黒沢幸子(目白大学/KIDSカウンセリングシステム)
シンリンラボ 第19号(2024年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.19 (2024, Oct.)
1.何を探し,見つけるのか
プーさんのウェルフォームド・ゴール
クマのプーさんは言いました。
「探し始める前に,見つけたいものが何かわからないといけないよ」
プーさんでも知っているのです。
この状態のままでは嫌だ,こんな生活状況は違う……。と思い,何かそうでないものを探そうとしてもがいても,見つけたいもの(期待すること,手に入れたいこと,そうなったらいいこと)が何かがわからなければ,それにつながることを探し始めることができません。
まずは,見つけたいもの(ゴール)が何かがわかることが,探し始めるよりも前に重要なのです。
「解決志向」ではこのことを重視しています。
この見つけたいものが何かがわかることが,ウェルフォームド・ゴールづくりです。
そして,そのゴールの姿がわかれば,それが本当に手に入るように役立つ材料や方法を探したり見つけたりすることができるようになります。
スヌーピーだって知っている
そのゴールの実現につながる強力な材料となるのが,(今回の)面接段階Ⅲのメインテーマとなる「例外」です。
「例外」は,これまで何度となくお伝えしてきましたが,いつも起きることとは違う状態,問題が起こらなくてすんでいる状態のことを指します。「例外」はリソースの宝庫への入り口です。
問題は,いつもは起きていないのです。
「“いつも”って言わないで。人生に“いつも”は無いんだ」
これは,実はスヌーピーのセリフです。
例外は必ずある
人は常に変化している(変化は必然)という前提の通り,いつもずっと悪い状態ということはありません。
問題が起こらないでやれている状態,解決やゴールの一部といえるような少しでも悪くない状態は,探せば必ずあるのです。
とはいえ,クライエントにとっては,問題にばかり意識が向いているため,良い変化には気づきにくく,また取るに足らないこととして覚えていないのです。
聞かれなければ日の目を見ない
そのため,例外は必ずあると考えて,よく観察し,また質問することが必要です。
質問はサーチライトですから,暗闇のなかでそこに光を当てて,見つけられるようにします。
「例外」探しの質問や,いつもと違って少しでもできていることについての成功の責任追及の質問をする。これが,面接段階Ⅲの技法になります。
ド・シェイザーは,こう述べています。
「例外や成功について尋ねなければ,クライエントはその話はしないだろう」。
2.解決志向の流儀
解決志向面接の時間展望
下記の図は,解決志向面接の流儀のイメージを示しています。

図1 ゴールについての話し合いと「例外」
図における矢印①②が面接段階Ⅰ,矢印③④が面接段階Ⅱ,矢印⑤が面接段階Ⅲに相当します。
図にあるような時間展望(①~⑤)を頭に描いておくと,解決志向の面接段階で何をしようとしてるのかがつかめ,技法を面接によく活かすことができます。
「例外」は解決の土台
でも,よく見ると矢印②と⑤は,扱うタイミングが違うだけで,同じ矢印に見えます。矢印②で,問題の語りのなかに見出される「過去の成功」は,「例外」と等しいものです。
ここからも,「例外」が,解決像やゴールを手にしていく入口であり,その土台となるものであることがわかるでしょう。
ここで,図に基づいて,面接段階の特徴と流れを,前回(第5回)の内容を踏まえながら,確認しておきましょう。ここを押さえて「例外」使いの達人になれますように。
未来に浮かぶ「望む未来の姿/解決像」
「ミラクル・クエスチョン」は,ウェルフォームド・ゴールへのプロセスを開始し,展開していくもっとも定番の質問として用いられるものとお伝えしました(前回:第5回)。
ミラクル・クエスチョンによって描かれるのは,未来の方向に浮かんでいる「望む未来/解決像」です。
(未来に浮かぶ「望む未来/解決像」を描くことを誘う質問は,ミラクル・クエスチョンだけではありません! たとえば,タイムマシン・クエスチョンや,ベストホープ・クエスチョン,天使の金の粉,魔法の杖などなど,ここではちょっと頭出しだけしておきます。これは,また次回以降のお楽しみに……)
丁寧にソリューション・トークへ助走
クライエントが現在から過去にさかのぼり(矢印①),問題や原因について語るのを受け止めつつも,過去から現在に至る中での(矢印②)「過去の成功」を丁寧に拾いながら,現在に新しい認識や可能性がつくられるようにします(ソリューション・トークへの助走をつける)。
この「過去の成功」は,「例外」に当たるものですから,面接段階Ⅰから,「例外」に注目していくわけです。
(登校しぶりの次男に悩む母親への質問(前回:第5回連載)は,どれも「例外」に対する成功の責任追及になります。ご確認あれ!)
大胆に未来に飛ばす
「現在から過去」⇔「過去から現在」(矢印①と②)のループが問題や原因探し(プロブレム・トーク)の悪循環に陥らないように,そこには留まらず,それよりも現在から未来に向けて(矢印③),ミラクル・クエスチョンなどの質問を用いて,ポンッと大胆に(焦点を)飛ばすことで(ソリューション・トークへ移行),こうなっているといいというイメージを思い描いてもらいます。
(ミラクル・クエスチョンは,ソリューション・トークへの開会宣言だとか!?)。
問題の引力圏外に出る
ミラクル・クエスチョンは,「問題の引力圏外に出る」仕掛けであるともいえます。
過酷な問題状況にあるクライエントは,出力の大きなロケットを打ち上げるくらいでないと,問題の引力圏外には出られないのかもしれません。
「奇跡が起こったら……」というミラクル・クエスチョンのとんだ仕掛けは,大胆に問題の引力圏外に飛ばし,望む解決や未来の姿を考えてもらうためにあります。
不登校のお子さんが,「明日学校に行くかどうか」,「明日どうやったら登校できるか」について,いくら考えても煮詰まるばかりです。
それよりも,たとえば「5年後どんなふうにしているか」「どんな大人になっているといいか」といった望む未来の姿を描いてから,もう一度現在に引き戻って,「じゃぁ,明日の学校はどうしようか?」と考えると大きく違ってきます。望む未来の姿/解決像からゴールがわかれば主体的に考え,動けるようになるのです。
少しずつ何が違ってくるか
問題の引力圏外にポンッと抜け出て,望む未来の姿/解決像を描いてもらうのは,「解決志向」の真骨頂であり,有効な進め方です。だからといって,その進め方でなければ,セラピーにならないなんてことは,まったくありません。
特に初学者は,臆してすぐにはできないこともあるでしょう。クライエントの状況にうまく合わないこともあります。
その場合は,少しずつ望む方向への違いを明らかにしていけばいいのです。矢印③を,少しずつ進めていくイメージです。
たとえば,「(問題が)前より良くなったら何が違ってきますか?」「少しずつ何が違っているでしょうか?」といった質問をしていきます。(前回(第5回連載)参照)
大切なことは,ウェルフォームド・ゴールをクライエントがつくれるようにしていくことです。
ゴールの旗を立てる
そして,その望む未来の姿や解決像を描いてもらうなかから,現在に引き付けて(矢印④),達成可能な,「小さくて・具体的で・こうする」という3条件をクリアしたウェルフォームド・ゴールを話し合い,ゴールの旗を現在から一歩先くらいのところに立てるわけです。
夢は大きく目標は小さく
望む未来の姿や解決像は,いわば夢のようなもの,クライエントにとっての理想の姿であってもいいでしょう。それを描くこと,イメージすること,それを期待すること,そのこと自体が,向かう方向性を教えてくれます。
(「何も期待しなければ,何も得られない」……スヌーピーの台詞です)
一方,ウェルフォームド・ゴールは,具体的で達成可能な役立つ目標とする必要があります。
ゴールとしたものが,大きすぎ,かつ抽象的で,何かをしないことなのであれば,クライエントは,そのゴールから,成功体験を得られないでしょう。ゴールが失敗体験を生んでしまうものなら意味がありません。ゴールは,ゴールテープを切って,さらに望む未来に向かって進んでいけるような,成功体験を導くものにしたいのです。
解決像は北極星、ゴールは電信柱
(余談ですが,昨今は,この逆です。目標は大きいのに(成績はオール5を取る,習い事で1番になるなど),夢は小さい(将来は苦労なく平凡な生活ができればいいなど)子どもたちの多いこと! きっと大人たちがそうさせてしまっているのでしょう)
また,解決像は北極星,ゴールは電信柱のようなものと表現されることもあります。
「例外」探しの矢印
ゴールについての話し合いに続くのが「例外」探しです。
図でいえば,現在のゴールから過去に向けて「例外」を探索し,見出された「例外」から過去や現在の成功例に気づき(矢印⑤),ゴール達成の材料として活かします。
そして,ゴールの旗を通り抜けて,「望む未来の姿/解決像」をつくっていくのです。
矢印⑤の「例外」に関する事例
矢印⑤の「例外」探しの様子を描写してみます。
不登校が1年以上続く小学生の母親(ミサさん)は,ひとり親家庭で2人の子育てをしていました。上の子どもが中学時代に荒れた時は,教育相談で家庭の問題を指摘され,気持ちがつらくなって相談を中断しました。新たな紹介を受けて,下の子の不登校の相談にみえました。
一通りお話を伺ってから,母親(ミサさん)に,ミラクル・クエスチョンをしました。
朝からの様子が語られた後,……母が仕事から帰宅すると本人は不在……食卓にやりかけのドリルがあり……友人と公園で遊んで暗くなる前に元気に帰ってくる……夜はお笑いのTVを観て一緒に笑い転げ……子どもはさっさと風呂に入り,疲れて早々に眠り……自分は缶ビールを飲んで満ち足りる……という話をされました。
そこで「それに少しでも近いことは,最近どんなことがありましたか?」と「例外」を尋ね,「他にもありますか?」と聞き続けると,そういえば…と,ときどき自分でドリルをやっていた,週末幼なじみと外で遊んでいた,先週プリントを届けに来た児童にドアを開けお礼を言っていた,一昨日お笑いで一緒によく笑った,一人でお風呂に入っていた,先日夜一人で飲んだビールがおいしかった,と次々に「例外」が見つかりました。母親は,不登校が改善せず,暗澹とした気持ちで相談に来たのですが,小さな変化がさまざま起きていることに驚きました。
「どうやってそれができたのですか?」「他には?」「お子さんなら,どうやってやれたと言うでしょうか?」と成功の責任追及の質問を続け,そこから展開した対話から,役立つことや続けたらいいことが見えてきました。
母親(ミサさん)とのその後の面接では,日常生活での例外の観察,スケーリング・クエスチョン,母から子どもにタイムマシン・クエスチョンをするなど,解決志向の対話を続けました(これらの技法は、面接段階Ⅳ等,次回以降扱います)。
母親は徐々に自信と子どもへの信頼を回復し,前を向いて,本人と動き出しました。次の学期の初日から登校が再開できるようになりました(母親面接のみで終結)。
3.面接段階_Ⅲ.「例外」:すでにできていることで助けになることを見出す
(1)「例外」の姿
「例外」の定義
「例外」とは,当然起こるはずの問題が起こりそうで起こらないですんだ過去の経験のことです。
少しでもうまくいっていること,やれたこと,ましなこと,当たり前にできていることも,「例外」です。
「例外」は,すでに起こっている良い状態(解決)の一部と定義されます。
これまで述べてきた通りですが,望む解決の状態の一部が過去や現在の経験の中ですでに起きているなら,それはゴールを達成する材料となります。
例外が増幅されて,もはや例外と言えなくなるほどに日常化すれば,その状態が「解決」です。
「例外」は省エネ
ゴールは,かなりな労力を使わないと手に入らないものではなく,ゴールの一部は,実はもうすでに起こっている…(問題をどうにかする労力よりも,ずっと安全で省エネでしょ!?)。
例外の中に解決のヒント,リソースが眠っています。例外に注目し,成功の責任追及をすることは,すでにできていることで助けになることを見出すことです。
(2)「例外」についての質問
丁寧に粘り強く
クライエントに「例外」を尋ねたけど,「ありません」「わかりません」と答えられて,撃沈……! となるのは,あまりにも残念です。
そこで,「例外」についての質問を,実践に向けて使いこなせるように,超絶詳しくわかりやすく解説します。
どの質問であっても,相手を尊重し,相手の様子・状況に合わせて,臨機応変に,柔軟に,相手の言葉を使って,丁寧に,粘り強く,質問する,これはまず鉄則です。(これは「解決志向」のすべての質問に通じることです)
(初学者の方の多くは,解決像を聞く質問(ミラクル・クエスチョンなど)よりも,「例外」探しのほうがやりやすいと言われます。まずは「例外」についての質問の腕を磨きましょう)
例外を発見する質問
①最近のことを聞く
より最近の「例外」を探すことは,クライエントにとって思い出しやすく,具体的に描写できます。
「最近で,問題が起こらなかった時や,それほどひどくなかった時はいつでしたか? そのときのことを教えてもらえますか?」
図の矢印②でも⑤でも聞くことができますが,矢印②のときには,クライエントの問題の語りの様子を見極めながら慎重に聞く必要があります。
「話されたこと(解決の姿/望んでいる未来の状況,ゴール)に少しでも近いことは,最近どんなことがありましたか?」
これは図の矢印⑤の段階で聞く定番の質問です。ミラクル・クエスチョンなどで,解決の1日や状態が具体的に描けている場合に用いられます。(ミサさんの事例で利用)
②他者の視点を使って聞く(関係性の質問)
「あなたの親友(大切な他者)に,最近,あなたが少しましだった時のことを聞いたら,どんなふうに答えてくれるでしょうか?」
自分では答えられなくても,他者の視点を用いると答えられるクライエントは少なくありません。この場合も,できるだけ最近のこととして聞きます。
③問題状況を細かく具体的に聞く(主に,図の矢印②で聞く)
「問題が起こっている時と,少し違った状況になっているのはどのようなときですか?」
具体的に違っていることがあれば,それが「例外」につながります。
「もっとも最近,それ(問題)が起こったときのことを教えていただけますか?」
問題状況(暴力等)の緊急度・危険性などのリスクアセスメントの役割をもつ質問です。一方で,「例外」を見つける質問にもなります。
たとえば,家庭内暴力の問題が直近でいつ起こったかを質問し,それが10日前に起こったということであれば,この10日間はそこまでひどい暴力は起こっていないことになります。これは「例外」としてとらえられます。そこから,その間はどうやって暴力が起こらないですんだのかの成功の責任追及につなげていくことができます。
「(昨日,一昨日……数週間前まで)一つずつその(問題の)状況がどうだったか,教えていただけますか?」
問題状況について,具体的に1日ずつ質問して確認していきます。それにより,いつもと少し違うことが浮かび上がってきやすくなります。
たとえば,何カ月も全然眠れないという主訴のクライエントに対して,毎日何時に寝て何時に起きて,どのくらい眠れたかについて,順に細かく聞いていくと,あれ? っと,早く眠れた日などが見つかることが少なくありません。
④限定や汎化の表現(~だけ,~以外,毎日,いつもなど)を利用して聞く(主に,図の矢印②で聞く)
「毎日,~(例:ゲーム/お酒など)だけをやっているのですか?」
「いつも~(例:叱る)以外はやらないのですか?」
「いつも~(例:国語,給食,A先生など)のときはダメだということですが,ではそれ以外の時はどのようにやっていますか?」
クライエントの語る限定や汎化,また断定的な表現は,「例外」を意識から締め出している状況ですから,逆に意識されていないだけで,そこに「例外」が潜んでいることは多いものです。
⑤これまでしてきたこと,役立ったことを聞く
「今まで(そのために)どのようなことをされてきましたか?」
「少しでも良かったことは?」「役だったことは?」
問題の語りを伺うなかで,「過去の成功」について光を当てる質問として,初回面接などで必ず聞くといい質問です。図の矢印②でも⑤でも聞くことができる質問です。
例外を拡げる質問
①違い(差異)を聞く
「そのときは(問題が起こっているときと)何がどんなふうに違っていましたか?」
問題が起こっている時との違いは何かを見出すことが重要です。そこから望む違いをつくっていけるのです。
「違いを生む違い」……。ド・シェイザーが強調した「解決志向」の大切な概念です。
②4W1Hで具体的に聞く
「その時(問題が起こっていない時/ましだった時)は,いつ,どこで,誰が,何を,どんなふうにしていたのですか? 詳しく教えて下さい」
4W1Hを念頭おいて,その違いがどのように生じているのかを具体化していきます。
③周囲の状況を聞く
「その状況の時(問題が起こらないですんでいる時,少しでもましな時)は,周囲の人はどんな状態ですか?」
クライエント自身のことだけでなく,その周囲がどのような状況になっているのか,その関係性や相互作用にも拡げて聞いていく。家族や学校,職場など,相互に影響し合っています。周りがどのようであることが役立つのかなどを見出すことにつながります。
④比較して到達度を聞く
「もっと悪かった時に比べて,どういうところが少しでもましになっていますか?」
「大変だったときよりも,少しでも良い方向に行っていることはどのようなことでしょうか?」
「例外」が見つかり始めると,視野が広がり,もっと大変だった時と比較して今の状態を見られるようになり,少しでもやれていることをさらに見つけられるようになっていきます。
⑤他にもあるかを聞く
「他もありますか?」「それから?」「他には?」
一見単純で平易な短い質問ですが,実際に使って経験してみると,大きな力をもつことを痛感します。「例外」だけでなく「解決」を拡げる定番中の定番の質問です。
「他には?」と聞かれて,「例外」がいくつもあることに気づくことは,クライエントの新たな認識をつくります(ミサさんの事例で多用)。
もうこれ以上(例外は)ないとクライエントが思っていても,「他にもありますか?」と,さらに聞かれることで考え,自分でも思いもよらなかった「例外」が見出され,それが解決への突破口になったと,言われることが少なくありません。
(3)成功の責任追及の質問
成功を繰り返せるように
「例外」が見つかったら,その成功要因を追及する質問をします。またそれを繰り返してできるようにするためです。
「例外」を見つけたら,成功の責任追及をするのは,中心哲学の「法則2」(連載第4回)を実践する技法です。それをまたやれるようにするために,「どうやってやったのか?」を考えてもらいます。
そのため,成功の責任追及の質問は,「How(どのように)の質問」と言われることもあります。基本的には「Why(なぜ)」ではなく,「How(どのように,どうやって)」で聞くわけです。
Howで聞く成功の責任追及
「どうやってやったのですか?」「どうやってうまくやれたのですか?」
「どうやってできるようになったのですか?」「どうやって考え付いたのですか?」
「どうやって続けられているのですか?」
「何が(どのように)よかったのですか?」
「何が(どのように)助けになったのですか?」
「何が(どんなふうに)役に立ったのでしょうか?」
このように,例外が見出されたら,純粋な好奇心と驚きをもって成功の責任追及(Howの質問)をし,その例外が生じたプロセスや本人なりの対処法,また工夫,努力,考え方,周囲からの協力などを,クライエントから詳しく教えてもらいます。(ミサさんの事例で多用)
他者の視点から聞く(関係性の質問)
大切な他者の視点を用いる質問は,成功の責任追及の場合にも,とても役立ちます。
「親友は,あなたがどうやってやったと言うでしょうか?/どうやってわかるでしょうか?」
「親(大切な他者)は,あなたのどんな力によって続けられていると言うでしょうか?」
(ミサさんの事例では子どもの視点を利用)
(4)意図的例外と偶然の例外
2つの例外
ところで,例外には,クライエント本人が関与している意図的例外と,クライエントが関与していない偶然の例外があります(「例外」なら,皆OKじゃないんだ!?)。
意図的例外
「めずらしく遅刻せずに学校に行けた」という例外に対して,「どうやって遅刻しないで行けたの?」と成功の責任追及をします。
すると,「朝,起きれたから」との答え。
さらに「それに何が役に立ったの?」と質問したところ,「スマホを夜10時に引き出しに隔離した」という答えが返ってきたなら,それは意図的例外になります。
意図的例外は,クライエント自身の行動が関連して「例外」といえる違いが生まれたものです。この場合,その対処行動や工夫がわかれば,それを繰り返すことができます。
偶然の例外
一方,「どうやって遅刻しないで行けたの?」と聞かれて,「わかんない,たまたま」と答えたり,朝起きれたのは「くじでレア・グッズが当たったから」と答えたりするなら,これは偶然の例外になります。くじはまさに偶然の産物ですから。
偶然の例外は,例外は生じているけれども。それをまた繰り返すことが難しいものです。
偶然の例外と思いきや
ただし,偶然の例外とみられるものであっても,たとえば,「どうやって(そのグッズに)起きる元気をもらっているの?」などといった質問から,「グッズのキャラクターが頑張っていると思うと励まされる,お守りになる」といった答えであれば,本人が関与している(グッズを励みに元気を出せる)ものとなり意図的例外となります。
(偶然の例外だわ,使えな~い……などと,早々に,諦めてしまわないでください。)
関与を見抜く関係性の質問
また,本人自身には,例外への関与がわからないことでも,周囲の人の視点からみると,わかる場合もあります。関係性の質問から,本人の関与が見出されることもあります。関係性の質問は,意図的例外はもちろん,偶発的例外に思われる状況にも,役立てられます。
(5)コーピング/サバイバル・クエスチョン
「例外」なんてとてもじゃない
クライエントがあまりに過酷な状況下にいて,「例外」などとてもじゃないけど見出せない様子だったり,「例外」について話題にしようとすることがはばかられるようだったりすることもありえます。
正確に言えば,「例外」がないのではなくて(「例外」は必ずある),「例外」を話題にできない状況にあるということです。
最大の敬意
そのような場合には,どうやって対処してきたのか,さらに言えば,そんな過酷な状況をどうやって何とか生き延びてきたのかについて,クライエントへの最大の敬意を払い,教えてもらいます。
コーピング/サバイバル・クエスチョンは,不安・孤独・苦痛に満ちている時でも,今まで何とかやってきた強さ・リソース・信念に目を向ける質問です。これらの質問をすること自体が,クライエントに対して,間接的なコンプリメント(敬意/承認/称賛/励まし)になると考えられています(コンプリメントについては,また次回以降に)。
コーピング・クエスチョン
「(そんなにたいへんな状況に)どうやって対処してこられたんですか? 何が(誰が)助けになっているのですか?」
「それを(なんとかするために)どうやってやったのですか?」
「どうやってその大変なときを通り抜けた(しのいだ)のですか?」
「どうやってその大変なことに対処したのですか?」
サバイバル・クエスチョン
「(そんなにたいへんな状況を)どうやって生き抜いてこられたのですか?」
「どうやってもっと悪くならないように耐え忍んで(しのいで)こられたのですか?」
サバイバル・クエスチョンは,続けてコーピング・クエスチョンを展開していくものですし,コーピング・クエスチョンとほぼ重なる質問です。
それでも,いじめ,虐待,暴力,依存症,自殺の危機,犯罪や災害の被害など,人生や生活を投げ出したり,生きることを諦めたりしてもおかしくないと思われるような状況下にあって,文字通りサバイバルしているようなクライエントに向けて行う質問です。
(5)アイデンティティを見出す質問
対処法や方策
コーピング/サバイバル・クエスチョン,および成功の責任追及の質問など,これらの質問の多くはクライエント自身に役に立つ対処法,つまり方策(strategy)を見出そうとしていると言えます。
アイデンティティを語る
一方,そのような対処法や方策にとどまらず,さらにクライエント自身のより本質の部分,アイデンティティといえる特徴を見出したり,それに気づいたりすることも大切だと思っています。
「そのようになんとかしている自分を通して,自分自身についてどのようなことがわかりましたか?」
「そのことが,他の人達にあなたがどんな人であると伝えられた(気づかせた)かもしれないと思いますか?」
(Ratner, George, & Iveson, 2012)
コーピング/サバイバル・クエスチョン,および成功の責任追及の質問を重ね,その答えを承認し敬意を払いつつ(コンプリメントしつつ),最後にこの質問をすると,「私は我慢強く人生を諦めない人なんですね」「自分は信じる力がとても強い人なんだ」など,ときには,涙ぐみながらクライエントは答えます。
自身の本質について(セラピストから指摘され褒められるのではなく)自分で語り,自分を認めていく姿に大きな感銘を受けます。このことが,なによりその後のクライエントの回復や成長の力になることは,言うまでもありません。
さて,次回第7回は,面接段階Ⅳ.一歩進んだ状態を知り役立つことを考えていく段階,定番の質問としては「スケーリング・クエスチョン」などに入っていきます。
※事例は,個人情報に留意された合成事例であることをお断りします。
文 献
- Berg, I. K., & Miller, S. D.(1992)Working with the problem drinker: A solution focused approach. New York: Norton.(斎藤学監訳・白木孝二・田中ひな子・信田さよ子訳(1995)飲酒問題とその解決─ソリューション・フォーカスト・アプローチ.金剛出版.)
- De Jong, P., & Berg, I. K. (Eds).(2013)Interviewing for Solutions 4th.(桐田弘江・住谷祐子・玉真慎子訳(2016)解決のための面接技法 第4版─ソリューション・フォーカスト・アプローチの手引き.金剛出版.)
- 黒沢幸子(2002)指導援助に役立つスクールカウンセリング・ワークブック.金子書房.
- 黒沢幸子(2020)ブリーフセラピーと「問う力・聴く力」.臨床心理学,20(4); 402-406.
- 黒沢幸子(2022)未来・解決志向のブリーフセラピーへの招待──タイムマシン心理療法.日本評論社.
- 森俊夫・黒沢幸子(2002)森・黒沢のワークショップで学ぶ解決志向ブリーフセラピー.ほんの森出版.
- Ratner, H., George, E., & Iveson, C.(2012)Solution focused brief therapy: 100 key points and techniques. Routledge/Taylor & Francis Group.
黒沢幸子 (くろさわ・さちこ)
目白大学心理学部心理カウンセリング学科/KIDSカウンセリングシステム
公認心理師・臨床心理士
得意領域:学校臨床心理学,ブリーフセラピー,児童思春期青年期心理臨床/家族療法
日本心理臨床学会,日本ブリーフサイコセラピー学会,日本コミュニティ心理学会等の理事や委員を務める。日本ブリーフサイコセラピー学会学会賞(13号)
内閣官房の依存症対策関連の会議や自治体のいじめ問題関連の協議会等の委員,教育センター,少年鑑別所,児童相談所等のスーパーバイザーや研修講師等を務める。
心理相談援助職向けのブリーフセラピー等の研修歴は25年余に渡る(KIDSカウンセリングシステム)。