心理面接の道具箱(19)心が求める自由な冒険,原神|長行司研太

長行司研太(佛教大学)
シンリンラボ 第19号(2024年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.19 (2024, Oct.)

1.オープンワールドRPG『原神』とは

『原神』(げんしん,と読む)というゲームについて,カウンセリングの中で小中学生から耳にする機会が増えている。「ガチャで狙ってたキャラ引けた!」「ストーリーがすごく面白い」「すごいダメージ出したわー,ヤバい」と,その楽しさやハマり具合を口々に語るのである。

『原神』は中国のゲームメーカー・miHoYoによって制作され,2020年に配信開始されたオープンワールドのアクションRPG(キャラクターを操作し,敵を倒してゲームを攻略していくゲームジャンル)である。幻想的な世界「テイワット」が冒険の舞台となっており,オープンワールドの名の通り,そこには自然溢れる色鮮やかで広大なフィールドが広がっている。プレーヤーはその世界を,アニメ調のキャラクターを操作して自由に冒険・探索し,武器と元素(と呼ばれる火・水などのさまざまな属性。魔法のようなもの)を用いて敵と戦うゲームなっている。

このゲームは,スマートフォンやタブレット,PC,家庭用ゲーム機(Playstation4, 5)などさまざまな機種でプレイすることが可能であり,基本プレイは無料なので,ゲームをダウンロードするだけで誰でも簡単にプレイすることができる。また,ソーシャルゲームのように,課金制のガチャにより低確率で強力なキャラクターたちが手に入る可能性があり,その魅力的なキャラを追い求めてゲームにのめり込む人たちも多い(ゲームにログインし,フィールドを探索したり任務をこなしたりすることで手に入る「原石」を貯めてガチャを引くことができるので,無課金でプレイし楽しむことも十分可能である)。

『原神』は基本的には1人でプレイするゲームとなっているが,友人と協力して一緒に冒険することも可能である。また,このゲームの世界は終わることなく広がり続けており,頻繁に新しいキャラクターが追加されたり,1年に1度,大型アップデートという形で新たな国が追加され冒険できる場所や体験できるストーリーが増えたりするので,このゲームにハマると(もちろん人にもよるが)数年単位で楽しみ続けることができる,という特徴も持っている。

こうした要素と魅力を持つ『原神』だが,子どもたちはいったいこのゲームで何を楽しみ,何にそこまでのめりこんでいるのだろう。

2.子どもたちの『原神』の楽しみ方

『原神』の楽しみ方について,カウンセリングで出会う子どもたちの発言をもとに考えていこう。

「原神はキャラ育成が楽しすぎる,それがすべて」と語る中学生もいるほど,多くの人たちが情熱を注ぐのが,自分の好きなキャラクターを育成していくという楽しみ方である。育成することで,敵に大きなダメージを与えられる強力なキャラクターに成長するが,そのためにはキャラクターそのものだけでなく武器や「聖遺物」と呼ばれる装備なども強化する必要がある。そのためには世界中にある「秘境」と呼ばれるダンジョン(神殿や森など)を毎日探索し敵を倒し,強化に使用する素材(アイテム)をひたすら集める必要がある。「原神は毎日やるべきことが多すぎる」とあきれ調子で語る人もいるが,そう言いながらもゲームにのめりこみ続け,育成と冒険を延々と繰り返すその工程にたしかな楽しさを見出している。

そして,その育成の成果は,敵に与えるダメージの増加という見た目にも分かりやすい形で視覚化される。最初は10や20といった数字だったのが,キャラクターを育てることで100,1万,そして10万と飛躍的に上昇し,強力な敵も撃破できるようになる。「やっと50万ダメージ超えた! でもまだもっといけそう!」と嬉しそうに語る子もおり,彼らにとってわかりやすく自らの成長を実感することができる『原神』は,楽しく心に寄り添ってくれる存在となっているのだろう。

また,冒険に関しても,オープンワールドであるがゆえに「とにかくマップ(=フィールド)が広いし,1年ごとにどんどん広がってくからすごい」と語る人がいるように,広大な世界を自由に冒険でき,自分の好きなことができるという感覚が得やすくなっている。この自由さにより,この世界への没入感が増し,よりゲームにのめり込むことが可能になっている。

その他にも,ゲームに登場するアニメ調のキャラクターのデザインに魅力を感じ,そのかわいらしさやカッコよさについて語る人や,描かれるストーリーの面白さについて語る人,ガチャで低確率で得られる強力なキャラクターを引けた喜びについて語る人(これに関しては,課金することへの欲求を制御することが難しい子どももいるので,度を超えていないかなどにも注意を向ける必要があるが)など,人によってこのゲームの楽しみ方は実にさまざまである。

ただ,成長要素や冒険要素含めて,これらの楽しみ方は決して『原神』特有のものではなく,他の数多のRPGやアクションゲームにも共通することであり,特段珍しいものでもない。しかし,『原神』はそれらと比べても特に各要素が円環的につながっており,子どもたちをゲームの世界に没入させる力が強いと感じる。ある中学生が「ダンジョン探索がとにかく楽しくて最初はそれしか興味なかったけど,ストーリーも進めてみると意外に面白くてハマった」と語ったとおり,そうした各要素のつながりがこのゲームにさらにハマるきっかけとなり,複合的な楽しさを生み出しているといえる。

3.人が『原神』に求めるもの

先だって,『原神』は友人と協力して一緒に冒険することも可能と述べたが,ここで興味深いことがある。『フォートナイト』や『スプラトゥーン』といった他の流行のゲームは複数人での対戦ゲームとなっているため,友人らと示し合わせ一緒にプレイするのが当たり前となっている。しかし,その人たちも『原神』では,誰かと一緒にプレイすることに重きを置かず,むしろ一人でのプレイを望むことが圧倒的に多い点である(カウンセリングの中で耳にする限り)。

ネットワーク技術が進化し,遠く離れた沢山の人と,もしくは友人などの誰かと一緒にゲームをすることが環境的に可能かつ容易になったからといって,人々の心が常にそれを望み続けるわけではなく,そこには「選ぶ自由」が存在する。自分の心にフィットするゲームや環境は,その日の気分,その瞬間瞬間によって変わってくるのである。前述の複数人でのゲームに飽きたわけではないが,ちょっと今日は人とゲームをする気分じゃないな……という日もあるだろう。そんな時,『原神』は一人でゆっくりゲームの世界に浸りたい,という心を満たしてくれる。

ゲームを起動すると眼前に飛び込んでくる緑溢れる大地と鮮やかな青い空とが織りなす自然の風景や街並み。その雰囲気に合う耳心地のよいBGMと,そこに折り重なる虫の音や風がとおりすぎる音,流れる水の音といった自然の音色。さらに時間の経過とともに日が暮れて,綺麗な夕焼けから夜になり,そして朝を迎えるとともに目の前に現れる日の出の風景……。それらの情景やその移り変わりは,この世界の美しさや居心地の良さをその身に感じて癒やされる体験につながっていく。そんな世界にゆったりと包まれながら,自分のペースでキャラクターを育て,自由に旅をして,成長の楽しさと喜びを味わう。『原神』はそういった,じっくり一人でゲームに向き合うための時間にふさわしいゲームといえるだろう。

『原神』は今後,Nintendo Switchでの配信も予定されており,『フォートナイト』の時のように,小学生の間でその流行がさらに爆発的に広がることが予想される。

冒険の楽しさ,魅力的なキャラクター,育成と成長の喜び,ストーリーの面白さ,それらを存分に味合わせてくれる『原神』。幻想的な世界での,心が求める自由な冒険は続いていく。

バナー画像:kerutによるPixabayからの画像
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長行司研太(ちょうぎょうじ・けんた)
所属:佛教大学,京都府/市スクールカウンセラー
資格:臨床心理士,公認心理師
サブカルチャーと心理臨床の接点を探求する「サブカルチャー臨床研究会(さぶりんけん)」副代表。
主な著書に『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)がある。

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