臨床がうまくなる!浅くて深いブリーフセラピー(7)第4章:解決志向ブリーフセラピーをこう活かす④面接段階Ⅳ:スケーリング・クエスチョン|黒沢幸子

黒沢幸子(目白大学/KIDSカウンセリングシステム
シンリンラボ 第21号(2024年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.21 (2024, Dec.)

今回は,面接段階Ⅳの代表的な技法であるスケーリング・クエスチョンを徹底解剖していきます。

1.「0~10」はシンプルで有能

シンプルで使いやすい技法

解決志向ブリーフセラピーは「シンプルで,使いやすい」。

これをもっとも実感できる技法が,スケーリング・クエスチョンです。

なにしろ,用いるのは,0~10の数字。10段階を用いて質問するのが基本ですから。(1~10でもOK)

万国共通,老若男女を問わず使えるシンプルさです。

初学者がまず身に着ける技

スケーリング・クエスチョンを使えるようになったことで(ほかの技法がまだおぼつかなくても),解決志向ブリーフセラピーがそれなりに実践できるようになったと,初心者の頃を振り返って語る方が少なくありません。

確かに,ミラクル・クエスチョンだとか,問題の「例外」だとかのような不慣れな技法よりも,とっつきやすく,これだけでもうまく使えればクライエントの助けになります。

よくあるスケーリング

スケーリングの質問自体は,他の領域でも使われています。何も物珍しくありません。

たとえば,病院では,患者さんは痛みを訴えます。痛みは主観的で,少し痛い,耐えられる痛さ,超痛い……など。

「一番痛いのを10として,0~10だと,今いくつですか?」と,医師や看護師から聞かれます。手術入院などしていれば,1日何度となく聞かれることもあります。

主観的な痛みについて,数字で聞いて答えてもらうと,具体化でき,患者さんも医療側も双方でその状態を共有できます。昨日は4だったが,今日は6でよりつらくなったなどと答えられます。その数字の動きが,状態の判断や,処方の調整の指針になります。

似て非なるスケーリング

解決志向の場合は,自信,意欲,進捗状況などの抽象的な状態を,スケーリングによって,具体的に表せるようにします。

主観的で抽象的な状態が数字によって具体的に理解でき,今の位置が共有できるスケーリングのメリットは,確かに痛みのそれと共通しています。

しかし,解決志向のスケーリングは,痛みのスケーリングとは異なります。

10が最も望んでいる状態

解決志向のスケーリングは,10段階の10を良いほうの状態とすることが大きく異なります。10がもっとも望む状態(解決の姿やゴール)を表し,0をその全く反対の状態とします。

答えられた0~10の間の数字は,望む10の方向へ進むステップを表すものとして扱われます。

2.面接段階Ⅳで登場するワケ

シンプルで初学者にも使いやすく,利点の多いスケーリング・クエスチョンは,解決志向の技法として,いの一番に紹介したい思いもありました。

ただ,スケーリング・クエスチョンを面接終盤の段階である,面接段階Ⅳとして扱うのにはワケがあります。

望んでいる姿へ梯子をかける

解決志向のスケーリング・クエスチョンは,クライエントが望んでいる解決やゴールを10とすることで,クライエントの現在の位置(数値)と望む状態までの距離(数の差)を知り,現在の位置まで来れたこと(進捗状況)を確認しながら,その望みやゴールを達成するのに必要な具体的なステップ(一つ数が進んだ状態)やそれに役立つことを見出していくために用いられます。

望んでいる状態に向けて(10段の)梯子をかけるイメージです。

スケーリング・クエスチョンの前に

そこで,スケーリング・クエスチョンをする前に,クライエントの望む解決の状態やゴールが見出されていることが,とても重要になります(Dolan, 2023)。

そうでないと,梯子は持っていても,どこに向けて梯子をかけていいかわかりません。

面接段階Ⅱの次では?

それなら,面接段階Ⅱのクライエントが望む解決像を描く段階のすぐ次,面接段階Ⅲにスケーリング・クエスチョンが来てもいいのかもしれません。

でも,面接段階Ⅲは,「例外」に焦点を当て,すでにできていることで助けになることを見出す段階になります。スケーリング・クエスチョンはその次の面接段階Ⅳです。

解決を遠ざけない

そのこころは,望む解決やゴールが途方もなく遠いものではなくて,その一部がもうすでにクライエントの生活のなかに起こっていること,望む解決やゴールを手に入れる助けとなるリソースや力が少なからずすでにクライエントに備わっていること,それを面接段階Ⅲで,気づいておいてほしいからなのです。

いくら望む解決の姿やゴールが見えていても,それにつながること(助けになる材料)が何も見出せていないなら,スケーリングをしても,数字で表される現在の位置は,限りなく0に近いものにもなってしまうかもしれません。

解決に近づいていることを知る

スケーリングをして,具体的な数字で表すことによって,望む解決やゴールまでの距離が非常に遠いと感じさせて(落胆させて)しまうのでは意味がありません。

面接段階Ⅲ(すでにできていることで助けになることを見出す)を経ることで,望む解決やゴールに向けてすでに進んできていることを少しでも感じられていれば,スケーリングで表される現状の位置の具体的な数字は決して低すぎるものにはなりません。

さらにそこからステップを重ねることで,ゴールに到達することができると実感できるようになります。

これが,面接段階Ⅳで,スケーリング・クエスチョンを登場させるワケなのです。

3.面接段階_Ⅳ.一歩進んだ状態,進歩の小さな兆候を知る

1)スケーリング・クエスチョンの展開

基本の形

スケーリング・クエスチョンは一連の流れで行います。基本的な形は以下のようになります。

(1)「望む状態が実現されてきた(安心/大丈夫)と思うのが10,その反対(問題や状況が最悪だったとき)を0としたら,今はいくつですか?」

(2)「何があるから(もっと低い数ではなく)その数になっているのですか?」
   「どのようにして,その数まで進んできたのでしょうか?」

(3)「今の数字の状態を維持するために,続けるといいことはどんなことでしょうか?」

(4)「数が1つ上がると何が違ってくるでしょうか?」

(5)「そのために何をすればいいでしょうか? どんなことが役立ちそうですか?」
2)各質問の仕事

(1)の質問

どのような状態を10として設定し,何を軸とした0~10を考えてもらうか,それがこの質問の肝になります。

今の状態の数が,10からほど遠いと感じず,なんとかそこに近づいていけそうと感じられるように,10と0を設定し,可能なら,クライエントがスケールの真ん中周辺の数で答えられるようにするのが,進めやすいと言われています。

創始者のBergは,スケーリング・クエスチョンについて,クライエントは,面接のどのあたりでスケーリングされたかはあまり覚えていないけれども,その面接で自分が現状をいくつだと答えたか,その数はよく覚えているものだ,と述べています。

ですから,可能なら,少しでも高い数字をクライエントが答えられるように,スケーリングに至るまでの準備をし,またそのタイミングを図るのが望ましいというわけです。

でも,クライエントが1や2と答えたからといって,そんなに低いのかと落胆する必要はありません。その数字の絶対値にこだわらなくていいのです。

そこから,次の(2)の質問に移ればいいですし,それを聞いてから,10や0の設定を調整して,もう一度質問し直してもいいのです。

10~0の設定の仕方や工夫については,あらためて,次の節で解説します。

(2)の質問

この質問は,「コーピング・クエチョン」や「成功の責任追及」に当たるものです。

(2)の質問によって,その数まで達した中身,すでにできていること,やってきたことに焦点が当たり,それを見出すことができます。

(2)のバリエーションの質問として,

「その数であることが,どんなことからわかるのでしょうか?」
「その数まで来れたのは,何がよかったのでしょうか?」
「他には?」
(クライエントの変化・進歩・工夫・努力を具体的に聞く)

「周囲の大切な人は,その数まで来たのは,あなたのどんな力からだというでしょうか?」(関係性の質問)

面接段階Ⅲで,すでにできていることで助けになることが見出されていれば,この質問から,解決の状態やゴールにつながる助けになることがより見出だされやすくなります。

それでも,クライエントがスケーリングで,0など最も低い数字を答えた場合は,「サバイバル・クエスチョン」(前回連載参照)を行います。

(3)の質問

この質問は,「メンテナンス・クエスチョン」と呼ばれる質問に匹敵します。

メンテナンス・クエスチョンは,「例外」が語られない場合などに尋ねる定番の質問として,「コーピング・クエスチョン」とならぶ重要な質問です。

今の状態を何とか維持するためにやっていることやすでにやれていることで続けるといいことに光を当て,それを教えてもらう質問です。

【メンテナンス・クエスチョン】
「これ以上悪くなることを防ぐために,どんなことをやっているのですか?」
「今の状態を維持するためには,どのようなことを続けるとよいと思いますか?」

解決の方向に向かって早急に進むことが重要なのではなく,クライエントが今の状態をそれ以上悪くならないようにまずは維持し,新たに何かをするのではなく,すでにやっていることで役立つことを続けることが大切です。

メンテナンス・クエスチョンは,スケーリング・クエスチョン以外の場面でも,面接の中でよく用いられる質問技法です。

スケーリング・クエスチョンの展開の中でも,早急に進むことより今の位置まで来ていることをまずは維持すること,そのために何を続けるといいのかを話し合っておくことは大切なことです。

重要なことは,今の状態がどのように認識されていても,それを否定して良くなることを考えるのではなくて,今の状態のなかにクライエントが続けたらいいことがあることを知り,その意味で今の状態を肯定したうえで,次に進む準備をすることです。

(4)の質問

この質問は,現状からの一歩進んだ状態や小さな違いを見出していくものです。

(4)のバリエーションの質問として,
「どうなっていたら,少し良い方向に進んだ(数が一つ上がった)と感じられますか?」
「そのときは何をしていますか?」

「少し良い方向に進んだ(数が一つ上がった)と,一番先に気づくのは誰でしょうか? あなたのどんな行動から気づくのでしょうか?」(関係性の質問)

(4)の質問は,スケーリング・クエスチョンの展開のハイライトになります。

この質問から,「これから起こる解決」(解決に向けた小さな一歩)の話し合いに舵を切ります。

一歩進んだ(スケールで一つ上がった数の)状態が今とどう違うのか,どんなことから数字が一つ上がったことがわかるのかを尋ねて,教えてもらいます。

解決志向の面接の流れの「図」の④(前回連載参照),今から少し進んだところにゴールの旗を立てる作業のための質問です。これはとても洗練された重要な質問です。

ただし,この一つ上がった状態を考えるのは,いうほど容易ではなく,クライエントが長考するのを待つことも少なくありません。

(5)の質問

この質問では,解決やゴールに向けての(4)の質問で得られた小さな違いをつくるために,助けになること,役に立つこと,自分でやること,周囲の方に助けてもらうことなどを見出していきます。

答えが一つ出ても,それで終わりにせず,「他にもありますか?」とさらに繰り返して尋ね,いくつも答えてもらうことが,役に立ちます。思いもよらなかったアイデアや工夫が出てくることも多くあります。

初学者の方が誤りやすいのは,(4)の段階をスルーして,この(5)の質問をしてしまうことです。たとえば,「その数が一つ上がるのに役立つことは何でしょうか? 何をすればいいでしょうか?」などです。いわゆる方法論を早く聞きたくなってしまうわけですが,それでは解決を強要する面接になりかねません。(4)の質問をしてから(5)の質問をすること,これがスケーリング・クエスチョンの意味のあるお作法です。

ここでの答えが,面接段階Ⅴ(次回連載)のフィードバックメッセージの提案にも直結していきます。

3)10の状態の設定の仕方

奇跡の尺度

ミラクル・クエスチョンをして,その解決の状態が特定できている場合,その解決の状態を10として,スケーリング・クエスチョンを展開します。

そのため,この用い方は「奇跡の尺度」と呼ばれたりしています。

これがミラクル・クエスチョンを行った後に続く定番の面接展開です。

「今は話された奇跡の状態が10,その反対を0としたら,今はいくつですか?」

望む状態のディスカウント

奇跡の1日の状態,望む解決像やゴールが,そのクライエントにとってまだ距離があるものだと考えられる場合,その望む状態やゴールを控えめな状態にして10を設定します。いくつかの例を挙げます。

「解決の状態が少しずつ実現してきたと思える状態を10,その全く反対を0」
だいだいOKだと思えるのが10,問題や状況が最悪だったときを0」
「解決の状態に近づいているという兆しが表れてきたのを10,何一つそれに向けた兆しがなく最悪の状態が0」

意欲・自信

望む解決の状態をつくることについて,それができる意欲がどのくらいあるかを確認したり,また特に面接でのかかわりが初めの頃には,解決に向けての自信について定期的にスケーリングをしたりすることも有用です。

「解決」という言葉は,そのまま用いるよりも,クライエントが話した望むことを当てはめて使うのがいいでしょう。

「解決のためになんでも取り組んでみようという意欲があるのが10,何もする気はなく受け身で待つだけというのを0」
「解決を見つけられる自信がとてもあるのが10,その自信はまったくないのが0」

安心安全感

クライエントにとって,安心安全であると感じられる状態はとても重要ですが,特に,心理的安全性が損なわれるようなつらい状況下にあるクライエントとの面接において解決を考える場合には,安心安全感の度合いをスケーリングして考えていくことも大切です。これは虐待が関係する事例にかかわるときなどに,重要な尺度になります(児童虐待への解決志向の取り組みについては,また後の連載の回で扱います)。

十分に安心安全だと感じるのが10,まったく安心安全感がないのが0」

4)「奇跡の尺度」の事例

自傷行為とひきこもり

クライエント(ユキさん)は,高校の途中で不登校となり,自己否定の気持ちが強く,希死念慮と自傷行為が続き,ひきこもっていました(同級生が皆,大学生なのも耐えられません)。

天使アレンジのミラクルから

初回面接の中盤から,ユキさんの雰囲気に合わせて,天使が魔法の金の粉を降らせ望む1日が訪れるというアレンジをしたミラクル・クエスチョンをしました。

着替えて出かける

その望む解決の姿は(いつもは昼まで寝ていて1日パジャマのままぼんやりしている。が),朝から目が覚めて,服を着替え,化粧をして,外出をする。推しのグッズと本を買い,コスプレのための材料を探し,カフェでランチをして……帰宅して,母親と談笑し,少し家事を手伝ってから……Youtubeを見て,推しのコンサートを楽しみにコスプレ作りをして……家族と夕飯を食べる……

「今とどんなふうに違ってくる?」「それから?」「どこで?」「誰と?」などの質問に対して,それから~こうなって……と,ゆっくり答えていきました。
「家族の誰が先に気づく?」(関係性の質問)……父親が気づいてびっくりする。朝から着替えているのを見て,あれ? って(笑)。でも,さりげなくしている。それって楽だな。
「最近のことで近いことは?」(例外)……母親とは少し話し安心したことがある等。

10をディスカウントしたスケーリング

クライエントは現在まだひきこもっている状態でもあったため,望む状態をディスカウントした形のスケーリング・クエスチョンを,その後展開しました。

「今話してくれた素敵な1日が少しずつ起こってきたかなって感じられるのが10で,状況が最悪だったときを0としたら,今はいくつですか?」
「う~ん,4くらいかな~。日によるかも…」
「何があるから,4って言えるのかな?」
「一応午前中に起きているし,歯ブラシしてる。前より母親と話してる」
「ほかには?」
「ちょっとだけ洗濯たたんだり,推しのこと考えていられたり。たまにギター触る」
「どのようにして,その数まで進んでこれたのかな?」
「入院はもう嫌だなって。自分でみじめがってばかりでも仕方ないし……。友達のインスタ見て落ち込んでたけど,見るの減らすようにして…」
「どうやってそう考えられるようになったの?」
「リスカしておばあちゃんちに逃げたら,あんたはずっといい子だよって,泊まらせてくれた。昔から飼ってる犬と遊んだりして……。いい顔して優等生のふりして,自分がなかったなって」
「今の4の状態を維持するために,続けるといいことはどんなことかな?」
「インスタは見るの減らす。母親と何気ない話をする,最近あまり小言を言われなくなったから。午前中に起きる。(「ほかには?」)推しのこと考える。犬とじゃれるとか…」

梯子を1段上ると違って見える景色

「いいね~,では,同じスケールで,1つだけ上がって5になっていると何が違ってくるかな?」
「う~ん(しばらく沈黙)……朝もう少し早く起きている……夕飯作ったりしてる……」
「何時ごろに起きていたら5? 夕飯作りはどんな程度だと,5だなって気づきそう?」
「9時に起きていたら,うん,5かな。夕飯作りは,週に1~2回くらい下準備だけでもしてたら,まぁ,5ってところかな」

1段上がるきっかけ

「なるほど~。そのために何をすればよさそうかな? どんなことが役立ちそうですか?」
「やっぱ,インスタもそうだけど,SNS見すぎないほうがいい。見ると他人と比べて不安発作が出たりするから。後は母親のボケてるところに突っ込んで笑うとか」
「それイイね。SNS見ない代わりに,何してるといいかな? どんなことが役立ちそう?」(~しない代わりに,どうしているか? ウェルフォームド・ゴールの3条件を思い出してください)
「推しのコスプレづくりを本格化させる準備を始める。まず,型紙,布探し……。結構凝り症だから,やり出すと,嫌なことが気にならなくなるし。何か作るのが好きだから,料理もホントは好き。気持ちが乗ると,夕飯のメニューが浮かんで作りたくなるんだよね」

「どんなことがそれに役立ちそう? ちっちゃなことでいいよ」
「あっ,部屋の片づけだ~,まずは足の踏み場を作ることだ(笑)……」
「なんと! 足の踏み場……。なるほどね~ どうやってやる? ほかにもありそうかな?」
「分別用のゴミ袋をたくさん用意して,安物の衣装ケースを手に入れないと……。足の踏み場はすぐなくなるから(笑)。」

(ここから先は,面接段階Ⅴにつながっていきます)

4.スケーリング・クエスチョンの多彩な出番

1)面接前の変化

変化はすでに始まっている

従来型の面接では,クライエントは悪い状態だから面接にやってくると考え,クライエントの変化や改善が始まるのは,面接による介入が始まってから後のことと考えられていました。

しかし,解決志向では,クライエントが面接を受けようと考えて予約を入れるという行動を起こしたところから,すでに解決に向けての変化が始まっているととらえます。

予約を入れた時から初回面接までの間に,少しでも望ましい変化があったかを尋ねたところ,3分の2のクライエントが「あった」と答えたと報告されています。

面接前変化の質問

そこで,それを「面接前変化」と呼び,初回面接の冒頭で,それを尋ねることが推奨されています。

少しでも望ましい変化があったなら,それがどのようにして起こったのかを伺います。そして,それを踏まえて,面接によってどのような違い(解決)が生まれることを望むのかについての話を進めていきます。このほうが,効率がよいことは容易に想像できるでしょう。

面接前変化のスケーリング

「面接前変化」を,スケーリングを用いて聞くことができます。「面接前変化」を聞くことを是非試して習慣にしてください。

予約を入れた時の状況が0(パニック,落ち込み等が最悪の状態),解決した状態(解決に希望がもてる状態)を10としたら,今はいくつでしょうか?」

例を挙げます。

夫婦関係について相談するために面接予約をした妻は,この質問をされたことで,5と答えました。「その数まで来ているのは何がよかったのか」を尋ねると,予約をしてから,夫の暴言がましになっていることに気づいたと言います。思い切って友人に相談したことで自分の気持ちが少し楽になったこと,自分が機嫌良く過ごすと,夫婦ともに飲酒の量が減ったことなどを見出し,それが良かったことを話し始めました。

2)オール・イン・ワンのスケーリング

スケーリング・クエスチョンだけで,面接段階Ⅱ(望む解決像を描く)やⅢ(すでにできている助けになること)を含め,関係性の質問も駆使した解決志向の面接を行うことも可能です。
10の状態を漠然とOKな状態として,今がいくつかを尋ね,途中で,10の状態をあらためて描写してもらいます。たとえば下記のような展開になります。

「10は自分が満足できる十分な(OKな)状態,1はその反対でまったくそうでない状態だとしたら,いまはいくつですか?」
「どんなことからその数だと言えますか? その数の中身は何でしょうか?」
「周りの人(同僚・家族)はいくつだと言うでしょうか? どんなことがある/できているからその数だと言うでしょうか?」(関係性の質問)
「ところで,10の状態は,どんな様子でしょうか? その映像には,何が見えて,何が聞こえますか?(望む解決の姿を聞く質問)
「今の状態を維持するのに役立つことや続ければいいことはどんなことですか?」
「1進んだら,それはどんな形で現れますか? どのような状態ですか?」
「ほかの人(同僚・家族)は何から気づきますか?」(関係性の質問)
「その1の状態に(少しでも)進んだと確信するのに,役立つこと,助けになること,行ったら(続けたら)いいことはどのようなことでしょうか?」

なんとなく行き詰っていて,何がどうなったらいいかを曖昧にしか表現できないような状態の方が,改めて10の状態を聞かれることで,はじめて自分の望む姿やゴールを考えたと言われることもあります。

望む解決の状態を考えてもらう場合,クライエントがミラクル・クエスチョンに答えるには,想像力が必要です。しかし,イメージ作業が苦手な方もいます。そのような方は,スケールでの10の状態がどんな状態かを尋ねると,具体的に答えられることもあるため,このオール・イン・ワンのスケーリングも捨てたものではない技法です。

3)面接の中で,何度でも

スケーリング・クエスチョンは,面接のなかで,何度でも用いて構いません。進捗状況,自信,意欲などを,クライエントとの対話に応じて,それぞれスケーリングを用いて聞いていくことも役に立ちます。

また,「多軸スケーリング」といって,望む解決に向けて,自信はいくつ,意欲はいくつ,周囲の理解度はいくつ,経済的な準備の度合いはいくつ等々,必要な観点を入れて,多角的に話し合っていくこともできます。

4)技法のユニバーサル・デザイン

スケーリングは,数字でなくとも段階で考えられればいいので,音階でも,ニコちゃんマークの表情でも,色のグラデーションでも,山登りの1合目~10合目に例えるのでも,かまいません。

対話の相手が考えやすいような何らかの「ものさし」になる段階を用いて,質問します。臨床的にはこの工夫も結構やりがいのあるものです。

スケーリングは,すでに紹介してきた対象や状況にとどまらず,家族,学級,学校,またチームや職場,諸機関などの集団にも広く応用できます。

さて,次回第8回は,面接段階Ⅴ.承認・肯定的評価と提案(フィードバック・メッセージ)の段階です。やっと面接のまとめ方に入っていきます。コンプリメントと提案などについて扱います。基本の面接段階が完結します。

※事例は個人情報に配慮した合成事例であることをお断りします。

文  献
  • De Jong, P., & Berg, I. K. (Eds).(2013)Interviewing for Solutions 4th.(桐田弘江・住谷祐子・玉真慎子訳(2016)解決のための面接技法 第4版─ソリューション・フォーカスト・アプローチの手引き.金剛出版.)
  • Dolan Y. M.(2023)Solution-focused therapy (The Basics). Routledge.
  • 黒沢幸子(2002)指導援助に役立つスクールカウンセリング・ワークブック.金子書房.
  • 黒沢幸子(2015)やさしい思春期臨床─子と親を活かすレッスン.金剛出版.
  • 黒沢幸子(2022)未来・解決志向のブリーフセラピーへの招待─タイムマシン心理療法.日本評論社.
  • 森俊夫・黒沢幸子(2002)森・黒沢のワークショップで学ぶ解決志向ブリーフセラピー.ほんの森出版.
  • Ratner, H., George, E., & Iveson, C.(2012)Solution focused brief therapy: 100 key points and techniques. Routledge/Taylor & Francis Group.
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黒沢幸子 (くろさわ・さちこ)
目白大学心理学部心理カウンセリング学科/KIDSカウンセリングシステム
公認心理師・臨床心理士

得意領域:学校臨床心理学,ブリーフセラピー,児童思春期青年期心理臨床/家族療法

日本心理臨床学会,日本ブリーフサイコセラピー学会,日本コミュニティ心理学会等の理事や委員を務める。日本ブリーフサイコセラピー学会学会賞(13号)
内閣官房の依存症対策関連の会議や自治体のいじめ問題関連の協議会等の委員,教育センター,少年鑑別所,児童相談所等のスーパーバイザーや研修講師等を務める。
心理相談援助職向けのブリーフセラピー等の研修歴は25年余に渡る(KIDSカウンセリングシステム)。

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