德山朋恵(SNS相談員)
シンリンラボ 第38号(2026年5月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.38 (2026, May.)
皆さんはどのくらい「VTuber」をご存じだろうか。そして今,「VTuber」と聞いてどんなイメージが浮かんでおられるのだろうか。
1. VTuberとは何か
「VTuber(ブイチューバー)」とは「バーチャルYouTuber」のことである。「YouTuber」は,自らの姿を出すか音声のみで姿を見せずに配信を行うが,「VTuber」はアバターやアニメのような姿を配信者の姿として用いて配信を行う。
『ホロライブ』や『にじさんじ』,『あおぎり高校』,『ぶいすぽっ!』『カラフルピーチ(カラピチ)』などのVTuber所属団体(チーム)名を聞いたことはないだろうか。また若干タイプが異なるが『すとぷり(すとろべりーぷりんす)』などは2023年にバーチャルな姿のままで紅白にも出演したこともある。
今,VTuberにはスマホのアプリ一つでなることができる。アバターを好みの姿に着せ替えて,カメラ機能を使って自分の動きをトラッキング注1)させてアバターを動かす。その状態で配信すれば,もうそれは「VTuber」だ。
注1)カメラを通してモデルの表情や身体の動きを追跡し,Live2Dモデルにその表情や動きをリアルタイムで反映させることができる技術。
今人気のある「VTuber」には,「個人勢」と呼ばれる事務所に所属せず個人で活動を行っている者に加え,事務所に所属している配信者もいる。「若干タイプが異なる」と表現した『すとぷり』は,ライブやリアルで会うイベントではバーチャルな姿ではなく顔出しをするという形で活動を行っている。
その中で今回筆者が興味を持ったのは,私たち支援者とVTuberという発信形態,ツールについてだ。
2.支援者とVTuber
きっかけは大手VTuber事務所『にじさんじ』から「エリートVTuber」として現役精神科医「一橋綾人」がデビューしたことだった。
どうしても私たちはオンライン上で職業を明示し,もしくは顔を出して何かを発言,発信していくことには難しさが伴う。何を発信するか。どう発信するか。実際の仕事にどう影響してくるのか。実際にはたくさんの方々が「学術系YouTuber/VTuber」や「心理系YouTuber/VTuber」として専門的な情報を発信しているが,こうして大手事務所からデビューする,というのは筆者の知る限りでは初めてだった。
特に『にじさんじ』は所属配信者のファンに若者もたくさんいる。「どんな配信をするのだろう」「精神科医という肩書でどんな情報が発信されるのだろう」。やや不安を抱えながら初配信を見に行った筆者はそれが杞憂であると知って笑ってしまった。それはさながら「大学の講義」だったのだ。
パワーポイントを使いながら自分が何者であるか,自らも古くからのにじさんじファンであることを説明し,これからの配信者として行っていきたいコンテンツを伝える。専門的な情報発信と普段の配信は切り分けて発信することを宣言し,彼の初配信は終了した。構成や画面の使い方,話し方など含め,まさに「大学の講義の1回目」だった。
続く配信でも,話の流れや言葉の端々から,誤解を生んだり人を傷つけそうな流れや言葉の使い方になるとさっと言い換えたり,その流れには加わらない,「答えられない」と断るなどの配慮が感じられ,専門的な配信にはすべて監修や文献を付けるなど慎重に発信を続ける一方で,ゲームやコラボ,テーマを決めた配信においては一橋綾人自らが思いっきり楽しみながら,視聴者も巻き込み,時にはそのまま視聴者を置き去りにし混乱だけを残して去っていくといった配信を続け,この4月で彼はデビュー1周年を迎えた。
彼の人間らしい配信に触れることによって変わろうとしているのは,おそらく「精神科医」に対するイメージだろう。「こんなオタクで時々テキトーでネットミームばっかり喋る人が,精神科医にもいるんだ……。」
その印象はおそらく,いつかリスナーが精神的に追い込まれた時,「相談してみようかな」と思えるハードルを少しでも下げてくれるのではないかと感じている。
3.「シンリシ」は,どう発信するのか,しないのか
では,「シンリシ」はどうなのか。
若年層の間ですらカウンセリングは「不登校の子がいくところ」というイメージがあったり,時には「何もわかってもらえなかったしアドバイスももらえなかった」「何をしてくれる人なのか……」というように,提供者側とユーザー側のニーズやイメージが,双方なかなか伝わっていなかったり,かみ合っていないと感じることが多い。
私たちは職業人である前に,ひとりの人でもある。また仕事上でも時には「人として」相談者と相対することのある職業である。
私たちは,人として,「相談してみようかな……」「SOSを出してみようかな」と思えるようなつながりをどうやって持てばいいのか。どこまで持っていいのか。
そのヒントがこの「VTuber」というツールや配信には,見える気がしている。
文 献
- 岡本健・山野弘樹・吉川慧 編著(2024)VTuber学.岩波書店.
德山朋恵(とくやま・ともえ)
SNS相談員,専門学校講師
資格:臨床心理士,公認心理師
主な著書:『いま、カウンセラーはゲームに夢中な子どもとどう向き合えばいいのか?─つながる、わかる、支えるための心理臨床の視点』(共著,遠見書房,2025),『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)









