3の記録を持つ)

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