心理面接の道具箱(22)子どもに寄り添うホラーゲームとゲーム実況|長行司研太

長行司研太(佛教大学)
シンリンラボ 第22号(2025年1月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.22 (2025, Jan.)

 1.ホラーゲームのキャラクターたち

みなさんは『ポピープレイタイム』注1)『ガーテン・オブ・バンバン』注2)『レインボーフレンズ』注3)といった,いくつかのホラーゲームの名前を耳にしたことがあるだろうか。近年,子どもたちからそれらのゲームや,ゲーム内に登場するキャラクターについて語られることがしばしばある。上述のゲームタイトルを聞いてピンと来なかった人も,もしかしたらぬいぐるみや子どもたちが描く絵などの形で,「ハギーワギー」や「キャットナップ」と呼ばれるモンスターのようなキャラクター(ともに『ポピープレイタイム』に登場)を見かけたことがあるかもしれない(画像参照。画像左がハギーワギー,画像右がキャットナップ)。

※画像はMob Entertainmentの公式Xより引用

不気味さと可愛らしさが融合したそれらのキャラクターは,子どもたちに受け入れられ,『ポケットモンスター』や『マリオ』と同じようなマスコットキャラ的な立ち位置で子どもたちの世界に浸透している。本来「こわいもの」であるはずのホラーゲームから生まれたそれらのキャラクターを,子どもたちはどんな風に捉え,受け入れているのだろう。現代では当たり前になったゲーム実況との関連性も含めて考えてみよう。

注1)正式名称は『Poppy Playtime』(ポピープレイタイム)。一人称視点のサバイバルホラーゲームで,プレイヤーは放棄されたおもちゃ工場を探検し,凶暴なおもちゃから逃げながら謎を解き明かすことを目指す。
注2)正式名称は『Garten of Banban』(ガーテン オブ バンバン)。一人称視点のサバイバルホラーゲームで,行方不明の子どもを見つけるため,廃墟となった幼稚園の下層階を探索し,謎を解いて先に進むが,失敗するとモンスター達の餌食になってしまう。
注3)正式名称は『Rainbow Friends(レインボーフレンズ)』。オンラインゲーミングプラットフォーム「Roblox」で配信されているホラーサバイバルオンラインゲーム。遊園地への修学旅行中に誘拐された子どもたちが,悪夢のようなキャラクターでいっぱいのマップ内で5晩モンスターから逃げながらミッションをクリアしていく。

2.子どもが楽しむさまざまなホラー

元々,ゲームに限らずホラーと子どもの親和性は高く,昔から『学校の怪談』や妖怪,幽霊などのいわゆる心霊系コンテンツは子どもたち,特に小学生の間で時代を超えて変わらぬ人気を誇ってきた。子どもの中に存在する怖いもの見たさの感情や,ハラハラドキドキの快感への希求,見えない世界にいるかもしれない存在へのわくわく感やそれを想像することの楽しさなど,さまざまな要因が重なり合って,ホラー=こわいものに惹かれる心性が生まれているのだろう。

妖怪や幽霊を扱った作品として有名なものに『ゲゲゲの鬼太郎』『妖怪ウォッチ』などがあるが,それらは親しみやすいキャラクター性もあってホラー要素は薄めである。しかし, 2010年代に流行したホラーゲーム『青鬼』などは,大きい目を持った青白い身体の異形の存在が追いかけてくるといったホラー性を前面に押し出しており,当時の(一部の)小中学生はおっかなびっくりその恐怖を楽しんでいた。

前述の『ガーテン・オブ・バンバン』や『レインボーフレンズ』のキャラクターたちはどちらかといえばコミカルで可愛らしい見た目をしているので,子どもに対して元々そこまで怖い印象を与えないだろう(画像参照)。

※画像はGarten of Banban日本公式Xより引用

だが,『ポピープレイタイム』に関しては,そのキャラクターたちは真っ黒で吸い込まれそうな目や鋭く尖った凶暴な牙を持っているなど,不気味な雰囲気を纏っているものが多い。実際に,カウンセリングで出会った小学生の中には,「最初見たときは気味が悪くて,とても怖かった」と語る小学生もいた。
しかしその小学生も,ゲーム実況を通して,その印象や感覚が変化していったのである。

3.配信者というフィルター

『ポピープレイタイム』や『ガーテン・オブ・バンバン』を知ったきっかけを尋ねると,「ゲーム実況」と答える子どもがほとんどである。ゲーム実況とホラーゲームの相性はとても良く,配信者の怖がるさまや怖いものを見た時の大きなリアクションやツッコミをエンターテインメントとして楽しむ,という文化が成立している。実際,『ポピープレイタイム』に限らず,世の中に存在する数多くのホラーゲームがさまざまなゲーム配信者による実況プレイの題材として日々取り上げられている。

怖さの感じ方は人それぞれということを差し引いても,ホラーゲームを一人でプレイすることは多くの小学生にとって恐ろしいものである。また,大人であっても実際にプレイしてみるとその恐怖の演出や独特な空気感により,心臓が恐怖で高鳴る体験をすることができる。友達とキャーキャー言い合って恐怖の状況を楽しみながらホラーゲームをプレイする子たちもいるが,「自分でプレイするのは怖くて無理。でもゲーム実況だと楽しく見れる」と語る子は多い。

配信者の楽しいトークやリアクションはフィルターの役割を果たし,元々の恐怖を大きく緩和してくれる。高井(2023)がホラー映画について「視聴者は,安全な環境で間接的に,怖いものに触れる体験をする」と述べたが,ゲーム実況においても配信者が恐怖を受け止め肩代わりしてくれることによって視聴者は自分でゲームをプレイするよりも安全な環境に身を置きながら楽しむことが可能になる。その結果,自分の中にある不安や恐怖心と折り合いをつけることがしやすくなり,ホラーゲームへの親近感が生まれるのだろう。

この体験をホラー映画に置き換えて考えてみると,前述の,友達とキャーキャー言い合いながらゲームをプレイすることは,ホラー映画を友達と一緒に見て恐怖体験を共有することと近いものがある。そして,配信者のフィルターを通してホラーゲームの実況を見ることは,ホラー映画の見所や自分一人では気づけないツッコミ所をすぐそばで解説し,共に驚き,怖がり,ホラー映画の恐怖体験を楽しい体験に変換して楽しませてくれることと近く,配信者は自分だけの専属ガイドのような存在だとも言える。

『ポピープレイタイム』のキャラクターを最初は気味悪がっていた前述の小学生も,「ゲーム実況を見てたら全然怖くなくなったし,今はむしろかわいい」と語っている。不気味さや怖さが打ち消され,逆にそのキャラクターたちが持つかわいらしさの部分だけが残り,安心感を持つようになったと考える。そうしたイメージの書き換えが,配信者の持つ「フィルター機能」によって可能になったのである。

4.子どもに寄り添うものたち

怖さの感じ方は人それぞれであり,ここまで述べてきたことは一例に過ぎないが,子どもたちが当たり前のように「かわいいもの」として受け入れているものも,そこに至るまでにはさまざまな心の動きがあったと考える。高井(2023)がホラーを「自分たちの不安や無力感を一時的に預かってくれる」と述べたように,子どもたちにとって本来不安を喚起するものを,自分の中でキャラクターとして,「怖くないもの」として捉えることは,そういった感情を受け入れ,抱える練習にもなるだろう。
この不気味で愛らしいホラーゲームのキャラクターたちとゲーム実況の配信者,その両方がそんな意味合いを持って子どもたちに寄り添っている。そう思って眺めてみるのもいいかもしれない。

文  献

髙井彩名(2023)怖い話はお好きですか?.In: 笹倉尚子・荒井久美子編:サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた.木立の文庫,pp.145-154.

バナー画像:kerutによるPixabayからの画像
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長行司研太(ちょうぎょうじ・けんた)
所属:佛教大学,京都府/市スクールカウンセラー
資格:臨床心理士,公認心理師
サブカルチャーと心理臨床の接点を探求する「サブカルチャー臨床研究会(さぶりんけん)」副代表。
主な著書に『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)がある。

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