【特集 人間関係と若者のメンタルヘルス──親密な関係における課題と支援】#04 パートナー達の親密な関係を支援するカップルセラピー|三田村仰

三田村仰(立命館大学)
シンリンラボ 第26号(2025年5月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.26 (2025, May)

1.親密な関係はなぜむずかしい?

私たちがパートナーとの関係に悩んだり,そこで傷つきを体験することはとても自然なできごとだ。それは,私たち人間が永遠には生きられないことと同じくらい人類にとって不可避なことなのかもしれない。誰もが親密なパートナーとの間で,多かれ少なかれ傷つきや苦悩を体験するだろう(三田村,2023b)。

ただ大切なパートナーと共に幸せでありたいだけなのに,私たちはなぜそのような葛藤や傷つきを体験したり,あるいは,そのリスクを負わなければならないのだろう? 一つには,それが私たちにとってそれだけ大切だからなのだろう。

多くのカップルにおいて,その関係が拗れるとき,そこには,一方が相手に対し過剰に接近を求め,もう一方が相手から過剰に距離を取ろうとする典型的な相互作用パターンがあることが知られている(追求-撤退パターン;三田村,2025)。皮肉にも,わたしたちは孤独や傷つきといったつらい体験を避け,なんとか心地よい体験を手に入れようと努力するほど,かえって,関係性の苦悩へはまりこんでいってしまう。

そうした混乱した相互作用の渦中にあるとき,パートナー達はそこに問題を感じつつ,二人の力だけでそこから抜け出すことが困難なことが多い。そこで登場するのが「カップルセラピー」だ。

2.カップルセラピーとは

カップルセラピーとは,二人のパートナー間での関係性の質の維持・向上あるいは再構築を目的とした心理的支援法だ。カップルセラピーでは,二人のパートナーと支援者との三者での合同面接によって,その目標の達成を協働的に目指す。

カップルセラピーは1980年代に北米で発展し,現在,カップルセラピーにはアタッチメント基盤の感情焦点化カップルセラピー(Emotion Focused Therapy; EFT)(Johnson, 2019;高井,2023)や統合的行動的カップルセラピー(Integrative Behavioral Couple Therapy; IBCT; Christensen et al., 2020)といったいくつかの有効なプログラムが存在している。そうした確立されたプログラムにおいては,推定で70〜90%のカップルの関係性を改善できることが実証研究(メタ分析)から示されていて,カップルセラピーは心理的支援法の世界においていまや確かな地位を築いている(Lebow et al., 2022;三田村,2023, 2025)。

こうしたカップルセラピーの特徴について,よくある3つの質問に応える形で簡単に解説していこう。

1)個人を対象とした面接/トレーニングではダメなのか?

カップルセラピーに関して,多くの人が抱くであろう代表的な疑問の一つは,「なぜカップルセラピーではわざわざ二人のパートナーを同時に面接室に集めるのか?」というものだろう。

心理療法はその歴史上,一対一の個人面接として生まれ発展してきた経緯がある。さらに,それを打ち破る形で合同面接を実現させたのが家族システム療法ではあるものの,実のところ,家族システム療法でさえ,必ずしも家族との「合同面接」という形式にこだわるわけではない。

そもそも,合同面接の実施には,参加者全員のスケジュール調整を含め,その実施にはいくつものハードルがある。とりわけ,ただでさえ関係がうまくいっていないパートナー達にとって,二人で意思統一を図って合同面接に参加することは,パートナー達の側から見てもときに不合理にさえ感じられるかもしれない。

実際,パートナーを個別に対象としての個人療法やアサーション・トレーニングの実施だけでも関係性の改善に有効なこともあるだろう。ただし,それらがカップル関係の回復に有効であるという十分なエビデンスは今のところ見当たらない。

そもそも,個人を対象にした支援の枠組みは,あくまでも「その人個人がどうなりたいか/どうしたいか」を支援するものであって,そこに「誰かとの関係がどうなってほしいか」を設定することは,原理上,ナンセンスでもある。よく言われるように「他人を変えることはできない,変えられるのは自分だけ」なのだ(三田村,2021)。

翻って,お互いとの関係性の改善を望む二人の当事者が同時に面接にやってくるという事態は,「カップル関係(わたしたち)」というまさに支援対象まるごとが面接に訪れている状態なのであって,関係性の修復に向けては願ってもない大チャンスとなる。

2)カップルセラピーは家族システム療法と違うのか?

「カップルセラピーが個人療法ではないとしても,それはやはり家族システム療法の一つなのではないだろうか?」これもまた当然の疑問だろう。この問いへの答えは「イエス」であり「ノー」である。カップルセラピーという支援形態は,それ自体ユニークなもので,個人療法とも家族システム療法とも異なりつつ,それぞれの伝統を引き継ぐハイブリットな性質を備えている(三田村,2023c, 2025)。

その背景として,カップルセラピーの誕生に際しては,個人間での相互作用のみならず,個人内での心理的プロセスを同時に,また統合的に扱えるようなモデルの構築が探求されてきた。結果的に,カップルセラピーの各プログラムは,概して,“カクテル”のようにして構成される。つまり,システム論(家族システム論的視点あるいは行動分析学的視点)という基酒(ベースとなる酒)に他の飲料にあたる各種心理療法のモデルを組み合わるようにして構成されることが一般的だ(三田村,2025)。

3)カップルセラピーの実践上の特徴と禁忌は何か?

それでは「カップルセラピーにおける実践上の特徴はなにか?」と言えば,それは,なんといっても二人のパートナーとの合同面接にあるだろう。カップルセラピーの支援対象は,“二人のクライエント”ではなく,“一組のカップル”なのだ(三田村,2025)。

当然ながら,カップルセラピーの実践は,家族システム療法が作り上げてきた合同面接の方法論から多くを引き継ぎつつも,併せて,人間主義的,行動的,力動的といったさまざまな個人療法において育まれてきた面接のあり方も引き継いでいる。

そのうえで,カップルとの面接にあたっての際立ったポイントは,バランスのとれた同盟関係の構築と維持にある。一対一での面接と異なり,カップルセラピーでは,二人のパートナーそれぞれとの間でバランスのとれた同盟関係を築き,維持し続けられるかどうかが効果的な支援のための鍵となる。カップルセラピーにおいては同盟関係のバランスが崩れることは,しばしば,セラピーの失敗へとつながる。

また,カップルセラピーの実施には禁忌もある。進行中の不貞関係,自殺のリスク,依存症,重度の精神障害を患っている場合など,概して,いずれか一方でもパートナーの心身の安全が確保できない状態にあっては,カップルセラピーの実施は一般的に見送られる(三田村,2025)。

3.文脈的カップルセラピー(CCT)

筆者らの研究チームでは,日本でのカップル関係の支援を目指し,行動療法(三田村,2017)を拡張した「文脈的カップルセラピー(Contextual Couple Therapy; CCT)」を開発した(三田村,2023b, c, 2025, Mitamura et al., 2024)。CCTには超短期から実施可能という特徴がある。これまでの確立されたカップルセラピーのプログラムでは8〜30セッション程度要するのに対し,CCTではわずか2セッションから実施可能だ。実際,2セッションによるCCTの有効性は,現在,予備的なランダム化比較支援(Mitamura et al., 2024)が1件と単一事例デザインによる3つの事例(三田村ら,2023)によって支持されている。CCTは国内で初めて効果検証のなされたカップルセラピーのプログラムでもある。

CCTのセッションでは,パートナー達の論理性や合理性に訴えかけるよりも,カップルにおける“今ここ”での体験や感情のプロセスに焦点をあてる。また,その実践では,具体的に定められた手順をマニュアル通りに進めるよりも,変化の原理に基づいて柔軟にセッションを進める方法をとる。

また,CCTでは前提として,パートナー達の関係性に葛藤が生じることはごく自然なことだと考える。そのうえで,お互いを選択し合っているパートナ達の関係性においては,本来的に親密な相互作用への可能性が秘められていると捉え,CCTでは,カップルにおける「親密な相互作用」の促進を目的とする。次の項で,この親密な相互作用について説明しよう。

4.文脈的カップルセラピーから見た親密な関係性へのヒント

“親密さ”にはさまざまな捉え方がありうるけれど,CCTでは親密さを二者間での相互作用のプロセス(Cordova, 2014;谷,2023,谷ら,2023)として動的に捉え,その促進をカップルセラピーの目標としている。こうしたCCTにおける親密さについての発想を知ることは,多くのパートナーたちにとって役立つかもしれない。

1)親密さとは“呼びかけに気づいて応える”相互作用

一般的に私たちは“親密さ”というと,それは個人の内側での気持ちや体験のことだと考えるかもしれない。そうした個々人の中での親密さの感覚とは別に,CCTでは,二人のパートナーたちが,“呼びかけに気づいて応答し合う”という二者間での関わり合いのプロセスを「親密な相互作用」と呼び焦点を当てる。

私たち人間は,誰かとの親密な関係性において,相手から理解されているとか,受け入れられているといった感覚(応答性)を得たいと願う。お互いとの間で応答的な相互作用がうまく回っているとき,パートナーたちは親密な関係にあって,結果として,“親密な気持ち”やお互いとの信頼感を高め合うことができる。

2)親密さには勇気が必要

一方で,「呼びかけは,必ずや応じられなければならない」。こちらからの呼びかけに気づいてもらえなかったり,それを蔑ろにされたりする体験は,呼びかけた側に痛みを与え,しばしば,二人の関係性に孤独という影を落とす。同時に,相手からの呼びかけに応えることについても,また,誰にとってもいつでも容易な行為だとは限らない。相手からのつながりのニーズ(呼びかけ)を受け止めるという選択は,ときに,それ自体でも脅威として体験されうるからだ。

総じて,親密な相互作用とは,お互いとのつながりを受け入れ,自分自身の安全圏から踏み出し,二人の親密な関係性へと自身を投げ込むという,リスクを伴う営みでもある。親密な関係性とは,「電子レンジに入れたらできあがり」というようなわけにはいかないのだ。

また,元来,親密さにはリスクが伴うゆえ,私たちは,親密さを装った形での暴力や虐待,言わば「親密さもどき」にも気をつけなければいけない。親密さとは,他者をコントロールしたり,モノのように所有したりしようとすることとは根本的に異なっている。むしろ,親密さとは,それらをお互いに手放した先にこそあるだろう。

3)親密さとはそれ自体で価値のあるプロセス

私たちがパートナーを選んだり,パートナーとの関係継続を検討するとき,相手と居ることのメリットとデメリットを天秤にかけることは自然なことではある。同時に,私たち人間は,割に合うかどうかや自分の利益を度外視してでも,その人と関わり合うことそのものに意味や価値を見出すような創造性や豊かさも持ち合わせている。そうしたプロセス自体に価値を見出す発想は,実存主義(Buber, 1923)や禅(Dogen et al., 2021),行動分析学(望月,1995)やアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT; Hayes et al., 2012)において特に強調されている。

5.おわりに

パートナーとの親密な関係とは,仕事や勉強,生活や子育てと比べるとどうしても,二の次に考えられがちかもしれない。それでも,親密さとは,私たち人類がずっと昔から向き合い続け,大切にしてきたものでもある。一緒に泣いたり笑ったり,喧嘩したりといったお互いとの関係性そのものに,二人が意味を見出せたなら,それ以上に価値ある人生はないかもしれない。向き合う続けるそのプロセスの中に意味を見出し合ったとき,二人は,真の意味で親密な関係にあるといえるだろう。

文  献
  • Buber, M.(1923)Ich und Du. Im Insel-Verlag zu Leipzig.(植田重雄(訳)(1979)我と汝・対話.岩波書店.)
  • Christensen, A., Doss, B. D., & Jacobson, N. S.(2020)Integrative behavioral couple therapy: A therapist’s guide to creating acceptance and change, Second Edition. W.W. Norton & Company.
  • Cordova, J. V.(2014)The marriage checkup practitioner’s guide: Promoting lifelong relationship health. American Psychological Association.
  • Dogen, E., Nishiari, B., Okumura, et al.(2011)Dogen’s genjo koan: Three commentaries. Counterpoint.
  • Hayes, S. C., Strosahl, K. D., & Wilson, K. G.(2012)Acceptance and commitment therapy: The process and practice of mindful change. Guilford Press.(武藤崇・三田村仰・大月友(監訳)(2014)アクセプタンス&コミットメント・セラピー:マインドフルな変容のためのプロセスと実践 第2版. 星和書店.)
  • Johnson, S. M.(2019)The practice of emotionally focused couple therapy: Creating connection, 3rd ed. Routledge.
  • Lebow, J., & Snyder, D. K.(2022)Couple therapy in the 2020s: Current status and emerging developments. Family Process, 61(4); 1359-1385. https://doi.org/10.1111/famp.12824 
  • 三田村仰(2017)はじめてまなぶ行動療法. 金剛出版.
  • 三田村仰(2021)[総論] アサーションの多元的世界へ.臨床心理学,21(2); 147-156.
  • 三田村仰(2023a)カップルセラピーと感情:「感情/アタッチメントの傷」とは何か?.精神療法,49 (2); 199-202.
  • 三田村仰(2023b)日本のカップルのための2セッション文脈的カップルセラピー(CCT)の開発.家族心理学年報,41; 108-116.
  • 三田村仰(2023c)特集:カップルセラピーをはじめるもしカップルがあなたのもとを訪れたら?.臨床心理学,23(6).金剛出版.
  • 三田村仰(2025)カップルセラピーの教科書.日本評論社.
  • 三田村仰・谷千聖・Liu Chengら(2023)3組の単身赴任夫婦に対する2セッション文脈的カップルセラピー(Two-CCT)の効果.In:ACT Japan 年次ミーティング2022.早稲田大学,3月18日(ポスター発表).
  • Mitamura, T., Tani, C., Liu, C. et al.(2024)Two-session contextual couples therapy via videoconferencing in Japan: A feasibility randomized controlled trial. Journal of Contextual Behavioral Science, 32. https://doi.org/10.1016/j.jcbs.2024.100763
  • 望月昭(1995)ノーマライゼーションと行動分析:「正の強化」を手段から目的へ.行動分析学研究,8; 4-11. 
  • 高井美帆(2023)途切れそうな絆を再構築するアタッチメント基盤の感情焦点化療法(Emoti onally Focused Therapy).臨床心理学,23(6); 658-662.
  • 谷千聖(2023)カップルと親密性―親密性を育むうえでの3つのヒント.臨床心理学,23(6); 626-630.
  • 谷千聖・原田梓・三田村仰(2023)「弱さを見せること」と「それが受け止められること」―親密なパートナーに弱さをさらけ出せるようになるまでの体験プロセス.対人援助学研究,14; 28-43. 
+ 記事

三田村 仰(みたむら・たかし)
所属:立命館大学総合心理学部,カップルらぼ(個人開業カウンセリングオフィス)
資格:博士(心理学),臨床心理士,公認心理師,認知行動療法スーパーバイザー®️,認知行動療法師®️ EFTカップルセラピスト(ICEEFT)
主な著書:『カップルセラピーの教科書』(日本評論社,2025印刷中),『はじめてまなぶ行動療法』(金剛出版,2017),『臨床心理学.第23巻第6号. 特集:カップルセラピーをはじめる』(編著,金剛出版,2023),『臨床心理学.第21巻第2号.特集:アサーションをはじめよう』(編著,金剛出版,2021)

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