【特集 認知行動療法はテイラーメイドだ!】#00 はじめに|竹田伸也

竹田伸也(鳥取大学)
シンリンラボ 第27号(2025年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.27 (2025, Jun.)

認知行動療法。

私は,この言葉が使われる昨今の風儀に少々うんざりしている。

認知行動療法は,心理療法のスタンダードとみなされ,さまざまな領域で幅広く実践されるようになった。しかし,こうした時流は,「とりあえず認知行動療法をやってみるか」という安易なマインドを生み出す素地を界隈につくりだしてはいないだろうか。

そもそも,認知行動療法がこれほどまでに広く用いられるようになったのは,よく効くからである。では,何に効いているのか。その一つは,間違いなく「今の社会システムに再適応すること」においてである。今の社会システムは,資本主義にもとづく市場原理によって駆動している。そこでは,「生産性」や「効率化」といった言葉が飛び交う。

「その人は,社会的・経済的に役に立つ存在か」

生産性という言葉を人に押し当てると,この評価軸が浮上する。そして,私たちが支援を届けるクライエントは,このものさしに苦しみ,生きづらさを感じていることが少なくない。そこに目を向けず,スタンダードだからという理由で認知行動療法を無邪気にクライエントに押し当て,いったん退却した場所から元いたところにただ戻そうとする。こうした試みは,クライエントの生きづらさを強めることはあったにせよ,彼らを勇気づけることにはならない。

そんなものに,認知行動療法を成り下がらせてはいけない。認知行動療法は,本来人々の生を勇気づけるアプローチである。生きづらさを抱えた人が,それでも一度きりの人生を尊厳を保ち自分なりに暮らす。そのために,力を届ける手段こそ認知行動療法なのである。

今回の特集は,生きづらさを抱えた人々を勇気づけるために生まれた認知行動療法について,主要な6技法にフォーカスを当て,2部構成で論を展開したい。

第1部(第27号)は,「認知行動療法はテイラーメイドだ!」と題し,各技法の基本について述べる。これから心理支援の現場に深く潜行しようとする初心者は,生きづらさを抱えたクライエントに力を届ける手段として,各技法の成り立ちに心を震わせてほしい。

そして第2部(第31号)は,「認知行動療法に力を宿すには!?」と題し,認知行動療法をクライエントに応じてよりよく実践するための話を深めたい。「クライエントが,技法に取り組んでくれない」という話を,しばしば耳にする。そうしたとき,人ではなく技法が主となり,どうすればこの技法にクライエントを適合させることができるかという視点に陥りがちである。冗談を言ってはいけない。人に技法を合わせるのだ。それができて,認知行動療法に力が宿る。そのためにできることは何か。フロントラインで心理支援にあたる6名の臨床家に,自らの実践によって得た臨床知を思う存分語ってもらおうと思う。

今回の特集が,「このクライエントのために,認知行動療法の腕を磨こう」という読者の気持ちを勇気づける端緒となれば幸いである。

バナー画像:Anna LysenkoによるPixabayからの画像

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竹田伸也(たけだ・しんや)
・所属:鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学講座
・資格:公認心理師・臨床心理士・上級専門心理士
・著書:『一人で学べる認知療法・マインドフルネス・潜在的価値抽出法ワークブック』(遠見書房,2021),『対人援助職に効く人と折り合う流儀』(中央法規出版,2023)など

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