黒沢幸子(目白大学/KIDSカウンセリングシステム)
シンリンラボ 第15号(2024年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.15 (2024, Jun.)
1.源流のエッセンスへの信頼
今まで教わってこなかった?
臨床がうまくなるのに,まず押さえておきたいこと!(連載第2回参照)。
“リソース”の“利用”,“自然志向”……。これらに信頼を寄せてセラピー(心理臨床)を行うこと,でしたね。
ところで,セラピーを学ぶ中で,今まで,これらのことを教えられてきたでしょうか?
「今まで学んだことが通用しない」と思っている若手組,そんなこと教わっていないというなら,チャンスです。これらをまず自分の臨床に取り入れてみましょう(でも,どうやって……? は,追ってお伝えしていきます)。
学びと経験が凝り固まる?
「こなせているけれどうまくなっていない」という中堅組,ここまで熱心に学んできた種々の理論や方法,ときには経験が,もしかしたらかえって凝り固まった枠組みを形成してしまっているかもしれません(皮肉なことに,学んできたものが仮にブリーフセラピーであったとしても!?)。それにより,目の前のクライエントや状況に軽やかに対応できなくなっている……。よくあることです。
つまり,先入観を排して不断に“観察”を続け,“柔軟”な発想ややり方でクライエントやその状況に合うように,“あつらえる”こと(工夫)から遠ざかってしまっているのかもしれません。ここもエリクソン臨床に触れることで,もう一度確認でき,凝り固まった枠組み(頭)を緩めることができるでしょう。
その場合も,“リソース”の“利用”,“自然志向”に立ち返り,もう一度そこから始めてみるといいはずです。そして,何より,クライエントへの良質なサービスという視点を(忘れかけていれば)取り戻すことです。
複雑な気持ち
ただ,今,ちょっぴり複雑な気持ちにもなっています(あら,まあ!?)。
たかが私の筆力ですから(限られた紙面の中とはいえ),エリクソンの臨床の偉業というか大切なところを,どれだけ皆さんに役立つようにお伝えできただろうか……。そのために紹介した事例がわかりやすかっただろうか……。と。
(前回第2回連載で)初めに紹介したイエス・キリストの生まれ変わりという宗教血統妄想をもつ事例は,“リソース”を“利用(utilize)”する真骨頂です。とはいえ,妄想をリソースとして利用するなんて,若手組に向けては,ちょっとぶっ飛びすぎていたやもしれません。
また,次に紹介した指しゃぶりの男児や,トラウマにより毛布から出られない女児の事例は,“自然志向(naturalistic)”といわれても,なんともたわいない会話にしか聞こえず,中堅組にどこまでそのねらいをピンときてもらえたか……(けっこう深いコミュニケーションをしているんだけど,浅いものに映りがちなんですよね~)。
良くなるのは軽い事例?
あのような会話で変化するなんて,ただ軽い事例だっただけじゃない? 放っておいてもいずれはよくなったんじゃない? そんな疑惑も生じるかもしれません。
確かに! よくなる力はクライエントにあります。
でも,放っておいたら悪循環のループはさらに拡大し,クライエントの状態も家族や周囲の関係も加速度的に増悪し,もっと重篤なことになることもまた確かでしょう。「いずれは」という悠長な時間の認識が悪循環の温床になり,クライエントを傷つけ続けるとしたら,呑気なことは言っていられません。
実際,エリクソンの事例では,弟子たちが,「え? 何をしたの? どうしてクライエントは良くなったの?」と,煙に巻かれた気持ちになることが珍しくなかったのです。
2.可能性を知る
適わないという思い
私の複雑な気持ちの本当のところは,仮にエリクソンの臨床の醍醐味に触れてもらえたとしても,すごすぎて適わないと感じてしまうことです。皆さんにそう感じさせていないだろうかということです。
リスペクトはするけれども,「適わないなー」と感じ,引け目を感じてしまう。これでは臨床はうまくならないですよね。すごい存在や能力,技量を見せつけられると,とても適わないって,(臨床家としての)気持ちがしぼんでしまう。自分にはできないな,と。
(くそ~っ! と,地団駄踏んで悔しがるとか,嫉妬を抱く! とかなら,いいのですが。そこにチャレンジするエネルギーになりますから)
可能性に拓かれる
気持ちをしぼませるのではなくて,こういった(エリクソンのような)セラピーの姿勢ややり方で,人は回復したり変化したりできるんだ。
人間の可能性ってすごいな!(クライエントもセラピストも)。
今まで教わってこなかった(かもしれない)のだけれども,実際にそれでクライエントが望む生活を手に入れられるように改善/回復/変化/成長をしている。
人にこんな(変化の)可能性があるなら,自分にもその(ようなセラピストになれる)可能性はあるんじゃないかって,エンパワーされた気持ちになってもらうことを願っているのです。その可能性に拓かれた気持ちが,臨床をうまくする要因だからです。
エリクソンにならなくていい
別に,エリクソンになれなくていいですし,なる必要もないのですから(~ianにならなくていいってことも,第1回連載で言いましたよね。もちろんこれはエリクソンに限りません)。
私たち(臨床家)がもって(しまって)いる“人”に対する姿勢や“セラピー”に対する考えを,いったん払拭して(ちょっと脇に置いて),エリクソンのセラピーから,人(クライエント)が自分に役立つ力を発揮することを手伝うために,丁寧にかつ大胆に,どのような対話や関わりができるのかを,「へ~!? は~! ほ~!」と,ときに目から鱗を落としながら,面白がって学んでいただければいいと思うのです(エリクソンの深遠なセラピーでさえ,私が伝えようとするとどうも浅くなるなぁ……)。
“naturalistic”は浅いのか?
一方で,実際エリクソンの“naturalistic”は「日常的な智慧」に通底する面もあるといえるかもしれません。となると,科学的には浅いのかしらん?「人を癒し,人が変化することに自然に役立つ大いなる日常的な智慧」は,浅いもの? いや,深いのかも? セラピーは「人」を相手にしているのに,“naturalistic”な智慧は,軽視されすぎてきたのやもしれません……。
ともあれ,エリクソンを大きなかけがえのない“リソース”として“利用”していけばいいのです!
3.若手組と中堅組による“リソース”の“利用”に向けて
若手組はまず面白がって“リソース”を見る
若手組は,とにかく面白がって柔軟に視野を広げて学んで試すのがいいです。
とりあえずまずは,クライエントやその家族,またその臨床のコミュニティ(学校・病院・相談機関等)にある“リソース”に注目してください。
そこには,どんな“リソース”がありますか?
たぶん,まだ,その視点を持つことに慣れていないだろうと思います。そこにある問題は何だろうか? その原因は何だろうか? と,考えたりとらえたりすることに精いっぱいなはずですから。
自分が,仮にそこまで問題に注目するつもりがなくとも,クライエントやその家族,学校臨床であれば先生方が,相談と称して口にされるのは,当然困りごと,つまり問題について語られるのですから,それを傾聴していれば,見えてくるのは山積みの問題です。また自分は問題じゃない,そこに問題はないと,問題を無視したり否定したりする姿も問題にされます。
そのようななかで,できていること,変えなくていいこと,なんとかなっていることはどんなことでしょうか? クライエントや家族が,得意なこと,興味関心があること,好きなことは何でしょうか? それはどうしてできているのでしょうか? どのようなわけでなんとかなっているのでしょうか?
それを利用する,活かすことができたら,どんなふうに状況の理解や見通しが変わってくるでしょうか?
こんな発想,視点をまずもってみてください(もちろん,問題も“リソース”として利用できるわけですが,若手組は背伸びをせず,まずここから始めましょう)。
中堅組は遠くの理論より足元の“リソース”
中堅組は(凝り固まってきた枠組みを意識して緩め),臨床のさらなる可能性が遠く(の理論)にあるのではなくて,足元(クライエントと自分の“リソース”)にあること,コミュニケーションの相互作用の工夫によって,セラピーにはまだまだ可能性があることを面白がって(源流のエッセンスを),取り入れてください。
一つ,そんな事例をお話しします。
4.事例:強迫を“リソース”として“利用”する
強迫症状と暴力に苦しむカナ
カナは18歳。皆から好かれる控えめな優等生でした。受験勉強が佳境に入ったころから強迫症状が出現し,志望大学に不合格となってからは,家族に対して暴言を吐き,激しく物に当たるようになりました。実はカナの小中高校生時代,姉が不登校でひどい家庭内暴力が続き,カナにもその矛先が向いていました。
姉を制さない父,おろおろする母。家でも外でもカナはスンっとなって(なんの感情もなく無の状態で),切り抜けていました。
思春期を抜けた姉は,得意領域が功を奏し,進学・就職の道が意外にも開かれて落ち着いていきました。
一方,カナは嫉妬と怒りと自分の情けなさに混乱して荒れ,強迫症状も止められないと訴えました(また,家族の価値観から服薬を受け入れませんでした)。
強迫がうまく働いているところ
「強迫的なのは悪いことばかりではないんじゃないかな? カナさんが得意なことや好きなことを聞いていると,強迫的な力がうまく働いているところもあるように思うんだけど,強迫的にやっていることで続いたらいいことを,10個リストアップして次回に教えてくれる?」
「え? まさか……。そんな~ あ,でも,なんかありそうかも……。考えてみます」
カナは,たとえばヘアアレンジに凝っていて,頭の結び目が1ミリの狂いもなくピタッと決まることに快感があるという。また,モノづくりが好きで,やりだしたら止まらないが,丁寧にやり続け確認もするので完成度は高いという。
「だけど,あんなにがんばったのに大学はダメだった。モノづくりは癒されるけど,でも私の未来は絶たれているんだ……」(おっとっと,無理もない)
「そのモノづくりは,いつから癒されているの?」
「いつだろう……。あ,小学校のとき図工教室に通ってたとき。作ってるとワクワクして没頭してた。もう姉は家で暴れてたけど」
強迫をもっと生かす
「今は強迫的なことを責めるより,強迫的な力をもっと生かしてみるっていうのはどうかな?」
「は? う~ん,変だけど面白そう。図工教室で一番好きだったモノ,あれ以来作ってないけど,やってみようかな~。他は何も手に付かないけど」
「いいね~ でも,適当にやったらダメよ,強迫的に作ること!(笑)」(強迫にはこちらも強迫的に対応すること)
嫁に出して自立する
カナは状態に波はありつつも,そのモノづくりを続け,徐々に腕を上げ,最後には,緻密で愛らしい手作りクラフトを,百数十個すべて表情を変えて作るまでになりました(Oh~! 強迫力!)。
家族との面接も並行して適宜行いましたが,作品の充実とともに家庭内暴力は消退し,他の強迫症状も落ち着きを見せました。
祝いの引き出物として,その作品群に買い手がつき,一度に納品することになった際,カナは自分が懸命に育てた子どもたちを一気にお嫁に出す気分と話し,しみじみと涙し,そして清々しい笑顔を見せました。
カナはその後バイトを始め,それが継続できるようになった頃,憎んでいた姉や父を許せる気持ちを語りました。あれから何年も経ちますが,カナは自立してモノづくり系の会社で元気に働いています。
(強迫的に作り込み溜め込んだものを一掃すること,強迫を利用して制作した作品から報酬を得ること(強迫の肯定),その自信が自立への足がかりとなること,間接的に親の気持ちを味わうこと……。治療的に深~いことが生じていますね)
ここには,“リソース”の“利用”を軸に,ブリーフセラピーの源流のエッセンスが(連載ではまだ未紹介のものも含めて)入っていると思っています。
5.ブリーフセラピーが生まれる
ベイトソン・プロジェクト
さて,エリクソンの臨床に驚いたり魅せられたりした臨床家や研究者たちは(とても適わないという気持ちをきっと抱えつつも),何をしているのかを明かしたいと考え,そこから学ぶことを模索していきました。
文化人類学者のグレゴリー・ベイトソン(Gregory Bateson)を中心として行われた,いわゆるベイトソン・プロジェクトは,統合失調症の対人コミュニケーション研究を行っていました。そこから,著名な“ダブルバインド(二重拘束)”仮説が1956年に発表されています。
その研究経緯においてメンバーたちが焦点を当てたのが,エリクソンの心理療法におけるコミュニケーションです。彼の心理療法の多彩なコミュニケーションに魅了されていたメンバーたちは,そのエッセンスを研究対象としたのでした。
ブリーフセラピーへ
プロジェクトが終わりを遂げた後,そのメンバーたちが中心となって,MRI(Mental Research Institute)を作り,そこからさらにブリーフセラピーの各流派を形成していきます。
ベイトソン・プロジェクトに参加していたのは,人類学からのウィークランド(Weakland, J.),コミュニケーション研究者のヘイリー(Haley, J.),「家族ホメオスタシス」提唱者の精神科医ジャクソン(Jackson, D. D.)らであり,家族療法の母と呼ばれるサティア(Stier, V.)が加わり,MRIが1958年に開設されました。
当初MRIでは主に家族研究が行われていましたが,ジャクソン亡き後は,ワツラウィック(Watzlawick, P.)やフィッシュ(Fisch, R.)らが,家族よりもセラピーの場のコミュニケーションやその効率化などに目を向けていきます。
そして,ヘイリーも含め,彼らは熱心にエリクソン研究を重ね,そのエッセンスをブリーフセラピーとして方向付けていきました(次項も含め,カタカナのお名前を挙げ連ねる文体は好みじゃないのですが,エリクソンを背景とする新たな臨床の智を,ブリーフセラピーという形で,後進が学び利用できるように道を拓いた先達のチャレンジに,敬意を表して記しています)。
ブリーフセラピーの諸流派(図1)
現在に至り,ブリーフセラピー諸派として捉えられているものには,おおよそ6つのアプローチがあります。
まず,すでに言及したMRIアプローチと,ヘイリーの戦略的(Strategic)アプローチです。ヘイリーはMRIに留まらず,ミニューチン(Minuchin, S.)に招かれ構造的家族療法の手法を学び,マダネス(Madanes, C.)と主催したワシントンDC家族療法研究所から,一貫してエリクソン臨床に立ち戻りながら,戦略的(Strategic)アプローチを打ち出しました。
そして,比較的晩年のエリクソンに内弟子のような形で師事した2人の弟子が実践しているのが,エリクソンの業績を引き継いだザイク(Zaig, J.)のエリクソニアン催眠と,オハンロン(O’Hanlon, W. H.)の可能性療法になります。
また,6つのブリーフセラピーのなかで唯一エリクソンの臨床知見だけでなく,ゲシュタルト療法のパールズ(Perls, F.),およびMRIにもいた家族療法のサティアなど,3人のセラピストに共通した特徴に焦点を当て,それらを整理し実践的に習得できるようにしたNLP(Neuro-Linguistic Programming)が挙げられます。
解決志向ブリーフセラピーの開発
さて,トリを飾ってもらうべく最後に挙げるのが,解決志向ブリーフセラピー(Solution-Focused Brief Therapy:SFBT)です(期待していた方,お待たせしました!)。
当初Erickson流の催眠を用いていたスティーブ・ド・シェイザー(Steave de Shazer)は,MRIで出会ったインスー・キム・バーグ(Insoo Kim Berg)らとともに,1978年にBrief Family Therapy Center(BFTC)を創設し,1982年の“例外”の概念の発見から,解決志向ブリーフセラピーを開発していきました。

図1 ブリーフセラピー諸流派の形成
*生の姿と臨床に触れる
蛇足のようですが,僭越ながら,国際的なワークショップなどで(ここに挙げた方で),直接そのお姿にお目にかかったのは,ミニューチン,マダネス,ザイク,オハンロン,ド・シェイザーとバーグです。ヘイリーとは(体調を崩され)ビデオ出演のみになりました。
ブリーフセラピーの先達は他界された方も多くなりましたが,エリクソンをはじめ,多くの動画が残され,今もそのお姿や面接に触れることができます(今は,YouTubeで!)後進がその姿と面接に触れることも,学びとなるでしょう(ただし,あくまで参考に留めましょう。すでに述べた通り,自分の可能性を拓くことが大切です……)。
6.画期的な解決志向ブリーフセラピー
セラピーのエポックメイキング
ブリーフセラピーの中では,現在世界中でもっとも定着し実践されているものですが,解決志向ブリーフセラピーの誕生は,ブリーフセラピーを超えて,セラピー界においてエポックメイキングなことです。
何がそんなにエポックメイキングなのか? って……。セラピー(相談援助)を行う場合,その困りごとの「問題」や「原因」に焦点を当てて,それをどう治していくかを考える「問題志向」が,王道(と言わないまでも),一般的なやり方です。
ところが,解決志向ブリーフセラピーは,「問題」よりも,“リソース(すでにあるものやできていること)”と“解決”や“未来”に焦点を当て,新たに解決(望む良い状態)をつくっていく「解決志向」を打ち出したのです。さらにその効果性や効率性の高さを示しました。
未来に向けて今日をどう生きるか
ドゥ・シェーザーらは,解決志向ブリーフセラピーは,エリクソン臨床のエッセンスに基づいていると強調しています。エリクソンは,このように述べています。
過去は変えられません。変えられるのは過去に対する見方や解釈の仕方だけです。これすらも時とともに変わります。人は明日に向かう今を,生きているのです。ゆえに心理療法は,明日,来月,来年,その先の未来に向けて,今日をどう生きるかということにきちんと方向付けられるべきです。そうすること自体が,その人の行動の全レベルにわたって,必然的にその機能状態に変化を起こすことになるのです。
(Beahrs, 1971, p.74)
エリクソンは,過去を振り返り,その人の問題の起源や学習された制限に目を向けることを好まなかったようです。それよりも,その人の中にあるもの,もしかしたら将来的に伸びてきて使えるもの,そうした解決方法や力に,焦点を当てようとしていたことがうかがえます。
7.ブリーフセラピーに共通する基本原則
ブリーフセラピーたらしめるもの
ここで,ブリーフセラピーに共通する基本原則を6つに整理して示しましょう。
ブリーフセラピーとはどんなものなのか? 何を大事にしているのか? といった問いへの答えとまでは言いませんが,いくらかわかりやすい所信表明,態度表明にはなるでしょう。
源流であるエリクソン臨床のエッセンスを引き継ぎつつ,家族療法をはじめその他の臨床の智とも交流しながら,ブリーフセラピーたらしめる姿が示されていると思います(ブリーフセラピーの流派によって強調点は異なるかもしれませんが)。
ブリーフセラピーに共通する基本原則(図2)

図2 ブリーフセラピーに共通する基本原則
(1)「変化」への期待を持つ
(2)相互作用プロセスに焦点を当てる
(3)小さな変化が大きな変化につながる
(4)“リソース”に着目し“利用”する
(5)人のユニークさを尊重し,活かす
(6)過去でなく,現在・未来を志向する
これらのブリーフセラピー共通の基本原則を押さえておくことは,臨床実践に役に立ちますし,また,その理解を助けてくれます。ここまでにすでに述べてきたことの復習にもなりますね!(テストしちゃおうかしら?)
たとえば,カナの事例も,これらの原則から見て,立派なブリーフセラピーですね(はて,別に立派でなくても,ブリーフセラピーと呼ばれなくても,ホントはいいのですが……。クライエントにとってそんなの関係ない,余計なお世話でしょ)。
「解決志向」はブリーフセラピーの中でも画期的なモデルですが,そこでもこれらの原則はどれも重要です(だから,共通原則って言っているのに,聞いてる?)。
さて次回(第4回連載)からは,「解決志向ブリーフセラピー」に,ぐっと焦点を当てていきます。
次の連載でお会いできるまでの間に,実際のセラピーや対人援助のなかで,ブリーフセラピーに共通するこれらの基本原則(のどれか一つでもいいです)を意識した実践を,是非やってみてください。そして,それをモニターしてみてくださいね!
注)事例は,個人情報に配慮し,合成事例として改変されていることをお断りします。
文 献
- Bandler, R.(1985)Neuro-Linguistic Programming. Real People Press.(酒井一夫(訳)(1986)神経言語プログラミング─頭脳をつかえば自分も変わる.東京図書.)
- Bateson, G., Jackson, D. D., Haley, J., Weakland, J.(1956)Toward a theory of schizophrenia. Behavioral Science, 1(4): 251-254. https://doi.org/10.1002/bs.3830010402(佐伯泰樹・佐藤良明・高橋和久(訳)(1986)分裂病の理論化に向けて─ダブルバインド仮説の試み.In:精神の生態学.思索社,pp.295-329)
- Beahrs, J.(1971)The hypnotic psychotherapy of Milton H. Erickson. American Journal of Clinical Hypnosis, 14(2): 73-90.
- de Shazer, S.(1985)Keys to Solution in Brief Therapy. Norton.(小野直広(訳)(1994)短期療法 解決の鍵.誠信書房.)
- Haley, J.(1963)Strategies of Psychotherapy. Grune & Stratton.(高石昇(訳)(1986)戦略的心理療法─ミルトン・エリクソン心理療法のエッセンス.黎明書房.)
- Haley, J.(1973)Uncommon Therapy: The psychiatric techniques of Milton H. Erickson M. D.. Norton.(高石昇・宮田敬一(監訳)(2001)アンコモンセラピー─ミルトン・エリクソンのひらいた世界.二弊社.)
- 宮田敬一(編)(1994)ブリーフセラピー入門.金剛出版.
- 森俊夫(2015)ブリーフセラピーの極意.ほんの森出版.
- 日本ブリーフサイコセラピー学会(編)(2020)ブリーフセラピー入門─柔軟で効果的なアプローチに向けて.遠見書房.
- O’Hanlon, W. H.(1987)Taproots: Underlying Principles of Milton Erickson’s Therapy and Hypnosis. Norton.(森俊夫・菊池安希子(訳)(1995)ミルトン・エリクソン入門.金剛出版.)
- Watzlawick, P., Weakland, J., Fisch, R.(1974)Change: Principles of problem formation and problem resolution. Norton.(山本和郎(監訳)(1998)人間コミュニケーションの語用論─相互パターン,病理とパラドックスの研究.二弊社.)
- 吉川悟(2004)セラピーをスリムにする! ブリーフセラピー入門.金剛出版.
- Zeig, J. K.(1980)Teaching Seminar with Milton H. Erickson. Brunner/Mazel.(成瀬悟策(監訳),宮田敬一(訳)(1984)ミルトン・エリクソンの心理療法セミナー.星和書店.)
黒沢幸子 (くろさわ・さちこ)
目白大学心理学部心理カウンセリング学科/KIDSカウンセリングシステム
公認心理師・臨床心理士
得意領域:学校臨床心理学,ブリーフセラピー,児童思春期青年期心理臨床/家族療法
日本心理臨床学会,日本ブリーフサイコセラピー学会,日本コミュニティ心理学会等の理事や委員を務める。日本ブリーフサイコセラピー学会学会賞(13号)
内閣官房の依存症対策関連の会議や自治体のいじめ問題関連の協議会等の委員,教育センター,少年鑑別所,児童相談所等のスーパーバイザーや研修講師等を務める。
心理相談援助職向けのブリーフセラピー等の研修歴は25年余に渡る(KIDSカウンセリングシステム)。