白石雅一(宮城学院女子大学・宮城県発達障害者支援センター「えくぼ」)
シンリンラボ 第21号(2024年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.21 (2024, Dec.)
1.目が回る師走に「コマを回して遊ぼう!」
今年も残すところ,あとわずか。師走の季節に入りました。年内にあれもやらなきゃ,これもしなきゃと,もう目が回る忙しさ。
これに関連して,発達障害のある子どもたちは,目を回すようなグルグル回しの運動やグルグルと物を回す行為,そして,グルグル回る物体を見続けることが本当に大好きです。
これら“好物”のうちの後者二つは,「コマ回し」によって得ることができます。そして,コマ回しで「楽しい!」「ワクワクする!」「胸が熱くなってくる!」という情緒が掻き立てられて,「もっとやりたい!」とテンションが上がっていきます。
そのポジティブな情緒を活用し,「集中力」や「持続性」「達成感」「自信」「やる気」そして,「仲間と楽しく遊ぶ」態度を培いたいと思います。
2.安く簡単に入手できて,扱いやすい素材でつくる「コマ」
前々回は,100円ショップのセリア,前回はダイソーで買って,そのまま「おもちゃ教材」として使える商品を紹介しました。今回は,ただでもらえることが多い「紙コースター」とホームセンターの「金物・ネジコーナー」において安価で買える金具を使っての「コマ」作りと遊び方をご紹介します。
まず,写真1に紙コースターのコマの完成品を5つ載せました。そこから3つ抽出して(写真2の右端は私の顔),回してみたのが写真3です。これら紙コースターのコマはめちゃくちゃよく回るのです。これを子どもに見せてあげれば,十中八九,その子は「まわる!まわる!メチャまわる!」と喜び,興奮して「オレもやる!オレも描く!オレも作る!」と言って,コマ作りの課題に乗ってきます。



普段,「絵なんて描きたくねぇ!」と反発する子であっても,ノートや画用紙といった「学用品」ではない,素朴な紙コースターだと抵抗心が薄れて,「描いてみっか!」「それに,オレの描いた絵がグルグル回ってどうなるか見てみたいしなぁ」と言って,その気になります。その結果が写真4の絵です。

また,具体物が描けない子であっても,「コマでグルグル回すなら,グルグル描きにしたい!」と言って,写真5のような作画をしてくれました。

さて,コマ作りで重要なポイントが「中心点」の取り方です。紙コースターの中心点を誤りますと,コマはうまく回りません。しかも,○形の紙コースターの中心点を定めるのは,容易なことではありません。そこで,用いるのが「フラワーハート」という市販されている紙コースターです(写真6)。印刷されている絵柄によって,中心点が一目で分かります。その中心点に千枚通しやドライバーで穴を空け,そして,裏面が白紙なので,裏面に絵を描きます(写真7)。なお,穴空けの際は,100円ショップで売っているコルクのぶ厚い「鍋敷き」を台にする(写真7)と容易になります。


さぁ,ここからが,ワクワク感のもと,集中力と持続性が培われる工作課題になります。コルクの鍋敷きの上に置かれている,紙コースターの中心に穴を空けたら,裏面に描いた絵柄を表にして,以下の順番で作業を進めていきます。
①ボルトにナットを装着
②ボルト→ナットの次に,リング小を装着
③ボルト→ナット→リング小を装着した先っぽを紙コースターの穴に刺す
④紙コースターを突き刺したボルトの先っぽにスポンジリングを装着
⑤スポンジリングの次に,リング大を装着
⑥リング大の次に,袋ナットを装着(袋ナットの“丸み”がよく回る秘訣)
⑦紙コースターを挟んでいる,両側のナットの締めつけを調整して,固定する
以上で完成したのが,写真7の右にある,先にも紹介した「グルグル描きコマ」です。
それを真横から見た図が写真8になります。さらに,それを「設計図」にしたのが写真9です。この設計図(写真9)を見本として子どもに見せます。そして,写真10に並べた,ボルト→ナット→リング小→紙コースター→スポンジリング→リング大→袋ナットの7つの部材で「紙コースターのコマ」を作るように誘うのです。子どもは安心して応じます。



写真10でご覧のように,ネジの金具類はすべて,M4サイズで統一しています。これらは,ホームセンターのカインズで購入しました。そして,フラワーハートの紙コースターは,ホームセンターのムサシで販売していますし,ネットでも購入できます。
ボルト,リング,ナットでしっかりと固定されたこのコマは,紙製でも本当によく回ります。このしっかり感を写真11でご確認下さい。

紙コースターには,四角の物もあります。四角は対角線を交差させると中心点が得やすいので,簡単便利です。その四角のコースターに有名キャラクターを描いて,裏面に中心点を示しました(写真12)。そして,「コマ」に仕上げたのが写真13です。これを回す(写真14)と,回る回る!グルグル回る!「すげぇ!すげぇ!ずっと回ってる!」と子どもたちは大歓声をあげて喜びます。



女の子たちは,黄色い付箋を切って貼って,装飾を楽しみます(写真15)。そして,一気に回す(写真16)と,「キャーッ!なんてキレイなの!かわいい!」と盛り上がります。


写真3のように,完成品を使って,複数人で「バトル」を楽しむこともできます。その際に,紙コースターの形を変えてみたり,リングの数を増やして紙コースターの位置を微調整したりすることで,相手のコマを弾き飛ばす「強い!コマ」に仕上げていくことも可能となります。友だちとバトルをしながら学習して,工夫し調整することで,「コマを育てる」ことができて,より楽しさが増していきます。
3.紙コースターのコマ作りと遊びは「情緒・認知課題」なり
この一連の工作課題は,すなわち「情緒・認知課題」である,と言うことができます。
それは,発達障害のある子どもたちが好む「グルグル回る物」のコマを提示することで,
①情緒を刺激し,掻き立てる
②好きな絵を描かせ,装飾させて喜ばせる
③設計図に沿って組み立てる楽しさや達成感を得させる
④できたコマを回す快感を味わう
⑤他のコマを弾き飛ばしての爽快感を得る
⑥時に弾き飛ばされての悔しさから学び,工夫する意欲を培う
等々の情緒と認知の力を育むことができるからです。大晦日・お正月,みんなで遊ぼう!
最後に,使った道具類や残った部材は,100円ショップで購入できる「パーツボックス(セクションケース:ダイソー)」に収納しておく(写真17)ことをお勧めします。これによって,整理整頓の学習ができますし,散乱や紛失,混乱という事態を防ぐことができるからです。

文 献
白石雅一(2024)おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育.東京書籍.
白石雅一(しらいし・まさかず)
宮城学院女子大学 宮城県発達障害者支援センター「えくぼ」
資格:臨床心理士,公認心理師,介護福祉士
療育のためのおもちゃ教材の開発に心血を注ぐ。メーカーに意見したくて懸賞論文に応募して,表彰式で社長に提言した(リカちゃん人形で有名なタカラの当時の社長さん)。
新著に『おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育』(東京書籍,2024)がある。