【特集 認知行動療法はテイラーメイドだ!】#04 ACT アクセプタンス&コミットメント・セラピー──基本編:心との付き合い方を見直すユニークな認知行動療法|大月 友

大月 友(早稲田大学)
シンリンラボ 第27号(2025年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.27 (2025, Jun.)

1.はじめに

ACTは,アクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance & Commitment Therapy)の略で,「エー・シー・ティー」ではなく「アクト」と発音する。どう読めば良いか分かりにくいのは,最近のアイドルと同じである。覚えるコツは,英単語の“act”[ǽkt]をイメージすること。ご存知の通り,行為,活動,言動,あるいは,行動する,振る舞う,という意味の単語である。ACTを「アクト・・・」と呼ぶのは,その人らしい人生に向けて“行動する(=act)”ことが大切であるという, ACTのポリシーが含まれている。このような洒落をきかせた(きいている?)ところも,ある意味でACTらしさがあらわれている。

さて,今回の基本編では,そんなACTの概要や世界観について紹介していきたい。そして,続く臨床編では,実際にACTをどのように展開していくかについて触れていく。まずは,ACTの定義やACTの基本的な発想から見ていくことにしよう。

2.ACTとは??

1)ACTの定義

ACTは, ヘイズ Hayes, S. C. ら(1999)により体系化された心理学的支援法である。その根幹には,機能的文脈主義という科学哲学があり,そして,関係フレーム理論や行動分析学が理論的土台となっている。ACTの基本マニュアルとされている『アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)第2版』(Hayes et al., 2012)では,「アクセプタンスとマインドフルネスのプロセス,そしてコミットメントと行動活性化のプロセスを用いて,心理的柔軟性を生み出すアプローチ」(p.156)と定義されている。ただ,この定義を理解するには,ACTの心理的柔軟性などの考え方を理解する必要があり,初学者への説明としては分かりにくいのが正直なところである。心理的柔軟性は後で説明するとして,ここでは「クライエントが豊かで充実した意義ある人生を送るために,今この瞬間との接触を大切にして,避けられない苦痛は受け容れながら,自らの人生を進められるよう援助するセラピー」と紹介しておきたい。

2)ACTの発想

ACTは「クライエントが豊かで充実した意義ある人生を送ること」がメインの目的である。ごく当たり前のことを言っているように感じるかもしれないが,実はその背後にACTのユニークな発想が含まれている。

多くの心理学的支援法は,不安や抑うつ,悩みなどのクライエントの心理的問題に対して,それぞれの理論的枠組みを通して理解し,解決することを試みる。ここには,クライエントの心理的問題がクライエントの人生の障壁となっていて,その障壁をなくすことがクライエントの人生を豊かにするという前提があろう。いわば,心理的問題と充実した人生が同一線上にある(図1左側)。そのため,不安や抑うつなどを下げること,コントロールすることが志向される。つまり,心理的問題の低減がメインの目的となり,その結果として,クライエントの人生が豊かになるという発想である。

一方でACTは,クライエントの心理的問題と充実した人生は,同一平面上にあっても同一線上にあるとは考えていない(図1右側)。つまり,心理的問題をなくさなければ,充実した人生を送れないとは考えていない。むしろ,不安や抑うつ,悩みなどに巻き込まれ,なんとかしようともがくことで,人生を前に進められなくなると捉えている。そのため,不安や抑うつなどを下げること,コントロールすることは志向せず,充実した人生のために行動することを志向する。つまり,充実した意義ある人生のために進むことがメインの目的であり,その結果として,副次的に心理的問題が低減するという発想である。

図1 心理的問題の捉え方
(左側:一般的な心理学的支援法の発想,右側:ACTの発想)

このようなACTの発想は,一般的な感覚からは少しズレているかもしれない。たとえば,「不安だから進めない」,「不安がなければ進める」はしっくりくるが,ACT的な「不安と共に進む」という発想はなかなかピンとこない。そのため,ACTでは,不安や抑うつなどの心理的問題に対して,これまでとは異なる付き合い方を身につけるための支援が展開される。つまり,心理的問題の中身や内容を変えようとするのではなく,付き合い方を変えることで,行動しやすくしていくという発想を持っている。それでは,このような発想を持ちながら,ACTは具体的に人の精神的健康をどのように捉えているか,その世界観を見ていこう。

3.ACTの世界観

1)心理的柔軟性モデル

ACTでは精神的健康や適応を,「意識ある人間として,全面的に,不必要な防衛がない状態で『今,この瞬間』と,それが何と言われるかということではなく,あるがままのものとして接触しながら,自らが選んだ価値のために,行動を維持または変化させていくこと」と捉え,そのような状態を心理的柔軟性と定義している(Hayes et al., 2012/邦訳,p.155)。そして,臨床的な使いやすさの観点から,この心理的柔軟性を,図2の左側のような6つのコアプロセスでモデル化している。一方,心理的柔軟性の対極にあるのは,精神病理のモデルとなる心理的非柔軟性である。心理的柔軟性の6つのコアプロセスと対応する形で,図2の右側のような6つのコアプロセスでモデル化している。それでは,心理的柔軟性と心理的非柔軟性について,ACTの世界観を解説していこう。なお,各コアプロセスの詳細については,著者が作成しているアニメーション動画をYoutubeで公開しているので,そちらを参照していただきたい。

図2 心理的柔軟性モデル

2)ACTの幸福観

ACTでは,人それぞれが自分の人生で大切にしたいことを自覚し(=“価値”),それに沿って行動すること(=“コミットされた行為”)が精神的健康,いわば,その人のウェルビーイングや幸福にとって大切であると考えている。ここには,スキナーの「幸福とは,正の強化子を手にしていることではなく,正の強化子が結果としてもたらされたがゆえに行動すること」(Skinner, 1990, p.95)という考え方が反映されている。冒頭で言及した,ACTを「アクト・・・」と呼ぶ所以でもある。

3)心理的非柔軟性

ただ,人はいつも価値に沿って行動できるかと言われると,そうとも限らない。我々は言葉を使って常に考えてしまう存在である。人と比べて落ち込んだり,ネガティブな予想をして不安になったり,思い通りいかないことに腹立たしくなったりと,頭の中で悩みは尽きない。そんな時,価値に沿った行動はしにくくなってしまう。

あれやこれやと悩んでいる時,我々は今この瞬間の世界と接触できず,頭の中の世界に閉ざされてしまう(=“非柔軟な注意”)。そして,考えていることを鵜呑みにして悩みに支配されてしまう(=“認知的フュージョン”)。時には,「私はこういう人間だからできない」と,自分自身のキャラの檻に閉じこもってしまうこともあるだろう(=“概念としての自己に対する執着”)。落ち込みや不安,怒りなど,どんどん嫌な気持ちになると,そんな気持ちを無くしたくなり,無理に気持ちを抑え込んだり,気をそらしたり,その場から離れてしまうこともある(=“体験の回避”)。そうなった時,我々は長期的な視点で物事を捉えられなくなり,目の前の感情に振り回されてしまっている(=“行為の欠如,衝動性,回避の持続”)。そんな悪循環が続いてしまうと,そもそも自分が大切にしたいことからも目を逸らしたくなるし,何が大切かもわからなくなってしまう(=“価値の混乱”)。

ACTではこのような状態を心理的非柔軟性と捉え,この悪循環が強まり固着していくことが精神病理であると考えている。特に,“体験の回避”と“認知的フュージョン”は,精神病理の中核的プロセスとして捉えられている。

4)心理的柔軟性

さて,それでは価値に沿って行動しようとした時に立ちはだかる悩みとどう対峙すべきであろうか。振り払おうともがいてしまうと,心理的非柔軟性と同じ流れである。そこで,ACTでは感情に流されるのではなく,ひとまず立ち止まってみることを勧めている。まずは,呼吸を整え,自分の頭の中で悩みが浮かび上がっていることに気づき,地に足をつけ周りを見回してみる(=“「今この瞬間」への柔軟な注意)。自分の中に考えや気持ちが浮かび上がっていることに気づいてみる(=“文脈としての自己”)。すると,自分が何を考えているのか,何に悩んでいるか,冷静に一歩下がって捉えられるかもしれない(=“脱フュージョン”)。そうなれば,自分の中に嫌な気持ちを置いておくスペースが生まれ,価値に沿った行動を実行できる可能性が高まる(=“アクセプタンス”)。そのためにも,自分の人生で大切にしたいことを自覚し(=“価値”),それに沿った行動を計画すること(=“コミットされた行為”)が重要となる。

ACTでは,こうした好循環を心理的柔軟性と捉えている。なお,説明の都合上,今回は順序立てて解説しているが,実際は特に決まった順序はない。心理的柔軟性も心理的非柔軟性も,それぞれのコアプロセスは相互に関連しあっているのが実際である。

5)おまけ:各コアプロセスの解説動画

4.まとめ

今回の基本編では,ACTの概要,そして,人間の精神的健康を理解する枠組みとしての心理的柔軟性モデルについて紹介した。かなり説明を割愛している部分もあるので,詳しく知りたい方はヘイズら(2012)を参照してほしい。また,著者が作成したACTの解説動画がYoutubeにアップされているので,興味のある方はそちらも参考にしていただきたい。

さて,今回は概念的な説明がメインだったので,具体的な手続きなどはまだイメージできないと思われる。次回の臨床編では,実際にACTをどのように展開していくかについて触れていきたい。

文  献
  • Hayes, S. C., Strosahl, K. D., & Wilson, K. G.(1999)Acceptance and commitment therapy: An experiential approach to behavior change. Guilford Press.
  • Hayes, S. C., Strosahl, K. D., & Wilson, K. G.(2012)Acceptance and commitment therapy, Second Edition: The Process and Practice of Mindful Change. Guilford Press.(武藤 崇・三田村 仰・大月 友監訳(2014)アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)<第2版>マインドフルな変化のためのプロセスと実践.星和書店.)
  • Skinner, B. F.(1990)罰なき社会.行動分析学研究,5; 87-106.
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大月 友(おおつき・とむ)
早稲田大学人間科学学術院 教授
資格:博士(臨床心理学),公認心理師,臨床心理士,認知行動療法師,認知行動療法スーパーバイザー
主な著書:『ACTハンドブック』(分担執筆,星和書店),『認知行動療法[改訂版](放送大学教材)』(分担執筆,NHK出版),『言語と行動の心理学』(分担執筆,金剛出版),『臨床言語心理学の可能性』(共著,晃洋書房)
その他:CBSチャンネル(Youtube)

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