黒沢幸子(目白大学/KIDSカウンセリングシステム)
シンリンラボ 第24号(2025年3月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.24 (2025, Mar.)
1.一筋縄ではいかない面接状況
従来の面接は自発的なクライエントが対象
従来の面接モデルはどれも,解決を望み自分がどうしたらいいのかと自発的に来談するクライエントを対象に開発されてきたものです。
ですから,そうでないタイプ,たとえば自発的ではない来談,自発的でも他者を非難し不満を訴える来談,それによる無関心や抵抗,よくないことを望む状況などは,異例のこととなります。
このような(異例な)状況の面接にどう取り組むのかが今回のテーマです。
学んだ通りの面接ができない
このような異例な状況への対応を体系的に示す有効な面接モデルは,これまでほとんどなかったといえるでしょう。従来の(自分が学んできた)面接モデルを当てはめても,思い通りに面接が運ばず,座礁してしまった経験もあるにちがいありません。
たとえば,DV,虐待,依存症,摂食障害,自傷行為,不登校,非行などの臨床場面の難しさは,このことと重なります。
2.クライエントの抵抗とは
臨床家の枠組み
臨床家の多くは,たとえば,それ(異例な面接状況)をクライエントの抵抗と呼んだり,問題の否認と考えたり,責任転嫁,無責任と受け止めたり,挑戦的で傲慢なパーソナリティと捉えたり…してきたといえるでしょう(心理職の事例検討会では,しばしばこのような表現が飛び交います。クライエントが聞いたらどう感じるのか…と複雑な気持ちになります…)。
問題の指摘や解釈が変化につながらない
そのような状況の際,クライエントに対して,専門家として問題の指摘や解釈,忠告や指導,あるいは「対決」をしてみても,結果的にクライエントがドロップアウトしたり,面接が長期化したりするなど,面接がよい成果につながらないことが多いものです。
臨床家の抵抗
しかしながら,これらのことは,臨床家の枠組みの押し付けといえるかもしれません。クライエントの抵抗と感じられることは,本当は,臨床家の抵抗といえるものなのかもしれません。
クライエントの願いや望みを詳細に教えてもらう対話が,ここでは置き去りにされているのだと思います。
臨床に良い成果が出ないのは,クライエントの抵抗によるのではなく,臨床家がクライエントの話を十分に聞けておらず,その理解が足りていないからともいえるでしょう。
抵抗の死
解決志向ブリーフセラピーの開発者であるド・シェイザー(de Shazer)は,1984年に,「抵抗の死」を提唱し,「クライエントの抵抗は,協力の一形態である」という新たな理解を提示しました。臨床家が抵抗のサインとみなしたものは,実は,クライエントが協力しようとするユニークな方法だととらえたのです。
たとえば,臨床家が課した課題に従わないクライエントは,抵抗しているのではなく,その課題が自分に合わないことを臨床家に伝えているのであり,協力している姿であるというわけです。
3.面接状況を3つに分ける
3つの面接状況
このような特徴的な面接状況に取り組むコツは,まず,クライエントの望みの持ち方によって面接状況を3つに整理して,その対応を行うことです。
1)他者から強制された不本意な来談(ビジター・タイプ関係)
2)他者の変化を望んでいる来談(コンプレイナント・タイプ関係)
3)自分が解決に関与する自発的な来談(カスタマー・タイプ関係)
クライエントの協力と意欲
この3つのタイプ関係を参照すると,3)は通常の自発的な来談といえますが,面接を開始した際,難しく思われるのは,1)や2)のような来談状況でしょう。
しかし,クライエントがそこで話し合われること(面接)が自分に役立つことだと思えれば,その協力と意欲は速やかに大きく変化します。
どのタイプの関係も,クライエントに役立つそれに合った丁寧な対話をすることで,クライエントの協力と意欲が生まれ,協働して解決をつくる面接が進めていけます。
3つのタイプ関係に合った対応の工夫
「基本」面接段階Ⅰ~Ⅴ(連載第4回~8回)をベースにした,この1)~3)の3つのタイプに合った対話の工夫と対応方法を,一覧表に整理してお伝えします(表)。
表 3つの面接状況のタイプと対応のコツ(Cl:クライエント,Th:セラピストの略)

3つのタイプについてのトリセツ(取説)
・これは,クライエントがその面接場面に持ち込んでいるセラピストとの関係を3つに分けているものです。
・まちがってもクライエント自身のレッテル貼りには用いないでください(たとえば,コンプレイナント・タイプ関係にあるクライエントを,批判的で責任転嫁するパーソナリティといった理解をしないでください)。
・3つのタイプには,優劣も善し悪しもありません。自発的な来談かどうか,当初協力的か非協力的かによって,面接の善し悪しは決して左右されません。
・タイプ間で,たとえば1)➡2)➡3)といった関係の成長モデルでもありません。
・関係のタイプであるため,流動的であり,面接の途中にも,面接の回によっても変化する可能性があります。まずは初回面接の来談時の状況として見立てます。
カスタマー・タイプ関係は「基本」(面接段階Ⅰ~Ⅴ)で行く
3)のカスタマー・タイプ関係の面接では,「基本」面接段階Ⅰ~Ⅴを,いわばそのまま実践すればいいわけです。「基本」は,本連載で,これまでじっくり扱ってきましたので,あとは実践あるのみです!(ただし,稀に3)のタイプで,セラピスト・ショッピングのような来談もありえます。そのニーズを適切にとらえて必要な対応を選択しましょう。)
さて,次からは,対応の工夫が必要な1)と2)の面接状況について詳しく扱います。
「基本」がそのままに展開できる臨床場面ばかりではないし…と前回連載で愚痴りましたが,その対応についてです。
3つのタイプの一覧表を確認しながら,その対応の差異とコツをつかんでください。
4.他者から強制された不本意な来談(ビジター・タイプ関係)
【特徴】
もっとも難しい関係
クライエントの望みについて対話を続けていくことが,しばしばもっとも難しいとされるのが,他者から強制された不本意な来談(訪問面接を含む)の場合です。
家族,教師,上司,公的機関などの他者から圧力をかけられて,クライエントが来談している場合です。来談時の様子は,しぶしぶ,嫌々,義務的,反発であり,無関心,不機嫌な態度がよく見られます。聞く耳を持たない,取り付く島もないといった印象も受けます。あるいは相談するつもりはなく,様子見や冷やかしでの来談もあります。
ビジター・タイプの関係
面接の中で,困っている,相談したい,こうなったらいいといった自分の問題やニーズを表現せず,自分が望む状態や解決への期待も表明しない関係のことを指します。
たとえば,「飲酒(リストカット,ゲームなど)を人は問題だと言うけど,自分は問題だと思わない。やめるつもりもない」,「学校に行かなくても困らないし,行く気もない」,「食べ吐きすれば太らない。人に迷惑かけていないし,別に相談することはない」,「相談室では好きに過ごすだけ」といった状況が挙げられます。
余計なお世話
そのようなクライエントに対して臨床家が持ちがちな見解は,抵抗,否認,防衛,挑戦的といったものでしょう。
クライエントにとって,その場合の専門家から勧められる解決や援助は,自分が望んでもいない押し付けられたものであり,意味がなく,有害なものにすら感じられます。
臨床家がクライエントに暖かく共感的な態度をとっていても,拒否的,不機嫌,挑戦的といったクライエントの反応がみられがちです。
「余計なお世話だ,放っといてくれ」,「カウンセラーにどうにかできるとは思わない」といったクライエントの言葉や挑戦に耐え,向き合わなくてはなりません。
臨床家の枠組みを押し付ければ,だんまり,押し問答,物別れに終わる…など,生産的な対話には至りません。
【対応の基本とコツ】
事前情報の準備
面接にあたり,ケースについて知っている情報(来談に圧力をかけた人からの事前情報,紹介の情報など)があれば,それをクライエントと共有する準備をしておきます。
来談時のコンプリメント
来たくないのに来談してくれたことを,まずは丁寧に労うことです。訪問や電話など臨床家から接触した場合も,面倒なのにそれを受けてくれたことを感謝し労います。
クライエントにとっての「もっともな理由」
役立つ質問として,クライエントにとっての「もっともな理由」を聞く質問が挙げられます。
クライエントの態度や言動など,臨床家が納得しかねる理解しにくい状況について,クライエントにとっての「もっともな理由」があるはずだと関心を持って尋ね,それを教えてもらうことがミソです。
これは,クライエントを理解し協力関係を築いていくうえで,重要な役立つ質問です。ビジター・タイプ関係でなくとも使える有用な質問であり,私自身もこの質問にいつも救われています。
たとえば,押し黙り続けるクライエントに対して,肯定的な関心をもって聞きます。
「このように黙っているのは,何も話したくない“もっともな理由”があるのですよね? それについて,教えてもらえませんか?」
「『余計なお世話だ,放っといてほしい』/『カウンセラーなんか信じられない』/『学校行く意味がない」』/と言うのには,きっと“もっともな理由”があるのだと思います。それについて,教えてもらえませんか?」
クライエントが変化や援助を拒否しているとき
同様に役立つ質問として,クライエントが変化や援助を拒否しているときによく用いられる有用な質問があります。(やめられない/問題行動とされる)その行為はクライエントにとってどんな助け/救いになっているのかを聞くことも,外せないコツです。
たとえば,「(リスカ(自傷),拒食,薬物,飲酒,ギャンブルなどの)問題行動をやめる気はない,余計なお世話だ」というクライエントに対して,尋ねてみます。
「そのこと(問題行動)は,どのようにあなたの助け/救いになっていますか? どのように役立っていますか?」
関係性の質問
①来談を強制した人の視点
家族,教員,上司,公的機関など,来談を強制した人がいるため,その人の視点を用いて,例えばその人の問題意識や期待について,クライエントに聞くことがミソです。
ビジター・タイプ関係では,クライエント本人ではなく,来談するように言った人にニーズや問題意識があり,また解決への期待があるため,関係性の質問が有益かつ必須になります。
②クライエントにとって大切な他者の視点
クライエントにとって(理解してくれる,見守ってくれる)大切な他者の視点から見たら,クライエントに生じるどのような違いに気づくかを聞く関係性の質問も有用です。
大切な他者に関する関係性の質問は,どのタイプであっても用いられますが,ビジター・タイプ関係の場合,クライエント自身に自分のよい状態や違いを考えてもらいにくいため,関係性の質問を用いることが役立ちます。
《ビジター・タイプ関係に有益な質問》
〈クライエントの見方/認識を聞く〉
「誰が,どのような変化を期待して,来談を進めたのですか?」
「あなた(クライエント)がここに来ることになったのは,誰の考えですか?」
「その期待に対して,あなたはどのように考えているのですか?」
「ここに来ることになった理由について,あなたはどのように考えているのですか?」
〈来談するように言った人(例:母,教員)の見解に対するクライエントの認識を聞く〉
「その人(お母さん/先生)は,どんなことからあなたが,ここに来る必要がある/問題をもつ理由がある,と考えているのでしょうか?」(関係性の質問)
「その人(お母さん/先生)は,あなたが最小限,どんなことを変える必要があると考えているのでしょうか?」(関係性の質問)
(来談するように言った)その人の見解へのクライエントの認識を利用して,解決に向けてのゴールづくりを進める〉
「その人(お母さん/先生)に,あなたがここに相談に来る必要がないことを納得させるには,あなたが何をするのがよいのでしょうか?」(ゴールづくり)
〈クライエントの生活の「例外」(すでに起こっている解決の一部)を探す〉
「あなたがそれ(その人を納得させること)を,もっとも最近(最後に)したのはいつでしたか?」(「例外」を聞く)
─「そのときあなたの生活はどんなふうに違いましたか?」(違いを聞く)
─「どうやってそれができたのですか?」(成功の責任追及)
─「(見守ってくれている)大切な他者(例:祖母/親友)は,そのときあなたがどんなふうに違っていたと気づくでしょうか?」(関係性の質問)
─「またそれをするとしたら,その最初の一歩はどんなことでしょうか?」(ウェルフォームド・ゴール・違いをつくる一歩)
─「またそれをする自信はどのくらいありますか? その自信を上げるために何が役立ちますか?」(自信についての質問)
─「大切な他者(祖母/親友)は,あなたがまたそれをする可能性について,どのように言うでしょうか? そうすると,その大切な他者(祖母/親友)との間で何が違ってきますか?」(関係性の質問;可能性を作る違いについての質問)
─「あなたと,その人(お母さん/先生)との間では何が違ってきますか?」(関係性の質問;不本意な来談をしなくてすむために必要な違いを聞く)
─「あなたがそうしたら,他にはどんな違いが起こりますか? 今とは違うどんなことが起こっていますか?」(解決の波及)
〈これから起こる解決を既知の解決にする〉
「あなたは,自分が十分にやっているということに,どうやって気づきますか?」
─「あなたがそうした変化を起こしたことに,最初に気づくのは誰ですか? その人がその変化に気づくと,その人は今とは違うどんなことをするでしょうか?」(関係性の質問)
─「その人がそうしたとき,あなたにとってはどうでしょうか?」(関係性の質問)
このような質問を用いた対話により,クライエントの協力と意欲が生まれてきます。
面接がビジター・タイプ関係で始まったとしても,このような質問を敬意をもって粘り強く展開していくことにより,終了時にはクライエント自身が望む方向に違いを作る一歩を見出し,それを行う自信と可能性が高まっているのです。
終了時のコンプリメント
来談せざるを得なかった事情を理解し,それでも来てくれたことを労い,本人のもっている強み・リソース(例えば,自立心が強い,理不尽なことに屈しない),自分に大事なことを知っていることなど,可能な限りコンプリメントを伝えます。もしクライエントの真の望みや願いが見出され,それに向けた一歩の可能性が語られたなら,それを肯定し承認します。
提案
ビジター・タイプ関係で面接を終える場合には,「クライエント自身にとって何がよいことなのかを一緒に考えるために」,次回にまたお会いできると嬉しいと述べて,それを提案して終わります。
留意点
すでに述べてきたように,臨床家からクライエントの問題を提起しないことが鉄則です。主導権争いをしないことです。クライエントに主導権を預け,責任を持たせるようにすることです。
【事例:中学生のカイ君】
カイは,学校での友人トラブル,授業抜け出し,噓をつくこと,家庭の金銭の持ち出し,プチ家出などについて,母親と教師が問題視し,しぶしぶ面接にやってきました。
「ここに来たくなかったんだよね? それなのに,すっぽかさずよく来てくれたね。誰が,どのような変化を期待して,面接に行くように言ったの?」
「(小さな声で)母親と担任…嘘つくな,まじめにやれって」
「それについて,カイ君はどう考えているのかなぁ?」(…そっぽ向いて黙りこくる…)
「黙っているのは,何も話したくない“もっともな理由”があるんだよね? それについて,教えてもらえないかな?」
「…何話しても無駄。どうせ嘘ついているって,信じてもらえない…(イライラ)」
「そうか…信じてもらえたら,何が違ってくるの?」
「同級生との殴り合いも,先に手を出したのは相手なのに…相手の言い分しか担任は信じない。母親も同じ。信じてもらえたら,無断下校や家出したりしない…でも,そんなことがありすぎて,どうせ俺はキレやすい乱暴者って,もうレッテル貼られてるし。高校なんてどうでもいい。ゲームだけしていればいいんだ」
「信じてもらえたら,無断下校とかしないんだよね…高校がどうでもよくてゲームだけしているというのは,どのようにカイ君の助けになるの?」
「ゲームは嫌なことが忘れられるし,オンラインゲームの友達は,自分を買ってくれる」
「なるほど。高校がどうでもいいと思うのもどんな役に立ってるの?」
「母親は毎日帰りが遅いのに,勉強のことばかりガミガミいう。高校が絡んでいるから,高校を諦めればイライラしなくて済む。高校にはホントは行きたいけど,もう耐えられない…でも,反発すると,お前は嘘つきで頭が変だから,カウンセリングに行けって…」
「そうか…ちょっと悔しいね…母親や担任に,ここに相談に来る必要がないことを納得させるには,カイ君が何をするのがよいのかな?」
「…テストで結果を出すこと。問題起こさないこともだけど…好きで起こしてねーし」
「テストの結果が少しでも良かったのは,一番最近ではいつだったの?」
「前学期の中間テストは,ほんの少し上がった…けど,母親は全然足りないって言う。担任は,その調子でって,少しほめてくれたけど…でも,期末テストは散々だった」
「中間テストの時はどうやって少し結果がよかったの? 担任や顧問は,カイ君がどうやったからだって言うかな? ちなみに高校はどんなふうに過ごしたいの?」
…………(以下略)…………
《ビジター・タイプに有益な質問》を続け,コンプリメント・提案により,カイ君は次回面接を希望しました。数回面接を継続する中で,問題行動がぶり返しても,本人から面接に来るようになり,徐々に行動は落ち着き,苦労しながらも,部活を収めて信頼も得られるようになりました。1年後,お陰様で志望校に合格したと挨拶に来ました。
【ビジター・タイプ関係の面接のミソ】
まとめとしては,下記の[ガイドライン]を理解して面接を丁寧に進めるのがミソです。
[ガイドライン]
・クライエントは,臨床家に何かしてもらいたいと思っていないと想定します。*
・それでも来談(訪問なら接触)してくれたことに,敬意と労いを表します。
・臨床家の判断を一度脇に置いて保留し,クライエントの見方を認めます。*
・クライエントの考えや行動には「もっともな理由」があるはずだと考えて質問します。
・クライエントが否定的な感情を露わにしていても,クライエントにとって重要な他者と出来事を必ず聞くこと,強制した不快な相手が,その代わりに何をしていたら,もっとクライエントの役に立てたのかを尋ねます。
・妥協の余地のなくクライエントへ要求されていることは面接に組み込んで,すべて丁寧に伝え,それについてのクライエントの考えを尋ねます。(たとえば,一時保護された子どもを返す許可は1カ月先まで降りない,外泊をやめなければ退学になるなど)
・クライエントのもっとも関心のあることと望んでいることを必ず尋ねます。*
・関係性の質問を使い,他者の視点からの考えを拡げ相互作用の影響を活かします。
・クライエントの言葉を取り入れた次の質問をし,「知らない姿勢」を持ち続けます。*
【補足】
様子見,冷やかしへのコツ
様子見,冷やかしは,学校の相談室や保健室,公共機関の無料相談室など,比較的門戸の広い相談室でよくみられる状況です。臨床家から,何か困りごとや問題があるはずと詮索すると,はぐらかしたり,逃げてしまったり,二度とやってこなかったりします。上記の[ガイドライン]の*の項目を押さえて,面接を行うといいでしょう。
面接の内容としては,クライエントの興味・関心を知り,クライエントの好む話題を拡げ,クライエントのリソースや強みを見出せるようにします。それらをコンプリメントして,それ以上のことはせず,時間になったら,よかったらまた顔を見せてくれるように言って,オープンエンドな形で終了します。
5.他者の変化を望んでいる来談(コンプレイナント・タイプ関係)
【特徴】
他者を変えてほしい
クライエントは問題について語りますが,他の家族,学校関係者,上司,公的機関などの他者が問題であり,その望みは他者が変わることにあります。他者の変化を望んでいる来談です。クライエントは問題を観察し指摘し,自分は無力な犠牲者という立場を取り続けます。この場合の面接もやはり難しいものです。
来談時の様子では,他者についての訴え,不平不満,非難,文句が多く語られます。
コンプレイナント・タイプの関係
面接では,困っている,相談したいと問題やニーズを表現しますが,「他者」が解決のために変わる必要があると考えています。
たとえば,「子どもの不登校に悩んでいるが,担任や学校の対応が間違っている」,「子どもの家財持ち出しで困っているが,父親の関わりが悪い」,「夫の暴言は,姑の甘やかしのせい」といった状況が挙げられます。
不平不満
そのようなクライエントに対して臨床家が持ちがちな見解は,批判的,攻撃的,被害意識が強い,責任転嫁といったものです。他者を変えてほしいと頼ってくるときには,依存的にもみえるでしょう。
しかし,臨床家から,クライエント自身にも問題があり変わる必要があると示唆するのは禁じ手です。そのように対応したくなる気持ちはわかりますが,それは有効ではありません。むしろ,クライエントは,臨床家が状況を理解していないと感じ,さらに他者に問題があることを繰り返し語ることになります。
ときには,他者への不満を語りたいだけで,他者が変わることを求めていないこともあることを知っておくといいでしょう。
【対応の基本とコツ】
来談時のコンプリメント
他者が変わるべきなのにもかかわらず,問題意識をもってクライエントがそのために来談してくれたことを肯定し,労います。
役立つ質問
他者の不平不満を語り続けるクライエントに対して,「私(セラピスト)にどんなお手伝いができますか?」と聞きます。
「その他者がどうなればいいか」について聞き,非難や不満に終始せず,望む解決やゴールについて話し合うことです。
どうしても批判や非難が繰り返されるなら,「この問題が解決するとわかるどんなことが起きていますか?」と尋ね,他者に向けられている視点をクライエント自身に向け直すことが対策の一つです。
スケーリング・クエスチョンで,「解決を見出す可能性について,0~10のスケールで,10は必ずできる,0は絶対できないとしたら,今はいくつでしょうか?」と尋ねます。続けて「その数字まで来ているのは何があるからですか?」とスケーリング・クエスチョンの基本の展開で聞いていきます。
問題の考えに終始し,困難感で煮詰まってしまうようなら,コーピング・クエスチョンに切り替えて尋ねます。
関係性の質問
変わるべき他者が少しでもよい状態になったとき,クライエントがどんな関わりをしていたかを,その他者の視点からクライエントに聞くことが役立ちます。
たとえば,息子の不登校で悩んでいる母親が,怠惰で勉強せずゲームばかりしている息子を治してほしいと訴えるのに対して,少し想像してみてくださいと前置きして,
「息子さん(変わるべき他者)がもしも登校するようになったとして,私(セラピスト)が息子さんに,『お母さん(クライエント)が,あなた(息子)に,どんな違った関わりをしているかしら?』と尋ねたとしたら,息子さんはどのように言うでしょうか?」
ここで注目すべきは,息子(他者)が変わらなければどうにもならないというクライエントの見解を受け入れたうえで,息子(他者)の変化にクライエントがどう関与しているかを考えてもらうように質問していることです。ここがミソです!
母親は,「お母さんが,口うるさく言わなくなった」と息子が言うだろうと答えました。「口うるさく言う代わりにどうしていると息子さんは言いますか?」とセラピストから聞かれ,母親は,「少しはほめてくれているとか…」と呟いたため,「どんなふうにほめられているんでしょうか?」と聞くと,母親は,「でも,ほめるところなんてわかんないから…『お母さんが褒めたらいいところはどこ?』と息子に聞いて,そこをほめるのかな…」と答えました。
母親は自分が違う対応をすることが解決につながる可能性を少しずつ見出していきます。
終了時のコンプリメント
クライエントが問題意識をもって状況の変化を真剣に望んでいること,そのための他者や周囲への注意深い観察力を称賛します。
提案
ブリッジとして,いかにこの問題が深刻で扱いにくいものであるかに十分に賛同し,注意深い観察力を活かして,基本的には「例外」の観察を提案します。
①「初回面接公式課題」(クライエントの家族/生活などに,今後も続いてほしいことを観察して,次回報告してもらう;連載第8回参照)を提案する。
②「次にお会いするまで,この問題は解決できると思える出来事に注目してください」
③(問題の「例外」が多少見つかっている場合)「今までよりもよいときを注意深く観察して,次回話せるようにしてください。そのときは,どうやってそうなるのか,何が違っているのかに注目してください。誰が何をしてよくなるのかをよく観察してください」
このような観察提案は,「例外」(よりよいとき)が必ずあることが示唆されるため希望が生み出され,また,クライエント自身の経験のなかに解決に役立つネタが多くあると気づくことにつながります。クライエントは,他者による問題の無力な犠牲者から脱却していきます。
***
どんなに困難に思えるタイプの関係であっても,クライエントとの関係に合ったコツとミソ,留意点を知って解決志向で取り組むことが有用です。
(恐れないで,深呼吸をして,心の中で両手を開いて…「対決」をしなくて大丈夫なのです…)
クライエントの望む解決の姿をゴールにして,ともに取り組む丁寧な対話から,協力関係,変化の意欲が生まれ,小さな変化が大きな変化につながり,自信が生まれていきます。
次回は,さらに,重大な危機や自殺のリスクへの取り組み,さらなる質問技法のバリエーションなどを紹介していきます。
※事例は個人情報に配慮した合成事例であることをお断りします。
文 献
- De Jong, P., & Berg, I. K. (Eds).(2013)Interviewing for Solutions 4th.(桐田弘江・住谷祐子・玉真慎子訳(2016)解決のための面接技法 第4版─ソリューション・フォーカスト・アプローチの手引き.金剛出版.)
- De Shazer, S. (1984)The death of resistance. Family Process, 23, 79-93.
- Dolan Y. M.(2023)Solution-focused therapy (The Basics). Routledge.
- 黒沢幸子(2002)指導援助に役立つスクールカウンセリング・ワークブック,金子書房.
- 黒沢幸子(2015)やさしい思春期臨床─子と親を活かすレッスン.金剛出版.
- 黒沢幸子(2022)未来・解決志向のブリーフセラピーへの招待─タイムマシン心理療法.日本評論社.
- 森俊夫・黒沢幸子(2002)森・黒沢のワークショップで学ぶ解決志向ブリーフセラピー.ほんの森出版.
- 田中ひな子(2020)解決志向アプローチ.In:日本ブリーフサイコセラピー学会編:ブリーフセラピー入門─柔軟で効果的なアプローチに向けて.遠見書房,pp.54-62.
黒沢幸子 (くろさわ・さちこ)
目白大学心理学部心理カウンセリング学科/KIDSカウンセリングシステム
公認心理師・臨床心理士
得意領域:学校臨床心理学,ブリーフセラピー,児童思春期青年期心理臨床/家族療法
日本心理臨床学会,日本ブリーフサイコセラピー学会,日本コミュニティ心理学会等の理事や委員を務める。日本ブリーフサイコセラピー学会学会賞(13号)
内閣官房の依存症対策関連の会議や自治体のいじめ問題関連の協議会等の委員,教育センター,少年鑑別所,児童相談所等のスーパーバイザーや研修講師等を務める。
心理相談援助職向けのブリーフセラピー等の研修歴は25年余に渡る(KIDSカウンセリングシステム)。