馬場洋介(帝京平成大学)
シンリンラボ 第19号(2024年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.19 (2024, Oct.)
1.職場復帰支援における再休職の問題とその対処
1)職場復帰支援における再休職の問題
職場復帰支援に関する問題として,職場復帰後の再休職率の高さがある。厚生労働省は,従業員1,000人以上の大手企業等34社の社員について,2002年4月からの6年間にうつ病休職を取得し職場復帰した社員540人を追跡調査し,病休と職場復帰支援に関する調査と分析の結果を2017年に発表した。その結果では,職場復帰から6カ月時点で全体19.3%が再びうつ病を発症し休職を取得し,その後の休職の再取得者を合計すると,復帰から1年時点で28.3%,2年で37.7%,3年で42.0%となり,5年では47.1%に達した。研究結果では,仕事量が多い職場で働く人ほど病気を引き起こしやすいことが判明し,負荷の軽い短時間勤務を導入する等,企業の対策強化の必要性を指摘している。
2)休職者の変容の必要性
宮城(2011)は,職場復帰支援において最も欠けていた視点として,休職者のキャリア形成支援,および,キャリア開発に関する課題を指摘し,職場復帰支援の手引き,精神科等で展開しているリワークプログラムにおけるキャリア支援の視点の不足を指摘している。さらに,五十嵐(2018)は,職場復帰後の再休職の問題について,職場復帰後,同じ対処では容易に再休職につながるので,行動療法に基づいた集団プログラム等を実施し,しなやかさを備えた対処行動を身につけ,再休職しないように備えることの重要性を提言している。以上,休職者が職場復帰後の再休職を防ぐには,自分自身に向き合い,自身の内面や行動において何等かの変容が必要であることが示唆されている。
2.職場復帰支援における休職者・人事担当者への関わりのポイント
1)リワークプログラムの種類
一般社団法人日本うつ病リワーク協会によると,リワークプログラムが行われる施設,内容等に応じて,医療機関における「医療リワーク」,障害者職業センターにおける「職リハリワーク」,企業内や外部EAP等における「職場リワーク」に分類される(高橋ら, 2015)。「医療リワーク」は職場復帰支援を目的にプログラム化されたリハビリテーションで,本人の病状の安定に応じて段階的に負荷を上げて職場復帰につなげていくプログラムである。「職リハリワーク」は目的が病状の回復ではなく,休職者の職場適応と雇用主支援である点が特徴である。「職場リワーク」は休職者が安定した就労ができるのかを見極め,スムーズな職場復帰を実現するための企業による支援である点が特徴である。リワークにおける心理プログラムは主として集団療法であり,心理職や精神保福祉士等の産業保健スタッフによって実施される。
2)企業と契約している医療機関のリワークプログラム
筆者が統括責任者として携わっている,企業と契約している医療機関のリワークプログラムでは,職場復帰後の再休職を防ぐために,ライフキャリアの視点を取り入れ,「一人ひとりの働き方に向き合う支援」を目標にしている。そして,その目標達成のために「休職者・人事担当者・医療機関の密な連携」を大事にして,休職者と企業の状況に合わせた精度の高い環境調整を行っている。その結果,職場復帰が新たなキャリアのスタートになるように,休職者がリワークプロブラムで学んだことを活かせる支援を実現している。
ここでは,筆者が携わっている当該医療機関におけるリワークプログラムの実践から,職場復帰支援における産業保健スタッフと休職者・人事担当者への関わりのポイントを述べる。
3)休職者の情報のブラックボックス化
企業で働く人が精神疾患等の理由で休職すると,休職者と企業の間で情報共有する頻度が減り,共有する情報の内容も薄くなり,企業側からは休職者の行動や志向等の把握がしづらくなり,ブラックボックス化する傾向にある。筆者の経験では,休職期間中,産業保健スタッフと人事担当者,休職者との間で,対面やメール等の手段で,一定のコミュニケーションは行われるが,生活リズムや体調の確認等,表面的な面談になりがちである。したがって,休職という体験を今後のライフキャリアを考えていく上でどのように活かしていくのか,および,仕事やプライベートにおける本人の課題はどのようなことなのか等,休職者の本質的な課題に踏み込んだ内容になっていないことが多い。
4)休職者の本質的な問題に向き合う必要性
一般に休職者は早く復帰したい焦りや不安等により,産業保健スタッフや人事担当者等に,職場復帰が可能であることを過剰にアピールする等,自身のネガティブな情報を伝えずにポジティブな情報だけを伝えてしまう傾向もあり,休職者の本音や実情等が把握できない可能性が高くなる。このような休職期間中におけるブラックボックス化の課題を解決するためには,産業保健スタッフが,休職者と企業の間に入り,上記に挙げた本人の本質的な課題について継続的に対話しながら,休職中の本人状況を専門的な視点から企業側と共有する役割を果たす必要がある。
5)休職者の状況のより正確な把握
当該医療機関では,人事担当者との電話面談,オンライン面談,および,人事担当者の当該医療機関への訪問等により得られた情報をもとに,休職者の詳細な状況を把握して,休職者と人事担当者双方にとって有効な情報を共有している。したがって,人事担当者は,臨床心理,精神医学的観点からの休職者の状況,リワークプログラムの参加状況(頻度,態度,発言等),自己理解の内容,職場復帰後のライフキャリアの意向等のさまざまな視点から,休職者と人事担当者双方にとって有効な情報を共有できるようにしている。また,休職者本人から企業側に対して説明しづらいことでも,心理職等の専門的知見を有した産業保健スタッフから人事担当者に説明することで,休職者の状況をより正確に共有できるようになる。
6)休職者の情報の有効活用
休職者の詳細で有効な情報共有は,人事担当者が職場復帰後の受入体制を検討する材料にもなる。例えば,元の職場への職場復帰が原則でも,休職者のリワークプログラム受講中の自己理解をもとに,休職者からの異動希望を尊重して配置転換する等の環境改善の配慮をする企業もある。さらに,企業側からも休職者への要望を伝えることも可能である。例えば,休職中に本人に取り組んでもらいたいことの要望を伝えることで,休職期間のキャリア上の空白期間を埋めることができる等のメリットもある。
7)リワークプログラムの卒業式の有効活用
当該医療機関では,休職者と人事担当者双方にとって有効な情報の共有をするための取り組みとして,リワーク参加者がプログラムを終了する際,卒業式を実施している。卒業式には,リワーク参加者本人,プログラムを担当する専門スタッフ(医師,臨床心理士,公認心理師,精神保健福祉士,産業カウンセラー等),企業の窓口となっている医療機関の担当者,さらには,企業の人事担当者,あるいは,上司等,本人を支援するすべての関係者が参加する。
この卒業式では,プログラム終了する本人が,休職に至った経緯,要因分析,自己に対する新たな気づき,リワークプログラムで学んだこと,職場復帰後のライフキャリアの方向性,働き方,仕事の進め方,自身に合ったストレスコーピング,留意点等を,各自のスタイルでプレゼンテーションする。このような機会を作ることで,休職中のブラックボックス化を防いでいる。この取り組みにより,プログラムを実施する機関の精神科医,産業心理職,精神保健福祉士等の専門家の産業保健スタッフが,休職者と人事担当者の間に入り,第三者的視点で,職場復帰を精度高く実施するためのコンサルテーションを実現している。
8)休職者の集団力動と個別カウンセリングを組み合わせた支援
一般にリワークプログラムの効果として,精神疾患を抱えた仲間からの意見やアドバイス等が参加者相互の気づきを促すことが指摘されている。当該医療機関の場合においても,リワークプログラムに参加するメンバーは,企業としても職場復帰を望んでいるメンバーであり,ある一定レベルの業務遂行能力,スキル等があることが想定され,グループワーク等で交わされるコミュニケーションレベルも一定レベルであり,そのようなメンバーからの意見,アドバイス等については,納得感もあり,本人の自己理解の促進に有効に働いているケースが多い。一般にリワークプログラムにおいては,グループワークの効果等,集団力動の効果に焦点が当たりがちであるが,当該医療機関の取り組みにより,個別カウンセリングの必要性も示唆された。実際,受講者の親子間の課題,夫婦間の課題について,個別のカウンセリングで取り上げ,このようなプライベートの問題を整理できたことが,休職者の状態が良くなることに寄与しているケースもある。
9)休職者のプライベートの問題
筆者の経験では,休職に至った課題には,職場の課題,上司とメンバー間の人間関係,業務内容の不一致,長時間労働等,職場の問題が起因していることが多いが,プライベートの問題を抱えているケースもある。したがって,夫婦関係の不和,親子間の長年の課題等,リワークプログラム中のグループワーク等のオープンな場では自己開示が憚られる問題に対して,個別カウンセリングの中で整理することも必要になってくる。以上のように,個別カウンセリングとグループワークを組み合わせプログラムが有効になることが示唆された。そして,以上のリワークプログラム全般で得られた情報を休職者と人事担当者双方にとって有効な情報共有をすることが重要である。
10)ライフキャリア視点での支援の必要性
当該医療機関は,メンタル面とキャリア面を統合的に支援するプログラムを実施している。具体的には,リワークプログラムでは,休職期間中に,職場復帰後のライフキャリアを考え,検討することに力点を置いた支援をしている。筆者の経験では,休職者は自身の強みとしている業務や部署等において精神疾患を発症しているケースが多く,職場復帰する際には,これまでの仕事の取り組み方や職場の人間関係の見直し等が必要になってくる。当該医療機関のリワークプログラムでは,キャリア心理学のアセスメントや個人ワーク,グループワーク等を通じて,自己理解を深める中で,職場復帰後のライフキャリアデザインをどのようにしていくのかについての課題に向き合うことを実践している。
11)ライフキャリア視点での支援のメリット
筆者の経験では,ライフキャリア視点での支援のメリットを列挙すると以下の通りである。
- 休職期間中に,職場復帰後のライフキャリアを具体化することで,職場復帰がゴールではなく,職場復帰することで,自身の新たなライフキャリアが始まるという意識を醸成しやすい。
- 職場復帰後のライフキャリアを具体化することで,例えば,キャリアを実現するためにどのような資格が必要か等,職場復帰後の学びの目標等を設定しやすい。そして,体調の回復状況によっては,資格取得のための勉強時間を生活リズムに組み込むこともできる可能性もある。
- 職場復帰後のライフキャリアについて,仕事だけでなく,生活,学び,地域活動,家庭,趣味等,人生におけるさまざまな役割を統合的に検討することで,職場復帰後,辛い状況に直面しても,プライベートの時間の充実等,ストレスを軽減する対処も習得できる。
12)まとめ
以上,これまで述べてきたように,職場復帰支援においては,産業保健スタッフは,休職者と企業の人事担当者,および求職者が通院している医療機関等の間に入り,密接かつ丁寧に連携することにより,それぞれの担当の支援者から複数の視点で豊富な情報等を入手し,休職者と人事担当者双方にとって有効な情報共有をすることが求められる。さらに,職場復帰の有効な方策等について,休職者,人事担当者,他の専門職等の関係者との継続的な対話を通じて,創造的に検討し,適切なタイミングで実践していくことが求められる。このように,職場復帰支援は,携わる関係者が多岐に渡り,さらに,休職者の復帰の段階ごとに求められる役割やスキル等が変化していく困難さを伴うが,それだけに産業保健スタッフの姿勢や力量等が問われるので,継続的に研鑽していく必要があるテーマである。
文 献
- 遠藤源樹(2018)病休と復職支援に関する調査と分析.平成二十八年度労災疾病臨床研究事業費補助金「主治医と産業医の連携に関する有効な手法の提案に関する研究」, 383-397.
- 五十嵐良雄(2018)リワークプログラムの現状と課題 特集 休職と復職―その実態と課題―.日本労働研究雑誌, 62-70.
- 宮城まり子(2011)休業・職場復帰支援の課程におけるキャリアサポート:キャリアカウンセリングによる職場復帰.法政大学キャリアデザイン学部紀要,8巻,27-47.
- 高橋望・林俊秀・福島南・五十嵐良雄(2015)リワークプログラムにおける心理職の役割.臨床心理学,15 (3); 357-362.
馬場洋介(ばば・ひろすけ)
帝京平成大学大学院 臨床心理学研究科長 教授,医療法人社団平成医会 平成かぐらクリニック リワーク統括責任者。
株式会社リクルートでメンタルヘルス担当,株式会社リクルートキャリアコンサルティングで再就職支援のキャリアカウンセラーとして精神障害者等の就労支援に携わる。産業心理職育成をしながら,メンタルヘルス専門医療機関リワーク責任者。
学会活動:一般社団法人日本キャリア・カウンセリング学会会長,一般社団法人日本産業心理職協会理事(研修企画担当),一般社団法人産業ソーシャルワーカー協会理事。
著書:『キャリア心理学 ライフデザイン・ワークブック』(共著,ナカニシヤ出版,2018),『心理職の専門性20-公認心理師の職責-』第9章:産業・労働分野における心理専門職のはたらき(執筆担当)(共著,NHK出版,2020),『心理カウンセラーが教える「がんばり過ぎて疲れてしまう」がラクになる本』(共著,ディスカヴァー・トゥエンティワン,2021)。