【特集 カルト問題と心理支援】#01 カルト問題と心理支援──カルトカウンセリングの観点から|平野 学

平野 学(平野カウンセリングオフィス)
シンリンラボ 第25号(2025年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.25 (2025, Apr.)

1.はじめに──心理職が抱く苦手意識

オウム真理教事件,そして今回の旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の問題注1)が様々に話題となり,また社会問題化しているが,我々心理職の中ではこうした問題自体,あまり語られずに今に至っている印象を受ける。臨床心理学をピュアー(?)に学ぼうとする中にあって,あまりにも異質で,関わりたくない……といった想いもどこかにあろうか。連日異様でショッキングな画像や報道がなされると,結局は距離を置きながら,いつもの慣れた場で静かにまた深く心理臨床の実践に身を置いていたい,そんな想いもあろうか。

注1)信者やその家族を巻き込んで多額な献金を強いたり,霊感商法と呼ばれる手法で不当な取引がなされるなか,家族が分断されたりもしている。また特定の政治家や政党と深い関係がもたれ,政治的な影響力を持つ形にもなっており,大きな社会問題となっている。

ただ一方でそうした集団に入りこみ,家族から離れて活動を続ける子どもをもつ親や家族の辛い気持ちに出会うと胸がしめつけられるし,何か応えたいといった想いも抱かされる。確かに宗教カルトにあってはその独特な教義の難しさや下手に関わると他の仕事にも様々に影響が生じそうな怖れ,それにそもそも日頃の相談からすると件数も多くはなく,どれだけ時間とエネルギーを注いで学ぶか,できれば関わらずに済ませられるならそれに越したことはない。そんな気持ちから,多くの方々は臨床面で気にはなりつつも,どこか先送りになりがちなテーマでもあろう。かく言う私も最初はその類いの一人であった。

2.「脱会後カウンセリング」の大切さ,そして「脱会」をめぐって

そんな想いを一蹴させてくれたのが日本脱カルト協会(JSCPR)におけるある牧師さんからの要望であった。1990年代,オウム真理教や旧統一教会と様々に闘っておられる宗教者や弁護士の方々の姿に圧倒されつつ,いつも引き気味な自分を感じていた頃,「自分達は宗教者としての使命もあって邪教(?)と思われるものに対して,脱会させることを目指して様々にサポートする面があるが,しかしそのあとのことまで関わり続けるゆとりはなく残念だ。ぜひ心理の専門家に加わってもらえないだろうか」との言葉に,心理職である自分にも何か貢献できることがありそうだ……と思え,とても嬉しかったことを覚えている。

あれからやがて30年。私自身,宗教者や弁護士,脱会者等との様々な出会いと関わりの中,学生相談での実践を経て,私設心理相談の場を臨床のメインとするに至った(平野,2023, 2024a, 2024b)。相談の対象もメジャーな宗教カルトのみならず,いわゆるミニカルトも増え,「脱会前」「脱会後」共に,様々にカウンセリングを行なう機会も増えた。

ただ実際にはこの2つについてこうしてクリアに分けられるものでもなかろう。書面や形として脱会届を出したとしてもまだまだ様々な想いが残っているケース,団体へは足は遠のいているものの形としてまだ名簿に名前が残っているケース,団体から離れたいもののその時の友人や知りあいとの関わりがあると様々に揺れ動いてしまうケース等々。意を決して離れたものの,社会で生きていくには多くの困難もあり,結局はもとの仲間に戻っていくケースもある。ある方が「何かヤクザの世界と似ている。良くない団体として批判されていること等よくわかっているが,どうにもさみしいというか戻ってしまう」と述べていたが,わかる気もする。こうしてみてくると,「脱会」とは何なのかといったこともよく考えさせられる(第4稿のAさん稿,ご参照)。

3.支援の場について──大学,小中高校,私設心理相談,他 

こうした問題については歴史的に旧統一教会やオウム真理教の問題が社会をにぎわせる中,宗教者や弁護士等による支援の活動から始まった。特に全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国霊感弁連)や日本脱カルト協会(JSCPR)の活動とネットワークは大変重要なものであった(全国霊感弁連,2022;紀藤,2022;日本脱カルト協会,2014)。そして,被害にあった後に加害者にもなっていく若い人々への啓発の重要性も叫ばれ,大学の学生部や学生相談室の役割が一層重視されるようになり,書籍も色々と刊行された(櫻井 他,2012)。やがてJSCPR内に「カルト対策学校ネットワーク」が作られたり,全国霊感弁連の中に大学関係者向けの集まりも持たれるようになった。また新入生向けのオリエンテーションにDVD(日本脱カルト協会,2015)が用いられたり,授業の中でも様々にとり扱われることとなり,若い人々への啓発という点では大分進んだように思われる(第2稿の太刀掛俊之稿,ご参照)。

このように大学での状況がわりと良い形になるにつれ,団体の方もそのターゲットをより一層低い年齢層に向けはじめた。また今回の旧統一教会問題を契機に宗教2世のことが大きな話題となり,多くの書籍が出されるようになった(第5稿の鈴木エイト稿,ご参照)。この問題は以前より虐待の関係も含め時々話題になっていたが,例の襲撃事件をふまえ,その切実な声等,いよいよ教育関係者をも動かすこととなり,文部科学省初等中等教育局児童生徒課では2024年8〜9月に全国の小中高校に勤務するスクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW),また教育相談室や教育委員会向けに「児童生徒等の宗教に関する相談対応についての研修会」が2時間にわたるオンラインの形式で開かれた。この場合,高校生はまだしも小中学生はその言語化能力や親への依存といった問題もあり,学校現場でこの問題にしっかり関わる機会は実際に多くはないかも知れない。ただ不登校やいじめ等の問題の背景にこうしたことが関係している可能性もあるとの視点を有しつつ,関係者との関わりを大切にしていくことが望まれよう(江川,2019)。

若い人々への相談やサポートの場として上述のような機関での対応が続く場合は良いが,その後どのようにフォローしうるか。単に本人のみならず家族との関わりも重要になり,教育領域だけではカバーできない状況に至る。また宗教カルトということでは教会や寺院等でこの問題に関心をもつ宗教者がおられる所ならばまだ関わってもらえることもあろうが,しかし,昨今では今流の悪徳商法もはびこっていて,いわば商業カルトへの知見も大切になってきている。こうしたことを総合的に色々取り扱える場が次に述べる私設(開業)心理相談である。ただ残念ながら全国的にみてもこのような問題にしっかり対処し得る所はまだまだ少ないが,今後全国各地でこうした場が増えることを期待したい。

その他,法テラスにおいては,2022年11月14日より,「霊感商法等対応フリーダイヤル(0120-005931)」が平日9:30~17:00で開設されており,我々心理専門職も十数名,非常勤ながらサポートに入っている。今後もこの種の試みに対しては,機会あるごとに尽力していければと考えている。

4.私設心理相談での実践から──カウンセリングの実際

先の大学や教育相談といった場では対象や問題等,比較的限られており,家族との関わりや啓発活動も重要である。それに対してこの私設心理相談には色んなものが投げこまれてくる。問題ある団体として昔からメジャーなものの他,その亜形としてのミニカルト,更には商業カルトも多く,これらはどれも応用的な問題であり,「脱会」のみならず,この問題で生じる副次的なこと(家庭,結婚,仕事,教育,人間関係,他)への対処も臨床実践上重要である(平野,2023)。

さてカルト問題にまつわる様々なカウンセリングを総称して「カルトカウンセリング」として述べさせていただくが,実際にはどのように関わっているのか,我がオフィスでの相談の実際ということで,以下簡単に記してみたい。

この場合,当人自身が自ら迷い,心配等抱いている場合は本人へのカウンセリングといった形で大変関わりやすく,その困り事に対して普通の心理臨床感覚で十分対応しうる場合が多い。

難しいのは団体にしっかりとはまっていて,困り感等無い場合である(このようなマインドコントロールがどのように維持・強化されていくのかに関しては,第3稿の西田公昭稿,ご参照)。即ち,困っているのは親や家族であることが多く,そのサポートが大切になってくる。私としては関わる際,これまでどんな状況があり,どんな経緯のもと,今に至ったか等,まずきちんと把握することからはじめ,家族等との関わりの様子をふまえ,一緒に地道に考えていくことを大切にしている。そうした中,当人に団体への疑問や揺らぎ等,感じられた際に次のステップへとシフトするのである(林,2015)。

ちなみに,こうした作業を丁寧に行なえるケースにあっては“スーパービジョン”感覚で関わることも多い。具体的には本人との様子等,レジメにまとめてもらう形で事前に送ってもらい,セッション当日は討議中心での時間にしている。この方が関係者として振り返る機会になると共に,コスパ(コストパフォーマンス)的にも良く,カウンセリングの場が作戦会議の場ともなる。この場合,家族やきょうだい等と様々に情報共有をし,考え方等,皆一致団結していることが重要であろう。その意味では互いに離れていても,瞬時に状況や方針等共有しあいながら進めていける複数でのオンラインカウンセリングは大変有効だと思っている。

そして,いよいよ本人とどう関わっていくか……であろう。まずカウンセラーとしてどのように登場するか,このあたりのシナリオを家族と丁寧に話しあうことになる。特にこれまで本人にとっては大切で支えでもあった団体等のことを直ぐ否定することは禁物である。費やした時間とエネルギー等が膨大あればあるほど,その団体との関わりが〈その人の人生そのもの〉といったこともあろう。それを尊重しつつ,関係を維持しながら,カウンセラーとしても思うことを少しずつ入れこんでいくアプローチとなろう。

そしてこの辺りにまで至れば,あとは気を抜くことなく,慎重に通常のカウンセリング感覚で色んな想いを受けとめながら,時に対象喪失と喪の仕事といった作業を行なうことになろう。同時に現実の生活の中で起きてくる様々なことに向きあいながら,これまで狭く限られていた依存先を増やす形で次への踏み出しをサポートする関わりになろう。

5.おわりに──通常の臨床感覚も大切に

冒頭に於いて,この問題に対し心理職が抱きやすい苦手意識について記したが,確かにカルト問題に関する様々な知識や情報,ネットワーク等有しておくことは大変重要である。実際,下表に示した通り,相談構造においては独特な面もあるが,ただその関わり方においては通常の臨床感覚で十分に対処しうる領域だと思っている。とかく「脱会」を第一にされがちだが,長年の経験をふまえると実際にはこの問題周辺で生じる様々な現実的な事柄も見すえ,個々の問題について優先順位をつけながら具体的に対応していくことも大切な気がしている。今回の特集ではこうした問題に関する第一人者の方々4人に,そのお得意な部分を記していただいた。十分に味読していただいて,様々に役立てる形で支援に携わっていただけると幸いである。

公認心理師・臨床心理士によるカルトカウンセリングの相談構造(於,私設心理相談)2022.10

来談者 親や家族が多い。本人は時々(特に脱会後)
時間 1回1時間程度が基本。
ただし,各種会合等の開催に合わせて短時間であれ,会える所で会うことも(臨機応変に)。
尚,オンラインにより様々に調整も可。
頻度 一応予約制だが,なかなか構造化しにくい場合もある。
尚,急な展開がみられない場合は on demand方式での関わりに。オンラインにより様々に調整可。
料金 原則を提示するが,経済事情等もあり,時になかなか取り辛い場合も。
尚,30分単位や複数人設定も可(オンラインも)。
連携先 多職種(牧師,僧侶,弁護士,脱会者他),地域性も要考慮。
支援団体や家族の会の存在は大きい。
特徴 問題ある団体についての情報提供。
親や家族を支え続ける役割が大きい。
結局は様々な人や会との連携の中で,ある種,チーム的に関わる面あり。

そして最後にもう一つ。例の事件を経て,いわゆる宗教2世の方々等から心理専門職による相談対応への一層の尽力を求められる機会も増えた。こうした状況をふまえ,我々日本臨床心理士会では昨2024年の春以降,ワーキングチームを作り『臨床心理士のための宗教カルト関連心理相談ガイド』を作成した(日本臨床心理士会(2024)ただし現時点では会員のみがそのホームページ内で閲覧できる状況にある)。我々は教育や医療,福祉等の領域のみならず,様々な場面で臨床実践を行なっているわけだが,特に児童・思春期・青年期・成人期での相談は皆,得意とする領域でもある。関係の方々にはこのガイドを,自らの臨床実践の幅を拡げるものとしても有効に活かしてもらえたらと願っている。

(追記)
本稿が発信される直前の3月25日に,ご承知のように旧統一教会に対して「解散命令」が出された。これに関しては現在,各団体から様々な声明が出され,今後も色々な動きが見られるであろうが,関係者(現役信者,脱会者,親や家族等)への心のケア等も大切になってこよう。引き続きこうした問題に一層関心を持っていただき,ご一緒に尽力できればと思う。

文  献
  • 江川紹子(2019)「カルト」はすぐ隣に.岩波ジュニア新書.
  • 林 久義(2015)オウム信者脱会カウンセリング.ダルマワークス.
  • 平野 学(2023)私設心理相談におけるカルトカウンセリング:全96例の分析から.日本公認心理師学会 第3回学術集会 発表.
  • 平野 学(2024a)カルト問題と宗教2世,臨床心理職としての支援をめぐって.日本臨床心理士会雑誌,96; 22-25.
  • 平野 学(2024b)カルト問題の基本と実際―宗教2世をはじめ,相談対応のために.日本公認心理師学会 第4回学術集会 教育講演.
  • 紀藤正樹(2022)カルト宗教.アスコム.
  • 日本脱カルト協会編(2014)カルトからの脱会と回復のための手引き(改訂版).遠見書房.
  • 日本脱カルト協会編(2015)DVD「カルト―すぐそばにある危機」.日本脱カルト協会.
  • 日本臨床心理士会編(2024)臨床心理士のための宗教カルト関連心理相談ガイド.一般社団法人日本臨床心理士会.
  • 櫻井義秀他編(2012)大学のカルト対策.北海道大学出版会.
  • 全国霊感商法対策弁護士連絡会編(2022)統一教会との闘い.旬報社.
+ 記事

平野 学(ひらの・まなぶ)
平野カウンセリングオフィス
資格:公認心理師,臨床心理士
慶応義塾大学大学院修士終了後,同医学部精神神経科助手。その後,同大学学生相談室並びにSFC心身ウェルネスセンターのカウンセラー。また同大学文学部やSFCの非常勤講師。そして平野カウンセリングオフィスを開設(大塚),東京都公立学校スクールカウンセラー。法テラス・霊感商法等対応ダイヤルアドバイザー。
主な著書:『大学のカルト対策』(分担執筆,北海道大学出版会),『カルトからの脱会と回復のための手引き』(分担執筆,遠見書房),他
役職:(一社)日本臨床心理士会理事,(公社)日本公認心理師協会社員,(一社)日本心理臨床学会前監事,日本脱カルト協会理事,他

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