心理面接の道具箱(18)発達障害とおもちゃ[2]まごの手でお魚(魚貝類)を釣るゲーム|白石雅一

白石雅一(宮城学院女子大学宮城県発達障害者支援センター「えくぼ」)
シンリンラボ 第18号(2024年9月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.18 (2024, Sep.)

1.おもちゃ教材購入のポイント

現在,保育,教育,福祉,医療の現場は,極度の人手不足で,きりきり舞いの状況に陥っていることは周知の通りです。そこに,「ブラック」とか「3K」というネガティブな形容詞が付加されるものですから,なおさら,担い手が逃げて行ってしまい,人手不足は慢性化しています。

したがって,現場の保育士さんや学校の先生,児童支援員,心理職のみなさんは,上記の理由で常に忙しく,「猫の手も借りたい!」と訴えています。

筆者は,今春上梓した『おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育』(東京書籍)において,「おもちゃ教材で自閉スペクトラム症の子どもたちの人間関係を育み,療育を進めよう!」と具体策を多数提示しています。そこでは,現場の悲鳴に呼応すべく,療育にとって重要な「おもちゃ教材」の選定について述べています。そのポイントを挙げましょう。

①子どもが好むおもちゃ類であること:子どもが関心を寄せることがまず,大事です。
②包装箱やパッケージから取り出したままの状態で使える物:すぐに使えること。
③加工や修正を施さなくても良い,既製品であること:手間暇を省いて時短です。
④安価であること:買い求め易いことが想像力や創造性を掻き立ててくれます。
⑤どこでもいつでも購入できること:つまり“量販店”で買えること。
⑥安全であること:壊れにくく,ケガや誤飲の危険性が低いこと。これも大事です。

以上のポイントをすべて満たす商品は,100円ショップでよく見かけます。

2.「猫の手も借りたい!」なら「まごの手も使おう!」

前回は,100円ショップのセリアの商品(「魚介のからがむけちゃうままごと えび ほたてセット」)を紹介しましたので,今回は,ダイソーから選定した商品をご紹介致します。しかも,前回からの「えび」つながりです!

それは,ダイソーのペットコーナーに陳列されている「猫のおもちゃ」シリーズ。“猫のじゃれ棒”(別売)の先端に引っ掛けて遊びやすいように,えびの口先に輪ゴム(黒色)が装着されています。この輪ゴムに引っ掛けるのが,“じゃれ棒”ではなくて,健康コーナーで売られている「伸縮 まごの手」であります(“手”はシリコーン製)【共に写真1】。

【写真1】「猫のおもちゃ」えび(中央)と「まごの手」(両サイド)

「猫のおもちゃ」シリーズには,えびの他に,サンマ,サバ,シャケ,タイもあって,それぞれが2体セットで販売されています。これらの魚貝類に加え,「まごの手」を2本,そして,魚貝類の住む海をイメージさせる水色のフェルト布,さらに,魚貝類を収納するタッパ容器を合わせて,なんと! 990円(税込)で購入しました【写真2】。

【写真2】「990円で揃えたおもちゃ教材」の一式

3.遊びを通して,「見ること」や「協調運動」,「達成感」と「人間関係」を得る

発達障害の子ども,特に自閉スペクトラム症児は,「人に指示されたことを見続けること」や「目と手の協調運動」が苦手で,失敗と叱責の連続,だから,「達成感」も「人間関係」も得られない日々を送ります。

そのような自閉スペクトラム症の子どもに「海で暮らすエビや魚を“簡単に釣る”方法を教えるから,やってみよう!」と言って,【写真3】の状況に誘います。【写真3】の右上が子ども用のスペース,左下が大人用のスペースです。用意された魚貝類は同じでも,まごの手の棒の長さが異なり,難易度に差が付けられていることが分かります。

【写真3】上が子ども用,下が大人用のまごの手とスペース

まず,大人が“まごの手の指に魚やえびの輪ゴムを引っ掛ける”ことの手本を見せます【写真4】。そして,見事! 5本の指,全部に魚貝類を引っ掛けられて,“釣る”ことが完了【写真5】すれば,子どもたちは,歓声をあげて,「やってみたい!」「やるやる!」「まごの手貸して! 貸して!」とやる気満々となること必至です。

【写真4】まごの手の指に魚貝類の輪を引っ掛ける

【写真5】「お見事! 5尾(匹),釣れました!」

その際,「超達人の大人は5本釣りができるけど,達人は4本,金メダリストは3本,銀メダリストは2本,銅メダリストは1本でも素晴らしい!」ので「まずは,最初に,1本の指で1つのエビか魚を釣りましょう」という教示をすることにしましょう。

実際に始めらた,なかなか成功しない子どもも出てきます。その時は,「君(あなた)がまごの手でサンマを“すくって”みてちょうだい。それを先生が釣ってあげる。君と先生の協働作業にしよう!」と助け船を出してあげると良い対応になります【写真6】。

【写真6】子どもと大人の「協働作業」としての釣りもできます!

子どもが釣る,大人も釣る,いずれにしても,「釣った魚貝類」はその都度,タッパの容器に収めていきます。「釣った魚は鮮度が大事!」という説明を加えて。これは,「遊びながら,片づける」「片づけながら,遊ぶ」という習慣を身につけるためでもあります。この習慣化が後の「自分で環境を整え,混乱を抑える」ことの備えにもなります。

そして,【写真7】が遊びを終えて,すべてを片づけた状況写真です。こんなにコンパクトな収納が可能です。これなら,どこへでも持ち運びができ,いつでも,誰とでも,「釣りゲーム」が楽しめるのです。その結果,発達障害の子どもや自閉スペクトラム症児の「見る力」や「協調運動の能力」が向上し,「達成感」と「人間関係」も得られていくことでしょう。

【写真7】コンパクトに片づけられるのもGood

バナー画像:kerutによるPixabayからの画像
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白石雅一(しらいし・まさかず)
宮城学院女子大学 宮城県発達障害者支援センター「えくぼ」
資格:臨床心理士,公認心理師,介護福祉士
療育のためのおもちゃ教材の開発に心血を注ぐ。メーカーに意見したくて懸賞論文に応募して,表彰式で社長に提言した(リカちゃん人形で有名なタカラの当時の社長さん)。
新著に『おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育』(東京書籍,2024)がある。

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