【特集 産業・労働分野の心理支援ーー何をみて,考え,為そうとしているか】#03 ストレスチェックとセルフケア支援|阿部桂大

阿部桂大(ティーペック株式会社)
シンリンラボ 第19号(2024年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.19 (2024, Oct.)

1.はじめに

ストレスチェック指針に示されている「相談対応」は,産業医等と連携しつつ心理職が活躍できるフィールドである。また,医師による面接指導と異なり,自身のストレスチェックの結果を事業者や上司に開示せずとも受けることができる。そのため,特に医師による面接指導の利用を逡巡している高ストレス者にとって重要な受け皿となりうる。その手引きとして島津・種市(2016)では,相談対応全般について紹介している。

相談対応は,組織の資源・状況に応じて適宜調整ができる余地が大きいがゆえに,押さえるポイントと会話のイメージがしづらい。特に会話例ごとに心理職の考えが併記されている文献は,乏しい。

よって本稿では,まずストレスチェック制度において特に注意が必要な高ストレス者に絞って特徴的なポイントを示す。次に,会話例ごとに心理職の考えを併記した仮想事例を用意した。最後に注意点を述べる。

2.特徴的なポイント

高ストレス者へ相談対応を実施するにあたり,特徴的なポイントは大きく3つあると考える。1つ目は受動的に来談した場合の対応,2つ目はストレスチェックの結果の確認,3つ目は医師による面接指導に関する希望の確認である。相談対応の流れに沿ってポイントについて詳述する。

1)序盤

相談対応の予約が入った時に心理職が行うことは,可能な範囲で来談者の属性やストレスチェック結果,社内外の資源などを把握することが挙げられる。

当日来談された際に,自己紹介および,相談室の機能・利用時間やストレスチェック制度,守秘の範囲を伝達する。次に,来談者の来談経緯を詳細に伺う。来談者は相談窓口を利用するよう,文書や口頭で言われて,受動的に来談することが多いため,動機や期待を伺っても,漠然としていたり,特になかったりする。そのため労いや称賛を行い,話すこと自体の動機づけをしてから,課題を探索して改善に向けての動機づけ面接を行う。逆に過度な期待をもって来談された方には,相談対応の効果と限界を伝え,トラブルになることを未然に防ぐ。

2)中盤

相談の合意がとれたら,ストレスチェックの結果の所感を伺う。来談者が話す意欲が乏しい,相談が不慣れ・苦手な様子があれば,意外だったか,思った通りだったか等クローズドクエスチョンにすると話しやすくなる場合がある。次に,ストレス要因などについて,心理的な抵抗が生じないよう配慮した表現を使って詳しく教えてもらう。特に半強制的に来談させられた方は,心理的な抵抗が強く,ほとんど話さない場合がある。このような場合は,仕事の内容を伺いつつ,頑張っていることや工夫していることなどを尋ねて,称賛や労いで話を弾ませながらストレス・課題について婉曲的に把握する。ストレスチェックの結果は制度上,「職場のストレス要因」「周囲の支援」「心身の症状」に類するものである。そのため,手元に結果がなくとも,この3つについて深掘りすれば実践上は問題がない。

3)終盤

ストレスについて気づくことがセルフケアの第一歩であるため,話を要約して課題を明確化する。そして,来談者の課題や得意な対処法,リソースに合わせたセルフケアの具体的な手法を明示する。そのほか,セルフケアに関するパンフレットの配布やWebサイトを紹介する方法もある。最後に,本人の努力を超える問題が見受けられる場合は,受診や上司への相談の勧奨をしたりする。特に,高ストレス者は医師による面接指導を受ける権利があるため,制度の説明をして希望を伺う。この時,心理職の役割としては,支援を求める動機を高めるように言葉がけをしたり,心理的な障壁があるようであれば,それが少しでも低減できるように働きかけたりすることである。また,心理職に相談してよかったという経験そのものが,今後誰かに相談しようとする動機の源泉になりうる。

3.仮想事例

以下は,複数の事例を合成した仮想事例である。来談者と心理職の会話例に加え,心理職の考えについて併記する。

【前提】
20代正社員(以降,来談者と略記)は,ストレスチェックで高ストレス者に選定され,結果の通知文に相談窓口に相談することを勧める文章があったため,それに従って来談しようと思った。相談窓口の申し込み票には,相談目的「高ストレス者になったため」と記載した。
心理職は相談窓口の一員。

【会話例】来談者:来,心理職:心,( ):心理職の考え,~~:会話を省略し,概要を説明
来:こんにちは予約した●●です。
心:はじめまして。カウンセラーの■■です。
~心理職がアイスブレイクをして,来談者の緊張をほぐす~
心:さて,申し込み時に,相談の目的に「高ストレス者になったため」とありましたが,詳しく教えていただいてもよろしいでしょうか。(ストレスチェック制度の理解度と動機が低ければ,本人のニーズを探しながら,説明や動機付けをしていこう。理解度と動機付けが高ければ,すぐに本題のストレスについて話を伺おう)
来:ストレスチェックの結果で高ストレス者とあり,その結果の中に相談窓口を利用して,とあったので,よくわからないですけど申し込みました。
心:教えてくださり,ありがとうございます。よくわからない,とのことでしたので,ここはいったい何をするところだろうと思っていらっしゃったんですね。(まずは話すこと自体に動機付けをするため,ポジティブにリアクションをとろう)
来:正直そうですね。
~窓口と守秘の説明をして,同意をもらう~
心:今回お越しになるきっかけとなったストレスチェックの結果はお持ちでしょうか。(話のきっかけとして結果を確認しよう)
来:はい。
心:見せてもらってもいいですか。この結果について,どのように思いましたか。(オープンクエスチョンで話せる方か確認しよう。オープンクエスチョンで話せる方であれば,話を深掘りしやすいため,話を先に進めていこう。そうでなければ,警戒していたり,動機づけがまだ低かったり,または,その他の理由がある可能性があるため,先に進める前にそこに対処しよう)
来:高ストレス者といってもあまり実感はないです。確かに調子は良くはないですが,みんなストレスがあると思いますので。
心:そうですね,ストレスはだれしも多かれ少なかれあります。ただ,高ストレス者と判定されるのは大体10人に1人レベルでの不調です。不調がある中,頑張っていらっしゃると思いますが,このままの状態が続くことは心配です。これを機にストレスや対処法について一緒に見直してみませんか。(ストレスについて理解はありそうだけど,注意が必要なレベルとは思ってなさそうだから,注意喚起しよう)
来:はい,わかりました。ただ自分ではストレスってよくわかっていなくて。
心:確かにわかりづらいこともあります。日常の些細なことの積み重ねでも,ストレスになることがあります。ちょっと引っ掛かっていることや,仕事の量や進め方,周囲のサポートといわれて,何か思い当たる節はありますか。(本人の動機となるものを探すために,いろいろな表現で質問してみよう)
来:そういわれると,仕事中に集中力が切れて,ケアレスミスが続くことがあります。あと上司の係長とはうまくいっていないです。
心:教えてくださり,ありがとうございます。集中力が続かないのはいつぐらいからで,どうして集中力が続かなくなるか思いあたることはありますか。(この課題の対処が動機付けになりそうなため,詳しく伺おう)
来:大体2カ月前から集中力がよく切れるようになりました。あまりよく寝れていないことが影響を与えているかもしれません。ミスをしないように,作業の後に確認するようにしているのですが,そのころには集中力が切れているので,形だけの確認になってしまい,ミスを防げていません。それもつらいし,そのミスで係長から馬鹿にされたり,怒鳴られたりしてしまって,自分が悪いので,すみませんとしか言えません。
心:ミスが続いていること自体つらいですし,係長から怒られると,自分が悪いという申し訳なさがあるのですね。(工夫している点は称賛ポイント。現在は,自信が低下しているため,称賛して高めることで,後でこちらが提案をしたときに乗ってもらいやすくしよう係長の関係の方は職場の介入が必要かもしれない)
来:そうなんです。今までこんなことはなかったのですが,どうすればいいか。
心:先ほど,作業の後に確認するというお話がありましたが,工夫されていいですね。集中が切れるときはどのようなときでしょうか。(工夫されているところは称賛して自信をつけてもらいつつ,もう一工夫できる余地がないか,内省を深めてもらおう。また,このような状態が初めてならば,生まれつきの問題ではなさそう)
来:眠気がでたり,目の焦点が合わなくなったりします。
心:このような時はどのように考えていることが多いでしょうか。(考え方の癖がないか確認。癖がある場合は,それが適応的な思考かアセスメントの上,必要に応じて別な考え方を見つけられるようアプローチしよう)
来:キリのいいところまで作業をしようとして,ずっと作業をしているときだと思います。
心:入社当時と比較して,作業の難しさや多さはどうなっていますか。(キリのいいところまで作業するというのは,果たして合理的か)
来:難しく増えてきています。
心:そのような中でキリのいいところは見つけやすいですか。(ご本人の考えは,現状に即していないかもしれない)
来:いいえ,キリのいい作業というのはあまりないですね。
心:時間で区切ってみるのはどうでしょうか。試してみてうまくいけばそれでいいですし,そうでなかったらまたほかの方法を探してみましょう。(取り急ぎの対処法が明確になって,少し信頼関係ができたかもしれない)
来:いいですね。試してみます。
心:そのほか集中力が低下する原因として考えられることに,あまり眠れていないというお話がありましたが,詳しく教えていただいてもよろしいでしょうか。(信頼関係が少しできたため,正直に話しづらいプライベートな問題である体調について詳しく聞いていこう)
~詳しく伺うと,睡眠のほかさまざまな症状が生活と仕事に支障を与えていたため,改善の助言と医療機関への受診を勧奨し,来談者は納得した~
心:体調と係長が怒ってくることについて,ご自身の努力を超えた問題もあるような気もしますが,いかがでしょうか。(業務上の配慮,会社として事実確認をしたほうがいいケースかもしれない。医師による面接指導につなごう)
来:確かに自分では,どうしようもない感じがあります。
心:それでしたら,産業医の先生と相談してみませんか。●●さんのお話を聞いて,ご体調にあった働き方ができるように職場に意見を出してくださる場合があります。周囲の方が●●さんにフォローが必要と知ってもらうために,ストレスチェックの結果など含めて必要な範囲で面談の情報が関係者に共有されます。いかがでしょうか。(提案ベースであるものの,強めに勧奨しよう)
来:うーん。ちょっと…。
心:何か心配や懸念されていることはありますか。(心理的な抵抗が出ているので,理由を尋ねて,そこを解きほぐしていこう)
来:職場が,私のことを高ストレス者とわかったら,評価が悪くならないか心配です。
心:心配になりますよね。ただ,高ストレス者というだけで,不利益な取り扱いをすることは法律で禁止されています。人事評価は仕事の成果などで決まると思いますので,体調が悪い状態をそのままにしてもっと悪化してしまうほうが,成果を出しづらくなりませんか。(現状のほうが,評価が悪くなる可能性があることに気付いているだろうか。安心感を与えつつ,気付きを促そう)
来:そうですね。では,産業医の先生との相談をしようと思います。
心:いいと思います。では手続きを説明しますね。(産業医面談を受けるための手続きをまとめたパンフレットも渡そう)
~本日のまとめをして相談対応終了~

4.注意点

一つ目は,心理職の姿勢についてである。組織側か労働者側かどちらかの味方というより,両者の共通の目標を見出して,Win-Winになれるよう目指すことが肝要であると考える。どちらかに肩入れすることは,一時的に簡単に片方から信頼を得ることができるが,最終的には対立関係を助長してしまうことで,問題解決・改善を阻害する恐れがあるため注意が必要である。

二つ目は,ストレスチェックの結果に労働者を当てはめないことである。あくまでもアセスメントの補助ツールに留めて,職場外のストレスや性格などの個人要因を含めて,労働者の全体像を把握するように努めることが肝要と考える。

5.おわりに

本稿は高ストレス者への相談の対応に絞って論じたが,エッセンスの一部は非高ストレス者への相談対応においても参考になるものと考える。

文 献
  • 島津明人・種市康太郎編(2016)産業保健スタッフのためのセルフケア支援マニュアル.誠信書房.
+ 記事

阿部桂大(あべ・けいた)
所属:ティーペック株式会社こころのサポート部大阪・名古屋EAPセンター 室長
資格:公認心理師,臨床心理士,シニア産業カウンセラー,キャリアコンサルタント,第一種衛生管理者
主な著書:『産業心理職のコンピテンシー』(分担執筆,川島書店,2023)

目  次

コメントを書く

あなたのコメントを入力してください。
ここにあなたの名前を入力してください

過去記事

イベント案内

新着記事