【特集 がん患者の心理支援──各ライフステージの特徴を理解した支援に向けて】#04 小児期のがん患者への心理支援|尾形明子

尾形明子(広島大学)
シンリンラボ 第15号(2024年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.15 (2024, Jun.)

1.小児がんとは

小児がんとは,0歳から14歳までに発症するがんを指す。1年間に2, 000~2, 300人が小児がんと診断されており,子どもの約7, 500人に1人が罹患する。小児がんは,成人のがんとは異なり生活習慣にがんの発生原因があると考えられるものは少なく,白血病や脳腫瘍,神経芽腫,リンパ腫といった種類が多い。過去50年の医療の進歩に伴い,長期生存率は80%以上となっているが,小児がんの治療は侵襲度も高く,治療や治療による合併症によって,子どもの心身の発達にさまざまな影響が生じる。

我が国では,2012年に策定された第2期がん対策推進基本計画において,初めて小児がん対策が重点項目となり,患者と家族が安心して医療や支援を受けることができるよう医療体制の整備が進められている。現在は,15施設の小児がん拠点病院を中心に,小児がんの診療や支援のネットワークが構築されている。

2.小児がん患者の心理的問題

小児がんの治療や入院といった大きな生活の変化は,発達過程にある子どもにさまざまな影響を与える。また,治療を終えたとしても,患者のその後の人生は長く,病気や治療による晩期合併症(成長や発達,生殖機能,臓器機能の問題,二次がん)や心理社会的側面への影響が長期的に生じる。そのため,治療中のみならず,治療終了後も長期的なフォローアップが必須となる。

3.発達段階による心理的問題の特徴

患者の発達段階によって,認知能力や言語能力,親や社会との関係は異なり,必要な支援や支援方法も異なる。

認知発達が十分でない乳幼児期は,病気や治療について複雑な論理的理解は困難である。そのため,幼児期には,「自分が悪いことをしたから病気になった」といった誤った理解をすることがある。また,長期的な入院や生活制限は幼児期の発達課題である身辺自立や社会性の発達を妨げることもある。

学童期では,学校生活や学習における困難さが生じる。多くの患者が,治療に伴って学校を長期的に欠席すること,学習の遅れ,友人関係の変化に不安を抱く。病気や治療の不安に比べ学校や学習に関する不安を過小評価することなく支援する必要がある。

思春期になると,治療による容姿の変化に伴う苦痛,進路や将来に対する不安といった問題も生じる。また,思春期は,親よりも友人と時間や気持ちを共有することを求め,親から心理的な自立を試みる時期でもある。そのため,病気によって,親に頼らざるを得ない状況となり,思春期らしい生活ができないことは,さまざまな気持ちの葛藤を生むことも多い。また,高校生の場合は,学校の長期欠席によって単位習得や進級が困難になることもある。

小児期は,ひとつひとつ心理的な発達課題を達成していくことが必要な時期であり,がんとその治療はその達成を困難にする可能性がある。そのため,各患者の発達段階に応じた病気や治療の理解,入院生活,親の関与度や学校,友人関係に配慮し,患者の気持ちの表現方法(表情や行動,発言など)を捉え,心理状態を評価しなければならない。

4.小児がん患者に対する心理的支援

1)小児がん患者の心理適応

診断後,病気になったショック,生活変化,嘔気や抜毛といった治療の副作用により,患者は抑うつや不安といった心理的苦痛を感じる。しかし,この心理的苦痛は,治療生活に慣れていくことで,時間経過に伴い軽減することが多い。そのため,診断時や治療開始時は支持的な関わりを行いながら,患者の心理状態の変化を注意して観察し,適応が困難な場合には適切な心理的介入を検討すべきであろう。また脳腫瘍といった中枢神経系に影響を及ぼす病状や中枢神経機能に影響を及ぼす治療(放射線頭蓋照射など)は心理的苦痛の増加やQOLの低下につながりやすいとされている。

2)小児がん患者に対する心理的支援の内容

患者の医療処置に伴う痛みや不安に対しては,メディカルプレイ(おもちゃや実際の医療資材を用いた遊びを通して,子どもの処置や検査といった医療行為に対する理解を促す)や行動療法的対応(リラクセーション,ディストラクション[気ぞらし],正の強化)が効果的である。また,抑うつや不安に対しては,心理教育や認知行動療法の効果が示されている。治療終了後には,復学支援や晩期合併症やその後の心理社会的問題に関する相談支援が求められる。

入院・療養生活は患者にとって,制限が多く,自分の思うままにならず受け身的な状況になりがちである。この状況が長期化すると,子どもは「どうせできない」「自分が何をしても無駄だ」といった無力感に陥ることがある。「自分にはこういうことができる」「自分は物事をコントロール出来る」といった感覚は,子どもの心理的発達や適応に重要な要素である。がんであっても,患者が能動的に取り組めること,成功体験を積めること,自分自身を大切に誇りに思えることを少しでも多く経験できるよう,入院・療養生活に工夫をし,子どもらしい生活を保障することが大切である。

5.家族に対する心理的支援

子どもが病気になることは家族に大きな影響を与える。親の心理適応は患者の心理適応に影響することも多く報告されており,親に対する心理的支援は不可欠である。親は,我が子ががんになるという予想だにしなかった状況の中で,さまざまな意思決定を強いられ,初めての慣れない事柄を乗り越えなければならない。その中で,親は自分を責めたり,今後の不安を感じたりと自身の心理的苦痛に対処すると同時に,患者のケアもしなければならない。がんへの罹患によって患者への関わり方に迷いが生じることや,きょうだいのことが気がかりであることも多い。このような親の困りごとについて,親はだれに相談をしてよいかわからなかったり,医療者に相談することをためらうことも多い。最近は,子どもの入院に付き添い入院する親の食事や睡眠などの不十分さ,心身の疲労,経済的負担といった問題も注目されるようになった。医療者は,家族の状況を把握し,親自身の心理的苦痛の緩和,子育て支援,親の仕事や経済的問題の支援も考慮する必要がある。

また,きょうだいも大切な存在である。親が患者のケアに注力する中で,きょうだいは自分をケアしてくれる人の不在を経験する。また感染症対策のため患者に会うことも制限され,疎外感や孤独感,患者への心配,病気への不安などを抱く。そのため,きょうだいの年齢に応じた状況の説明やきょうだいの日常生活の安定を図ることが必要である。何よりも医療者はきょうだいの存在を気にかけ,家族に関わることが大切である。

家族への支援となる情報として,公益社団法人がんの子どもを守る会の資料(公益社団法人がんの子どもを守る会,2008),NPO法人キープ・ママ・スマイリングの付き添い応援ハンドブック(NPO法人キープ・ママ・スマイリング,2023),NPO法人しぶたねのきょうだいに向けた冊子(NPO法人しぶたね,2011)などがある。

6.小児がんにおける緩和ケア

成人とは異なり,小児がんは,初期の治療から長期フォローアップあるいは終末期医療まで同じ施設が一貫して行うことが多く,その中で緩和ケアも提供される。多くが治癒する一方で,亡くなる子ども達がいることも事実であり,厳しい状況であっても,その子が希望する生活ができるよう支援することも医療者の役割である。しかし,小児の場合,終末期における本人の希望を確認することが難しいこともある。発達段階に応じた方法で本人の意思や希望を把握したり,患者が意思表示が難しい場合にも,親の希望だけで終末期医療に関する意思決定をするのではなく,子どもの気持ちや希望はどうであるだろうかと親や医療者で話し合うなどし,子ども主体の意思決定をすることが重要である。

さらに,子どもを亡くすことは親にとって峻烈な体験である。子どもとの死別は自責の念や絶望感,無力感,怒りなどのさまざまな情緒的反応を生じさせ,子どもの喪失のみならず,社会とのつながりや親としての自分,そして思い描いていた未来を喪失することとなる。また,きょうだいにとっても患者との死別の影響は大きく,病気や治療経過に関するコミュニケーションがうまくなされていない場合,きょうだいの心理的苦痛は大きいとされる。残された時間が限られた患者とその家族,死別後の家族への心理的支援は医療現場,そして社会において整備される必要がある。

7.さいごに

小児がん患者に対する心理的支援は,医師,看護師,心理士,チャイルドライフスペシャリスト,ホスピタルプレイスペシャリスト,病棟保育士,理学療法士や作業療法士,薬剤師,ソーシャルワーカーなどの医療者だけでなく,家族や学校関係者など患者を取り巻く者が皆で協力して行う必要がある。そして,治療やケアを提供してきた子どもが亡くなることは医療者にとっても心理的苦痛が大きく,小児がん患者を支える医療者自身の心理的ケアも大切である。

文 献

バナー画像:Davie BickerによるPixabayからの画像

尾形明子(おがた・あきこ)
広島大学大学院人間社会科学研究科
資格:公認心理師,臨床心理士
主な著書:『からだの病気のこころのケア―チーム医療に活かす心理職の専門性』(分担執筆,北大路書房)

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