【書評特集 My Best 2024】|白木孝二

白木孝二(Nagoya Connect & Share)
シンリンラボ 第21号(2024年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.21 (2024, Dec.)

1.ヨハン・ハリ著,山本規雄訳『うつ病  隠された真実: 逃れるための本当の方法』(作品社,2024)

ヨハン・ハリJohann Hariは,1979年生まれ。英国出身,欧米で活躍するジャーナリスト。国際的人権団体アムネスティの「ジャーナリスト・オブ・ザ・イヤー」に2度選ばれた。世界的なベストセラーを次々と生み出している……,などと紹介されています。

彼のことはまったく知らなかったのですが,たまたま目にした新聞の書評でタイトルに興味を惹かれて,読んでみようかなと思ったのです。

ネットで調べ,原著もチェックしてみたら,英語のペーパーバックの方が安く,配達も早そうだったので,そのまま英語版を注文しました。この書評は英語版を基にしているので,その点ご承知おきください。

1)

イントロダクション:一つの謎(ミステリー),が印象的です。

最初に抗うつ剤を飲んだのは19歳の時。イギリスの弱い日差しの下,ロンドンのショッピングセンターの薬局の外に立っていた。錠剤は白くて小さく,飲み込む時には,ケミカルなキスのような感じがした。

「うつ病の原因は,脳内の化学物質の不均衡にあり,薬さえ飲めば直すことができる」と説明され,彼自身もそれを信じて薬を飲み続けていましたが,アップダウンはあったものの根本的に良くなることはなかったのです。

徐々にこの古いストーリーに納得できなくなった彼は,世界中に蔓延するうつ病の真の原因と,希望を見つけるための方法を探し求めて,世界各地の様々な分野の第一人者,そして多くの当事者(経験者)に会いに出かけ,(当事者でもある)ジャーナリストとして直接取材を行い,自身の体験と照らし合わせながら,このLost Connections:Why you’re depressed and How to find hope.(失われたコネクション:うつになる理由,そして希望の発見)を書いたのです。

2)

パートⅡのDisconnection: Nine Causes of Depression and Anxiety(コネクションの断絶:うつと不安の9つの原因)では,我々がうつ・不安になる主たる理由は,現代に生きる全ての人々が陥っているLost Connections(コネクション/絆の喪失)だということを,彼が実際に取材したエピソードを基に解き明かしています。そして,

パートⅢのReconnection. Or A different kinds of Antidepressant. (リコネクション。あるいは異なった種類の抗うつ剤)では,(希望を見つけるための)コネクションを再構築し,絆を取り戻す(あるいはうつから逃れるため)の7つの方法を,インタビューと彼自身の体験を基にして,ベストセラー作家らしく紹介しています。

ヨハン・ハリ著,山本規雄訳うつ病  隠された真実: 逃れるための本当の方法

 

もう一冊,関連で紹介しておきたいのは,

2.メアリー・ボイル,ルーシー・ジョンストン著,石原孝二 他訳,『精神科診断に代わるアプローチ PTMF』(北大路書房,2023)

PTMF(Power Threat Meaning Framework:パワー・脅威・意味のフレームワーク)は,精神科診断に基づく伝統的・メインストリームの医療・治療モデルへの代替アプローチとしてイギリスの専門家(心理士など)と利用者の協力によって研究され,2018年にまとまった形になったものです。私が特に重要だと思うのが,心理的苦悩や(精神的な)問題とされる行動をとらえ直すための枠組み(フレームワーク)としての4つの「中核的な問い」です。

「何があなたに起こったのですか?」

「それは,あなたにどんな影響を与えましたか?」

「あなたはそのことをどう理解しましたか?」

「あなたは生き延びるために,どんなことをしなければならなかったのですか?」

先に紹介したヨハン・ハリの本も参考文献として紹介されているので,この2冊を合わせて読んでみることをお勧めします。皆さんが支援者であれ当事者であれ,人々(我々)がうつになる理由を問い直し,希望を見つけ出し,失われたコネクションを(再)構築するための,たくさんの示唆を与えてくれるはずです。

メアリー・ボイル,ルーシー・ジョンストン著,石原孝二 他訳精神科診断に代わるアプローチ PTMF

文  献
  • Hari, J.(2019)Lost Connections: Why you’re depressed and how to find hope. Bloomsbury.(山本規雄訳(2024)うつ病 隠された真実: 逃れるための本当の方法.作品社.)
  • Boyle, M. & Johnstone, L.(2020)A Straight-Talking Introduction to the Power Threat Meaning Framework: An alternative to psychiatric diagnosis. PCCS Books.(石原孝二,白木孝二,辻井弘美,西村秋生,松本葉子訳(2023)精神科診断に代わるアプローチ PTMF.北大路書房.)

バナー画像:Alex G. RamosによるPixabayからの画像

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白木孝二(しらき・こうじ)
Nagoya Connect & Share 代表
資格:臨床心理士,RDI® Program Certified Consultant  
趣味:料理,音楽(主にジャズ ブラジル音楽)
著書:(分担執筆)『臨床力アップのコツーブリーフセラピーの発想』(日本ブリーフサイコセラピー学会編,2022,遠見書房),『オープンダイアローグ:実践システムと精神医療』(石原孝二・斎藤環編,2022,東京大学出版会),『オープンダイアローグとコラボレーションー家族療法・ナラティブとその周辺』(浅井信彦・白木孝二・八巻秀,2024,遠見書房)
訳書:(共訳)『自閉症革命:信じることを見るから見たことを信じるへ』(マーサ・ハーバート,カレン・ワイントロープ著,白木孝二監訳,2019,星和書店),『精神科診断に代わるアプローチ PTMF』(L・ジョンストン,M・ボイル著,石原/白木/辻井/西村/松本訳,2023,北大路書房),『サイコーシスのためのオープンダイアローグ』(N・パットマン,B・マーティンデール編,石原孝二編訳,2023,北大路書房)

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