【特集 認知行動療法はテイラーメイドだ!】#06 スキーマ療法①──基本編:やっかいな「生きづらさ」を理解して手放す統合的セラピー|伊藤絵美

伊藤絵美(洗足ストレスコーピング・サポートオフィス)
シンリンラボ 第27号(2025年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.27 (2025, Jun.)

1.スキーマ療法とは

スキーマ療法(Schema Therapy)はヤング Young, J. E. が境界性パーソナリティ症(BPD)を対象に構築した,アタッチメント理論,ゲシュタルト療法,力動的アプローチなどを認知行動療法(CBT)に組み込んだ統合的な心理療法である。包括的な治療マニュアルが出版され(Young et al., 2003),それが世界中で翻訳されたこと,そしてBPDを対象としたランダム化比較試験(RCT)を通じて治療効果のエビデンスが示されたことによって(Giesen-Bloo et al., 2006),スキーマ療法への注目が世界的に高まった。そのRCTでは,スキーマ療法における脱落率が非常に低いことが示され,それも併せて注目された。その後の臨床研究により,BPD以外のパーソナリティ症や複雑性トラウマ,難治性のメンタルヘルスの障害(慢性うつなど)にも効果があることが示されている。

2.スキーマ療法の理論モデル

1)中核的感情欲求

中核的感情欲求(Core Emotional Need)とは,スキーマ療法のそれこそ中核にある重要概念である。それは「すべての子どもにおいて満たされて然るべき欲求」のことで,それが幼少期から思春期にかけて適切に満たされると子どもは健全な発達を遂げ,満たされないとそれが傷つき体験,場合によってはトラウマとなり,次に解説する早期不適応的スキーマ(Early Maladaptive Schema)が形成され,成長後のその人の生きづらさにつながり,場合によってはパーソナリティ症などメンタルヘルスの問題に至ると考えられている。スキーマ療法では5つの中核的感情欲求を想定している。それは①無条件に愛され,理解され,守られ,受け入れられたい,②上手にできるよう導き,褒めて欲しい,③私自身の欲求や感情をまず大事にして欲しい,④のびのびと自由にこの世界を楽しみたい,⑤自律・自立した存在でありたい,の5つである。

2)早期不適応的スキーマ

次に重要な理論モデルが前述の早期不適応的スキーマであり,ヤングは18のスキーマを同定した。それらは,上記の5つの中核的感情欲求が満たされないことによって形成される認知構造で,1つ目の欲求が満たされないことで,①情緒的剥奪スキーマ,②見捨てられ/不安定スキーマ,③不信/虐待スキーマ,④欠陥/恥スキーマ,⑤社会的孤立/疎外スキーマが,2つ目の欲求が満たされないことで,⑥依存/無能スキーマ,⑦損害と疾病に対する脆弱性スキーマ,⑧失敗スキーマ,⑨巻き込まれ/未発達の自己スキーマが,3つ目の欲求が満たされないことで,⑩服従スキーマ,⑪自己犠牲スキーマ,⑫評価と承認の希求スキーマ,4つ目の欲求が満たされないことで,⑬否定/悲観スキーマ,⑭感情抑制スキーマ,⑮厳密な基準/過度の批判スキーマ,⑯罰スキーマが,5つ目の欲求が満たされないことで,⑰権利要求/尊大スキーマ,⑱自制と自律の欠如スキーマが形成されると想定している。BPDなどのパーソナリティ症や難治性の精神疾患では,これら18のスキーマがより多く強く形成され,その結果多大な生きづらさを抱えたり,健全な対人関係を築けなかったりする。

図1に,従来の認知行動療法のモデルと早期不適応的スキーマの関連性を示す。

図1 CBTのモデルと早期不適応的スキーマの関連図

3)スキーマモード

ところでその時々の状況や対人関係によって活性化されるスキーマは異なる。早期不適応的スキーマを多く有するほど,その時々に活性化されるスキーマが異なるので,それに応じて生じる自動思考や感情は異なるし,当然行動も異なってくる。またその人が自らのスキーマにどう対処するかによって(スキーマ療法では「服従」「回避」「過剰補償」という3種類の「コーピングスタイル」を想定する),その時々に生じる自動思考や感情や行動は異なる。すなわち活性化されるのが同一のスキーマであっても,そのスキーマに服従するか,回避するか,過剰補償するかで,その人の反応は大きく異なる。このような「活性化されたスキーマ」と「スキーマへのコーピングスタイル」の掛け合わせにより,その人の「今・ここ」での状態は様々である。スキーマ療法ではそれを「スキーマモード」と呼び,もう一つの理論モデルとして重視している。

スキーマモードは,①「チャイルドモード(脆弱なチャイルドモード,怒れるチャイルドモード,衝動的・非自律的チャイルドモード,幸せなチャイルドモード)」,②「非機能的コーピングモード(遮断・防衛モード,過剰補償モード,服従モード)」,③「非機能的ペアレントモード(懲罰的ペアレントモード,要求的ペアレントモード)」,④「ヘルシーアダルトモード」の4つに分類される。この理論モデルに基づくと,多くの状況において「ヘルシーアダルトモード」が「健全な自我」として機能し,他の諸モードを司令塔的に統括できている人はより健やかであるということになる。一方でBPDや複雑性PTSDや解離性同一性障害(DID)を有する人は,ヘルシーアダルトモードが機能せず,様々なモード(特に非機能的なモード)に乗っ取られやすく,かつ各モードが統合されておらずバラバラである,ということが指摘されている(Young et al., 2003)。そのため,これらの障害を有する人は,場面や状況によって様々な強烈な感情状態を示したり,様々な極端な行動を取ったりするのは,そしてあるときは解離してしまうのである。

3.スキーマ療法で用いられる技法

スキーマ療法で用いられる代表的な技法は次の4種類に分けられる。

1)認知的技法

認知行動療法における認知的技法は,そのままスキーマ療法でも活用される。それはたとえば,心理教育,モデルに基づく概念化,スキーマとモードについての理解,スキーマとモードについてのセルフモニタリング,スキーマレベルの認知再構成法,新たなハッピースキーマ (セラピストと一緒に作った自分を生きやすくするスキーマ)の内在化(フラッシュカード),種々のイメージ技法,といった技法である。

2)行動的技法

認知行動療法における行動的技法も,スキーマ療法では大いに活用される。それはたとえば,問題解決法,行動活性化,行動実験,アサーショントレーニング,社会的スキル訓練,曝露療法(エクスポージャー),リラクセーション,といった技法である。スキーマ療法を実践するには,認知行動療法の知識とスキルが不可欠であることがお分かりいただけるだろうか。スキーマ療法の場合,特にアーロン・ベックAaron Beckが構築した認知療法系の認知行動療法がベースになっているので,その訓練をまず受ける必要がある(Beck, 2020)。

3)体験的・感情的技法

スキーマ療法では,ゲシュタルト療法におけるチェアワークを多用する。また種々のイメージ技法を用いて,クライアントの感情の喚起を促進する。過去の傷つき体験についても,それがそのクライアントにとってどのような感情的体験となったか,ということを重視し,感情を伴うナラティブを繰り返し行う。特にモードに関わる技法(モードワーク,イメージの書き換え)は,種々の感情を喚起しつつ傷ついた感情を癒したり,欲求が満たされる体験を促したりすることで,修正感情体験をもたらす。

4)治療関係

認知行動療法では,「協働的実証主義」「協働的問題解決」を共に行う「仲間」としての治療関係を構築するが,スキーマ療法では「共感的直面化(Empathic Confrontation)」および「治療的再養育法(limited reparenting)」という治療関係を形成する。共感的直面化とは,クライアントの話や訴えを共感的に傾聴しながらも,それらの話や訴えをスキーマ療法のモデルにその都度関連づけ,「それは〇〇スキーマに関連しているようですね」「〇〇モードが活性化したことで,そういう気持ちになったのでしょうか」などと直面化するというコミュニケーションを取ることをいう。治療的再養育法とは,セラピストがクライアントの「疑似親」としてクライアントに関わり,クライアントの中のチャイルドモードの欲求を満たしたり,「脆弱なチャイルドモード」の傷つきを癒したりすることをいう。このスキーマ療法に特有の治療的再養育法の効果は絶大で,これを通してクライアントの「ヘルシーアダルトモード」が自らの「チャイルドモード」に対するケアの仕方をモデル学習し,最終的にはクライアント自らがセルフケアできるようになることを目指す。

4.スキーマ療法の進め方

スキーマ療法の進め方は以下の通りである(伊藤,2015)。開始から終結までにかかる期間は2~3年ほど,セッション数としては50回から100回ぐらいの長丁場である。

1)心理教育とお膳立て

スキーマ療法がどのようなセラピーで,どのような治療関係に基づき,どのように進めていくのか,ということを予め明確に心理教育をする必要がある。そのうえで「自らの生きづらさと回復力をイメージする」「サポートネットワークを確認する」「認知行動療法のモデルに基づきセルフモニタリングをする」「マインドフルネスを実践する」「ストレスコーピングのレパートリーをリスト化する」といった,本格的にスキーマ療法に入る前の準備(お膳立て)を行う。

2)過去体験の振り返り/スキーマの同定とスキーママップ作り/ハッピースキーマ作り

幼少期から思春期にかけての体験をじっくりと振り返り,セラピストと共有したうえで,それらの体験が18の早期不適応的スキーマの形成にどのように影響したかを検討する。18の早期不適応的スキーマのどれが自分に当てはまるか検討し,最終的にはスキーママップという形に外在化する。次に早期不適応的スキーマを手放し,自分を生きやすくするハッピースキーマを新たに形成する。

3)モードへの気づきとモードマップ作り/モードアプローチ

今の自分の状態がどのモードにあるのか,リアルタイムに気づく練習をし,その気づきを基にモードマップとして外在化する。さらにモードアプローチとして「モードワーク(モード間の対話のワーク)」や「イメージの書き換え(過去の傷つき体験を書き換える)」というワークを行い,トラウマ処理を行ったり,ヘルシーで機能的なモードを強化したりする。

4)効果検証と終結とフォローアップ

これまでの生きづらさが縮小し,ハッピースキーマやヘルシーで機能的なモードに基づいて日常生活を送れるようになること(行動変容)がスキーマ療法の最終目標である。そのようなポジティブな変化が起きていることをクライアントと共に検証し,次第にセッションの頻度を下げ,終結する。必要であれば終結後もフォローアップセッションを設けて,クライアントが望む限りサポートを継続する。

文  献
  • Beck, J. S.(2020)Cognitive Behavior Therapy: Basics and Beyond (3rd edition). Guilford Press.(伊藤絵美・藤澤大介訳(2023)認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで 第3版―ジュディス・ベックの認知行動療法テキスト.星和書店.)
  • Giesen-Bloo, J., van Dyck, R., Spinhoven, P., et al.(2006)Outpatient psychotherapy for borderline personality disorders: Randomized trial of schema-focused therapy vs transference-focused psychotherapy. Archives of General Psychiatry, 63 (6); 649-658.
  • 伊藤絵美(2015)自分でできるスキーマ療法ワークブック(Book1&2).星和書店.
  • Young, J. E., Klosko, J. S., & Weishaar, M. E.(2003)Schema Therapy: A Practitioner’s Guide. Guilford Press.(伊藤絵美監訳(2008)スキーマ療法:パーソナリティの問題に対する統合的認知行動療法アプローチ.金剛出版.)
+ 記事

伊藤絵美(いとう・えみ)
洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長。
慶應義塾大学大学院社会学研究科社会学専攻博士課程修了。博士(社会学)。
資格:公認心理師,臨床心理士,精神保健福祉士,国際スキーマ療法協会認定上級セラピスト/トレーナー&スーパーバイザー。
主な著書:『自分にやさしくする生き方』(筑摩書房,2025),『カウンセラーはこんなセルフケアをやってきた』(晶文社,2023),『世界一隅々まで書いた認知行動療法・認知再構成法の本』『世界一隅々まで書いた認知行動療法・問題解決法の本』(いずれも遠見書房,2022),『セルフケアの道具箱』(晶文社,2020),『自分でできるスキーマ療法ワークブック』(星和書店,2015)ほか

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