臨床がうまくなる!浅くて深いブリーフセラピー(12)終章:解決志向をカスタマイズする──良循環への智慧|黒沢幸子

黒沢幸子(目白大学/KIDSカウンセリングシステム
シンリンラボ 第27号(2025年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.27 (2025, Jun.)

1.多様な現場のなかで心理臨床をよりよく実践するために

臨床の新機軸となれば

最終回となりました。「臨床がうまくなる」といってもさまざまな角度があります。

本連載では,多様な現場の中で心理臨床をより良く実践する──というこの現代的・現実的な課題や状況に領域横断的に応えうるものとして,解決志向ブリーフセラピーをて取り上げてきました。

連載では,まず解決志向ブリーフセラピーの個別面接を前提とした基本モデルについて,そのパラダイムを理解して,実際に役立つ質問を展開できるようにと,微に入り細に入り,お伝えしてきました。

浅くて深いのは意外と厄介だから

なぜなら,技法である“質問”が,一見,単純で浅く(チャラく)も見えること(かつて私がそうだったように),また特徴的な質問が個別に目立って,そのつながりや面接展開までがわかりづらいこと,これらをよく承知しているからです。

また,解決志向が,ときには,良かれと思って,解決を強要するかのような面接に陥るリスクをはらむことも,認識しているからです。

さらに,臨床の肝ともいえる困難な臨床場面での,クライエントと協働して解決を目指す工夫や対応のコツこそ,解決志向ブリーフセラピーの出自と重なる出色したものであり,それを知っていただくことも皆様の助けになると思ってきました。

臨床場面に応じてカスタマイズする

とはいえ,ここまで連載を通してお伝えしたのは,「個別面接」を前提とした解決志向ブリーフセラピーの「基本モデル」です。

これ自体が領域横断的に用いることができますし,これを押さえなければ,元も子もないのですが,しかし,解決志向ブリーフセラピーの面白さ,有用性は,さらにむしろここからの発展にあります。つまり,解決志向ブリーフセラピーを多様な臨床場面に応じてカスタマイズして実践していくことです。

2.奇跡とは言わない「ミラクル・クエスチョン」

奇跡とは言わない

解決志向の真骨頂は,「問題」を一度脇に置いて,望む解決の姿(状態や生活)を具体的に思い描いてもらうこと,その定番の質問技法が,「ミラクル・クエスチョン」です。

でも,実は,私自身は「奇跡が起こって…」というセリフを,あまり用いません(まぁ,なんという告白!?)。

この質問がなにを狙っているかがわかれば,どのような仕掛け(言い回し)を用いてもいいわけです(望む解決や未来の姿を思い描いてもらう質問のバリエーションを,後の回でご紹介します,と連載第5回でお伝えしていました。やっとここで宿題の回収です)。

1)「天使の金の粉」と4コマ漫画

①「天使の金の粉」の質問

「今晩,あなたが眠りについた後に,天使がやってきて,あなたに金の粉をパラパラと撒いてくれて,今あなたが抱えている問題(困りごと)がすべて解決した(大丈夫になった)と考えてみて下さい。
でも,あなたは眠っていますから,天使が金の粉を撒いてくれて望む1日が訪れたことは,明日の朝,あなたが目を覚ますまでわからないわけです。

そこで,明日になったら,どんなことから問題が解決したことがわかるのでしょうか。どんなふうに様子が違っているでしょうか? どんな1日になるでしょうか?
周囲の人は何から気づくでしょうか?」

ミラクル・クエスチョンと同じ構造ですが,奇跡という言葉を使わず,天使の金の粉で表現します。この質問は,子どもはもちろんのこと,大人にも幅広く使えます。また,親子が同席している面接の場合にも,それぞれに,ファンタジックな楽しい雰囲気で,聞いてみることができます(連載7回の,ユキさんにも用いています)。

②解決志向の4コマ漫画法

「天使の金の粉」の一連の質問を,起承転結の4コマ漫画にして描き入れます。

まず,画用紙などに,クレヨンや色鉛筆で4コマの枠取りをして,①コマ目は今困っていること(クライエント担当),②コマ目は夜寝ているときに天使が来て金の粉を撒く場面,③コマ目は朝起きた場面(②と③は臨床家担当),④コマ目は,金の粉の魔法によって実現した望んでいる状態(クライエント担当),これを対話しながら,順に描きます。(例として図1参照)。

図1 解決志向の4コマ漫画法の例(黒沢・渡辺(2025)から転載)

③PDI(Post Drawing Interview)

漫画の絵がうまくなくても大丈夫。棒人間でも,○△□といった形や矢印などで表現してもいいのです。④コマ目にクライエントが描いた絵(解決像)を一緒に眺めながら,「その望んでいる状態になるために,まず手始めにできそうなことは何があるかしら?」と尋ねて考えてもらうなど,解決志向の対話を,絵を材料に展開していきます。描画療法でいうPDI(Post Drawing Interview)を解決志向の対話で行います。

4コマ漫画法は,子どもとの臨床にとどまらず,成人の方に対しても,治療的転機となり,これを契機に回復に向かっていった事例を多く経験しています。

【事例:小3のフミ】

フミは,引っ込み思案で友人が少なく喘息が悪化して登校しぶりが加速していました。フミは,4コマ漫画の①の困りごとに,唯一仲良しのはずの友人から,汚い言葉でからかわれる様子を描きました。②と③のコマには私が「天使の金の粉」の話をしながら絵を描き,④の望む解決の姿のコマを再びフミに描いてもらうと,フミは友人に「汚い言葉はやめて」と伝え,友人が「今までごめんね」と謝り,二人は和解して楽しく遊び始める姿を描きました。
フミの母親はその友人と離れるようにきつく言っていましたが,フミの解決像は,自分から友人に対して,嫌なことをアサーティブに伝える姿でした。
後日,フミはこの解決像の通りの行動を起こした様子で,その友人と和解して仲よく遊ぶようになり,登校が安定し,喘息も軽減していきました。
2)キャラクターや動物の力を借りて

①ドラえもんのどこでもドア

ドラえもんの「どこでもドア」など,子どもの好きなキャラクターを用いて,「天使の金粉」と同様に「困りごとが,特別な力や魔法(どこでもドアなど)で大丈夫になったとすると,いったいどんな嬉しい状態になっているかしら?」といった質問もできます。

好きなキャラクターで4コマ漫画法に取り組むのもお勧めです。キャラクターのシールや切り抜きを一緒に貼ったり(コラージュしたり),子どもの描くイラストに助けてもらったりしながら,解決志向の質問をして,子どもの話を感心して聞いていきます。

すると本当に子ども自らが解決をつくり,それを手に入れられるようになっていきます。

②動物に例えたら?

なりたい動物は?

「自分を動物にたとえたら,どんな動物かな?」と聞いて答えてもらい,その動物と自分が似ているところ,その動物のよいところやどんなパワーを持っているかについても聞いて教えてもらいます。
次に,「こんなふうになりたいなと思う動物は?」と尋ね,どんなところがいいと思うのかも教えてもらいます。
また,「一番友達になりたい動物」「困ったときに助けてくれそうな動物」についても尋ね,その理由やどんな助けをもらえそうかを,教えてもらいます。

楽しく会話

動物に例えて表現してもらうことで,抵抗が少なく,自分のなりたい姿(解決像)や目標について,楽しみながら見出して行けます。自分の内的リソースや,友達や助けてくれる存在などの外的リソースについても考えることができます。

中高生は,自分のことをよく「なまけもの」にたとえます。そこから,話が盛り上がり,なりたい動物(自分)の話などへと深まっていきます。

動物にたとえて考えていくことは,中高生や大人にも取り組みやすく,思いのほか効果的です。

ぬいぐるみやパペットで

より低年齢の子どもであれば,動物のぬいぐるみやパペット,ときには箱庭の動物のフィギュアを用いたり,動物の絵を描いてもらったりしながら,楽しく自由に対話を弾ませます。

3)英米のバリエーション

①ベストホープの実現

トゥモロー・クエスチョン

「あなたがもっとも望んでいることはどのようなことですか?」と,ベストホープ・クエスチョンをしてから,トゥモロー・クエスチョンを尋ねます。
「もっとも望んでいることが実現したら,明日は何から気づきますか?
(もっとも望んでいることが実現していたら,)今と何がどのように違っていますか?」

この質問は,英国のBRIEFというチームが開発し,ミラクル・クエスチョンに代わる定番の質問として英国で用いられています(奇跡という言葉は使われません)(Ratner & Iveson, 2012など)。

②スクールカウンセリング場面

ドリーム・クエスチョン

米国のスクールカウンセリング場面で,生徒に対して,ミラクル・クエスチョンの代わりに尋ねる質問として紹介されています。名付けてドリーム・クエスチョン

「寝ている夢の中で,悩みが解決するのに必要な何かを,自分の中に発見します。翌朝目が覚めてから,その力を発見したことがどうやってわかりますか? その力を発見したという,その小さな証拠は何でしょうか?」(Davis & Osborn, 2000)

生徒に対しては,奇跡ではなく,自分の中の力が発見されるという表現のほうがふさわしいことに納得がいきます。

3.技ありの「自分がベストな1日」

ベストな1日の質問
「翌日の1日(学校・仕事など)を想像してください。その日はあなたがベストな1日である以外は何も違っていません。その日の朝目覚めてから,どんなことを思う/感じる/するでしょうか?(※答えが1つ語られたら,「それから?」「他にはどんなことを?」と数回尋ねて,さらに詳しく語ってもらいます)
(学校・職場などで)最初に会う人は誰でしょうか? その人はあなたがベストだとどんなことから気づくでしょうか?(※同上)
次に会う人は誰でしょうか? その人はあなたのどんなことに気づくでしょうか?(※同上)
あなたのそんな様子を見た友人・同僚の人達は,どんな影響を与えられるでしょうか?(※同上)」
自分以外は何も変わらない

この質問のミソは,クライエントがベストな状態である以外,という設定にあります。

クライエントの望みの中には,その状況や他の人たちが変化すること(たとえば,嫌な人がいなくなっているなど)を願うことも少なくありません。

「ベストな1日」の質問では,周囲の変化を統制して,自分自身が望む良い状態の1日を思い描いてもらいます。

他者からの気づきを尋ねる

1日の流れに沿って,他者は何からベストな様子に気づくのかという,「関係性の質問」を多用します。自分の「べき論」から離れ,自分がよい状態でいることが,周囲の関係者にどのような影響を及ぼすのか,その相互作用にも気づいていきます。

ベストな1日・1週間を描写する

クライエントによっては,言葉で対話するよりも,ワークシートなどにメモしながら話を進め,質問の進行が視覚化されているほうが取り組みやすいことがあります。

子どもの場合は,なおさらそうです。親しみやすく心が和むようなイラストが入っていると,子どものモティベーションも高まり,対話を楽しく進めていけます。

ベストな状態の1日だけではなく,ベストな1週間を考えてみるのも,役に立ちます(図2は,ベストな私の1週間のワークシートの例)。

図2 ベストな私の1週間(黒沢・渡辺(2025)から転載)

4.未来の視点を使う対話

私の臨床スタイルの特徴は,“未来志向”と“利用(utilize)”だと思っています。私がそれを好きだからというより,実際に役立ち,その手ごたえが大きいからです。

未来の自分を想起させる技法

エリクソンは,未来の自分を想起させる“水晶球テクニック”についての1954年の論文で,これまで心理療法として,誰も十分に明示してこなかった“未来志向”の臨床の意義を,複数の事例によって示しました(Erickson, 1954)。エリクソンの未来の自分を想起することによる治療的成果から,ド・シェイザーをはじめ,多くのブリーフセラピストが影響を受けました。私も後述の「タイムマシン・クエスチョン」などをはじめとした未来志向のアプローチに指針を与えられています。

「未来」から始まる解決

現在の「問題」や「困りごと」がどのようであっても,いわば,その問題の引力圏外に出て,何年も先の未来,クライエントが落ち着き,何とかやれている未来の姿を,思い描いてもらうことは大きな意義を持ちます。

そのような未来を,時空間を超えて見に行ったとしたら,どのような姿がありありと体験されるのか,また,そこまで歩んだ未来の自分から今の自分を振り返ったら,どんなことが見え,何を伝えるのか,これを語ってもらうことの治療的な意義について,深く経験してきています。

「タイムマシン・クエスチョン」

①未来の自分を見に行く

① 「タイムマシンに乗って,○○年後のある日に飛んで行ったとしたら,どんな姿が見えますか?『~すべき』とか『~したい』ではなく,モニターに映し出されているその光景をありありと教えてください。どこで何をしているの? どんな格好をしているの? 周りには何が見える?」
② 「年齢を重ねて,賢さが増し落ち着いて過ごしているのは何年後くらいでしょうか? タイムマシンを使って見に行ったら,どんな様子でしょうか? どのように過ごしているのが見えますか?」

②未来の自分から現在の自分へ

③ 「その未来のあなたが,逆タイムマシンでやってきて,今のあなたにアドバイスを一言してくれるとしたら,どんなアドバイスをしてくれるでしょうか? どうやってそんな未来の自分になっていったと教えてくれるでしょうか?」

実は,この質問(②と③)については,第11回連載(前回)の自殺リスクなどの重大な危機場面への質問として,ユウの事例に用いています。

タイムマシン・クエスチョンは,汎用性が広く,重大な危機場面に限らず多様な臨床場面で有効です。

①と③の組み合わせは,スクールカウンセリング場面をはじめとした若い方々に向けて,②と③は現状が深刻で面接がスタックしているような状況で,用いやすいものです。

未来からの電話

子どものことで悩んでいる親(保護者)に対して,未来の成長した子どもの視点を用いて,考えてもらう質問です。未来からの視点と大切な他者(子ども)の視点(関係性の質問)をうまく組み合わせた洗練された質問です。

「あなたのお子さんが30歳の誕生日を迎えているところを想像してください。大人になったあなたのお子さんから電話がかかります。その電話は,あなたが想像できる限りの最高の親だったと伝えるためにしてきています。
お子さんは,あなたからどんなことを学んだことによって,自分の人生がすばらしく違ったものになったと話すでしょうか?」
(Pichot & Dolan, 2003)

不登校や反抗といった子どもの言動に悩み心配する親との面接が膠着状態に陥っている場合などに,この質問が契機となって,親が自らその解決やゴールを見つけていくことをしばしば経験しています。

たとえば,親はしばらく考えた後,「親はハラハラしながらも,ずっと見放さずに耐えて見守ってくれた。だから,つらくても,自分を信じ続けることが大切だということを学んだ」と子どもは言ってくれるだろうと語り,「自分がどうすればいいかわかりました」と長かった悩みのトンネルから抜けていかれたりします。

未来語りのダイアローグ

昨今,クライエント(患者)と治療者・関係者などのチームで行われる対話的なアプローチとして,フィンランド発祥のオープンダイアローグが注目されています。直接的に解決志向ブリーフセラピーを応用したものではありませんが,背景に関連性のあるものです。
なかでも,“未来語りのダイアローグ(アンティシペーション・ダイアローグ)”は,要支援者と関係他職種の人々が,望ましい状況が達成された未来の視点に立って,そこから現在を振り返り,誰のどんな協力がその望ましい状況を達成させてくれたかを思い出すという形で,語り合っていくものです。構造化された手法によってこれを行い,協働を促し解決の道筋を探っていく画期的な対話実践です(Seikkula & Arnkil, 2006)。

未来から現在を振り返る

ここで紹介した未来志向の質問や対話実践手法からもわかるように,未来の望ましい状況をイメージし,そこから現在を振り返ることは,個別面接や家族面接,また他職種連携やチーム支援において,行き詰まりや対立の次元から離れて,解決をつくっていくことに貢献します。

5.「本当の望み」からも自由になる

まだある疑問・つまずき

クライエントが本当に望む解決の姿を,なによりも大切にして面接を進めるからこそ,そこにまた解決志向ブリーフセラピーの難しさが生じることがあります。

クライエントの「本当の望み」が,どうしても現実的に実現しがたい場合に,どうしたらいいのでしょうか?

「本当の望み」が実現しがたい現実

親や子ども,パートナー(大切な他者)の命,病気や障害に向き合っているとき…たとえば,その成功や回復の確率がどんなに小さくとも,それに賭けざるをえないとき,あるいは事件・事故や暴力,災害の被害などによる重大ないかんともしがたい喪失を被っているとき…。

命が救われる,命を授かる,病気や障害が回復する,喪失したものがもとに戻るなど,自分のことだけではなく,大切な他者がそうなることを心の底から望んでいる…その正統でまっとうな権利があって望んでいる…としても…。

「無力な犠牲者」にする?

「本当の望み」を大切にして対話しても,現実的に実現しがたい状況にどうしてもあらがえないことがあります。

かといって,その面接を,他者の変化を望むコンプレイナントタイプ関係の枠組みで考え直してみても,それにもうまくフィットせず,望む解決に向かうのが難しいのです。

「本当の望み」の扱い方いかんでは,面接が,クライエントを「無力な犠牲者」にとどめてしまう可能性もはらみます。

解決志向のつまずきどころ

解決志向ブリーフセラピーを日頃から実践している臨床家であっても,このような場合には,解決志向は通用しないと半ば諦めて手放そうとするか,面接が奏効しない状況に頭を悩ませて膠着状況にとどまるか,なかなかに難しいところです。

「本当の望み」から離れる

このような場合の対応は,「本当の望み」に臨床家がとどまろうとすることから離れることです。二つの方法が考えられます。

セカンドベストの質問

一番望んでいることを聞いた後,2番目に望んでいることを質問します。(連載第9回で,2番目に大切なことの質問を紹介)そして,セカンドベストを実現させる方向で話し合っていきます。

大事な人を亡くしたなど,現実がどうにもならない事態となった場合などに用います。もちろん,面接の「基本モデル」に則りつつ,事例の必要に応じては「サバイバーズ・ギルト」(連載第11回参照)などにも取り組みつつ,急がずに丁寧な面接を行うなかで問うことです。

未来からの視点や関係性を活かした質問

今回紹介した未来志向の質問を利用します。いろいろなことを乗り越えて人生が落ち着いて充実している未来からの視点や,大切な他者の視点を用いた質問をします。

他者の変化を望むことが本当の望みとして正当であっても,いろいろ試みても現実的に相当に厳しいことが見えてきた場合などに用います。

立ち返るのは良循環をつくること

「本当の望み」を重んじるがばかりにお互いにそこにこだわり過ぎてしまうと,悪循環に陥ってしまいます。

少し逆説的ですが,大切なのは,「本当の望み」にこだわることではなく,クライエントの人生や生活に役立つ良循環をつくることこそ重要です。

ここまで来て立ち返るのは,法則3:うまくいっていないなら,ちがうことをせよ(連載第4回:解決志向の中心哲学参照),です。

6.エビデンス・アウトカムの話

最後に,エビデンスやアウトカムのことも触れておきたいと思います。エビデンスやアウトカムの提示は現代のセラピーとして重要です。解決志向ブリーフセラピーの有効性の研究は,当初から欧州・米国では盛んに行われています。

解決志向ブリーフセラピーにおいては,モデルの成立過程自体が,実践的エビデンスに基づいているという見方もされています(Franklin, et al., 2012)。

早期のころには,さまざまな臨床的問題(うつ病,自殺念慮,睡眠障害,摂食障害,親子の葛藤,結婚・人間関係・性の問題,性的虐待,家庭内暴力等)をもったクライエントに対して70%の成功率(De Jong & Berg, 1998)が提示されました。

その後の研究では,無作為ランダム割付試験として,対象41例に解決志向ブリーフセラピー(SFBT),119例に認知行動療法(CBT)を行い,前者は2セッション,後者は5セッションで終結。終結時のGAF(全体的機能水準の評定)では両群に優位な差がなかった(Rothwell, 2005)など,SFBTは,CBTに対して,より少ない回数で同等の効果があるという知見も示されるようになりました。

メタ解析(22の研究)によれば,SFBTは平均6.5セッションで,他の治療法と同等の効果があり,なかでも行動の変化に対しての有効性が突出していることが明らかにされました(Kim, 2008)(De Jong & Berg, 2012; Franklin, et al., 2012; 藤岡,2010など)。

最新の研究は,国際的な解決志向ブリーフセラピーの学会の研究部門のホームページなどから参照できます。

7.おわりに

良循環への救いの手

序章でも述べた通り,臨床がうまくなるために,ブリーフセラピー以外のものがたくさん役立つでしょう。

それでも,解決志向ブリーフセラピーを使えることは,臨床に大きく役立つものと考えます。それは,臨床のパラダイムを変え,新たな視野から臨床に向き合う機会を与えてくれます。スタックしていた臨床に解決志向の質問を投じることで,クライエントとの対話が活きいきと動き出し,良循環が生み出されていきます。

解決志向のコンサルテーション

解決志向は「コンサルテーション」のモデルとしても有望です(たとえば,Brigman, et al, 2005
)。私も「コンサルテーション・11ステップモデル」を提示して,有用性を確認しています(黒沢,2022など)。

カウンセリングや心理療法の種類は数多ありますが,実用的なコンサルテーションのモデルとなるものは多くはなく,「コンサルテーションがうまくなる」ことにも役立てられます。コンサルテーションも,とどのつまりはコンサルティとケース(関係者)との良循環をつくり,コンサルティが具体的な対応方針を見出して,良い方向に進めるようにすることです。

外国語の学びと同じ

いずれにしても解決志向ブリーフセラピーを知っているだけではうまくいかず,質問を使いこなせるようになることです。

解決志向ブリーフセラピーは,対話を続けることによって成り立ちます。外国語の学びと同様に,何度も口ずさんで練習し,実際に使わなければその力はつきません。どうか諦めずに実践して,その手ごたえを感じてください。

何度も「基本」に立ち返る

そして,何度も「基本」に立ち返って確認することに,本連載を役立ててもらえることを心から願っています。その願いが少しでも叶うようにと本連載に取り組んできました。

最後に,皆様が,臨床がうまくなるチャンスの神様の前髪を,しっかり掴んでいただいていることを願っています。

※事例は個人情報に配慮した合成事例であることをお断りします。

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文  献
  • Berg, I. K., & Steiner, T.(2003)Children’s solution work. W. W. Norton & Co Inc.(長谷川啓三監訳(2005)子どもたちとのソリューション・ワーク.金剛出版)
  • Brigman, G., Mullis, F., Webb, L., & White, J.(2005)School counselor consultation: Skills for working effectively with parents, teachers, and other school personnel. John Wiley & Sons, Inc.(谷島弘仁訳(2012):学校コンサルテーション入門─よりよい協働のための知識とスキル.金子書房.)
  • Davis, T. E., & Osborn, C. J.(2000)The solution-focused school counselor: Shaping professional practice. Routledge.(市川千秋・宇田光監訳(2001)学校を変えるカウンセリング─解決焦点化アプローチ.金剛出版.)
  • De Jong, P., & Berg, I. K. (Eds).(2013)Interviewing for Solutions 4th. Wadsworth Publishing Company.(桐田弘江・住谷祐子・玉真慎子訳(2016)解決のための面接技法 第4版─ソリューション・フォーカスト・アプローチの手引き.金剛出版.)
  • Dolan Y. M.(2023)Solution-focused therapy (The Basics). Routledge.
  • Erickson, M. H.(1954)Pseudo-orientation in time as a hypnotherapeutic procedure. Journal of Clinical and Experimental Hypnosis, (4): 261-283.(森俊夫・瀬戸屋雄太郎訳(2002)催眠療法における一方法としての時間の偽定位.現代思想,30(4): 130-154.)
  • Franklin, C., Terry, S., Trepper, E. E., McCollum., & Wallace, J, G. (Eds.).(2012)Solution-Focused Brief Therapy: A handbook of evidence-based practice. Oxford University Press.(長谷川啓三・生田倫子・日本ブリーフセラピー協会訳(2013)解決志向ブリーフセラピーハンドブック─エビデンスに基づく研究と実践.金剛出版.)
  • 藤岡耕太郎(2010)精神科医のための解決構築アプローチ, 金剛出版.
  • Henden, J.(2008)Preventing suicide: The solution focused approach. Wiley.(河合祐子・松本由起子訳(2020).自殺をとめる解決志向アプローチ─最初の10分間で希望を見出す方法.新曜社.)
  • 黒沢幸子(2002)指導援助に役立つスクールカウンセリング・ワークブック.金子書房.
  • 黒沢幸子(2015)やさしい思春期臨床─子と親を活かすレッスン.金剛出版.
  • 黒沢幸子(2022)未来・解決志向のブリーフセラピーへの招待─タイムマシン心理療法.日本評論社.
  • 黒沢幸子(2022)解決志向のコンサルテーション. in久田満・丹羽郁夫編. コンサルテーションとコラボレーション. 金子書房, pp82-95.
  • 黒沢幸子・渡辺友香(2025)教育相談ですぐ使える! 解決志向ワークシート―個別支援&クラスづくりに役立つ35種類のツール―. ほんの森出版.
  • 森俊夫・黒沢幸子(2002)〈森・黒沢のワークショップで学ぶ〉解決志向ブリーフセラピー.ほんの森出版.
  • Pichot,T., & Dolan, Y. M.(2003)Solution-focused brief therapy: Its effective use in agency settings. Routledge.(三島徳雄訳(2008)解決志向アプローチ再入門─臨床現場での効果的な習得法と活用法.金剛出版.)
  • Ratner, H., George, E., & Iveson, C.(2012)Solution focused brief therapy: 100 key points and techniques. Routledge.
  • Seikkula, J. & Arnkil, T. E.(2006)Dialogical meetings in social networks. Karnac.(高木俊介・岡田愛訳(2016)オープンダイアローグ.日本評論社.)
+ 記事

黒沢幸子 (くろさわ・さちこ)
目白大学心理学部心理カウンセリング学科/KIDSカウンセリングシステム
公認心理師・臨床心理士

得意領域:学校臨床心理学,ブリーフセラピー,児童思春期青年期心理臨床/家族療法

日本心理臨床学会,日本ブリーフサイコセラピー学会,日本コミュニティ心理学会等の理事や委員を務める。日本ブリーフサイコセラピー学会学会賞(13号)
内閣官房の依存症対策関連の会議や自治体のいじめ問題関連の協議会等の委員,教育センター,少年鑑別所,児童相談所等のスーパーバイザーや研修講師等を務める。
心理相談援助職向けのブリーフセラピー等の研修歴は25年余に渡る(KIDSカウンセリングシステム)。

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