浅井伸彦(一般社団法人 国際心理支援協会)
シンリンラボ 第40号(2026年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.40 (2026, Jul.)
ここでは,『痛みからの解放―トラウマによる慢性痛を癒す内なる力との出会い』(ピーター・A・ラヴィーン+マギー・フィリップス,花丘ちぐさ監訳,志村秀実訳)と『ピーター・ラヴィーン:トラウマと癒やしの自叙伝―ソマティック・エクスペリエンシング®の誕生』(ピーター・A・ラヴィーン著,牧野有可里・池島良子訳)の2冊について述べたい。
まずは,『痛みからの解放―トラウマによる慢性痛を癒す内なる力との出会い』について述べる。
ピーター・A・ラヴィーンは,ソマティックなトラウマセラピーとして代表的な「ソマティック・エクスペリエンシング®(以下,SE™)」の創始者であり,評者も彼には直接2度ほど会ったことがあるが,カリスマ的な感覚と独創的な考えの持ち主である(それは後に述べるような彼自身のトラウマ体験に基づき,体験と絶え間ない挑戦がそのカリスマ性を形成しているのであろう)。
また,共著者であるマギー・フィリップスは,様々なトラウマセラピーを折衷統合的に扱う著名なセラピストである(2021年に逝去)。
本書では,近年トラウマと密接な関係性があるといわれる慢性痛などの「痛み」にフォーカスしており,実践的なエクササイズも含まれた良書である。特にソマティックなトラウマセラピーを行うセラピストに読んでもらいたいが,基本的にはマインドフルネスとSE™の考え方に基づいた内容であり,各所に出てくるタイトレーション(滴定)などの専門用語は,SE™を学ぶことで深く理解することができるだろう。
マインドフルネスを専門とするセラピストにとっても,マインドフルネスを「痛み」に対して応用する際の新しい示唆を与えてくれる。本書(p.208)にも書かれているように,「本書のプログラムの根幹をなすソマティック・エクスペリエンシング®は,身体の体験に対して集中的にマインドフルネスになることを教える方法」として,この2つのアプローチは非常に近しいものということができる。
「痛み」というテーマを扱っている関係上,具体的な身体疾患や,手術をはじめとした医療的処置にかかわる「医療トラウマ」を扱っていることから,心理(特にトラウマ)の専門家に限らず,精神科に限らない幅広い医療従事者や,(用語が難解すぎるかもしれないが)当事者の方々にも手にとっていただきたい。
次に,『ピーター・ラヴィーン:トラウマと癒やしの自叙伝―ソマティック・エクスペリエンシング®の誕生』について述べる。
本書は,タイトルにもあるように,ラヴィーンによる自叙伝であり,書中では彼のこれまでの人生において経験してきたことが赤裸々に語られている。まえがきの「はじめに」にも「本書は,未加工のトラウマ体験を扱っています。そのため,読む方によっては,つらい感覚,感情,記憶が呼び起こされる可能性があります(後略)」とあるように,彼自身が人生の中で様々なトラウマティックな体験をしてきたこと,それをSE™として昇華させた事実には感銘を受ける。
彼による他の著書においても彼自身の体験については触れられているが,この書籍ではそこに完全にフォーカスを当てられている分,非常に濃く彼の生き様を見ることができる。SE™を実践する人にはもちろん,ソマティック(身体的)なアプローチに興味を持つ人には,彼の体験を追体験する意味において,稀有な書籍であろう。
以上,2冊の書籍について述べた。近年,トラウマケア・トラウマセラピーに対して多くの方から興味・関心が寄せられている。トラウマに関する表面的な理解でとどまってしまうと,それは単なる「トラウマ」というラベリングの押し付けになってしまいかねない。今回ご紹介した2冊の書籍のような専門的,あるいは(ラヴィーンというセラピストの体験に基づくという意味での)根源的なところから,あらためて「トラウマ」「トラウマケア」について考え,トラウマインフォームドなケアを念頭に置く支援者(専門家に限らない)が増えることを願ってやまない。
浅井伸彦(あさい・のぶひこ)
一般社団法人国際心理支援協会 代表理事
資格:臨床心理士・公認心理師・オープンダイアローグ国際トレーナー
主な著書:『はじめての家族療法』(共著,北大路書房,2021),『あたらしい日本の心理療法』(共編,遠見書房,2022)











