心理面接の道具箱(40)舞台装置としてのボードゲーム『クアルト(Quarto)』|大島崇徳

大島崇徳(追手門学院大学
シンリンラボ 第40号(2026年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.40 (2026, Jul.)

私はこれまで,この心理面接の道具箱で主にボードゲームについて書いてきた。心理面接に使える道具といっても直接的な効果が期待できる介入手段としてボードゲームを紹介してきたわけではない。ボードゲームは,どちらかというと関係や体験が生まれる背景を作り出す道具という意味合いが強く,イメージとしては舞台装置が近い。考え方によっては,心理臨床という行為も,セラピストの存在も,臨床の場を構成する様々な枠組みも,すべて舞台装置に過ぎず,直接的に何らかの効果をもたらすものではないともいえる。面接の効果はクライエントが自分で感じ,考え,動いたことで生じたものであり,その成果はすべてクライエントのものである。ただ,何かが生まれるためには舞台が必要になることがある。そこには私たち心理士が確かに存在していることや,面接という舞台の背景にある装置の意味と価値はもっと評価されるべきだと思う。

今回,紹介させていただく『クアルト』も,面接に遊びをもたらし,穏やかにお互いの領域を近づけてくれるよい装置として機能することがある。戦略性が高く,お互いを利用し合うような駆け引きがありながら,優しい雰囲気を損なわない。『クアルト』は,そんな1対1の面接で使いやすいボードゲームである。

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1.『クアルト』とは

『クアルト』は2人用のアブストラクトゲーム(テーマ性や運要素が少なく純粋な思考や戦略で勝負するゲーム)である。4×4の16マスで構成されたボードに手番ごとに1つずつコマを置いて,縦横斜め一直線に勝利条件となるコマを並べた方が勝利する。いわゆる四目並べなのだが,『クアルト』には2つの面白い特徴がある。

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『クアルト』の特徴の1つは,コマの種類と勝利条件の多様性にある。『クアルト』の駒には,「高さ」「色」「形」「穴」という4つの属性があり,それぞれ「高いか低いか」「白か黒か」「丸か四角か」「穴が有るか無いか」の2パターンで特徴づけられている。例えば「背が高くて黒い丸い穴無しのコマ」など,4属性×2パターンの計16種類の駒があり,同じものは存在しない。また,勝利条件は同じ属性のコマを縦横斜め一直線に並べるというものなので,属性の数である4つの勝利条件が存在することになる。

さらに『クアルト』のもう1つの特徴は,自分の手番で置くコマを相手が決めるというルールである。これにより,「背の高いコマが直線に3つ並んでいる」など,リーチの状況を作っても,相手に背の低いコマを渡せば勝負は決まらず,自分で作ったリーチラインを後々の仕掛けとして使用できるといった戦略性の幅が生まれる。この相手が自分の手番に関与してくると言うところが『クアルト』を面白くしている特徴であり,強めのインタラクション(相互作用)を生む仕掛けとなっている。

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2.『クアルト』の独特なインタラクション

ボードゲームにはプレイヤー同士の間で影響し合う様々な要素があり,それらはインタラクションと呼ばれる。インタラクションが強いと読み合いや,時には攻撃・妨害の色合いが強くなり,インタラクションが弱いと自分の盤面のみをこつこつと育てるソロプレイ感が強くなる。インタラクションにはいくつかのタイプがあって,攻撃・妨害といった直接的なもの,自分のための行動が結果的に相手の邪魔をするといった間接的なもの,交渉や議論といったプレイヤー間のコミュニケーションによるものなど,いくつかに分けられる。

2人用ゲームには戦略性が高くインタラクションが強めのものが多い。アブストラクトゲームとなるとなおさら攻撃・妨害の要素が主となり,ガチガチに殴り合うような雰囲気になりやすい(将棋やチェスなどがこれに近い)。2人用アブストラクトゲームである『クアルト』も読み合いの要素が強いうえに,自分が置くコマを相手が決めるというルールが独特で,相手の思惑によってあやつられるような感覚や,一緒に盤面を作っていくような雰囲気が生まれる。

また,『クアルト』では,五目並べや○✕の三目並べのように自分専用の色や形が決まっているのではなく,相手の置いたコマを自分が勝つためにそのまま利用することができる。そのため,前半は協力ゲームのようにお互いが勝利できるリーチラインを一緒に作っていき,後半になると詰将棋のように自分が有利になる位置に相手が置かざるを得ないような駆け引きが始まる。相手を妨害するばかりではなく,うまく利用して勝つ。お互いが利用できる罠を仕込み,相手が罠にかかるように仕向けるという攻防は,ガチガチとした殴り合いというよりも,穏やかなせめぎ合いといった雰囲気を作りやすい。そのような雰囲気は,置くコマを決め合うということで生まれるお互いの領域に優しく踏み込むような体験と相まって,柔らかく独特な,まるで相手とくすぐり合うようなプレイフルなインタラクションを生み出す。このような“遊び”が言語のみの面接とは違った水準の関わりにつながることもある。

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3.『クアルト』の親しみやすさ

アブストラクトゲームは例えばチェスのように抽象的な形状がオブジェのようでインテリアとしても映える。“おもちゃ感”が薄く,大人にも興味が持たれやすいので面接に自然と導入しやすい。私は小さくコンパクトな『クアルトmini』を使っているが,面接室の机に置いておくと背景に溶け込みつつ目に入りやすい位置にあるため,注意を引きやすく,話題に上りやすい。

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例えばこんな風に使ったことがある。自主的に話すということがなく,何となく受け身的に感じていたあるクライエントは,いつものように間をもたせた一問一答が繰り返される中,「これ気になってたんですけど……」と机の上に置いていた『クアルト』に言及した。彼が自主的に質問をすることも珍しいことだった。趣味のボードゲームを置いているのだと話し,やってみますかと誘うと,「まあ,じゃあ」とプレイすることになった。『クアルト』は始まるとどうしても長考しがちになる。私が彼から受け取ったコマを手にじっと考えていると,彼が「このゲームはよくやられるんですか?」「いくらくらいするんですか?」という質問から「先生はここは長いんですか?」「毎日いるんですか?」とゲームに関係のない質問をしはじめた。いたずらっぽく笑いながら質問する様子に,〈もしかして邪魔してる?〉と聞くと「ばれましたか」と笑う。彼のそのような一面を見るのは初めてで,面接とはこういうもので,セラピストの前ではこうあるべきという枠組みを崩してくれたように感じた。私も彼の手番中に関係のない質問をし,笑いあうという遊びが生まれた。以後も彼と『クアルト』をプレイする機会はそう多くはなかったが,それも彼が少し柔軟に話題の水準を広げてくれて自然に言葉でのやり取りが進むようになったからだと思っていた。遊びを媒介にお互いの領域に少し踏み込むことで,関係が少し変わったように感じた。

4.ボードゲームのすすめ

ボードゲームはうまく使うと心理臨床の場に適度な遊びと言語以外の関わりやつながりを生むよい道具になることがある。遊び心が喚起されて程よい退行を生むゲームから,妨害や攻撃といったプレイヤー同士の推し引きが手ごたえになるゲームもある。恐らくどの心理療法でも重要となる言語以外の関わりや繋がり,相手と同じ時間を過ごすという体験が生まれる枠組みとしてボードゲームがうまく機能することがある。やってみると,顔を突き合わし実際に目の前のものに触れながら遊ぶという体験は,思った以上にインパクトが強く,普段何気なく行っている関わりが,情報のやり取り以外の様々な感覚を媒介にして成り立っていることに気付くことができる。素早く情報を得ることも大切だが,時間をかけて関わりそのものを体験し味わうことができるのは,対面での心理臨床やボードゲームの持ち味である。言葉になりにくい膠着状態からの転換を図るためではない。自由に選択できる枠組みとしてボードゲームを面接室に置いてみてはいかがだろうか。

+ 記事

大島崇徳(おおしま・たかのり)
追手門学院大学
資格:臨床心理士,公認心理師
主な著書:『いま、カウンセラーはゲームに夢中な子どもとどう向き合えばいいのか?─つながる、わかる、支えるための心理臨床の視点』(共著,遠見書房,2025),『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)

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