【特集 心理開業とオンラインカウンセリング】#01 開業のための準備|久保山武成

久保山武成(ルバート心理カウンセリング)
シンリンラボ 第28号(2025年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.28 (2025, Jul.)

1.オンラインカウンセリングを始めたきっかけと変化するニーズ

1)オンラインへのニーズ

「母国語でカウンセリングを受けたかった──」

この言葉が,筆者がオンラインカウンセリングを始めたきっかけである。あるクライエントが海外で調子を崩し,帰国後に筆者の対面カウンセリングを受けた。その際,「海外在住時に母国語でカウンセリングを受けたかった」と語った。その言葉は,心理支援を必要とする方が,言語や地理的制約のために適切なサポートを受けられない現状を示していた。

この経験を通じて,筆者はオンラインカウンセリングの可能性に目を向けるようになった。日本国内でも,心理支援が行き届かない地域があることを考えると,オンラインを活用することで,より多くの方に適切なカウンセリングを提供できるのではないかと考えた。COVID-19以前からオンラインカウンセリングに取り組んでいた背景には,このような動機がある。

2)柔軟に選ばれる手段へ

COVID-19以降,オンラインカウンセリングの利用方法にも変化が見られるようになった。かつては「オンライン=特別な手段」と見なされていたが,今では多くのクライエントが状況に応じてオンラインと対面を自然に使い分けている。特に,仕事や子育てなどで時間の制約がある方や,天候や交通の問題で移動が難しい時には,オンラインの利便性が高く評価されている。

筆者のオフィスは秋田にあり,冬場は雪や路面の凍結によって移動が困難になることもある。そのため,冬の間だけオンラインを希望するクライエントもいる。また,普段はオンラインで継続しているクライエントが「一度は直接お会いしたくて」と来られるケースもある。さらに,初回は対面で関係を築き,その後はオンラインで継続するといった,併用スタイルも広がっている。

このように,オンラインカウンセリングは「やむを得ない方法」ではなく,生活状況やニーズに応じた「自分に合った方法」として定着しつつある。あえて対面ではなくオンラインを選ぶ方も増えており,心理支援のあり方に柔軟性が求められるようになってきている。

2.誰に届けるかを起点としたオンライン導入

開業にあたっては,どんな人に,どのような支援を届けたいのかを軸に手段を選ぶことが大切である。オンラインのみで開業する場合,初期コストを抑えられるというメリットがある。しかし,そのような実務的な事情だけで選択するのではなく,自分がどんな支援をどこに届けたいのかという理念に立ち返って考えることが求められる。

筆者の場合,開業にあたって最初に浮かんだのは,海外在住の方にも母国語でのカウンセリングを届けたいという思いであった。結果としてオンラインという手段を選んだのは,そのニーズに応えるためである。支援が届きにくい人へ,心理的・物理的な距離を超えて関わりたいという思いが出発点にあった。

海外在住の方はもちろん,遠隔地に住む方,外出が困難な方にとって,オンラインは単なる代替手段ではなく,必要な支援にアクセスするための窓口となる。オンラインを取り入れるかどうかは,提供したい支援の内容や届けたい対象によって自然と決まってくる。たとえば,自分の住む地域やその周辺に暮らす人たちに支援を届けたいのであれば,対面だけでも十分に機能するかもしれない。オンラインか対面かは,提供するサービスの形を考えた結果として位置づけられるべきであり,手段が目的化してしまわないように意識しておくことが重要である。

3.オンライン実践の工夫と気づき

1)どのような人がオンラインを選ぶのか

オンラインカウンセリングを選ぶ人について,「若者やITに馴染みのある人が多いのでは」と思われることもある。たしかにその傾向はあるが,実際にはデジタルツールの扱いが苦手な方や高齢の方が申し込むケースも少なくない。そうした方々が,家族の協力を得ながら申し込んでくることもあり,そのやりとりから家族関係のあたたかさや協力体制が感じられることもある。

このような背景は,クライエント自身のリソースとして,今後の臨床において参考になることがある。家族の関与や支援体制が垣間見えることで,その後の支援の方向性を考える上でのヒントになる場合もある。

2)画面越しに見えてくる情報・見えにくい情報

「オンラインカウンセリングでは,クライエントのことを理解したり,雰囲気を掴むのが難しいのでは?」

こうした質問を受けることは少なくない。たしかに,オンラインと対面では,得られる情報の質が異なる。たとえば対面では,神田橋(1994)が述べているように,「最も多く用いられる形式は,90度対面法である。真正面に向き合う形よりも,緊張が和らぐので,この位置が好まれる」。このような配置は,視線がぶつかりにくく,適度な心理的距離を保つ効果があり,クライエントが話しやすくなる環境づくりの一環として広く用いられている。

一方,オンラインでは画面越しに向かい合う形となり,クライエントの視線や表情が常に正面にあるように感じられる。対面で真正面から相手の顔をじっと見ることには圧迫感が伴うが,オンラインではそうした緊張が比較的少なく,表情の微細な変化が観察しやすいという利点がある。

さらに,視線の向きがカメラとの関係で多少ずれていても,相手にはまっすぐ見ているように映るため,アイコンタクトの意味合いも変わってくる。こうした特徴を理解しながら,自然な距離感をつくっていく工夫が必要である。

また,オンラインではクライエントの背景に自宅の様子が映ることが多く,どのような生活環境で日々を過ごしているかが見えてくる。ペットの存在や室内の装飾,小物の配置など,さりげない情報がその人らしさを伝えることもある。クライエント自身も,部屋着のままでリラックスした状態で話していることが多く,安心感を持って面接に臨めると語る人もいる。「対面よりも話しやすい」と感じるクライエントも少なくない。

一方で,空気感や全体の雰囲気といった感覚的な情報はやや捉えにくくなる。その分,声のトーンや話すテンポ,間の取り方といった情報に自然と意識が向きやすくなる。言葉の選び方や息遣い,声の揺らぎに敏感になることで,非言語的な変化や感情の揺れを丁寧に拾う姿勢が育まれる。

情報が限られているように見えても,注意深く耳を傾け,観察する姿勢を持てば,必要な情報は十分に受け取ることができる。

3)自分のスタイルを知る機会としてのオンライン

オンラインカウンセリングを継続する中で,筆者は自分自身の“感覚的なクセ”にも気づかされる場面があった。たとえば,音声のみの面接では,クライエントの状態を把握するのが難しいと感じることが多く,視覚情報に強く依存していた自分に改めて気づいた。一方で,同じオフィスで働くスタッフの中には「むしろ映像がない方が相手に集中できる」と話す人もいた。おそらくこのスタッフは聴覚情報を重視しているということだろう。

このような違いに触れることで,カウンセラーとして自分がどの感覚器官を重視して面接を組み立てているのかが明確になる。オンラインという特性は,自分のスタイルやこだわりを見つめ直すよい機会となり,技術的な適応だけでなく,セラピスト自身の自己理解を深めることにもつながっている。

4)機材と回線の整備は土台になる

オンラインカウンセリングを安定して行うためには,技術的な準備が欠かせない。特に重要なのが,カメラ・マイク・回線の3点である。カメラは,こちら側の表情や視線をクライエントにしっかり届けるために一定の解像度を備えたものが望ましい。加えて,筆者自身がクライエントの細かな表情の変化を観察しやすいように,モニターや画面配置にも配慮している。マイクも内蔵型ではなく,ノイズを抑えた外付けのものやヘッドセットの使用が勧められる。なかでも,通信環境の安定性は最も重要なポイントである。接続が不安定だと,音声の途切れや映像の停止が頻発し,対話が成り立たなくなってしまうこともある。こうしたトラブルが頻発すると,カウンセリングの満足度が下がってしまう可能性がある。たとえば,通信が不安定な場合でも,多くのクライエントはそれを伝えれば再度説明してくれるなど,柔軟に対応してくれる。一方で,それが続くようであれば,お互いにフラストレーションがたまりやすくなるため,光回線や有線LANなど,安定した通信環境の整備が重要となる。

筆者自身もオンライン面接を行う際には,こうした技術的な準備が「話しやすさ」に影響することを実感している。これらの準備は一見地味だが,オンライン面接においては見えない土台として大きな意味を持っている。

5)支払い方法とクライエントへの配慮

オンラインカウンセリングに関して,意外とよく尋ねられるのが料金の支払い方法である。結論からいえば「どの方法でも問題はない」が,実務上の手間や効率性をどう考えるかが重要になる。

その一方で,カウンセリングという営みの本質に目を向ければ,面接に臨むということ自体がすでにクライエントに大きな心理的負荷を与える行為であることを忘れてはならない。河合(1998)は,つらい現実や否定的な側面と正面から向き合う過程こそがカウンセリングであると述べ,「カウンセリングというのは非常に厳しいものです」と記している。

こうした前提を踏まえると,支払い手続きや書類上の確認といった面接以外の要素については,できるだけ負担を軽減する工夫が必要となる。筆者のオフィスでは,予約システムとクレジットカードによる事前決済を組み合わせ,予約時に利用規約への同意も得る形を採用している。この仕組みにより,当日の事務的ストレスが軽減され,クライエントが心理的作業に集中しやすくなる。

なお,銀行振込を用いているカウンセリングオフィスもあり,どの支払い方法を選択するかは,それぞれの運営方針や事務処理の負荷との兼ね合いによって異なるだろう。重要なのは,支払いの手段ひとつにおいても,クライエントの立場に立ち,なるべく負担をかけない配慮を忘れないことである。

4.まとめ

オンラインカウンセリングは,地理的・身体的制約を超えて心理支援を届けることができる有効な手段である。一方で,その実践には特有の工夫と準備が求められる。

今後,開業を考える心理士にとって,オンラインカウンセリングは選択肢の一つとして検討する価値がある。その導入の仕方を模索しながら,自分なりの実践を築いていってほしい。オンラインの導入は,単なる手段ではなく,支援の可能性を広げる行為そのものである。また,新しい技術を取り込むことは,これまで当たり前として行ってきた関わり方や面接の構造を見直す契機にもなる。たとえば,面接室という空間,対面でのやり取り,身体を介した相互作用など,無意識に前提としていた要素がオンライン化によって揺さぶられることで,自分自身が大切にしている「支援とは何か」を再考することにつながる。そうした見直しを経て,対面・オンラインを問わず,より本質的な支援のあり方を模索していくことができるだろう。

筆者が実践の中で参考にしている解決志向アプローチでは,「うまくいっているなら,変えようとするな」,「一度やってうまくいったなら,またそれをせよ」,「うまくいかないなら,違うことをせよ」という原則が紹介されている(田中,2021)。このシンプルな指針は,クライエントとの面接だけでなく,新しい技術を取り入れる過程や,開業における試行錯誤にも通じている。筆者自身,オンラインという形式を取り入れる際にも,細かな工夫や判断を繰り返しながら,実践に合った形を模索してきた。それは一つの完成された方法を目指すというよりも,それぞれの臨床家が,自らに合ったやり方を試しながら,徐々にかたちづくっていくような営みである。今後,オンラインカウンセリングを始める方には,実践に即した工夫を重ね,自分らしいスタイルを模索していくことをおすすめしたい。

文  献
  • 河合隼雄(1998)河合隼雄のカウンセリング入門.創元社.
  • 神田橋條治(1994)追補 精神科診断面接のコツ.岩崎学術出版社.
  • 田中ひな子(2021)解決志向アプローチ.In:日本ブリーフサイコセラピー学会編:ブリーフセラピー入門.遠見書房.
+ 記事

久保山 武成(くぼやま・たけなり)
秋田赤十字病院,国立精神・神経医療研究センター,東京大学医学部附属病院,東京大学医学部特任助教を経て,2019年7月よりルバート心理カウンセリングを設立。
日本ブリーフサイコセラピー学会常任理事。

著 書:
分担執筆:『総合病院の心理臨床:赤十字の実践』(2013年,勁草書房)

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