書評:『現場で活かせる対人支援のトリセツ──ホロニカル・アプローチで紐解く50のポイント』(福島裕人著/遠見書房)|評者:定森恭司

定森恭司(心理相談室こころ)
シンリンラボ 第42号(2026年9月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.42 (2026, Sep.)

福島裕人著『現場で活かせる対人支援のトリセツ──ホロニカル・アプローチで紐解く50のポイント』は,対人援助の現場に身を置く人であれば,「まさにこうした場面に日々向き合っている」と自然に頷かされる一冊です。

本書は,傾聴や関係づくりといった基礎から,支援の展開,さらには支援者自身のあり方に至るまで,対人支援の根幹となる姿勢や関わり方を「50のポイント」として整理しています。その一つひとつは平易でありながら,読み進めるほどに,自らの関わりを静かに問い返されるような構成となっています。

本書の基盤には「ホロニカル・アプローチ」という視点が据えられています。このアプローチは書評者自身が最初に提唱してきた立場でもありますが,本書ではそれが実践の中で,より柔軟で親しみやすい形として提示されている点が印象的です。著者が「スポンジ」にたとえているように,さまざまな理論や方法を排他的にではなく包み込みながら支える基盤として機能していることが,具体的な実践場面を通して伝わってきます。その語り口からは,著者の穏やかで実直な人柄がそのままにじみ出ているようにも感じられます。

「不一致も大切にする」というホロニカル・アプローチの観点は,相手を理解しようとするあまり「わかろう」としすぎてしまうことの弊害を防ぐ視点として重要です。対人支援の現場では,ズレや違和感が生じることは避けがたく,その揺らぎの中にこそ新たな意味が立ち上がる契機が含まれています。本書は,不一致を排除するのではなく,むしろ関係の中で丁寧に扱う姿勢を示しています。

また,支援に深く関わりながらも,同時に一歩引いて全体を見渡す「俯瞰するちから」が,支援の展開に新たな余白をもたらすことも明らかにされています。本書は,ホロニカル論を難解な理論としてではなく,現場の実践に即したかたちで見事に言語化しています。

文章は親しみやすく,経験の浅い読者には実践の手がかりとして,経験を重ねた読者には自らの支援を見つめ直す契機として,それぞれに応じた読み方が可能だと思います。

対人援助の営みは,常に揺れ動く関係性の中で展開します。本書は,その揺らぎを否定することなく,そこに立ち現れる現象を丁寧に見つめることの大切さをやわらかく伝えてくれます。ホロニカル・アプローチが現場においてどのように息づきうるのかを実感させる一冊として,多くの支援者に手に取っていただきたい良書です。

『現場で活かせる対人支援のトリセツ──ホロニカル・アプローチで紐解く50のポイント』(福島裕人著/遠見書房)
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定森恭司(さだもり・きょうじ)
心理相談室こころ室長。臨床心理士として,心理社会的統合アプローチおよびホロニカル心理学の研究・実践に取り組む。
主な著書:『ホロニカルな“こころ”―場としての“こころ”と心理社会的統合アプローチ』(心理相談室こころ,2026),『ホロニカル・アプローチ―統合的アプローチによる心理・社会的支援』(共著,遠見書房,2019),『ホロニカル・セラピー―内的世界と外的世界を共に扱う統合的アプローチ』(遠見書房,2015)

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